プロデューサーと呼ばれる役職は、業界や企業によって業務範囲や責務が全く異なります。その中でも、ゲーム開発会社におけるプロデューサーの話はなかなか聞く機会がありません。
コンシューマーゲーム事業の拡大、パブリッシング事業への参入と、新たなチャレンジを打ち出し続けているUnreal Engine(以下、UE)専門のゲーム開発会社である株式会社ヒストリア。新規にプロデューサー職の募集を行う同社のプロデューサー陣に、ゲーム開発会社のプロデューサー業務についてお話をうかがいました。
佐々木 瞬 (代表取締役/プロデューサー/ディレクター)
コンシューマーゲームのディレクター、リードプログラマーを経て、2013年にUE専門会社である株式会社ヒストリアを設立。UEを用いたコンシューマーゲームやVRタイトルなどの開発を行っている。学習用ミニコンテスト「UE5ぷちコン」やWEBメディア「ゲームメーカーズ」をはじめとする開発者への情報発信にも力を入れる。「Caligula2」(開発プロデューサー/開発ディレクター)、「ジョジョの奇妙な冒険 ラストサバイバー」(開発プロデューサー)、「ライブアライブ」(ディレクター)
伊藤 祐太(プロデューサー)
大学を卒業後、自動車販売の営業職にて勤務。CGスタジオで制作進行、アシスタントプロデューサー、プロデューサーを経験。その後2017年にヒストリアへ入社しプロデューサーとしてゲーム案件を中心に担当。「ライブアライブ」(開発プロデューサー)、「ナレルンダー!仮面ライダーゼロワン」(開発プロデューサー)、「VR転スラ ~ヴェルドラとの出会い~」(開発プロデューサー)
小林 誠(プロデューサー)
イベントでの大型映像機材の設置やオペレーションなどを経験。映像作りに興味を持ち、デジタルハリウッドに入学し映像制作を学んだ後、CG制作会社で映像制作の仕事へ従事。2019年にヒストリアへ入社し、エンタープライズ案件を中心にゲーム案件も担当。
一人で設立し、徐々に規模を拡大してきたUE専門の開発会社
-ヒストリアはどのような会社ですか?
佐々木 ヒストリアは主にコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム)やアーケードゲーム、VRコンテンツを制作する開発会社です。UE専門という特徴を掲げており、弊社で開発するタイトルはすべてUEで制作しています。ゲーム開発とは別に、自動車・建築・映像業界に向けたコンテンツ制作も行っています。
-なぜUE専門会社としたのでしょうか?
佐々木 エンジニア出身の私が設立当時Unreal Engine 3を使用しており、UEが好きだったというのが大きいです。UEに特化することで企業の特徴になるだろうという考えと、単純に専門と言えばUEの仕事が取れるのではないかという狙いもありました。
-コンシューマーゲームの開発を行うまでの経緯を教えてください
佐々木 もともと私がコンシューマーゲームのエンジニアやディレクターをしてきたので、2013年の設立当初から自社でコンシューマーゲーム開発というのはひとつの目標でした。ただ、最初一人で立ち上げて少しずつ拡大してきた会社なので、まるまる1本受託できるようになるまで、少し時間がかかりました。
設立初期はコンシューマーゲームの一部開発やVRタイトルの開発受託を行い、最初は『Caligula Overdose/カリギュラ オーバードーズ』の開発を丸々任せていただきました。その後はアーケードの『ジョジョの奇妙な冒険 ラストサバイバー』を経て、『Caligula2』『ライブアライブ』と毎年1本のペースで弊社開発のタイトルを出させていただいています。
-社内で同時にどのくらいのタイトルを開発していますか
伊藤 弊社が担当するコンシューマータイトルだと、だいたい1本あたり3年ほど開発期間をかけるのですが、その規模のプロジェクトが2本くらい同時に走っていることが多いです。それ以外にも小中規模の案件が複数動いているので、年間ではそこそこのタイトル数があります。
-会社の人数は何名ほどですか
佐々木 アルバイトや外部スタッフも合わせて現在(2022年10月)は約80名。社員は50名ほどです。ゲーム開発事業以外にも、自動車・建築・映像業界などに向けたコンテンツを制作しているエンタープライズ事業と、開発者コミュニティに向けて情報発信を行っているPR・メディア事業もあるため、ゲーム開発に限ると全体で60名弱でしょうか。
お客様のニーズを捉えて社内・社外共にコミュニケーションを行う
-ヒストリアではゲームプロデューサーは具体的にどのような仕事をするのでしょうか
