WebディレクターやUI/UXディレクターの最前線で活躍されているクリエイターの方々は、どんなことを大切に日々のプロジェクトを進めているのでしょうか。
デジタル/リアルを横断しながら「ものづくり」を核にした様々なクリエイティブを手掛ける博報堂プロダクツの川和田将宏さん、藤宏行さんに、博報堂プロダクツならではの仕事環境や、仕事に向き合う中で大切にしていることをうかがいました。
企画制作事業本部 インタラクションデザイン部
部長/チームリーダー/アートディレクター/UI/UXディレクター
2007年 金沢美術工芸大学 視覚デザイン科卒業。同年 博報堂プロダクツ入社。
グラフィックデザインを軸に、 UI/UX、ロゴ、映像、パッケージ、イベント、プロモーションなどの幅広いクリエイティブを担当。
藤 宏行(ふじ・ひろゆき)氏
企画制作事業本部 インタラクションデザイン部
Webディレクター
広告制作会社 、Webマーケティング会社、デジタル系制作会社を経て2018年 博報堂プロダクツ中途入社。
Webサイト構築(コーポレートサイト/ ブランドサイト / キャンペーンサイト/ リクルートサイト等)における企画立案・UI/UX設計・制作進行・クライアントとの折衝まで幅広く担当。
グラフィックからデジタルまで「ものづくり」を最前線でリード
――まずは、お2人の博報堂プロダクツでの役割を教えていただけますか?
川和田 僕らは企画制作事業本部のインタラクションデザイン部という、WebやUI/UXなどオンスクリーンのクリエイティブを担当する部署に所属しています。
博報堂プロダクツにはデジタルプロモーション事業本部といって、同じようにデジタルの領域を扱う別の部署もあるのですが、そちらはどちらかというとプロデュース領域の仕事をメインにしています。僕らはよりクリエイティブに特化していて、実際にデザインをしたり、コピーを考えたりすることがメインの仕事です。
――「クリエイターとして制作の最前線にいらっしゃる方々」ということですね。
川和田 その中で、僕は部長として部署のマネジメントも行いつつ、現役でアートディレクションやUI/UXのディレクションをしています。
もともとはグラフィックデザイナーとして入社し、当初はほぼグラフィックデザインの領域で仕事をしていましたが、新しいものに興味があったこともあり、世の中の流れがデジタルに移行していく中で、自然にデジタル案件も行なうようになりました。今年16年目で、今もその両方で仕事をしています。そして、よりWebディレクションに特化しているのが藤ですね。
藤 僕は前職でもWeb領域の制作に携わっていたのですが、2018年に入社して博報堂プロダクツのWebディレクターになりました。ですので、現在4年ほど働いています。
オンラインイベントの空間デザインに、クライアントのブランド開発も!あらゆる期待に応えることで得意分野を広げていける
――博報堂プロダクツ内でも部署によって「ディレクター」の担う役割が変わってきそうですが、企画制作事業本部のディレクターの特徴を教えてください。
川和田 企画制作事業本部のディレクターはあらゆるクリエイティブの根幹となるデザイン・コピーの開発から携わり、制作物全体に目を通しながらディレクションしていきます。博報堂プロダクツの中でも実際にものをつくり上げるプロセスにとことん向き合える環境と言えると思います。
また博報堂プロダクツは博報堂グループということもあり、制作物の種類も幅広く大きな規模の案件を担当する機会も多いので、そこからスキルアップしていくメンバーも多いです。
――お2人はこれまで、どのような案件を担当してこられたのでしょうか?
川和田 最近だと、国内最大級のインターネットサービスを提供している企業様がコロナ禍でオンライン開催した、マーケティングイベントの案件ですね。デジタルのイベント空間をデザインしていくにあたり、コンセプト設計、キービジュアルの開発、全体のアートディレクションを担当しました。
イベントのクリエイティブの場合、全体を通していかに統一した世界観をつくるかがとても重要です。コンセプト設計の段階から関わらせていただいたことで、Webサイトやバーチャル背景などのクリエイティブにも一貫性が生まれ、イベントを通して伝えたいメッセージをよりユーザーに体験してもらえたんじゃないかと思います。
――ディレクションにおいては特にどんなことを大切にされていましたか?
