広告業界を舞台にクリエイターの葛藤を描いた人気漫画『左ききのエレン』。
原作者・かっぴーさんはデザイナーの登場人物・朝倉光一と同じく、美大卒業後、広告代理店に入社。作中に描かれる就活ノウハウや仕事観は、かっぴーさんの原体験が反映されています。
まさに『左ききのエレン』はクリエイターにとっての「ビジネス書」。クリエイターを目指す美大生にとっての「就活本」です。
また、かっぴーさんのnote「美大生の就活本」は、多くの美大出身就活生の手助けにもなっています。
今回はかっぴーさんに就活ノウハウや、クリエイターのキャリアアップについて伺いました。就活を控えている美大生や、キャリアアップを目指している若手クリエイターの方はぜひ、参考にしてください。
株式会社なつやすみ代表。武蔵野美術大学卒業後、大手広告代理店のアートディレクターとして勤務。自分が天才ではないと気づき、挫折したことをきっかけに面白法人カヤックにプランナーとして転職。
SNSを揶揄する短編ギャグ漫画『フェイスブックポリス』で大きな話題を呼んだ後、広告業界を舞台にした群像劇『左ききのエレン(原作版)』で長編漫画デビュー。
以降、『左ききのエレン(リメイク版)』『アントレース』『アイとアイザワ』などの原作を担当しつつ、待望されていた続編『左ききのエレン HYPE』の連載を2019年3月より開始。
うまくいかなかった。だからこそ、学びの多かった就活
――まずはかっぴーさんの就活について教えてください。
前半は選考で落とされることが多かったです。でも、この状況を解決しようと思って「就活のミッション」を研究してから変わりましたね。
例えばポートフォリオ。美大生は良い「作品集」をつくろうとしますが、企業にとってポートフォリオは「作品集」ではなく「エントリーシート」です。僕はこれに気づいてからポートフォリオの作り方を変えました。
――ポートフォリオ以外で意識したことはありますか?
面接ですね。「審査されている」という意識を変え、無駄な緊張を減らしました。うまくいかなかった就活の前半はノックの回数やネクタイの締め方といった、社会人マナーを隅々まで評価されていると思って過度に緊張していたことに気が付いて。
気を引き締めることは大事ですが「審査されている」と思い込み、過度に緊張する必要はないと思います。面接官も一緒に働くことになるかもしれない人たちですからね。
――面接で緊張しないためにした対策はありますか?
「自分が実際に働く姿」を具体的にイメージするようにしました。例えば、駅から面接会場までの道のりを「ここを通って出勤するのか」と思いながら歩く。これは就活・転職活動中の後輩に教えて喜ばれることが多い対策です。
――「面接で審査されている」という意識を変えたことで新たな発見はありましたか?
就活生にとって、面接は会社を選ぶ機会でもあることに気づかされました。選考倍率のことを考えると、「僕らが選ばれている」と考えてしまう。でも、就活生・企業にとって面接のミッションはスキルや人柄、希望・要望を「確認する」ことですよね。
なので、僕はある会社の面接で「ディレクターもデザインを担当するけど大丈夫?」と聞かれた時に自分の希望と違うことをはっきり伝えました。もちろんその会社が好きで、働きたいと思っていました。でも、当時の僕はデザイン業務を担当しない、ディレクターになりたかったんです。
少し勇気のいる行動かもしれませんが、就活生が自分のキャリアビジョンを伝えずに選考に進んでしまったら、企業も就活生も、お互いに不幸になってしまうと思います。
――「手を動かさないディレクター」というキャリアビジョンはどのように見つけたのでしょうか?
特に就活生は「得意なこと」を探してしまうと思いますが、僕は逆に「苦手なこと」をリストアップしていくことで見つけました。
こうすれば自然と「得意なこと・やりたいこと」が残る。さらに、自分と合っていない仕事に就いてしまう可能性も低くなると思ったんです。
まとめ:美大生の就活で大切なこと
- 「就活のミッション」を考える
- 美大生のポートフォリオは「作品集」ではなく「エントリーシート」
- 面接で気を引き締めることは大事だが「審査されている」と思い込まない
- 「自分が実際に働く姿」をイメージすることで過度な緊張を防ぐ
じわじわとした絶望と、「仕事ができない」という挫折
――新卒で広告代理店・東急エージェンシーへ入社されています。ターニングポイントは入社何年目でしたか?
