2019年9月に前澤友作・前社長が辞任し、その後のヤフー株式会社(Zホールディングス)による買収と澤田新社長の就任を経てZOZOは新たなスタートを切りました。
今回は新生ZOZO成功の鍵を握る「分析本部」のキーマン2名にインタビュー。
世間でZOZOが話題になる中、その裏側で彼らはどう動いていたのでしょうか?
分析本部 本部長。 1981年生まれ。
アクセンチュア株式会社を経て2017年にZOZOグループに参画。ZOZOテクノロジーズ分析部部長、アラタナ社外取締役を経て2019年より現職。
ZOZOでは分析部門を立ち上げ、分析基盤・BIツールを構築するとともに、因果推論や機械学習などの分析手法を導入。社内のあらゆる事業部門に向けた分析サービスを統括している。
白川 俊成(しらかわ としなり)(写真左)
分析本部 ビジネスアナリティクス部 データアナリティクスブロック ブロック長。1989年生まれ。
セレクトショップでのマーケティング、EC運営業務を経て2017年入社。
マーケティングや営業など社内の事業部門と連携し、データによる意思決定の支援、課題解決策の提案、施策の検証と改善を一気通貫で実施している。
コンサル遺伝子を継ぐデータ分析集団
――コンサルファーム出身である牧野さんが3年前に立ち上げた「分析本部」。
どんな部署なのでしょうか?
牧野 データ分析を通じて、ZOZOグループの事業戦略やマーケティング施策の策定支援を
するチームです。
データアナリスト、データサイエンティスト、BIスペシャリスト、データアーキテクトなど様々な職種の分析官、20名ほどが在籍しています。
――組織を立ち上げる際、意識したのはどんなことですか?
牧野 単なるデータ抽出の部門にはしたくないという気持ちがあり、「提案力」が強みの
組織にすることを意識しました。前職やこれまでの経験から私が考えているのは、
期待を超えてなんぼというカルチャーのチームを作りたいということです。
その考えのもと、立ち上げ当初から「自分たちは売上を作るチーム」とメンバーに
言い続けています。
――ちょうど「分析本部」が立ち上がった2017年以降、ZOZOには本当に多くの出来事がありました。その最中、分析本部はZOZOの事業にどのような形で関わってきたのでしょうか?
白川 「ZOZOSUIT」など世間に広く知られている施策も含めて、ZOZO内の大きな取り組みには、全て何らかの形で関わっています。
新規プロジェクトの事前シミュレーション、事後検証、アルゴリズムの構築、
事業の現状分析やBIを使った見える化、データの整備など、チーム全体で年間数百件のプロジェクトを推進しています。
――20名の組織で年間数百件をさばくとなると、すごい量ですね…。
白川 はい。私自身は施策の効果をシミュレーションすることが多いのですが、
「これは工数やコストと釣り合わないから、やるべきではない」という提案をすることも
あります。
分析本部「一度、優先順位を見直しませんか。」
――分析本部側から自発的に提案した施策もあるのでしょうか?
白川 はい、そういった施策も多いです。中でも印象に残っているのは2018年に
提案したZOZOTOWN内のクーポンの仕組み変更ですね。
「本日のクーポン」という割引施策で、1日に1ブランドでしか使えなかったクーポンを
複数ブランドで利用できるようにしました。
当時社内ではZOZOSUIT関連の開発案件の優先順位が高かった中、
「この施策は優先度を上げて取り組んだ方がいい」と判断して割り込ませてもらう形で
提案した企画です。
――話題性のある施策の裏で、確実に売上に繋がる施策を進めることも大切な役割なんですね。
牧野 そうですね。この提案1つにしても、事前に効果をシミュレーションして提案に
繋げています。「クーポンの複数利用を可能にして売上に繋げる」というアイデアは誰でも
思いつきますが、数字で根拠を示しながら経営層に企画提案できることが「分析本部」の強みです。
施策によって見込める売上が1億円なのか、10億円なのか。
それによって、その施策を実行する優先順位は変わりますよね。
未実施の施策に対してどの程度効果が見込めるか導き出し、提案していく案件は多いです。
――実際、クーポンを目的にZOZOTOWNを利用しているユーザーは多いように感じます。
今後もそういった施策は継続していく方針なのでしょうか?
牧野 ZOZOTOWNが目指す姿は多様化していくファッションニーズに応え続けられるプラットフォームです。
ZOZOTOWNのお客様は年間800万人以上にのぼります。
お得になる商品を中心に利用される方、お気に入りブランドの新着アイテムをしっかり
チェックされる方、プチプラが好きな方、ラグジュアリー系のブランドさんを目当てにされる方、
全てのお客様が便利で楽しくお買い物できるサイトでありたい。
その流れの中で、ZOZOが“個人”とブランドをつくるD2Cプロジェクト「YOUR BRAND PROJECT Powered by ZOZO」やPayPay決済の導入といった動きも生まれてきています。
――プラットフォームとしてのサイト作りにあたり、
「分析本部」はUI/UXにも携わるのでしょうか?
牧野 UIについては基本的にシステム部門内のチームが解析・改善に取り組んでくれています。
ただ、サービス全体の方向性や売上に大きく関わりそうな変更については、分析本部側で事前検証します。
A/Bテストをすることが難しく、
専門性の高い検証が必要な場合も同様です。
“センス”とはビジネスを理解する力
――そもそも、ファッション×データ分析の相性は良いのでしょうか?
