コンピューターによって作り出された仮想現実世界を視覚的に体験できるのがVR技術最大の凄みということもあり、その特徴をフルに活かすことができるゲームアプリを筆頭に、映像業界や広告業界も続々とVRアプリへの参入を検討しはじめている状況にあります。

本記事では、今後のVR市場で手本となりうる人気VRアプリ10作品を独自にピックアップし、その特徴を要約しつつ、VRアプリ自体の将来性や課題についての検証結果をまとめてみました。

VRが映像や報道など既存のメディアのカタチに革新をもたらす

360Channel―TVの可能性を拡げる次世代メディア

VRゴーグルを用いることにより、360度あらゆる角度から動画を楽しむことができるVR版テレビ局の360Channel。
放送されている番組のジャンルもバラエティ、報道、映画など多彩で、テレビ番組がすべてVRになるとどうなるのかというモデルとして映像関連の業界から注目を集めています。

発想自体はとてもユニークで、VR技術を活かした通常のテレビ番組では制作の都合上実現できないような企画もいくつか行われていますが、もちろん課題がゼロというわけではありません。
まず、良くも悪くも「撮影しているカメラマンを含む収録現場全体が映ってしまう」といった問題が挙げられます。
ホールなどで開催される音楽やお笑いのライブ中継であれば、観客席も映し出されることによって、通常のテレビでは味わうことのできない高い臨場感を家にいながら味わうことができるでしょう。

しかし、スタジオ収録のバラエティ番組などでは映す必要のない観客やスタッフ陣まで映り込むため、撮影の仕方や番組の企画そのものを観客参加型などにするといった工夫をする必要が出てきてしまいます。
したがって、「観客」がおのずと映ってしまうという問題をどうクリアしていくかが、VR版テレビの未来を左右する大きなカギになるといえそうです。

NYT VR – Virtual Reality―事件現場を体感!報道のあり方が進化する!?

ニューヨーク・タイムズのVR版で、ニュース映像の中に入り込んで事件現場などを体感できることを売りにした画期的なアプリです。

その場のリアルな状況を360度カメラで撮影することにより視覚的に感じる臨場感が大幅に増し、人類の危機管理能力の向上などにも役立つと期待されています。90年代前半まで海外ニュースの生中継は映像がボロボロだったり音声がずれていたりしたことを考えると、ここ数十年での技術の進化をひしひしと感じますが、現状では致命的な欠点もあります。

それは、データの重さと技術的な問題でリアルタイム中継ができていないという点です。この問題を今後どう解決していくかがVRニュースの大きな課題となりますが、もしVRでの生中継が可能となれば報道をはじめとする映像業界の未来はより明るいものとなることが予想されます。

Google Spotlight Stories―「VR専用映画」という新ジャンルを牽引

Google社が開発したGoogle Spotlight Storiesは、映像作品をVRで楽しむことができる没入型のムービープラットフォーム。
同じく映像番組にVRを取り入れた360Channelとの違いは、Google Spotlight Storiesは「映画」だけに特化しているという点です。アカデミー賞ノミネート作品や、エミー賞受賞作品を含む人気コンテンツ、さらには「VRで見ることを前提に作られた映画」なども多数あります。

映像の中に自分が入り込んだような感覚を味わうことができる新たなコンテンツとして脚光を浴びており、映画ファンだけでなくVR技術を活かしたシナリオ構成のヒントを得るべく、放送作家や漫画家などからも注目を集めています。

Google Arts & Culture―見て楽しむだけでなく、ビジネス活用のヒントも

Google Spotlight Storiesと同じくGoogleが開発元のアプリで、日本だけでなく世界中の美術館を歩き回って絵画などの美術品を観賞しているような感覚が味わえます。

Googleストリートビューの美術館内部限定バージョンとイメージするとわかりやすいかもしれません。
発想自体はいたってシンプルなアプリですが、「美術館」というテーマを違うものに変えるだけであらゆるビジネスシーンで活用できる仕様であるため、今後類似のアプリが増えていくことも想定されます。

“視覚”“聴覚”の課題をクリアし、VRならではのアイディアあるコンテンツが勝ち残る

オルタナティブガールズ―VRで「高画質」を実現する希少なコンテンツ

目の前で本物の女の子が語りかけてくるような感覚を味わうことができる大人気恋愛RPGアプリのオルタナティブガールズ。
コンセプトはシンプルですが、ゲーム自体の出来栄えがとても良いことに加え、登場するキャラクターの動きがとてもなめらかでカクカクさを感じないという点で非常に高い評価を得ています。

