「働き方改革」が推進される昨今。しかし、その背景に「人生100年時代」への注目があることを皆さんはご存じでしょうか?
「人生100年時代」を読み解く、連載インタビュー「for your creativity –人生100年時代に必要な5つのこと」。その第一弾は「学び」。スクー生放送コンテンツのプロデュース・企画・制作全般を手掛けている橋詰千彬さんにお話しを伺いました。
ラーニングデザイン第1ユニット ユニットリーダー
青山学院大学 文学部 英米文学科 卒業後、人材情報サービス企業に入社し、求人広告の企画・編集、新卒採用の広報戦略 企画立案などを担当。
その後、イギリスに渡り、大学院にてITを活用した英語教育方法論、モチベーション理論を学ぶ。帰国後、スクーに入社。生放送コンテンツのプロデュース・企画・制作全般を手掛ける。座右の銘は「回り道を楽しむ」、好きな食べ物はうどん。
自信のための回り道が「自分の学び」に繋がった
―キャリア上で「学び」の大切さに気付いたきっかけについて教えてください
1社目のマイナビで6年間勤務した後、イギリスの大学院へ留学したことですね。
―なぜ、社会人になった後に留学をされたのでしょうか?
実は僕、英語教員になりたかったんですよ。でも、教育実習を終えた後、「教員の資質を備えているのか」と自問すると、自信がもてなくなってしまって。
そんな中、自信をもつために必要なのは「社会の荒波に揉まれてみること」だと思ったんです。そして、マイナビで企業さんの広報企画立案を6年間担当しました。
この仕事を一人前だと胸を張って言えるレベルまでやり切ったことで、やっと自分に自信が持てるようになったんです。
そして、6年間離れていた英語教育のことを「学び直そう」と思い、イギリスの大学院へ進学することを決めました。
―大学と同じ分野を学ばれたのですか?
「学び直し」というと、そのようなイメージをもちますよね。しかし、僕がした「学び直し」はもっと「人生100年時代」を意識した学び直し、いわゆる「リカレント教育」(※1)です。
学習意欲の根底にあった「教育」の中でも分野を絞り、テクノロジーを使用した英語教授法を学びました。
この分野を選んだきっかけは、社会の荒波に揉まれていた「6年間」を俯瞰してみたとき、ITの進化スピードに驚かされたことです。
なので、100年間の人生で今後さらにITは進化するだろうと感じたんです。それなら、今後必要になる分野と自分の学習意欲の根底にある「英語教育」を掛け合わした分野を勉強したいな、と思って。
(※1)社会人になった後の新たな就労・人生設計に対する教育・学習のこと
人生100年時代には「能動的な学び」が必要
―「学び」の意味が「人生100年時代」の文脈では少し異なるのですね。
そうですね。今までの人生モデルにおける「教育」フェーズ、つまり中学・高校時代で勉強している理由のほとんどは「大学受験勉強」。
しかし、ここで目的が「大学入学」自体になると、大学入学後、学んでいる意味を見失ってしまうのではないでしょうか?
【一流の学び方 -稼ぎに繋げる大人の勉強法-】
―その上に学ぶ楽しさを感じにくい気がします
そうですよね。それに関して、僕は少しの回り道をしたから気が付いたことがあって。
人生を再設計し、それに合った学びの分野を探す、という「能動的な学び」をすると、実は「学ぶ」という行為が格段に自由に、楽しくなるんです。
そして、この経験から僕は「英語教員になる」という、教育システムの中に用意されていた職ではなく、「新しい教育システムをつくり出す」ためにスクーに入社したんです。
―「能動的に学ぶことの楽しさ」が現在の橋詰さんのお仕事に繋がるのですね
そうですね、僕はこの経験から、「世の中から卒業をなくす」を掲げ、学び続けられるサービスを提供する会社で、コンテンツ企画をしています。
このように、その時々で設定した人生目標に合わせて行動をしていると、「自分の学びたい」分野が自然と見つかります。僕の場合は「英語教育」ですね。
人生100年時代に必要な学びの分野とは?
「教育」「勤労」「引退」という人生モデルが「人生100年時代」の到来によって、「マルチステージの人生」へシフトする中、学ばなければならない分野はさらに多様になると思っています。
なので、これさえ学べば「みんな100年生きられる!」という万能な分野はない、とも思っています。
万が一あったとしても、自分の人生に対する必要性を問わないまま学んでしまうと、「受動的な学び」に戻ってしまう…「大学に入るため」の強制的な学びと同じじゃないですか?
なので、「能動的で多様な学び」を目指すスクーのコンテンツポリシーは「未来に向けて私たちが学ばなければいけないこと」。つまり、「すべての人のための学び」なんです。
―多様なコンテンツを制作されていることにも繋がるのでしょうか?
