桃太郎、浦島太郎、金太郎を中心に昔話の登場人物の楽しいストーリー展開が話題のau「三太郎シリーズ」。2015年には企業別CM好感度歴代NO.1のスコアで一位を獲得し、この年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーにも輝いた篠原誠さんに、クリエイターとしての心得や、人気の三太郎シリーズの誕生秘話など、お話を伺いました。
■ ずっと模索していた「やりたいこと」を、大学のゼミで発見!
出身は三重県で、大学進学のため上京しました。実家は本当に何にもない田舎で(笑)。高校時代は実家から離れて下宿していました。このまま田舎で“井の中の蛙”のような生活は送りたくないなと思って、大学に進学するなら東京かなと、ぼんやりと考えていましたね。大学は商学部に入りましたが、それからもしばらくはやりたいことがすぐには見つかりませんでした。
そんななか、1~2年生で受けたマーケティングの授業がすごく楽しくて。先生もとても面白い方だったので、3~4年はこの先生のゼミを選択しました。某老舗和菓子店や大手ピザチェーン、大手アパレルなど、先生のお知り合いの社長さんから課題をいただき、実際にお会いしてプレゼンテーションするという実践的なゼミでした。プレゼンした内容に対してフィードバックをもらえて、楽しかったです。そして、このゼミを経験して、自分のやりたいことってこれなんだ!という確信を得ることが出来ましたね。
4年生になり、就職活動の時期を迎えて、自分の好きなマーケティングで仕事がしたいと思い、会社探しを始めました。コンサルティング会社というよりは、いろんな会社を覗くことができて、川上から川下までじっくりと向き合うことができるという点で、代理店の方が自分には合っているかなと思い、いろいろ探しました。就職本で見つけた「マーケティングプラナー」という職種の紹介記事を読んで、これはいいなと思い、その職種を募集している広告代理店にエントリーをしたのですが、その後で知人から「電通もあるけど」と声をかけられました。実はそれまで、電通の存在を知らなかったんです。勧めに従いエントリーしたところ、他企業に先駆けて内定をもらえたため、電通に就職を決めました。
想定外だったのは、配属先がクリエイティブの部署ということですね。発表された時、「俺が?」という驚きがありました。てっきり営業に配属されるものだと思い込んでいましたから。広告代理店とはいったいどういう機能をもった会社なのかなんてよくわかっていなかったし、ましてやクリエイティブなんて全然わからない。うちの会社はメンター制度を設けていて、そんな私には当時入社10年目の先輩コピーライターがついてくれました。業界についてまっさらな私に、イチからいろいろと指導していただき、言われたことをひたすらやって覚えるという日々でしたね。
■ 師匠からの教訓
その先輩からいただいた教訓は、「すべての仕事に意味がある」ということです。仕事のフェーズはいろいろあって、やや言葉は悪いけれど、誰でも出来る仕事や、進んでやりたいと思えない仕事もあったりする。でも、それら一つひとつに何か課題や目標を定めると、意味をもった仕事になるんですね。たとえば、大きな石を、しんどい思いをして運んでいる人がいるとする。最初は訳もわからずにただ運んでいたけれど、実はこの石が大きな橋を作るために運んでいるもので、将来この橋を利用して幸せになる人々がいることがわかる。今やっていることが、こうした目標達成のためにやっていることなんだと理解できれば、意義や価値が出てくるんですね。
だから、もしも今、あまりやりがいを感じられないとか、面白くないと思えるような仕事をしていたとしても、投げやりになったりしないで欲しいと思います。そんなことを考える時間が惜しいし、今できることをやったほうが断然いい。もっと言うと、どんなにつまらないと思える仕事をしていたとしても、たとえばそれを10人が同時にやったとしたら、必ず何かしらの差が出るものなんです。「この人の出来は、ちょっと面白いね」と。つまり実力がそこに現れているんですね。こんな小さな仕事なのに、この人頑張っているなって、その努力を見ている人がちゃんといる。そうすると、次に新しい仕事が来て、頑張るとその成果をちゃんと評価してくれる人がいて、やりたい仕事にどんどん近づけるという好循環が生まれる。
実際に後輩を見ていても、恵まれない環境の中でもがきながら、望む場所に到達している人もいますから、仕事の一つひとつにしっかりと意味や目標づけをして努力していくことは大事だと思います。
