政府による「多様な働き方」の推進や、コロナ禍によるリモートワーク拡大で副業を行いやすくなったこともあり、本業・副業問わず、「フリー」の立場で仕事を受注するクリエイターが増加傾向にあります。以前からライティングに関しては以前からフリーランスとして業務を遂行するケースが多数存在しましたが、近年ではフリーの立場で複数のメディアを担当する編集者の活躍が目立つようになりました。
フリーの編集者は、1つのメディアに固執しない自由な案件の関わり方というスタンスやコンテンツ制作における急場をしのぐためのピンチヒッター的な要素もあり、メディア運用者からも注目されています。ではフリーの立場で仕事が絶えない人気編集者になるために何が必要なのでしょうか。4年以上の編集歴を持つ担当者に向けて、「メディアシンキング」を軸にフリー編集者の素養について解説します。
2021年10月時点の国内のフリーランス人口は約1,577万人
クラウドソーシングサイト「ランサーズ」を運営するランサーズ株式会社が2021年11月12日に公表した「新・フリーランス実態調査 2021‐2022年版」によると、2021年10月時点における日本国内のフリーランスの人口は約1,577万人であり、経済規模は約23.8兆円と推計しています。ちなみに、2020年2月時点におけるフリーランス人口は、約1,062万人であり、1年8ヶ月で500万人以上も増えたことになります。
新型コロナウイルス感染症が流行する前の時期(2019年以前)から政府が「多様な働き方」を推進していたことにより、フリーランスの人口や経済規模は拡大する傾向にありましたが、上記調査結果によってもその裏付けがなされています。具体的には2015年と比べて、2021年10月時点でのフリーランスの人口は68.3%(約640万人)、経済規模は62.7%(約9.2兆円)と伸長しています。
出典:「【ランサーズ】新・フリーランス実態調査2021₋2022年版」
こうした時代背景には、近年、民間企業や官公庁が「副業」を認めるケースが増え、さまざまな方にとって「複業」(複数ワーカー)という選択肢が眼前に浮上していることがあります。さらにコロナ禍によってリモートワークが拡大し、高度なスキルを有するプロフェッショナルな人材がクラウドソーシングサイトなどを通じて副業を行いやすくなったことも、「フリー」という働き方が社会に定着しつつある要因の1つと言えるでしょう。
世の中の流れとして、「本業とは別に、フリーで仕事を受けるマルチワーカー」が多くなっている状況において、従来、メディアや媒体に所属していた編集者が「フリー」の道を歩む決断をしても、まったく不思議なことはありません。
近年は増加傾向に!編集者が「フリーランス」を選ぶ背景とは?
従来、編集者という職種に就くためには、「出版社に入社し、編集部門に配属される」「編集プロダクション(出版社から依頼された業務を遂行する下請け業者)に所属する」といった選択肢しか存在せず、少数の精鋭しか採用されない狭き門でした。しかし、Webが普及してインターネットを主戦場とするメディアが増えると編集者の需要は拡大。さらに現在は情報が乱立する社会において、編集者のニーズも多様化し始めています。編集者を自社で抱え込まずに、フリーで調達するメディアももはや珍しくないのです。
注目され始めている編集者としての働き方の多様化
企業やメディアに編集者として採用されたとしても、雇われている立場である以上、常に「自分が希望する分野・案件」に関わらせてもらえるとは限りません。文藝系を志望するのにスポーツに配属されて頭を悩ますなどのパターンは、編集者あるあるとも言えるでしょう。
会社と自身のスタンス・方向性に大きな隔たりが生じることもあるはずです。その他、入社してからの年数が経過すると、別部門に異動させられたり、マネジメントの役割を担わされたりして、現役プレイヤーとして編集に関与できなくなるケースもあります。「現場での編集業務に集中したい」「自分の好きな領域の案件を担当したい」という編集者が、フリーランスを選んだとしても何ら不思議ではないでしょう。