川和田 つくり手がどう役割を分担していても、コンテンツを体験するお客さんはそのすべてに触れることになります。ですから自分たちでしっかりとアートディレクションをして、ひとつひとつを妥協せずに、アウトプットまで全体を見て進めていくことが大切でした。細かいところまでユーザー目線でプロジェクトを進めていくことの大切さを改めて実感する機会にもなったと思っています。
イベント当日、クライアント担当者と直接お話したときに「社内でも評価がよかった」と言っていただけたことも手応えを感じました。
藤 僕の場合、川和田と一緒に担当した「ワタミの宅食」のECサイト構築案件が印象的でした。
ワタミさんは宅食のミールキットを新しくゼロからつくるタイミングで、ブランド全体を体現するECサイトをつくることを目指していたため、ある意味ではブランド開発そのものにもかかわらせていただくような経験でした。
川和田 通常こういった仕事はクライアントと制作会社の間に代理店が入ることが多く、制作会社はクライアントと直接意見を交換する機会がない場合もあります。ですが博報堂プロダクツでは、僕らが博報堂とタッグを組んで「一緒にクライアントと向き合う」形をとることが多いです。
――よりクライアントのコアな部分に入ってプロジェクトを進めることができる、と。
藤 そうですね。よりクライアントの目線になってプロジェクトに向き合えるということは、僕自身とてもやりがいを感じる部分です。
フロントに立つと相手の意図をより正確に汲むことができるので話がスムーズになりますし、特にデジタル領域は複雑なことも多いですから、クライアントといかに会話できるかは大切です。
プロジェクトの難易度は上がりますが、背景事情を理解したうえで解決策を提案する方が最終的に良いものができますし、難しいご依頼をいただく場合もより前向きに向き合えてより良い解決法が見つかると感じています。
「誰かに届いた」と実感するときが、クリエイターとして報われる瞬間
――お2人が普段の仕事の中で最もやりがいを感じる瞬間はどんなときですか?
川和田 僕の場合は、やはり「リアクションがあったとき」ですね!僕らの仕事はお客さんありき、ユーザーありきの仕事なので、クライアントにプレゼンや成果物を喜んでもらえたら嬉しいですし、実際にユーザーのリアクションが見えたときにもやりがいを感じます。
たとえばイベントでお客さんが触るとイラストが動き出すインタラクティブな仕組みを実装したときは、それを実際に人がやってくれている様子を見たり、そこで思い描いていた反応をしてくれたり喜んでくれていたりすると、「今までの苦労が報われたな」という気持ちになります。
藤 僕はWebサイトを担当することが多いので、サイトが公開されたタイミングは「やりきった」という気持ちになります。もちろん、本当のゴールはその先で実際にはスタートでしかないのですが、それまで紆余曲折ありながらも公開を目標に進めていきますので、最も達成感を感じる瞬間です。
また、サイトが公開されて実際に「見てくれている人がいるんだな」とリアルに実感できる瞬間や、その中で意図していなかった反応をいただく瞬間にも「よかったな」と思います。公開してみないと自分たちでは決して分からないことなので。
――お話をうかがっていると、やはり「人に届いた瞬間」が一番嬉しいんですね。
川和田 そうですね。キャリア開始当初に担当していた案件で、つくったものがどのように使われどんな反応があったのかがわからず、「これは誰に向けてつくっているんだろう…」と途方に暮れてしまいそうな状況を経験したことがありました。
そのためもあってか、「ユーザーの反応が見えやすい点」はデジタルの醍醐味だなと感じます。
デザイン、Webディレクション、コピーライティング、CG制作、映像制作…専門職同士の交流がスキル強化に繋がる
――案件を通じて様々なクリエイティブにチャレンジできるのは魅力的ですね。ただその分、必要とされるスキル・知識も多そうです。どのようにキャッチアップされているのでしょう?