そうですね。Schooの場合「すべての学び」の中でも注力している分野は三領域あります。
【働き方の選択】 | フリーランス、パラレルワーク等、新しい働き方について |
---|---|
【健康】 | ヨガ、筋トレ、メンタルタフネス等 |
【お金】 | 投資、貯蓄、税金等 |
人生100年時代に三領域の学びが必要な理由
三つの領域に共通しているのは「人生100年時代」を自分らしく、豊かに生きるためのコンテンツだ、ということです。
人間の平均寿命は延びていて、もうすぐ100年を迎えると言われているのですが…実は一方で、企業のそれは縮まっているんです。どれくらいか分かりますか?
―えーっと…30年くらいでしょうか?
おっ、いいですね!37.16年(※2)だったかな?
つまり、終身雇用の時代ではなくなってしまった。しかし、その一方で人間の寿命は延びている。
そのような状況になった場合、転職を繰り返していく中でキャリアアップを図ったり、場合によって独立や起業などの選択肢をとる必要が出てくる。
そのような背景から、僕が担当している「働き方」領域があります。
「健康」は100年時代を心身ともに健康に過ごすためのコンテンツを発信しています。例えば「マインドフルネス」や「食生活」について。
そして、「お金」については、今までは定年が65歳で、働かない期間(余生)は十数年でした。しかし、人生100年時代は働かない期間が35年以上になるんです。
1年で100万使ったとしたら…35年で必要なお金は3500万円。そうなると、この35年間を生き抜くためには稼いだお金をきちんと運用する必要が出てきますよね。そのために必要なのがこの領域です。
僕たちはこの三領域を万人が必要とする学びだと考えています。職業に関係なく、私たちはこれから「人生100年時代」を生き抜く必要があるのですから。
(※2)出典「帝国データバンクの数字で見る日本企業のトリビア」
「オンライン教育」のメリットとデメリット
―10月には「人生100年時代」の学びについて考えるイベント『大人の学びの秋 -秋の夜長、お酒片手に“NO STUDY, NO LIFE”を考える-』の企画・運営をされていましたが、橋詰さまご自身、このイベントを通してどのような「学び」がありましたか?
イベントの様子を授業コンテンツとしても配信したのですが、「イベント参加者が主で、オンライン参加者は従という形になってしまいがち」ということが学びでした。
また、この経験から、下図のようなオンライン教育のメリット・デメリットを改めて考えてさせられましたね。
メリット | いつでも どこでも ネット環境さえあれば その人に応じたコンテンツ(適応型) 視覚的な補助ができる |
---|---|
デメリット | 誘惑が多くモチベーションの維持に工夫が必要 |
―学びの場が「オンライン」になることで一定のモチベーションがないと「中断してしまう」という課題は私も感じていました。
オンライン動画教育はネット環境さえあれば「手軽に・いつでも・どこでも」がメリット。
しかし、その一方で「終わり」を決めるのも受講者の意思次第です。SNSやテレビの様子が気になれば、簡単に学びを「中断できる」。
なので、動画教育はオフラインと比較して「継続性」の点ではビハインドがあると思います。
―この課題に対して、スクーはどのようなアイディアをコンテンツに反映しているのでしょうか?
「コメント機能を利用したコミュニケーション」ですね。
この機能によって、授業で分からないことがあったらすぐ質問できるし、他の人の意見と自分のそれを比較できるようになっています。
登壇者(先生)の授業とは別のところで学びの発見・知的好奇心の高まりがあるんです。
このように、まずは「面白そう、学んでみたい!」という学びの入り口を創る工夫をしています。
―イベント参加者の年齢層はどうだったのでしょうか?
スクーの既存サービスである、オンライン授業の受講者と同じく、30~40代が多かったですね。
自分が持っている知識じゃこの先生き残っていけない、という危機感がある・ライフステージ的に時間に余裕ができた方の割合に近いと思います。
人生100年時代に取り残されるかもしれない、20代日本人
―会場を見渡したとき私と同じ20代は少ないと感じました。
イベント『大人の学びの秋』でも出したデータですが、日本人20代の知的好奇心のレベルはスウェーデン人の65歳と同レベルなんですよ…!
加齢とともに「知的好奇心」は基本的に減っていくものらしいので、本来は「20代の知的好奇心が一番高くなるはず」なんです。
―衝撃です…なぜ、このような状態になったのでしょうか?
その前提にあるのが受動的な学習システムだと思っています。
これに対して「多様で能動的な学び」を通して「知的好奇心の低迷を改善したい」という思いを元にコンテンツの企画をしています。
―スクーのコンテンツには娯楽と教育の融合を感じています。これも「知的好奇心の向上」に繋がっているのでしょうか?
