日本のゲームは、漫画やアニメといった文化とともに海を越えて世界中から支持を集めています。Nintendo SwitchやPlayStation 5などの国産のハードは各国で盛況を呈しており、世界中でファンを獲得しているヒット作も多数存在します。その中で日本のゲームのサウンドは、海外ゲームと比較してクオリティが高いと評判です。2021年の東京五輪開会式の入場シーンでドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどのゲーム音楽が流された際は、国内外で大きな反響を呼びました。
世界各国が最新技術を駆使してゲーム開発に力を入れている中で、日本のゲームサウンドがここまで支持されているのはなぜなのでしょうか。4年以上のキャリアのあるゲームサウンドクリエイターの方に向けて、ゲーム音楽・劇伴の共通点と相違点、今後のサウンド作りのヒントを紹介します。
日本のゲームが世界で流行し、作中のサウンドも人気に
日本のゲームの中でもファイナルファンタジー、スーパーマリオ、ポケットモンスターなどは世界中の言語に翻訳され、国や地域の枠組みを越えた人気を誇っています。日本ゲームが世界各国に広まったことにより、日本のゲーム音楽も世界中で親しまれています。しかし、ゲーム開発は世界中で行われているにもかかわらず、日本のゲーム音楽が高く評価されている要因は何なのでしょうか。ヒントは日本の音楽嗜好「メロディ信仰」にあります。
日本の音楽は「メロディ信仰」の傾向が特徴
音楽がリズム、ハーモニー、音色、対旋律、言葉、テクスチャなどが複合的に絡み合うことで成立するのは、各国共通の認識だと言えます。しかし、複雑に絡み合う音楽の要素の中でも、日本のゲームサウンドは「メロディ信仰」の傾向にある点が特徴です。
他国と比較して、日本人はメロディ(旋律)を重視する、好む嗜好があり、「覚えやすく、親しみやすく、平易な旋律」が人気を集めます。過去から現在に至るまで日本のゲームが各国でヒットし続けて海外でも受け入れられた結果、作中で使われた「明瞭で記憶に残りやすく、存在感の強いメロディ」を基軸とした日本のゲーム音楽は、世界中のプレイヤーの耳に残ることになりました。
「メロディ以外の要素を重視した音楽」は、壮大ではあるものの、記憶に残りにくい傾向があります。一方、「メロディを基軸とした音楽」には、どのように変奏されても認識できる存在感があり、記憶や思い出を呼び起こすトリガーとして作用しやすいのです。
「J‐POP」の音楽もメロディ重視の傾向
日本におけるメロディ重視の傾向は、「ゲーム音楽」というジャンルに限ったことではありません。独自の文化を形成し、日本という巨大音楽市場で浸透した「J‐POP」でも、メロディ重視の傾向が見受けられます。こうした「メロディ重視」の嗜好・風土・カルチャーは、日本の音楽業界の強みと言えます。
しかし、ゲームの内容によっては、はっきりとしたメロディが存在しない「アンビエント音楽」または「環境音楽」のほうが適しているケースもあるでしょう。たとえば、「オープンワールド型」のゲームで、広大なフィールド上を探索するシーンでは、風や川の流れといった自然の音や、動物・モンスター・敵が接近してくる音を邪魔しない環境音楽のほうが望ましい場合もあります。
ゲーム音楽および劇伴のサウンドの共通点や相違点
ゲーム音楽とは似て非なるものですが、近年のストーリー重視のゲームにおいては劇伴の要素も制作に取り入れられることもあります。劇伴とは、シーンに合わせて映像の背景に流す音楽のこと。効果音のように映画や演劇、アニメでの表現方法の1つとして定着しています。近年、ゲームと劇伴のサウンドに関してクオリティの差が小さくなりつつあります。特にカットシーンを多用する作品の場合、ゲーム中に音楽や効果音が流れた際の印象は、映画・アニメなどとの差がほとんどありません。
劇伴との違いはゲームへの没入感を高める「機能性」
ゲームのサウンドに関しては操作を助けるという「機能性」が要求されるので、劇伴という音楽と比較した際により多くの役割を担っています。劇伴では「情景の説明」「視聴者の意識を誘導し、作品内に引き込む」といった役割がメインです。一方のゲームは、それに加えて「プレイヤーの行動を導くシグナル」としての役割を果たします。