伊藤 まず大前提として、弊社はゲーム開発会社(デベロッパー)なので、販売を担当するパブリッシャーからお仕事を頂きます。もちろんユーザーの皆様に向けてタイトルを開発するのですが、弊社の直接的なお客様はパブリッシャーの方となります。タイトル全体のプロデューサーはパブリッシャー側にいるので、弊社のプロデューサーは頂いた予算の中で、お客様の要望を満たす形でゲームを制作することが業務となります。
佐々木 そのためタイトルにもよりますが、弊社ではクレジットに「開発プロデューサー」と書くこともあります。社内的なタイトル全体の責任者なので業務範囲を区切るのは難しいのですが、主な責任個所としては案件化(仕事を取ってくるところ)、予算、座組(スタッフィング)、スケジュール周りでしょうか。主に現場監督であるディレクターと連携を取りながらプロジェクトを進めます。
-プロジェクト全般で関わっていくんですね
伊藤 プロジェクトの立ち上げから最後まで見ていきます。他のどの役職よりも長くひとつのプロジェクトに関わっています。代わりに、同時にいくつかのプロジェクトを担当することが多いです。
小林 実際には、開発のさまざまなところで出番がやってきます。最初はお客様のニーズを捉えて提案材料を作ります。開発が始まったら要件定義をして、それをどういうサイクルで制作に移していくかを考えつつ、中間ではお客様からのレビューを重ねながら調整をして納品するという感じです。
見積もりやスケジュールなどのペーパーワークもあれば、日々のコミュニケーションを仕切る仕事もあります。問題が起きたときに解決することもプロデューサーの役割です。できるだけ事前に問題を洗い出しますが、全てを見ることはできないので、要所を押さえるのもプロデューサーのスキルだと考えます。
-プロジェクトごとに役割が変わることはありますか?
伊藤 関わる案件によってかなり違います。私が担当する大型のゲーム案件だと細かいマネジメントまですることはあまりないですが、お客様の言う内容とチームが進んでる方向が間違っていないかを調整する舵取りのような役割が制作過程の主な業務の1つです。
最終工程では、お客様とお約束したものか、ヒストリアとして世に出せるクオリティなのかを確認し、問題がなければ納品します。作品発売後はお客様の反応をSNSでひたすらチェックするのが仕事です。
一同笑い
小林 反応がないと学びにできないので、大事な仕事です。
いかに上手く協力会社を巻き込むかがポイント
-コンシューマー開発で難しい点はどこでしょうか?
佐々木 コンシューマーゲームは、どれだけ強烈な体験を与え感情を揺さぶることができるかというゲーム体験が、一番の売りのエンターテイメントだと考えています。近年ではそれを実現するために開発規模が大きくなっており、完遂するためにはより高い技術力やマネジメント力が必要です。現場スタッフの力量が必要なのはもちろんのこと、プロデューサー視点だとその規模をこなすためのプロジェクトの座組が重要になります。
弊社の特徴として、プロジェクトを自社だけで完結せず、そのタイトルごとにマッチした他社をプロジェクト初期から巻き込むことで、クオリティの向上と開発の大規模化に対応しています。そのため、普段からのパートナー企業と協力関係を築くことを大切にしています。
いかに上手く他社を巻き込むか、というのはプロデューサーのスキルだと思います。その点弊社は、伊藤と小林がCG業界出身ということも弊社の強みになっており、事業拡大の一因になっていると考えます。
-プロデューサー目線でヒストリアの開発の特徴を教えてください
伊藤 マネジメントが社内で体系化されていることだと思います。規模にもよりますが、おおよそどのプロジェクトでも同じように回すことが出来ています。(参考:ゲーム開発を乗りこなせ! ヒストリア流ゲーム開発マネジメント手法)
あとは、UE一筋のスペシャリスト集団という部分です。UEに特化しているのでUEの知見が集まってきて、社内での情報共有が活発です。ゲームの設計力、企画力なども、社内で情報交換して体系的にまとめて普及することに力を入れています。
小林 ノンゲームのほうが技術的には新しいことをやっていることも多く、社外からUEについて頼られることも多いです。これは業界内で一線を画す強みだと考えています。
-ゲームとノンゲーム両方をやっているゲーム開発会社は珍しいのでは
佐々木 コンシューマーの開発会社でノンゲーム事業全般をやっているチームがあるというのは、あまり聞かないですね。ノンゲーム事業で関わらせていただく企業も各業界で一流のノウハウを持ってらっしゃるので、学ぶことがとても多いです。ノンゲームチームが開拓した技術をゲーム側で使用する、ということもよくあり、相乗効果を感じています。
多様多種な人と触れる機会が多く、成長できる職種
-やりがいや魅力はどういうところにありますか?
