名作や神ゲーと呼ばれるゲームは、そのシステムやゲーム性はもちろん、シナリオの素晴らしさも評価されているケースがほとんどです。たとえば、アメリカのフォーチュン誌で「20世紀最高のシナリオ」と謳われた「メタルギアソリッド(MGS)」は単体での人気はもちろんのこと、シリーズ全体で世界的に絶大な人気を獲得しています。
しかし、誰もがハッとさせられるシナリオを練り上げるのは当然ながら簡単なことではありません。では4年以上のキャリアを持ち、ベテランの域に近づくゲームシナリオライターは、ストーリー制作においてどんな点で違いを見出すべきなのでしょうか。神ゲーのシナリオはどこが優れているのか、学びや発想には何が必要なのか、そしてシナリオ制作時に意識すべきことは何なのかについて解説します。
神ゲーの条件は予定調和ではないストーリー性
ゲームにおけるシナリオは非常に重要であり、ありきたりなシナリオはユーザーにとってはもちろん、ゲーム制作側からの支持も得られない恐れがあります。小説とは異なり、ゲームはプレイが主軸であるため、ただの「良い話」なだけでは満足度が高まらない恐れもあるでしょう。良い評価を受けるにはユーザーの期待を「適度」に裏切るなど、意外性やインパクトをゲームの核となる部分に含めることが期待されます。予定調和ではないストーリーは、シナリオライターのある種のだましによって生まれる面もあります。
適度な裏切りやインパクトがユーザーの心をつかむ
神ゲーと呼ばれ高い評価を受けるタイトルの多くはそのシナリオにおいてプレイヤーの期待を適度に裏切る傾向にあります。確かに、王道と言われる誰にでも分かりやすいストーリーも大衆受けは良いでしょう。しかし、すべてが予定調和で進んでしまう内容では、プレイヤーはテキストを早送りして読み飛ばしてしまうのではないでしょうか。
たとえば、ファイナルファンタジーシリーズ(以下、FF)の中でも、名作として名高い「FF7」はシナリオ評価が高いゲーム作品です。当時としてはかなり重厚なストーリーであったこともそうですが、ヒロインであるエアリスの死は意外性が高く、多くのプレイヤーが涙したものです。その悲しい出来事があったからこそ、最終局面の盛り上がりへつながり、プレイヤーの感情を高めることができたのではないでしょうか。そういった意味でまさにFF7はプレイヤーの期待を裏切り、シナリオの重厚感を高めた好例です。
つい注目してしまうパワーワードも重要
キャッチーなセリフが盛り込まれているのも神ゲーの特徴かもしれません。近年はSNSの発展もあり、ゲーム内の画像を切り取って「このセリフが刺さった」といった形で紹介されることが増えています。名言の多いゲームと言えば、米国フォーチュン誌で「20世紀最高のシナリオ」とも評されたメタルギアソリッドシリーズが挙げられます。絶賛された1作目はもちろん、シリーズすべてにおいて名言を量産しているゲームです。
たとえば、「生きて会えたら答えを教えてやる」や「言葉を信じるな。言葉の持つ意味を信じるんだ」などのセリフは、ゲームのストーリーにプレイヤーを引き込む魔力のあるフレーズとして、もはや語り草になっています。名言は先にも述べたようにSNSでも切り取られやすく、拡散されやすいものです。プレイする人が増えて、結果的に神ゲー認定されることも少なくありません。思わず目を留めてしまう、セリフとともにシーンが蘇る――そんなパワーワードが盛り込まれていることも、神ゲーシナリオの要素なのかもしれません。
神ゲーシナリオ制作のための学びは意外なところにある
現代はシナリオ制作におけるヒントにおいてもインターネットで多くの情報を得られます。それゆえに知らない言葉や出来事に遭遇したときに、すぐに検索してしまいがちではないでしょうか。ただ、深い考察をするには一旦「この言葉はどういった意味なのか」を自分で考えることが重要です。別角度から物を見る・考える癖が身につくと、変わったアイデアが出やすくなり、常識にとらわれない発想がしやすくなるでしょう。シナリオライターがゲームシナリオを書く際に、どんな言葉の訓練や学びが必要なのでしょうか。
ジャンルを問わずあらゆるものに触れる
シナリオライターに限ったことではありませんが、自身の属する業界の創作物はもちろん、ジャンルを問わず触れて取り入れる姿勢は大切です。簡単に言えば、ゲームだけでなく、トレンドになっているクリエイティブに積極的に触れることが重要になります。
たとえば、ゲームやマンガ・小説などはもちろん、落語などの古典からも学べることはたくさんあります。会話のやり取りやオチの付け方まで「日本人が心地よい」と思われるシナリオの構成を学べるでしょう。また、「ドリフのコントには人が笑顔になるすべての要素が詰まっている」と豪語する脚本家もいます。確かに個性の強いドリフメンバーが縦横無尽に動き回り、壮大なオチに持っていくという流れは、キャラの動かし方や構成を学ぶうえで役立つのかもしれません。
知らない言葉を知らないまま意味を想像してみる