サウンドクリエイターは、映像と音楽の関係や快・不快のバランスを見極め、適切な音を配置しなければなりません。基本的には、シーンへの没入感を大切にしながらもプレイヤーを適切に誘導し、音楽や環境音と調和しつつ、その中で明瞭に聞き取れるサウンドが理想的です。しかし、不明瞭さがゲーム性につながる場合もあり、注意を促したり感情を操作したりする目的で、あえてプレイヤーに不快感を与えるケースも当然あります。
劇伴と異なる視点で音に関する制作・管理が重要
ゲームをプレイする際、短い音であれば何千回・何万回と同系統の音を聞くこともあります。それはゲーム特有であり、劇伴と異なる視点で効果音を制作・管理しなければなりません。また、ゲームの内容や展開に配慮する必要性や、シーンによって音程や音質を変えなければ不都合が発生することも意識することが大切です。
最近はゲーム環境がリッチ化したため、効果音のテクスチャ感を繊細に調整することが求められるようになりました。サービス中のオンラインゲームやソーシャルゲームであれば、逐次、プレイヤーのフィードバックを受けて改善を繰り返す場合があり、ゲーム以外のサウンドに比べてコストが増大する傾向にあります。
サウンドクリエイターはすべての音をアイデアに
サウンドクリエイターとしてより高みを目指すうえでは、単純にインプットの物量を少しでも増やすことが大切です。映画・ドラマ・アニメ・動画サイト・そして勿論ゲームなどコンテンツに付随する音は、あらゆるものがアイデアの宝庫と言えます。今はあらゆるサジェストが良質なコンテンツに誘導してくれるので、好きなものを1つ見るだけで同系統のものを把握できるのも利点です。
インプットするサウンドの量がゲーム制作に活きる
ユーザーの嗜好が多様化する時代において、「インプットするサウンドの量」をなるべく多くすることが欠かせません。各種コンテンツに付随するサウンドは空き時間に可能な限りチェックしましょう。近年、音楽配信のサブスクリプションサービス(さまざまな音楽を自由に定額料金で聴けるサービス)の普及が進みました。音楽配信サービスでは、自ら曲名を正確に入力して検索を行わなくても、「サジェスト機能」が良質な音楽コンテンツに誘導してくれます。効率的に音楽学習の実践を心がけましょう。
なお、自分の好みのジャンルだけにとらわれるのではなく、世界中の多種多様なサウンドに触れてみることが大切です。評価が高い音楽や、流行している音楽に関しては、一通り押さえておきましょう。
ザッピングやながら聴きも学びにおいて有効な手段
時間は有限なので、無数に存在する世界中の音楽を完全に網羅することは困難です。しかし、週(あるいは月)に一度くらいの頻度で、流行りの音楽を全部プレイリストに入れるだけでも劇的にインプットの効率が向上するので、試してみましょう。見知らぬ誰かが作成したプレイリストを聴くことも、他者の価値観・視点を取り入れるうえで有効です。「ザッピング」や「ながら聴き」でも十分なので、新たなサウンドの引き出しを1つでも増やしましょう。
ゲーム音楽は、これからも進化を続けていく
【ゲーム音楽 劇伴のまとめ】
- 日本人の嗜好に合った「メロディ重視」のゲーム音楽が、世界中で人気を博している
- 劇伴と比較して、ゲームのサウンドは多くの機能・役割を担っている
- 各種コンテンツのサウンドは、アイデアの宝庫と呼べる存在であり、空き時間のチェックが重要
ゲーム業界は今後もさらに発展を続けることが予想されますが、それに比例するようにユーザーのゲームに対する期待度も高まっています。当然、それはゲームサウンドにおいても例外ではなく、これまでの日本ゲームのサウンドの良さや伝統を引き継ぎつつ、常に奇抜さや斬新さが求められるでしょう。そのためには、サウンドクリエイターがより音楽への学びを深め、より進化したサウンドを提供するしかありません。
今後も日本のゲーム音楽が世界をリードし続けるためには、サウンドクリエイター1人ひとりのレベルアップが不可欠です。オンラインを通じてゲームが「ノーボーダー」になった時代だからこそ、クリエイターのセンスがゲームの人気に大きく関わってくるでしょう。