そうですね。専門家が一方的に話しているような、堅苦しいコンテンツだったら、「見たい」「面白い」と思わないですよね。なので、企画者兼「視聴者」として、コンテンツをつくることを心がけています。
―「知的好奇心が低い20代日本人」が人生100年時代を生き抜くためにはどうすれば良いのでしょうか…?
おお、難しいそれ!笑
僕はこの間、33歳になったばかりなのですが、20代を振り返ると、仕事や遊びに忙しかったです。
なので、20代の社会人が「人生100年時代」を考え、必要な分野を能動的に学ぶのは難しいですよね…。
でも、「人生の目標」が掲げられていないと、お金や健康・働き方に対して後々悩むことになってしまうかもしれない。
今は「時間がみつかったらすぐに勉強ができる」時代。
なので、大切なのは「自分の人生100年時代」に必要な学びを見つけて、タイミングが来たらすぐに学び始められる状況をつくることだと思いますね。
「リカレント教育」を実践するためには
―これが人生100年時代に必要だと言われている「リカレント教育」に繋がるのでしょうか?
そうですね。「リカレント教育」の「リカレント」は「循環」という意味なので、「休みない学び」に捉えられがちなのですが、実際はそうじゃないんです。
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』を書いたリンダグラットンさんも言っていることですが、勉強・実践・新しい課題への気づき・勉強・実践…と、錐もみ回転のように100年が続いていくイメージです。
―「リカレント教育」という概念を自分の人生目標に落とし込むことが必要そうですね
そうですね。自分の人生目標に合った「リカレント教育」を選択しないと結局、僕たちが経験してきた「受動的な学び」に戻ってしまう。そして、何のために・何を学べば良いのか分からなくなってしまうと思うんです。
―イベントで「学びは楽しいから行うもの・仕事での実践ありきで行うもの」という議論がありましたが、橋詰さんはどのようにお考えですか?
この議論、面白かったですよね!僕は「楽しいから学ぶ」が増えるといいな、と思っています。
もちろん、社会人なので、後者の人がいても良いと思います。
それでも僕が最終的に届けたいところの道半ばかな、と。
最終的には学んでいること自体が楽しくて、「知的好奇心」から学んでいたことが自分の独創性、社会価値になる、という人が増えると嬉しいです。
―しかし、今の私は「学びの楽しさ」より「アウトプット」を意識して学ぶ場合が多いです。
「楽しいから学ぶ」は理想だな、とは思うのですが、最初からそれを目指すと、恐らく金銭面がついてこない人が多いと思うんです。
なので、その前段階には「明日から仕事に使える学びを得る」ことがあると思います。
この「アウトプットに必要な学び」を実行して、成功体験を積むことで、最終的には「楽しいから学ぶ」そして「100年時代を生き抜ける学び」にたどり着けると思います。
人生100年時代における「クリエイター」とは
―クリエイターが今後キャリアにリカレント教育・スクーのコンテンツをどのように活かせば良いとお考えでしょうか?
「クリエイター」って…どのような人のことを言いますか?
―「クリエイティブ業界で働いている方」でしょうか…?
ここが気になった理由は、「人生100年時代を生きる人は皆クリエイターになる」と思うからです。
パターン化できる業務がAIで自動化されたら、クリエイティビティを発揮しないと僕たちは生き残れないと思うんです。
「1億総クリエイター社会」とはよく言ったもので。
なので、個人の専門分野や独創性が評価される「人生100年時代」には何かを生み出すためのツールであるプログラミングなどは必要なスキルの筆頭だと考えています。
―独創性を形にできる人=クリエイターということですね
広義で「クリエイター」を捉えるのでれば、自分が何を学べばよいか分からない人は勿体ないので自分のアンテナが少しでも動いた方に行動すると良いと思います。スクーのコンテンツを覗いてみる、イベントに参加してみる…とりあえず行動に移すことが一歩目になる、と思います。
―『大人の学びの秋』で提示されていたサンカクさんのデータは「社外活動へ参加するだけでは意味がない、コミュニケーションが重要だ」と言っていましたね。
あのデータ見たとき、テンションあがりましたよね!
積極的に人と関わりながら学ぶことでコミュニティが出来上がり、プロジェクトになり、うまく行けばビジネスに発展していくのではないかと思います。
―人生100年時代を生き抜ける人はクリエイター。そして、クリエイターになるためには「コミュニケーションと学び」が必要ということですね。橋詰さん、ありがとうございました!
撮影:TAKASHI KISHINAMI/企画・インタビュー・テキスト:大沢愛(CREATIVE VILLAGE編集部)
Schoo(スクー)について
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