近年はインターネットに接続できる環境が整備され、デジタルデバイス(パソコン、スマートフォン、タブレットなど)が普及したことにより、「Webを主戦場とするメディア」が増加した結果、編集者の需要が急激に拡大しています。旧来の「紙媒体のメディア(新聞、書籍、雑誌など)」という枠組みにとらわれず、「Webメディアの編集」という仕事も選択肢の1つでしょう。
ユーザーニーズの多様化も多様な編集者を必要とする要因に
さまざまな情報が乱立する現代社会において、ユーザーニーズの多様化も顕著になっています。そのため、自社で人材を抱え込まず、案件ごとに外部から「フリー」の編集者を調達するケースも、最近では決して珍しいことではありません。ユーザーニーズに応えるためにも、メディアや出版社、編集プロダクションも時代に合わせた変化が必要になってきているのです。
経験豊富な編集者の中には、「こういう領域・分野に関わりたいのに、機会がない」「自分が理想とする情報発信・編集を行いたいのに、組織内では実現できない」などとお悩みの方もいるでしょう。フリーランスの立場であれば、「会社」という枠組みを超えて、本当に自分が関与したい案件に携わりやすくなります。「フリー」という立場で活動することも、有益な選択肢の1つです。
フリーだからこそ内部の人間よりも「メディアシンキング」を重視
メディア側にとって、外部からフレキシブルに人的リソースを確保できるのは歓迎すべきことであり、近年、フリーの編集者に対する需要が拡大しています。ただし、「フリーの編集者にピンチヒッター的にジョインしてもらったところ、経験・実力はあるはずなのに、あまり機能しない」というケースがしばしば見受けられます。その要因としては、「メディアシンキング」の素養が挙げられます。
外部だからこそ内部との共通認識を持つことを強く意識
「内部所属のほうが、プロジェクトに取り組みやすい」側面があることは否定できないでしょう。外部から参加した人間が、メディアのスタンスや思想面を正確かつ深く理解することは決して容易ではありません。編集者は執筆担当者よりも、深い顧客理解が求められます。その際に重要になるのが、「メディアシンキング」です。メディアシンキングとは、「情報の送り手側の考え方を深く理解したうえで、受け手側に突き刺さるコンテンツを探求する思考原則」を指し、以下の3つの要素から成り立っています。
【メディアシンキングのための3つの思考原則】
- ①情報の最大化
ビジネス視点をいったん解除して、さまざまな角度から商品・サービスを見つめなおし、コンテンツに活用できそうなもの(読者に響くもの)を収集すること - ②中間者としての立ち位置
情報の送り手と受け手の中間の位置から、客観的に送り手のコアな価値を見いだし、受け手の心を揺り動かすメッセージを考えること - ③コンテキストの変換
コンテンツを取り巻く文脈・背景を変えて、驚きや意外性を与えること
フリーの編集者は、「どのメディアに携わるか」を自身で自由に選べます。その反面、メディアから支持される適応力や柔軟性を兼ね備えなければ、案件を受注しにくくなります。そのため、顧客視点やメディアシンキングの思考原則を持たないフリー編集者が、業界で生き残ることは困難だと言えるでしょう。
メディアシンキングを武器に、フリーの編集者としての活躍を!
【フリー 編集者 メディアシンキングのまとめ】
- 以前から増加傾向にあった「フリーランス」という働き方が、コロナ禍で定着
- 昨今、編集者にとっても、「フリーランス」が選択肢の1つになっている
- フリーで仕事をする編集者にはメディアシンキングの思考が必要
編集者という職種は、特定の出版社やWebメディア、編集プロダクションなどに所属するケースが一般的でした。しかし、近年ではフリーの立場で活動する編集者が増加中です。また、「コンテンツ制作における急場をしのぐためのピンチヒッター」としての需要から、メディア運用者からも、フリーの編集者が注目されています。
ただし、フリーの編集者は、フリーライターよりも案件にジョインする難易度が高いことを留意しましょう。ライターの場合、執筆後の工程でフォロー(編集者による文章の推敲)が行われますが、編集者の場合、ライターの不備や認識のズレを自ら編集する必要があるので、より深い顧客理解が求められます。だからこそ、フリーという「外部」から参加する立場の編集者が継続的に案件を受注するためには、通常の「編集力」に加えて「メディアシンキング」の思考原則を持つことも必要です。