電通が発表した「2021年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」では、インターネット広告費の総計は前年比121.4%の2兆7052億円。新聞・雑誌・ラジオ・テレビの4マス媒体広告費の総計2兆4538億円を初めて上回りました。このデータは、マスメディアが隆盛を誇る時代の終焉を意味する証左だと言えるでしょう。マスメディアよりもインターネットを活用した情報収集が主流になっており、ネットでのブランド発信が重要視される時代にシフトしつつあります。

コンテンツマーケティング界隈では、コンテンツマーケティングの次は「ブランドジャーナリズム」の時代が到来する」と常々言われてきました。企業のメディア化が加速する時代において、ブランドジャーナリズムを標榜することにどんな価値があるのでしょうか。主に担当歴4年以上のメディア運営者・管理者に向けて、企業が自らジャーナリスティックな視点で取材・制作したコンテンツを発信することの重要性について解説します。

自らのメディアで情報発信する「ブランドジャーナリズム時代」の到来

ブランドジャーナリズム_ネット時代のイメージ

ネット環境の整備、およびデジタル機器(パソコン、スマートフォンなど)の普及により、爆発的な勢いで4マス媒体を追い抜いたインターネット。情報を自らの検索やSNS活用で入手する時代に突入しており、第三者(新聞・雑誌・ラジオ・テレビといったメディア)を介さないと情報を享受できない時代は終わりを告げました。そうした変化は企業のブランディングにおいてもあり方を変えつつあります。近年は、企業がメディア化して自ら情報発信をする「ブランドジャーナリズム」が広く普及し始めています。

企業ブランディングのトレンド「ブランドジャーナリズム」とは

企業やブランド主体で報道のようにジャーナリスティックな視点で情報発信を行う手法が「ブランドジャーナリズム」です。マスメディアのように外部メディアに取材して報道してもらうのではなく、自社が紡ぐストーリーや生産する製品を自らが取材。そして、自社サイトやSNSといった自分たちのメディアを通して情報発信することで、消費者の認知や興味を獲得することを目指します。

単なる内部情報の共有とは異なり、ジャーナリズムをベースとしたコンテンツ制作や自社プラットフォームでの発信がブランドジャーナリズムの特徴です。「自社を報道する」ことにあまり馴染みがない方もいるかもしれませんが、「①情報のソースを明示する」「②内容に客観性を持たせる」「③読者に寄り添ったコンテンツを制作する」「④格式ある文体を心がける」という4点を意識することで情報の信頼性は大いに高まります。現在は大企業が大半ですが、今後は中小企業でも同様の取り組みが行われることが想定されます。

コンテンツマーケティングとブランドジャーナリズムの違い

ブランドジャーナリズムは、広義ではコンテンツマーケティングの手法の1つです。しかし、両者間では情報発信の狙いにおいて違いがあります。コンテンツマーケティングとブランドジャーナリズムを区別して考えるうえでは、それぞれの目標の違いを理解することが先決です。

コンテンツマーケティングの目標

自社に対するロイヤリティを育むうえで役立つコンテンツを公開。カスタマージャーニーに沿ってオーディエンスをサポートし、ファン化を通して直接的な売上向上・見込み客獲得につなげる

ブランドジャーナリズムの目標

ブランドのストーリーや包括的なイメージをオーディエンスに伝えることで、認知度を高め、愛着を持ってもらうことが狙い。有益な情報発信によってブランド価値を高めることで自社の利益につなげる

コンテンツマーケティングは「ファン化を促すことで問い合わせや売上アップにつなげる施策」であり、ブランドジャーナリズムは「業界情報や企業からのメッセージ発信によって認知度や価値の向上を目指す施策」であることを念頭に置きましょう。なお、両者はマーケティング施策において同じストーリーラインに描くことが可能です。ブランドジャーナリズムをカスタマージャーニーマップにおける「入り口」に該当する「認知」の前段階に取り入れることで、コンテンツマーケティングと共存させた施策を講じることができます。

さまざまな大手企業がブランドジャーナリズムを実践する理由

ブランドジャーナリズム_ブランド戦略のイメージ

自社のブランド発信のために企業メディアを保有している会社としては、トヨタ、サイボウズ、伊藤園などが挙げられます。どれも各業界で名だたる企業ですが、今後は企業規模にかかわらずジャーナリズム視点での自社による情報発信が当たり前の時代が訪れるかもしれません。ではなぜ大手企業がブランドジャーナリズムを実践するのでしょうか。時代の変化を読み解くためにも、その理由に迫ります。

ブランドジャーナリズムを取り入れる企業の例

ユーザーの「知りたい気持ち」への受け皿とも言える施策が、以前までは十分ではありませんでした。4マスメディアに取材される大企業であっても、自社のブランド価値を高めるための適切な発信が各媒体を通してなされるかどうかは不透明な面がありました。一方で、自社で企業メディアを保有すれば、真に発信したい情報を自社で展開することが可能です。下記では3社のブランドジャーナリズムの具体例を紹介します。