クライアントの特性、クライアント好みのクリエイティブが分かるようになってきた入社5年目です。「クライアントに通すための仕事」をするようになったことに気がついて。
――「仕事を覚えた」ということだと思いますが、それはダメなことだったのでしょうか…?
ダメなことではないと思います。ただ、僕は自分が目指している「トップクリエイター」ではなかった。転職・独立をしなかったら悶々としながら働き続けていたと思います。
――それに気がついたことでご自身のキャリアに変化はありましたか?
別の部署に異動しました。しかし、今度は「デザインの実力が足りない」という現実を目の当たりにすることになります。結局は「井の中の蛙」。毎日のように仕事が終わらなくて、夜遅くまで仕事をしていましたね…。ルーティンワークで仕事を覚えただけで、本当の実力がついていたわけではなかったことを痛感しました。
気づいたら、理想と現実の間で苦しんでいる。クリエイターの挫折や絶望は映画のようにドラマチックにくるものではありませんでした。
まとめ:“クリエイターの挫折”を乗り越えるために
- ルーティンワークで仕事を覚えること≠クリエイターの実力
- クリエイターの挫折や絶望はドラマチックにやってくるものではない。だからこそ、自分のキャリア志向とスキルを棚卸しすることが重要
転職のポイントは「会社を辞める理由が前向きか」
――かっぴーさんのように転職を成功させるポイントはありますか?
「転職理由に納得しているか」ですね。僕の場合は尊敬できる上司に出会えたことが大きかったと思います。
ある日、その方に「君は、才能はある。でも、広告じゃないんだよ」とアドバイスを受けたんです。尊敬できる上司の下で仕事をやり切ったから、このアドバイスに納得することができました。そして入社6年目、カヤックへ転職しました。
「活躍しているフリーのクリエイターがたくさんいる」というカヤックの魅力と自分の転職理由を掛け合わせ、独立を前提に「プランナー」として入社しました。
――逆にかっぴーさんが考える失敗する転職はどのような場合でしょうか?
「今の環境から逃げよう」と思って転職した場合ですね。転職理由がはっきりしないし、それが次の会社にも伝わってしまってうまくいかない。
極端かもしれませんが、相談相手や転職先の採用担当者の目を見て転職理由が言えなかったら、転職するべきではないと僕は思います。よく後輩から相談を受けるのですが、このような場合は転職を止めることがありますね。
まとめ:かっぴーさんが考える”転職のポイント”
- 転職成功のポイントは「仕事をやり切る」「転職理由に納得する」
- 失敗する転職のパターンは「今の環境から逃げる」
“天才になれなかったクリエイター”に届けたい『左ききのエレン』のシーン
――キャリアに悩むクリエイターやクリエイターを目指す読者に届けたい『左ききのエレン』中のメッセージを教えてください。
『左ききのエレン』は挫折しかけていた過去の自分のために書いた作品なので、同じような境遇にいるクリエイターや就活・転職活動中の方に届けるとしたらここですね。実はこのシーン、過去の自分を思い出して、泣きながら描いていました。
――「ここでは天才になれなかったヤツらがヒーローになれる」…お伺いしてきたかっぴーさんのキャリアにもぴったりの言葉ですね
広告代理店・広告業界を目指す読者がこのシーンのように「自分は天才にはなれない」という事実を知りながらも、1人のクリエイターとして負けない気持ちで就活や転職を乗り越えてくれたら、原作者として嬉しいですね。
インタビュー・テキスト:鈴木光平/撮影:SYN.PRODUCT/取材場所提供:RENOVATION BOOK CAFE/編集:大沢 愛(CREATIVE VILLAGE編集部)
CREATIVE VILLAGE編集部よりプレゼント企画
インタビューへ応じてくださった、かっぴーさん原作『左ききのエレン』。
2019年6月4日に発売されたばかりの単行本・第8巻をかっぴーさんのサイン&読者へのメッセージ入りで1名さまにプレゼント致します!
以下をよくご確認のうえ、奮ってご応募ください!
応募方法
(1)以下のツイートをリツイート(引用リツイートは対象外となります)
https://twitter.com/creekcrv/status/1136538269464666112
※応募締切:募集は締切りました。沢山のご応募、ありがとうございました!
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