めまぐるしいスピードでトレンドが変化するデザイン業界では、時代の変化に合わせて経験やキャリアの幅を広げていくことも大切です。

博報堂プロダクツにグラフィックデザイナーとして新卒入社後、現在ではUI/UXデザイナーとしても活躍しているのが、企画制作事業本部 インタラクションデザイン部の野末佑希さん。

今回は、野末さんがキャリアに応じて仕事の幅を広げていった際のお話や、博報堂プロダクツでのお仕事について聞きました。

野末 佑希(のずえ・ゆうき)氏
企画制作事業本部 インタラクションデザイン部 チーフデザイナー/UI/UXデザイナー

1994年名古屋市生まれ。2017年博報堂プロダクツ入社。
グラフィックデザインを軸に紙媒体からWeb・動画など、様々なクリエイティブを担当。カラフルでキャッチーなクリエイティブを得意とする。

建築士志望→広告デザインの世界へ。博報堂プロダクツへ入社した理由

博報堂プロダクツ・野末氏
▲株式会社博報堂プロダクツ・野末 佑希さん

――まずは、野末さんがデザイナーを目指したきっかけを教えてもらえますか?

小さい頃から美術やものづくりが好きで、なんとなくクリエイティブな方向に行きたいなと思っていました。それで、高校生の頃に建築士を目指すようになったのですが、あまり勉強が得意ではないので挫折してしまって(笑) でもそのとき、デザインを学んでおけば自分のやりたいことに対して広範囲に活かせるんじゃないかと思いました。

広告デザインの仕事に興味を持ったのは、これから人生の時間のほとんどを仕事に費やしていくと考えたとき、「せっかくなら多くの人の目に触れるものをデザインしたい」と思ったことと、つくるものが固定化されず「幅広く仕事ができそうだ」と思ったことが大きいです。その時点では、CMでよく目にする飲料やお菓子の仕事ができたらいいなと思っていて、Webで仕事がしたいと思っているわけではありませんでした。

――最初はグラフィックデザイナー志望で博報堂プロダクツに入社されたそうですね。

そうなんです。博報堂プロダクツに入社を決めた理由の一つが、グラフィックデザインの仕事ができるということでした。また「グラフィック以外の領域で仕事をすることになったとき、助けてくれる先輩方がたくさんいそうだな」と思えたことも大きかったです。社内に色々なことを知っているエキスパートがいて、一緒に新しいものを生み出せそうだと思いました。

――博報堂プロダクツでデザイナーとしてのキャリアを開始してみて、いかがでしたか?

入社当初は年齢層が高めの方に向けた洋服のカタログデザインを担当していたのですが、限られたスペースに情報をぎゅっと詰める必要があり、1年目にそれを経験できたことはすごくよかったです。

学生時代の制作は「一人で始めて、一人で完成させる」ことが基本でしたが、入社してからは先輩や同僚と一緒になって制作し、出来上がったものに対してクライアントの判断が加わり、たくさんの人と関わり合いながら進んでいきます。「一人だけではできない仕事だな」と実感しました。

営業担当の同期と一緒に、お互いに手探りで案件を進めていったことは今でも思い出に残っていますね。私が初めてアートディレクターとして入った仕事も同期が営業を担当していました。今でもその同期とはすごく仲がいい戦友です。

担当案件の新キャンペーン始動とともに、Webデザインにも携わるように

博報堂プロダクツ・野末氏

――グラフィックメインでお仕事されていた野末さんが、Webデザインも手掛けるようになったきっかけは?

私の場合は、自分から「Webデザインもやりたい」と言ったわけではありませんでした。

博報堂プロダクツには「トレーナー×トレーニー制度」という仕組みがあって、若手にはそれぞれOJT形式で日々の業務をこまやかにケアしてくれる先輩がいます。その先輩と2人でデザインを担当していたチュッパチャプスの案件で、デジタルプロモーション施策を打つことになったんです。

チュッパチャプスを「ホワイトデーに渡すお返し」として販売促進するWebキャンペーンで、私もフレーバーから連想されるキャラクターのデザインやアニメーションという形で携わりました。初めて経験したオンスクリーンの仕事です。

このキャンペーンは(当時のトレーナーではなく)別の先輩が担当していたのですが、もともとデザインで関わっていた商品ということもあり「他の先輩ともやってみたら?」と言ってもらい、携わることになりました。

――担当案件でご縁があって広がっていったのですね。

はい。自分がデザインしたキャラクターをWeb上で動かしてもらったのですが、そのとき「自分が描いたものが動くのって面白いな」「Webデザインって面白いな」と思ったんです。「できることの幅が広がりそう」という感覚でした。

――初めてのWebデザインで大変なことはありましたか?

何もわからない状態からだったので、本当に覚えることばかりでした。XDも使わずIllustratorでつくっていて、今考えると「どうやって実装したんだろう?」と思います……(苦笑) ただそれでも、普段Webサイトに触れる中で感じる「使い心地のいいもの」を目指すことをとにかく意識しました。

その後、入社3年目を迎える頃に企画制作事業本部の中にオンスクリーンの業務を拡大していくための部署が立ち上がります。そこに私も選ばれてXDを含む色々なツールの研修が始まりました。ちょうどWebの仕事が増えていたタイミングでもあったので、すごく助かったのを覚えています。XDを社内で普及させていくアンバサダーに選ばれたりもして、「教えるためには自分もさらに習得しないと」と思いさらに本格的に学んでいきました。

――Webデザインの知識やスキルを身に付けていくにあたって、会社の制度として助かったものはありますか?