川和田 社員への研修はとても充実しているかもしれません。当社ではAdobe社と連携させていただき、何名か社員がアンバサダーを担当しているので、Adobeの社員の方にも協力いただきながら、社員が社員に教えるような環境が生まれています。
たとえばデザイン系だとAdobe XDのようなツールを覚える必要がありますが、当社では3年目の社員が1年目に教える仕組みになっていて、それを通してみんなが使い方を覚えたりしています。またより深い知見を得るために、毎週木曜日に1時間、社外や他本部のメンバーと連携した勉強会も開催しています。UI/UXの研究やWebサイトのトレンド分析などをテーマによくディスカッションしていますね。今年は参加者が増えて、30~40人ほどが参加しています。
――なるほど。学びの機会が日々の業務の中に組み込まれ、システム化されているのはありがたいですね。
川和田 そうですね。他にも、うちの部署で使われているソフトですと映像系のAfter Effect(VFX/モーショングラフィック用)など、新しいソフトの研修が充実しているので、そういう意味では僕は結構手厚い気がしています。藤さんはどう思いますか?
藤 とても充実した環境だと思いますよ。僕はもともと今よりも規模が小さい制作会社にいたのですが、社員が「こんなものがあればいいな」と考えるようなことを、自分から伝えなくても、会社が率先して整えてくれていてとても助かります。
藤 社内でのナレッジ共有やスキルアップについて、アプリをつくって希望者全員がそのアプリでラーニングできる機会もありますし、博報堂側のナレッジも社内のメルマガや社内用ポータルサイトなどで共有されるので、日常的に情報を知ることができます。グループ会社も含めて社内に色々な知見をもった方がいるので、その方たちと仕事をすることでも本当に色々な学びがあります。
川和田 様々な部署と仕事をする機会が多いので、実際に仕事をしながら学べるのはとても大きいですね。うちの事業部だけで完結する場合も、そこでもデザインやWebディレクション、コピーライティングやCG制作、映像制作など様々な分野の専門職が揃っているので、それぞれの知識を持ち寄って交流するだけでも、様々な知見が得られると思います。
藤 あとは、意外と休みが多いことも印象的でした。昔の広告制作にあったがむしゃらに働くという雰囲気は少なくとも僕は感じなくて、時間管理に気を配っている印象があります。
川和田 結構ちゃんとしていますよね。僕は管理職なので、部署のみんなが働きすぎていないか常に目を光らせています(笑) ものづくりは際限のないこともあり、制作関係の仕事は昔からブラックな環境になりがちでした。ですが、無理して体を壊してしまっては意味がありませんし、業務をしっかり管理すれば、無理をしなくてもいいパフォーマンスは出せると思うんです。むしろ、しっかり休むことはいいパフォーマンスのために重要だと思っています。
オンライン/オフラインを越境し相互に補完し合うコミュニケーションをつくり出していきたい
――デジタルな領域での仕事は変化のスピードも非常に速いと思います。これからについてはどんなことを考えてらっしゃいますか?
川和田 うちの部署はオンスクリーンメディアに特化しているので、よりUXの領域を極めたいと思っています。アプリの仕事も力を入れていきたいですし、Webサイトについても、単発のキャンペーンサイトではなく、クライアントのパートナーになって長期的にかかわっていくようなものを増やしていきたいと思っています。
また、究極的には「デジタルだけで完結するものはない」と思っているので、オンライン/オフラインを総合的に扱っていけるような仕事を増やしていきたいと思っています。複雑でモヤモヤしているものを可視化するデザイナーの能力は、様々な領域をまたいで活用していけるものだと思っています。
藤 それこそWeb領域での課題を解決するためには、Webに限らない色々な要素が必要になってくる場合もありますよね。ですから、興味や仕事の領域を狭めずに、Webだからといって可能性を限定せずに、様々なプロジェクトを進めていきたいと思っています。
――なるほど。大切なのは「課題を解決すること」で、その課題のためにWeb以外のものが必要な場合は柔軟に対応していこう、ということですね。ありがとうございました。
インタビュー・テキスト:杉山 仁/撮影:SYN.PRODUCT(Kan)/企画・編集:澤田 萌里(CREATIVE VILLAGE編集部)
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