企業 概要
トヨタ自動車株式会社 Webサイト「トヨタイムズ」ではTVCMで展開する「バーチャルな編集部」と「リアルの編集部」が一体となり、さまざまな情報を発信。YouTube上に公式チャンネルがあり、多数の動画をアップロードしています。「ライバル企業の社長との対談」「労使交渉の現場」などこれまでにないスタイルの独自コンテンツが満載です。
サイボウズ株式会社 サイボウズ株式会社が運営するオウンドメディア「サイボウズ式」では、「カイシャ・組織」「働き方・生き方」「家族と仕事」といったテーマの記事が掲載されています。サイボウズ株式会社の企業風土を社会に向けて発信しています。Twitter上で、「#サ式」のハッシュタグが付けられたつぶやきが多数存在し、自社発信の情報の拡散にも力を入れています。
株式会社伊藤園 株式会社伊藤園が運営する「CHAGOCORO」はお茶を通じた出会いと文化を発信するコミュニティメディアです。茶葉の生産者やイベントの紹介記事、著名人の対談記事などを多数掲載。丁寧な取材が実施されており、お茶に興味・関心がある人に深く突き刺さる内容になっている点がユーザー視点において高評価を得ています。

ブランドジャーナリズムは、「広報活動の一環」として取り組もう

ブランドジャーナリズム_広報活動のイメージ

ブランドジャーナリズムにおいて意識すべきは、「広報の新たな形として取り組むこと」「社会的な発信(社会に対峙した発信)を行うこと」「企業の思想が伝わりやすい情報を発信すること」などが挙げられます。時代の変化に基づいた自然な情報発信・広報活動の一環として取り組むべきだと言えるでしょう。つまり、特別な情報発信ではなく、自社やブランドを深く知ってもらうための工夫や努力が重要になります。

ブランドジャーナリズムの実践において企業が意識すべきこと

【ブランドジャーナリズムにおける情報発信の3つの基本】

  1. ①「広報」の新たな形として取り組む(「社会とのコミュニケーションの窓口」として認識する)
  2. ②自社が「社会の一員」であることを忘れず、社会的な発信(社会に対峙した発信)を行う
  3. ③認知度や親近感を高めるために、企業の思想や価値観を、興味を持ってもらえる形で発信する

コンテンツマーケティングはマーケティング担当者が実施するのに対し、ブランドジャーナリズムは広報担当者が密に関わります。特別なビッグニュースやトピックスを情報発信するというよりは、「広報活動の一環」として自然な情報発信を心がけることが重要です。自社の認知度向上や、ブランドに愛着を持ってくれる方の増加を目指しましょう。

近年では「企業の社会的責任(CSR)」や「SDGs」という言葉が注目されており、「社会にとって良いことをしよう」と考える企業が増加傾向にあります。また、人材採用に関連して、「ジャーナリスティックなメッセージ」を発信するケースも増加中です。そうした文脈で求められる「ジャーナリズム的な目線・マインドセット」は、ブランドジャーナリズムの展開に役立ちます。

社会との関わりがない企業は、ほとんど存在しません。オーディエンスの信頼を勝ち取るため、難易度は高いものの、さまざまな社会的課題(人種差別問題や環境問題など)を取り上げて、時事問題と自社を絡めたコンテンツを制作も検討しましょう。ただし、ブランドジャーナリズムによって「認知度向上」や「エンゲージメント強化」を実現しても、それだけでは企業の最終的な目標である「収益アップ」にはつながらないケースもあります。既存のコンテンツマーケティングとの連動は、売上増加を目指すうえで重要です。

近い将来、ブランドジャーナリズムが当たり前の施策になる

ブランドジャーナリズム_まとめ

【ブランドジャーナリズム 企業メディア化のまとめ】

  • マスメディア全盛期が終焉し、ブランドジャーナリズム時代が到来しつつある
  • 新聞・雑誌・ラジオ・テレビに頼らない情報発信のスキームを確立しよう
  • 特別な情報発信ではなく、広報活動の一環として自然に取り組めば良い

現在の日本は、ほぼすべての国民がスマートフォンなどのデジタル機器を保有し、インターネットに常時接続しているのが当たり前の社会です。そんな世の中では、マスメディア離れが加速しています。いまや国民や消費者は「マスメディアから流れてくる情報を受動的に取得するだけの存在」ではなく、「さまざまなキーワードで検索を行って、企業やブランドの公式サイトなどを閲覧し、能動的・積極的に情報を取得する存在」に変貌を遂げています。もはや広告費の観点からもマスメディアが隆盛を誇る時代は終焉を迎えました。

4~5年ほど前からコンテンツマーケティング領域をメインに「ブランドジャーナリズム」が盛り上がりを見せていましたが、まさに今が時代の到来と言えます。自社の独自プラットフォーム上において、ジャーナリスティックな姿勢で考え方やブランドの発信を行う「ブランドジャーナリズム」に取り組む企業が増加しています。自社メディアやSNSなどでユーザーと直接つながりやすい環境にある昨今、旧来のメディアに頼らない情報発信のスキームの確立が求められます。インターネットを通した広報活動の一環として、どの会社も行うような当たり前の施策となるかもしれません。