小林 新しいプロジェクトに関わったときに、以前のプロジェクトでは思い通りにいかなかった部分や提案できなかったことが解決できて、自分の引き出しが増えている感覚や自分の伸びしろを実感できるのは魅力の1つだと思います。
単語から始まったものが紙になって、紙から絵になりモニター上に映される画像になり動き、触れられるというプロセスに並走でき、実際に作品として動くところまで目にすることができるのも大きな魅力です。
伊藤 案件に対して計画を立て、お客様に提案したものがバチっとハマりその通りに進んだときの快感は大きな魅力です。出来上がったゲームを喜んでいただいたり、チームメンバーがうまくハマったりしたときもそうです。快感を得るポイントがいろいろあります。
佐々木 伊藤は対外マネジメントに強みがあり、小林は社内に対してのマネジメントが強く、私は開発現場とお客様のニーズを繋ぐところが武器だと考えています。プロデューサーによって強みが違うので、案件につくプロデューサーが違えば作品自体も変わります。個人的にはそこに面白さを感じます。
-一方で、ゲームプロデューサーの大変さは何でしょうか?
伊藤 複数の案件を担当することもあるため、受け持つプロジェクトでトラブルがあった時や、案件が重なったタイミングは日中に社内や協力会社とのミーティングをしていると、事務仕事が後回しになってしまい、生活リズムは不規則になりがちなところです。
小林 受託案件ではない場合、チームでゼロからコンセプト、世界観、設定、トンマナ、体験の手触りなどの企画を作り出していくのは大変だと思います。
佐々木 何度プロジェクトをこなしたとしても、案件が違えば同じように対処できないので、答えがない課題が常に降りかかってくることでしょうか。プロデューサーはプロジェクトの最終責任者なので、答えのない答えをメンバーから求められ続けるプレッシャーはとても大きいです。
-そのほか、ゲームプロデューサーにとって重要なスキルは何でしょうか?
伊藤 調整力と忍耐力だと思います。全てのケースが順調に進むわけではありません。例えば、クライアントと話していく過程で舵取りした方向と変わってしまう場合など、調整が必要な場合も多々あります。プロデューサーとしてヒストリアの看板を背負っている以上、そこに対してもさまざまなプレッシャーを背負いながらやっています。
小林 作品のクオリティもそうですが、お客様とのやり取りのクオリティというのも、さまざまな人の間に立つことが多いプロデューサーにとって必要なスキルかもしれません。まず精神力、ですかね。
伊藤 ただ、そこも含めていろいろなものに触れたりいろいろな方と接したりする機会が多いので、そこで取り入れられる情報量も非常に多く、得られるものがとても多いと思いますよ。あとはユーザーやお客様の反応がダイレクトで感じられるので、作品がリリースされた後の喜びも大きいですね。
新規事業であるゲームパブリッシング事業の立ち上げ期
-ゲームの受託開発だけでなく、自社でゲームを企画・開発をするパブリッシング事業にも参入するとのことですが、参入理由を教えてください
佐々木 大きな理由として、ユーザーと直接コミュニケーションを取りたかったからです。コミュニケーションというのは、作品の評判や売り上げという形の反応も含めてです。我々は普段パブリッシャーの方々を経由してユーザーの皆様と繋がっています。ただ、ゲーム制作を生業としていて、やはり直接ユーザーの皆様の声を聴いて、ゲームを届けていきたいなと。
先日『Caligula2』のPC版を弊社からリリースさせていただいたのも、その流れの一環です。その際、FuRyu様をはじめ多くの方々にサポートいただき、ゲーム開発とパブリッシング事業は全くの別事業だと改めて感じました。直近では、ユーザーニーズを捉えて作品を届けるというスキルを磨いていく必要がありそうです。
-自社パブリッシングにおいて、企画はどのようにして決定するのでしょうか?
