名だたるクリエイターが結集し、2011年に設立された株式会社パーティー。クリエイティブ“ラボ”と呼ぶ組織で広告の枠にとらわれない、多様なコミュニケーションとアプローチに取り組んでいます。今回はクリエイティブディレクターの川村真司さんに、ご自身のキャリアやパーティー設立の想いをお伺いしました。
パーティー設立まで
慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)で佐藤雅彦先生のゼミに参加したことが、クリエイターを志すきっかけになりました。ここはデザインのテクニックを教えるのではなく、デザインの考え方を重視する内容のゼミで、世の中に発表するコンテンツを実際に作る作業を通してデザインプロセスを実学できる実験的な場所でした。とにかく毎日が刺激的で、3年間夢中でいろいろ作りましたね。そこで出版やテレビや広告など、様々なクリエイティブの業種を垣間みることができ、ゼミでの経験・スキルを幅広く応用できそうな「広告」をやってみようと考えるようになり、大学卒業後、博報堂へ就職しました。
博報堂ではCMプランナーとして入社し、1年目から「JINRO」のCMを担当するなど、良い経験を積ませてもらいました。1プロジェクトに「企画100本ノック」を課せられたりするような、いわば修業の時代でしたが、日産やPlayStationなどメジャー企業・ブランドのCMを任され、やりがいある環境でした。
そんな恵まれた状況でも、3年ほど経つとプリントもTVもインタラクティブも屋外広告もすべてやりたい!という欲が出てきたんです。しかし、その望みは当時の代理店の仕事の仕方やCMプランナーの肩書では叶いそうにありませんでした。そこでもっと自由な制作の場を求めて、海外のエージェンシーに行こうと決めたんです。
元々サンフランシスコで育ったので、海外へ出る抵抗はほとんどありませんでした。その一歩としてまずは外資系代理店BBH Japanの立ち上げに参加しました。残念ながら今は日本から撤退してしまいましたが、当時日本オフィスの立ち上げに加わり、ユニリーバ・AXEのローンチキャンペーンなどを担当しました。
その後はBBH Londonや180 Amsterdam、BBH New York、Wieden & Kennedy New Yorkなど海外の広告代理店で、約10年ほど勤務。希望していたメディアを横断したクリエイティブに携わり、2011年、パーティー設立に参加するため、久しぶりに日本に帰ってきました。
パーティー設立への想い
海外に出てからミュージックビデオやブックデザインあるいは展示会まで、川村真司・個人としての仕事が増えていました。パーソナルなクリエイティブも、会社の仕事としての広告も、僕にとっては同じで、面白いと思う「モノ創り」をしているだけなのですが、既存の代理店という組織の性質上それを認め・サポートするシステムがありませんでした。
だから一つ屋根の下で、パーソナルワークでやっているようなコンテンツの開発と会社での広告的なコミッションワークを両立したいと考え、その場としてパーティーを創りたいという個人的な思いがありました。
またその想いと重なるように、従来のプッシュ型広告がユーザーに届きにくくなっているなか、いっそ広告を作るというコミュニケーションのあり方を見直し、コンテンツ・エンタメ・サービスを作るという観点から、クライアントと一緒にコミュニケーションを創るほうが良いのでは?という考えもありました。
企業からの一方的な発信ではなく、遊んで楽しい・使って便利というコンテンツでないと、もはやユーザーは動いてくれませんから。そういうブランドコンテンツを制作できるラボとしてパーティーを運営していきたいと考えています。
印象に残っているクリエイティブ
やはりパーティーとして最初に手掛けたプロジェクト「ToyToyota」が印象に残っています。クライアントからは「未来のドライバーである子供に運転の楽しさを教える」というテーマを与えられましたが、子供は広告に興味がありません。そこで直接的なアプローチではなく「ToyToyota」というおもちゃブランドを創って、遊びの体感のなかから「運転が楽しい」と思ってもらおうと考えました。