■ 得意なストーリーテリングを発揮して作り上げた、エモーショナルな「au三太郎シリーズ」
auのブランドスローガンは「あたらしい自由」。既成概念を壊して、まったく新しいものを生み出していくという意味合いが込められています。企画に着手する際、「日本人が知っている既成概念とは何だろう」と考え、日本の昔話が思い浮かびました。そのイメージをちょっとずらすことで、新しい“自由”を表現することが出来るんじゃないかと思い、企画を進めました。私はいつも、広告で表現をした先のゴールをざっくりと設定します。「こんな会社だったらいいな」「かっこいいと思われたらいいな」「子どもたちが面白がってくれたらいいな」という感じです。auの場合は、「愛着の持てるかわいいやつ」がいいな、と思ったんです。ものすごくカッコイイというような尖った感じではなくて、ちょっとしたかわいらしさを持たせたいなと。
クリエイティブは昔話の主人公、桃太郎、浦島太郎、金太郎の3人で設定し、auを英雄とだじゃれでかけて「あたらしい英雄、はじまるっ」とした新シリーズがスタートしました。
私はストーリーテリングが得意なので、ラジオCMのような、彼らの会話で楽しませる展開を考えました。セリフをかわいい感じがするトーンになるように意識しています。撮影現場では、アドリブを交えながら無邪気でいて真剣な3人の演技に、スタッフも笑顔が絶えないですね。
■通信の無い時代の人々の「伝えたい」という気持ちに想いを馳せて作られた歌『海の声』
スタートから丸1年がたち、昨年だけで29作品が展開されましたが、やはり本数が多いし、オンエア量もボリュームがあるので、飽きられやすいという懸念もありました。そのため、常にクリエイティブで意識しているのは、意外性、期待感。それは毎シリーズに必ず埋め込んでいます。その中で、会話じゃないものをやってみようかなと考えたのが昨年の夏ごろです。そんな時にちょうど、ガラホというお題がクライアントから出ました。音質の良さをアピールするというテーマだったのですが、じゃあ桐谷さん演じる浦島太郎に、ラブソングを歌ってもらってはどうかとひらめいたんです。高音質で、声が良く聞こえる、というメリットを、歌のうまい桐谷さんが歌うラブソング、という設定で表現することにしました。
クライアントにも提案が通り、曲作りも始まりました。メロディーのイメージはBEGINさんの曲だったので、ダメもとで作曲いただけないかオファーしたところ、OKをいただき、うれしかったですね。それで、メンバーの島袋優さんに曲を作っていただくことになりました。作詞は私が手掛けたのですが、書き始める時に、通信が無かった時代の人々は、会えない人に会いたいと思った時どうしていたのかなということについてイメージを膨らませていきました。風や波の音など、自然の音の中に、会いたい人の声を探したりしたのだろうか。自分の声を風に乗せて、遠くにいる会えない人に届いたらいいなと思ったりしたのだろうか…と。そんな発想をストレートに歌詞に表しました。こうして出来上がった『海の声』は、桐谷さんの三線による弾き語りと切なさを醸し出す歌声が、絶妙にマッチしたと思います。
■広告のフィールドが広くなり、技術の幅も広くなってきているなかで、得意分野を確立する
最近大事だと思うのは、技術ですね。コピーライティング、ストーリーテリング、デザイン、プロモーション、プランニング…といった技術が、最近の広告のフィールドの広がりに応じて増えてきていると感じます。「あなたは何が出来ますか?」と聞かれた時に、これが出来ますと言えないと、この業界では厳しいと思います。ですから一度、今ご自分が出来ることを棚卸してみて、数ある中で何が一番“出来る”と明確に言えるのかを知っておくことは良いと思います。
この業界って酷だな、と思うのが、作品のファーストタッチで実力がわかってしまうということ。パッと見て、ああ、これくらいのレベルなんだなとわかってしまうほど、シビアな世界です。でも逆にいうと、面白いものさえ出せればいい、ということでもあります。そこに向かって、技術を磨いていくことが、これからは特に大切になってくると思います。
■CM情報
『au 三太郎シリーズ』松田翔太さん、濱田岳さん、桐谷健太さんが、日本の昔話に登場する主人公に扮してストーリーを展開する『三太郎シリーズ』。個性的なキャストが繰り広げるコミカルなやり取りが人気を博し、「企業別CM好感度ランキング」で2年連続の首位を獲得しました。
■TVCMギャラリー
http://www.au.kddi.com/pr/3taro/