佐々木 プロデュースチームから声をかけて現場メンバーと詰めることもあれば、現場スタッフからの提案が通ることもあります。アイデアを募集する定例の会議などはなく、随時募集しています。大まかな攻めたい方向性はあるので、それを全体会で通達しています。
小林 「実況映え」というワードから着想が生まれたこともあります。ゲーム実況のブームを受け、みんなでワイワイできて、プレイしていて思わず声が出てしまうというような楽しさをゲームに落とし込む企画を考えました。
佐々木 提案をもらったアイデアを市場ニーズがあるかどうか、自社で売り方があるかどうか、自社が目指している方向か、というのを精査して企画が決定する。というプロセスをいま整えている最中です。
-門戸を開いて随時アイデアを聞くスタンスなんですね
佐々木 そうですね。ユーザーニーズを捉える、というところは重視していますが、弊社としてはちゃんと売れるという軸で企画を立てていくことを始めたばかりなので、まだアイデア出しをシステムとして固めないほうがいいと考えています。体系化されていないからこそ試行錯誤できますし、組織も人も一緒に成長していけるフェーズだと思います。学びを得て次に生かすというサイクルです。
-ちなみに、企画書を作ることができる立場や役職は決められていますか
佐々木 決まっていません。スタッフなら誰でも提案することができます。
受託開発、パブリッシング。両軸での事業拡大を図る
-今後のコンシューマー事業の展望を教えてください
佐々木 多くのタイトルを開発できるよう、まずは制作ラインを強化していきたいと考えています。スタッフもリードが張れる人材を育成していき、複雑化するコンシューマー開発に対応できる組織として成長を続けたいです。
伊藤 弊社はAAAタイトルと呼ばれる大規模開発は目指しておらず、それよりもう少し小さい規模でさまざまなタイトルを作っていきたいと思っています。ただ、それにしても昨今は1プロジェクトに50名以上は必要になることも多いです。その規模を安定して数ラインこなしていくためには、まだ成長が必要だと感じています。
佐々木 受託案件は大きなIPに関わることができたり、大きな規模の仕事ができたり、パブリッシャーの方々の考えを学べるのも魅力です。一方でパブリッシング事業はユーザーの方のことをより意識したモノづくりが出来て、新しい視点が手に入ります。受託開発を軸足に、新規の自社販売を成り立たせていくというのが直近の目標です。
ゲームプロデューサー、アシスタントプロデューサーに興味がある方向けの会社説明会を開催
-今回のプロデューサー募集に際し説明会をするとのことですが、説明会の特徴を教えてください
佐々木 プロデューサー陣の座談会を行い、もっと踏み込んだことを話せればいいなと思います。その場で気になることがあれば質問していただければ、なんでもお答えします。希望者の方にはカジュアル面談で、この3人うち1人と1対1で話す機会を設けさせていただきます。さらにオフィスツアーを行います。オフィスには会社の思想が詰まっているので、弊社の雰囲気を感じていただければと思います。
-今回は業界未経験も応募可とのことですが、背景や思いがあれば教えてください
佐々木 プロデューサーは開発職ではないので、ゲーム開発の技術や知識が最も重要ということではありません。それよりも人間力、調整力、問題解決力が根本で大事だと思っているので、ゲーム好きではあってほしいですが、ゲーム業界経験者に限る必要はないと考えました。
弊社で今活躍している小林と伊藤が別の業界から来ているということも、ゲーム業界にこだわる必要はないと考える要因の1つです。
-最後に、ここまで読んでいただいた方にメッセージをお願いします
小林 このインタビューを通してヒストリアという会社に興味を持っていただいて、一緒に成長していただける方がいらっしゃれば、ぜひとも来ていただきたいです。
伊藤 やりたいことが比較的やりやすい環境だと思っているので、面白い環境で面白いことがたくさん実現できる環境に魅力を感じていただける方に応募していただきたいです。
佐々木 成長を一緒に楽しめる方に来ていただきたいです。いろいろなことを仕掛けていくことが好きな会社なので、そこにワクワクする方、お待ちしております。