そのおもちゃの第一弾がiPhoneアプリ「Backseat Driver」。後部座席の子供が遊ぶことを想定したコンテンツです。GPS機能によって実際に走行するクルマと連動して、ゲーム中のクルマが走ります。
また位置情報系アプリとリンクし、周囲の実際のランドマークや店舗もリアルタイムでアイテムとして表示しました。利用ポイントを集めるとクルマのカスタマイズもできるという仕掛けなど、継続して遊んでもらえるよう工夫を凝らしました。
そのほかではandropの「Bright Siren」のミュージックビデオも印象深いプロジェクトです。
ミュージックビデオなので最終納品物はアナログですが、創る過程でテクノロジーを駆使しました。デジタル一眼レフカメラ250台をコンピュータで制御し、ストロボによる光のアニメーションを制作。このように表面上の面白さだけでなく、撮影の仕方やツール創りからこだわるところが、僕の仕事における特徴だと思います。
「ToyToyota」はGPS機能を使ってリアルなドライブとバーチャルなドライブを繋げたところに新しさがありました。「Bright Siren」はアナログなモノを作り上げるために、先端のテクノロジーが使われている点が新しいと思っています。パーティーではこんな実験的な取り組みを今後もドンドン実現していきたいと考えています。
クリエイターへのメッセージとアドバイス
先にも少し述べましたが、親の仕事の関係から子供時代をサンフランシスコで過ごしました。そのこと自体は今の仕事に直結しませんが、後に海外へ出て、刺激的な環境で働くことができたのは、語学力や海外生活の経験が大きく影響しています。これは僕個人の家庭の事情なので、日本で生まれ育った人とは状況が異なるかもしれません。
しかしこれからのクリエイターにはもっと海外に出ていくことや、世界を意識したクリエイティブが強く求められています。例えばコンテンツがYouTubeにアップされれば、瞬時にグローバルに広がる時代です。予期しないところで大きな反応・反響が起こる可能性があるわけで、どんなモノ創りにおいてもグローバルな視点が必要不可欠となっています。
もう一つアドバイス的なことを言えば…この世界は1つ面白いものを創れば、世界中どこに行っても活躍することが可能です。10個面白くないものを創る人より、たった1個でもキラキラした作品を持っていれば重宝されるという特徴があります。だから目の前にある仕事に、とことんこだわって取り組んで欲しいと思います。最近はモノ創りに対して淡白な人が増えているような気がしていて、少し残念に感じています。
僕は先を歩くクリエイターの先輩に体当たりで挑んできたし、経験や知識では勝てなくてたくさん壁にぶつかることもあったけれど、それを乗り越えた時が一番成長できたと感じています。なので若いクリエイターには、受け身ではなくもっと自分事として一つ一つのプロジェクトに真剣に取り組んで、先人をどんどん越えていってもらいたいと思います。
最後に…パーティーが求める人材は
僕は今、モノを作っている時(パーソナル・コミッションワークを含めて)が一番楽しかったりします。それだけ忙しいし大変なこともあるけれど、パーティーでの仕事は広告の枠を飛び越え自由に発想できる魅力にあふれています。
設立から2年でここまで広範なジャンルのクリエイティブをハイペースで送り出している会社はないと思います。
そんな会社なので、自分から課題を見つけられて、新しいことに挑戦することを恐れない根性のある人がいたら、いつでも大歓迎です!
PARTYは東京とニューヨークを拠点に、伊藤直樹、原野守弘、清水幹太、中村洋基、川村真司の5名によって設立された「Creative Lab(物語技術の研究所)」です。
“新しい創造は、新しいプロセスから生まれる”という考え方から、「Creative Director+Technical Directorによるチーム」「マルチロール+マルチタスク」など、他には無い、ユニークなクリエイティブ・プロセスを研究/実践しています。
PARTYは、“ヒューマンインサイト”のみならず、“技術インサイト”に注目し、「新しい技術による新しい物語」を、プロダクト、サービス、プラットフォーム、空間、エンタテイメントなど、幅広い分野に提供しています。
パーティーコーポレートサイト
http://prty.jp/index.html