広告や宣伝に使用する文章を作成するコピーライターは、非常にクリエイティブな職種です。コピーやキャッチなどの言葉で、ユーザーの興味を喚起し、気持ちを動かし、購買などの行動変容へと促すことが主目的となります。しかし、創造性豊かなクリエイターが必ずしも天賦の才を有するわけではなく、丹念な思考の繰り返しやノウハウの蓄積に基づくテクニックが求められます。
中でも多くのコピーライターが有効活用しているのが“数字”です。コピーライティングの制作には根本的なユーザー理解とウィットに富んだ発想が求められますが、受取手となるユーザーの印象では「数字を入れることで説得力や納得感が変わる」傾向にあります。4年以上の経歴を持つすでにベテランの域に達したコピーライターであれば、ごく当たり前に数字を使いこなす必要があるでしょう。数字の魔力に迫ります。
キャッチコピーにおける重要ポイントは「数字」
キャッチコピーは購買意欲や行動喚起を促すうえで重要な手法ですが、具体的な数字を上手く活用することでどんな効果があるのでしょうか。2社が展開するデータを参考にして、効果との相関関係を確認しましょう。
食品では「売り上げNo.1」と書いたキャッチコピーが1位
株式会社ドゥ・ハウスが、自社のインターネットリサーチサービス「myアンケートlight」で行った「商品のキャッチコピー」に関するWebアンケートでは「売り上げNo.1(31.8%)」の表記が、食品でもっともひかれるキャッチコピーの1位に輝きました。また、「購入したことがある商品」に関する回答についても、「売り上げNo.1(53.7%)」が圧倒的な1位でした。数字のインパクトが購入につながるケースもあることを示してくれています。
出典:株式会社ドゥ・ハウス/「商品のキャッチコピー」に関する調査結果
読者がクリックする見出しも数字が1位
アメリカのシアトルに拠点を置くSEOを中心としたコンサルティング企業のMozが展開する「YouMoz」の記事でも数字について興味深いデータを発表しています。「読者がクリックする見出しに関する 5 つのデータ」として、以下5つのキャッチコピーのうち、どれがもっとも読者の共感を呼ぶか調査した結果が紹介されています。
出典:Moz/5 Data Insights into the Headlines Readers Click
ノーマル(お茶をもっと楽しく飲む方法) | 15% |
質問(お茶をもっと楽しく飲む方法とは?) | 11% |
方法(お茶をより楽しく飲む方法をご紹介) | 17% |
数(もっとお茶が楽しめる30の方法) | 36% |
読者への言及(お茶をもっと楽しみたいあなたのために必要なこと) | 21% |
上記の通り、結果は数字を要因に挙げた割合が1位(36%)で、2位(21%)の読者への言及より15%も上回っています。数字を入れることで具体的なイメージが促進され、「それは何なのだろう?」という興味につながるのでしょう。これらの調査結果からも、キャッチコピーと数字には確かな親和性があると言えます。
数字がキャッチコピーにもたらす「具体性」と「説得力」
イメージを想起させ、行動喚起につなげることが求められるキャッチコピーでは、深く内容を考えさせるパターンもありますが、一般的には内容が明快なものが好まれる傾向にあります。誰にでも分かりやすい表現として数字のインパクトは絶大です。「具体性」や「説得力」が増すことはもちろん、言語が変わっても万国共通である点も、ブレない表現技法として重要視されています。
誰にでも分かる明快さがキャッチコピーにおける数字の強み
世界中で当たり前のように使われているアラビア数字は、世界標準の数字として定着しています。他国の言語が分からなくても、数字でその意味合いを多少なりと把握できることもあるでしょう。数字は国境を越えても共通理解を生みやすく、「数字はウソをつかない」という慣用句があるように信ぴょう性を高めるうえで有効な手段とも言えるでしょう。
特に文章中の数字は非常に存在感があり、視認性が高くなります。また、キャッチコピーに込めたメッセージの具体性や説得力を高める効果も期待できるでしょう。そして何よりも、シンプルに訴求内容を伝えられる点が、数字をキャッチコピーに活用する強みです。
キャッチコピーに数字を使う時の注意点
キャッチコピーにやみくもに数字を使うだけでは、高い効果は得られない可能性もあります。そのため、キャッチコピーに数字を使う時には、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