めまぐるしく変わるトレンドや「着たい洋服を選ぶ」という感覚的な購買行動に対して、データ分析で価値を出すことは難しいように思えます。
牧野 購入に至らなかった方を含め1,000万人以上のお客様の行動ログがあるので、
それらを専門性を持って分析することで見えてくることはとても多いです。
一方で、「分析本部」のメンバーには、“ロジック”だけでなく“センス”を持つことが重要だとも話しています。
――と言うと?
牧野 データ分析官というとみなさん統計学やプログラミングに偏った人をイメージしがちなのですが、それだけで良い仕事をしていくのは難しいんですよ。そういったスキルに加えて、お客様やビジネスのことをよく理解するセンスも兼ね備えた人が活躍します。ちなみに白川くんは、その両方を兼ねそろえているメンバーの1人です(笑)。
白川 ありがとうございます(笑)。前職でアパレルのECサイトのマーケティングを担当していたので、ファッション業界の感覚と「ユーザーがどうしたら購入してくれるか」を考える癖がもともと身に付いていたからかもしれません。そこにデータ分析の考え方が加わっているので良いバランスになってきたのだと思います。
――そもそも、ZOZOに転職しようと考えるようになったきっかけは?
白川 ファッションに関わっていく上で今後はデータ分析を含めたITの重要性が増していくだろうという思いがありました。そんな時に「分析本部」を知って、
自分もチャンスがあればこのチームで仕事をしてみたいと思いました。
またプライベートでもひとりのユーザーとしてZOZOTOWNを利用していました。
入社してふと自分のこれまでの購入履歴を見たら、ZOZOTOWNで百万円以上の買い物を
していて目を背けたくなりました…けど、まあ“センス”を磨くための
投資ということで(笑)。
――ファッション業界に携わりながらZOZOTOWNのユーザーでもあった白川さんから見て、これからのデータ分析業界に必要な視点はありますか?
白川 「数字だけでは見えてこないことがある」という意識はもっと必要かと思います。
例えばZOZOTOWN内に表示するバナーひとつとっても、売上上位のデータだけで判断してしまうと単価の低い商品の画像ばかりが並んでしまうことになります。でもそのようなバナーばかりだと「ZOZO=安いモノだけを扱っている」というイメージがついてしまう。
「ZOZOはファッションにおけるあらゆる事柄においてプラットフォーマーを目指している」といった企業のブランドや目指す方向性も加味した上で判断しなければなりません。
本当に価値のあるビッグデータとは?
――ZOZOの強みとなっているビッグデータはどのように活用されていくのでしょうか?
牧野 蓄積されたデータはZOZOTOWNのサービスを良くしていくために分析・活用してきており、今後もそれは変わりません。
加えてゆくゆくは、ZOZOTOWNに出店いただいているブランド様に対しても何らかの形でZOZOのデータを使った還元ができないかと社内で議論しているところです。
――分析本部はZOZOの課題だけではなく、ファッション業界全体の課題にも
立ち向かっていくのでしょうか?例えばオーダーメイドの大衆化を図る「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」は
洋服の大量生産&大量破棄といったファッション業界の課題への挑戦の1つに思えます。
牧野 ZOZOSUITから得た知見や100万件以上の体型データを活かして、
身長と体重を選択するだけで自分に合った服を購入できる「マルチサイズ」というサービスがスタートしています。
また「ネットで・試着なしで・簡単に自分に合ったサイズのモノを購入できる」という観点で言えば、「ZOZOMAT(ゾゾマット)」もその1つです。
自宅で手軽に足を3D計測するために開発された計測用マットで、靴との相性を見ることができます。
――「ZOZOSUIT」の経験を生かし、さらにパワーアップしたサービスが次々スタートしているんですね!
未知に挑む、先入観は捨てろ
――牧野さんは過去のインタビューで「意思決定する人の考え方に触れてほしいから、
率先してチームメンバーを経営層の元へ連れていくようにしている」とお話されていました。実際、経営層に直接提案する機会は多いのでしょうか?
牧野 「分析本部」から提案できることがあったらその都度、経営層も含めて話を展開するようにしています。といっても普段からあまり意識せずにやっているかもしれないですね。何かあれば社内のメッセージツールを使って、そのまま議論するかミーティングをセット
するかという感じです。これはZOZO全体の動きにスピードがある要因かもしれません。
――それだけ提案の機会に恵まれていると、コンサル気質ではないデータサイエンティストの方が参画されても自ずと提案力を身に付けていきそうな現場ですね。
牧野 ああ、そうだと思います。
白川 多忙な経営層と話をするときは、要点がしっかり伝わるように
あえて端折って説明することが多いです。
分析にせよ説明にせよ、多くの情報から取捨選択していく能力は必要だと思いますね。
そのためには今のZOZOに何が必要なのか、またお客さんが何を求めているのかを
理解しておくことが不可欠です。
牧野 「分析本部」の仕事は本当に難易度が高いと思います。
「これついて調べて下さい」と具体的に依頼されることは少なく、抽象的な相談から本質的な課題を見分ける力、そのためにどのデータをどう分析するべきなのか思考する力が必要です。
でも、多くのデータを駆使して未知の施策をシミュレーションしていく楽しみがあります。
これは前例が無いことにも挑戦していくZOZOならではと言えますね。
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インタビュー・テキスト:小川 翔太/撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:澤田 萌里(CREATIVE VILLAGE編集部)