やっぱり自分で「あれが最近流行っているな」と思っても、目の前のことにバタバタしているとなかなか学ぶ時間がとれなかったりするので、会社の研修が充実しているのはとても助かります。また新しいアプリなども積極的に導入してくれるので、そのあたりはとても助かりました。

それから同じチームにWebディレクターの方がいて、困った時にすぐ聞きに行きやすいこともありがたいです。チーム全体で仲が良く風通しがいい雰囲気なので、自分が分からないことを気軽に聞きやすいんです。

両方経験して気付いた、Webとグラフィックの違いや共通点

博報堂プロダクツ・野末氏

――たしかに一流のプロフェッショナルの方々に直接指導を仰げるのは大きな財産になりそうです。Webデザインをするようになってから、印象的だったお仕事はありますか?

Webデザインの仕事では、子どもたちのウイルス感染予防の促進を目的にした「おれたちういるすプロジェクト」のサイトデザインが印象に残っています。

キャンペーンのコンセプトを「Webならでは」の表現にどう落とし込んでいくかと考えて、「ページを下にスクロールする動作に合わせて、ウイルスが口の中に入っていく様子を疑似体験できる」というアイデアを思い付き、動画を使って「(画面の)奥側に入っていく」様子を表現しました。

他にはウイルスがかくれんぼしているように、スクロールに合わせて申し訳なさそうに出てくるというアイデアも考えていました(笑)

――スクロール時の挙動に合わせて、表現を工夫されたのですね。

そうですね。あとは小島よしおさんが歌うオリジナルの音楽も流れるサイトなので、サイト上の要素の動きを、音に合わせてスピーディーにしています。スクロールしていて違和感がないよう気を付けました。

素敵な絵をつくるのはグラフィックデザインでもやってきたことですが、Webでは「クリック」「スクロール」といった動作も加わるので、ただ可愛いものをつくってもUIとして成り立っていなければいいデザインにはなりません。Webデザインも担当するようになってからは、そういう部分に気を配るようになりました。

デザインの世界は日々進化していて、流行りもどんどん変わるので、情報チェックも大切にしています。

――なるほど。現在はどれくらいの割合でWebの案件を担当されているのですか。

時期にもよりますが、今は基本的にWebや動画、サイネージなどオンスクリーンのデザインが7割、ポスターやパッケージなど紙媒体のデザインが3割くらいのバランスです。オンスクリーンのみで展開するデザインもあれば、店頭ツールをつくってそれをオンスクリーンに落とし込んでいくものもあります。

某スポーツメーカーの案件では、Webとグラフィック、両方のデザインを担当できて嬉しかったです。どちらも担当することでより全体を見ながらこだわることができますし、画面上だけのやり取りではなく実際に印刷物などを出力しながらチームで進めていけたことも印象的でした。

オンスクリーンのものもそうでないものも、どちらの要素も大事ですし、それぞれの魅力が際立つデザインを考えて一つずつつくっていくことが大切だと思っています。

「よく分からないけど、面白そう!」が、新たな領域への道しるべに

博報堂プロダクツ・野末氏

――野末さんがデザイナーとしてやりがいを感じる瞬間を教えてください。

自分がデザインした映像やサイトが、SNSなどを通して広がっていくのを見たときは、すごくやりがいを感じます。私のことを知らない人たちにも、私がつくったものが広がっていくというのは、「すごい」と思うと同時に何だか不思議な感覚です。「このキャラクターかわいい」という投稿を見つけると、「いいね」を押したりしています(笑)

――デザイナーをずっと続けていくために大切にしていることはありますか?

グラフィックだけではなくWebデザインをやるようになったこともそうですが「私はこれしかやりません!」と決め込んで興味の幅を狭めることがないようにはしています。たとえば私は絵やキャラクターを描くことが好きなのですが、それを自分で3Dモデルにできたらもっと自分のこだわりを反映できるのかな、とか。他にも色々なことができるかもしれません。

たとえば今話題になっているメタバースのようなものに対しても、「何だかよく分からないけれど、新しくて面白そう!」という好奇心を大切にしていきたいです。

――新しいものへの興味を閉じないということですね。

そうですね。あとはコロナ禍以降デジタルの仕事が増えていますが、実際にその場所に行くことで体験できるものとの掛け合わせで、インタラクティブで面白いものをつくっていけたらと思っています。

そして何より大切なのは「仕事を楽しむ」ことなのかな、と思うんです。私の場合は本当にラッキーで、色々なタイミングで面白そうな仕事をいただいたり、いい人間関係が築けたり、ということが起こった気がしています。楽しそうにしていれば、楽しそうなものが集まってくると思うので、これからも楽しんで仕事をしていきたいと思っています。

――ありがとうございました。

インタビュー・テキスト:杉山 仁/撮影:SYN.PRODUCT(Kan)/企画・編集:澤田 萌里(CREATIVE VILLAGE編集部)

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