大切なポイントを伝える時は、「3」の数字の活用がおすすめです。人間が一度に覚えられるのは、多くても3~5個程度の内容であると言われています。したがって10個のポイントを紹介した場合、それらがどれほど有用なものであったとしても、あまり記憶に残らない恐れもあるでしょう。しかし、「○○における3つのポイント」「○○の3つのメリット」「3大○○」というキャッチコピーであれば、それぞれの内容が読者の記憶に残りやすくなります。
また、具体的な数字をキャッチコピーに含めることも効果的です。たとえば「的中率約70%」という表現よりも「的中率71.3%」と書かれているほうが、キャッチコピーの信ぴょう性が増し読者に信用してもらいやすくなるでしょう。一方でキャッチコピーの中にたくさんの数字を含めるのは避けるべきと言えます。どの数字が重要なのかを読者が判断できなくなり、かえって効果が薄まる恐れが高くなります。
流行りのUXライティングとは?ユーザーの視点に共通点
近年、ユーザー体験を意識した製品やサービスの設計が注目され、その技法を文章作成にも取り入れたUXライティングが注目されています。広告文として紡ぎ出されるコピーライティングとは性質は異なるものの、ユーザーに影響を与えて行動変容における違いを作る点では共通しているとも言えます。コピーを見ることで、ユーザーにどんな体験をもたらせるのかを考えるうえで、UXの発想をコピーライティングに取り入れることで新たなシナジーが生めるかもしれません。
UXライティングとは
UXライティングは、UX(User Experience)というユーザー体験を意識した製品やサービスの設計に基づいた文章作成を意味します。UXライティングは、Webサイトやアプリ、SaaSサービスなどのUXを快適にするために用いられます。つまり、ユーザーにモノやサービスを快適に使ってもらえるようにするためのキャッチコピーは、いわばUXライティングの一種だと言えるでしょう。
また、商品やサービスのランディングページの文言にUXライティングの考え方を活用することによって、コンバージョン率の向上も期待できます。
UXライティングの学習で新たなシナジーの可能性も
UXライティングは、コピーライティングとは似て非なるものです。しかし、「キャッチコピーを見ることで、ユーザーにどのような体験をもたらせるのか」という発想を、コピーライティングに取り入れることによって、新たなシナジーが生まれるかもしれません。
また、UXライティングによって作られた言葉は、度重なるABテストを繰り返すことによって、その効果を最大限まで高めるケースが多いと言えるでしょう。たとえば、Webサイトの登録フォームの文言を作成する場合、「今すぐ登録」「会員登録はこちら」「アカウントを登録する」など、さまざまなパターンが考えられます。そして、サービスを利用するユーザーによって最適な文言は異なるため、何度もテストを繰り返す必要があるのです。
この姿勢はコピーライティングにおいても活用されるべきものだと言えます。UXライティングとのシナジーによってさらに言葉の感性を磨き上げれば、キャッチコピー制作においても何かしらのヒントや気づきにつながることがあるでしょう。
時代の変化がコピーライティングを進化させる
【コピーライター 数字 魔力のまとめ】
- キャッチコピーと数字には確かな親和性がある
- 誰にでも分かる明快さがコピーにおける数字の強み
- UXライティングの学習で新たなシナジーの可能性も
キャッチコピーに数字を活用することによって「具体性」と「説得力」が増すため、行動変容につながりやすくなると考えられます。数字を含むキャッチコピーの効果が高いことは、アンケートなどでも実証されており、キャッチコピーとの確かな親和性があると言えるでしょう。
数字をキャッチコピーに活用することで、誰にでも分かる明快さが演出できる反面、いくつかの注意点を押さえないとその効力が正しく発揮されません。また、注目のUXライティングの視点を取り入れることで、コピーライティングとの新たなシナジーを生む可能性もあります。新しい概念のエッセンスを組み込むことで、コピーライティングも時代に合わせた進化を遂げるでしょう。ユーザーの行動喚起につながる言葉を考えるためにも、キャッチコピーにおける「数字の魔力」をぜひ意識してみてください。