想像力を膨らませるトレーニングとして面白いのは「知らない言葉を知らないまま考えてみる」というものです。今の時代、分からないことはネットですぐに調べられますが敢えてそれをせず、深く考察します。そして「正しさ」よりも「面白さ」を優先して覚えておく方法です。
たとえば、「生きた化石」という言葉が分からないとします。検索すれば「太古の昔からその姿が変わらない生物」ということが分かるでしょう。しかし、分からないまま想像を膨らませて「化石が生きて動いている、石なのに」とわざと勘違いします。馬鹿らしいと思うかもしれませんが、続けていくと別角度からものを見る癖がつき、常識にとらわれない発想力・個性的なアイデアを出せるようになっていくのです。そういった意味では、意外性のあるシナリオ制作作りの土台になるかもしれません。
駄作からも学べることは多い
敢えて駄作に触れることも実は大切です。なぜ駄作と呼ばれているのか、シナリオ上のダメなところをじっくり考えて学べば、同じ轍を踏まないように心がけることができます。失敗例を知っていれば自分が失敗する確率を減らせるというわけです。また、中には「あと一歩で名シナリオなのに…」という作品も数多くあります。それらに触れ、「自分が一歩付け足す、修正するとしたらどこだろう?」とじっくり考えるのも良い訓練になるのではないでしょうか。
実際にシナリオを書く際に強く意識したいこと
シナリオ制作においては、キャリアの有無を問わず、世の中から学べることはたくさんあります。ただ、そうした学びをいかにシナリオに昇華させられるかは、シナリオライターの腕の見せどころと言えるでしょう。では頭の中にインプットした内容を、シナリオとして上手にアウトプットするうえでは何を意識すべきでしょうか。シナリオを書く際に強く意識したいことについても触れていきます。
キャラクターの行動原理を意識する
シナリオで意識したいのは、キャラクターが「どう行動するか」です。たとえば、「この場面ではこの行動をしたいのに選択肢の中にやりたい行動がない」となれば、プレイヤーは納得できない選択肢を選び行動しなければならなくなります。また、「このキャラはなぜ今ここでその行動をするの?」と疑問を持たれる展開・シナリオもよくありません。疑問が多くなることで、プレイヤーはゲームを止めてしまう恐れがあるでしょう。
プレイヤーは自身が主人公となりゲームをしています。世界への没入感を高めるためには、ユーザーの心の動きとキャラクターの行動・心の動きが近くなければいけません。つまり、プレイヤーが自然と選びたくなる選択肢はもちろん、普通では選ばないけど「敢えて」選んでみたい、そんな選択肢を用意すればプレイヤーはワクワクしてくれる可能性が高まるわけです。
もちろん、それだけだと予定調和の流れになってしまいますから、要所では意外性や良い意味での裏切りを用意することも大切です。キャラクターに没入していればいるほど、そのインパクトに心が大きく揺さぶられ、それが感動につながりやすくなります。結果として、「良いシナリオだったな」と思ってもらえる確率が高くなることでしょう。
伏線回収のあり方を意識する
シナリオを書くうえでは伏線を用意し、それを回収することも大切です。特に名作と呼ばれるゲームは最終局面でバラバラだったピースが埋まり、プレイヤーに納得感を与えてくれます。また、そこに至るまでの過程が丁寧かつ分かりやすいことも大切です。あまりに事細かく描きすぎるとプレイヤーは読み疲れますし、「そんなことあったっけ?」と忘れてしまうこともあります。丁寧だけど分かりやすく、感動のシーンに合わせて腑に落ちる伏線回収をすることも、シナリオ制作では意識しましょう。
ゲームシステムとマッチさせることを意識する
ゲームシステムとのマッチングもシナリオ制作では意識したいところです。たとえば、逆転裁判シリーズは法廷パートで「揺さぶる」「つきつける」といったコマンドで、証人たちの矛盾や嘘を暴く独特のシステムがあります。このシステムには相手を「論破する」気持ちよさがあるわけですが、それとともに嘘を暴いていくことで実は証人の心が救われたり、他の誰かを勇気づけたりといった話につながります。これは見事にシナリオとシステムが連動していると言えるでしょう。
シナリオは学びと発想の繰り返しで進化する
【神ゲー シナリオライターのまとめ】
- シナリオライターのだましが神ゲーを生む可能性を高める
- ジャンルを問わず、常識にとらわれず学ぶことが発想力を高める
- 行動原理や伏線回収、システムとのマッチングを意識する
ゲームにおいてシナリオはシステムと同じくらい重要な位置にありますが、必ずしもすべて読まれるものではありません。シナリオを読む・読まないを決める権利はプレイヤーにあるためです。だからこそ、シナリオライターは「できる限り読んでもらうための工夫」を常に意識することが必要になります。続きが気になる展開を用意したり、早送り中につい止めて読みたくなるようなワードを散らしたりなどを意識的に行うことが、名作を生むきっかけになるかもしれません。