実際にプレイしてみるとわかりますが、VR機能搭載の同系統のアプリと比較するとその差は一目瞭然で、VRアプリ最大の課題ともいえる「画質の悪さ」を見事にクリアしている数少ないコンテンツです。映像処理やエンジニアリングの面で良い手本となるでしょうし、プログラマーにはファミコンが世に登場したときのような新時代の幕開けを感じさせるものとなっています。

【VR版】改・恐怖!廃病院からの脱出:無影灯―VRゲーム名作のクオリティに学ぶ

人気ホラーゲームのVR版で、360度動画ではなく完全な仮想現実世界を動き回る仕様となっているためVRゴーグルが必須です。また、没入感が上がることでさらにゲーム自体の質が増す設計となっているので、ヘッドフォンの使用も推奨されています。

この2つの機器があることを前提としているという課題は残るものの、VRで注目度の高い「ホラーゲーム」が無料のスマホアプリでこのレベルまできているのかと感じさせてくれる名作です。本記事作成時点ではスマホVRゲームの最高峰との呼び声も高いため、ホラーやゲームとは無縁の業界であってもVRの導入を検討しているクリエイターの方はクオリティだけは必ずチェックしておいたほうが良いでしょう。

アビスリウム – タップで育つ水族館―秀逸なゲームコンセプトがアイディアのお手本に

深海を舞台にしたアビスリウム – タップで育つ水族館は、1990年代後半に一世を風靡した「たまごっち」の海底バージョンのような内容のVR型育成シミュレーションアプリです。

グラフィックやBGMのクオリティに定評があるため、アイディアよりもグラフィックの質が優先の傾向にあるVRアプリ業界では記事作成時点で高い注目度を誇っています。このアプリのコンセプトが弱いといっているわけではありませんが、ゲームである以上アイディアが最重要視されるべきであるということを鑑みると、VRゲーム業界への参入の余地はまだまだあると考えてよさそうです。

なごみの耳かきVR―“リアル感”への徹底的なこだわりが、リアル以上の効果をもたらす

「癒し」を提供することを目的としたVRアプリで、「なごみちゃん」という3Dキャラクターが着物姿で登場して耳かきをしてくれるというもの。このアプリの凄さは、VRによる3Dの仮想現実+バイノーラル録音による立体音響という「視覚」と「聴覚」の両方で非現実世界が体感できるという点です。

アニメの中に自分が入り込んだような感覚に陥るほどグラフィックはキレイに作り込まれていますし、ボイスや耳かき音もとてもリアルな音で収録されていますので没入感と癒し効果は抜群。ゴーグルだけでなくイヤホンの装着も推奨されている点に若干の課題は見えますが、ゲームではなく日々の生活に癒しを与えることを目的としているという斬新なアイディアから得られることは多そうです。

VR Roller Coaster―リアルな浮遊感を見事に実現

VRでジェットコースターの浮遊感を体験することができるアプリとして登場したVR Roller Coaster。
本物のジェットコースターを知っている人が多い中であえてこの題材を取り上げていることから、良い意味で好き嫌いがはっきりとわかれるコンテンツだといえそうです。

実際にプレイしてみると、「ここまで本物に近づけられるのか」と感じる人もいれば、「こんなものか」と思う人もいるでしょう。この、視覚的な臨場感は味わえても作り物である以上は本物には敵わないという点をどう捉えて活かしていくかが、VRの存在意義を考えるうえで大きなヒントとなりそうです。

ハード・ソフト一体型VRのビジネスの可能性

ハコスコ―ハードとソフトの一体型にビジネスの成功ヒントあり

自分や他人が撮影した360度動画や静止画の共有、再生ができるアプリです。アプリと同名の「ハコスコ」というダンボール素材で作られたVRゴーグルをつけることで、より没入感のある映像を体感することができます。

ハコスコの特筆すべき点は、本記事で紹介しているアプリの中で唯一ハードとアプリをセットで提供するビジネスモデルを採用しているというところです。現状では大半のアプリがVRゴーグルであればどれでも使用できるという状況の中、ハードが指定されていることで新規ユーザーに対してのハードルは上がることが予想されます。そこをあえて一体型として提供しているハコスコのビジネスモデルには、駆けだしたばかりのVR業界で成功を掴むための大きなヒントが隠されていそうです。

今ある課題に、VRビジネスの大きな発展要素が隠されている

大きな課題として浮き彫りになっているのは、視覚だけでしか臨場感を味わうことができないという点です。また、大半のVRアプリがインストール無料で提供されている中、購入が必要となるゴーグルなどの機器をどこまでユーザーに要求するかといった問題もビジネスである以上は切り離して考えることはできません。

しかしこれらは大きな課題である反面、まだまだ発展途上のVRアプリの将来性を強く感じることができる要素ともとれます。現状は視覚のみに特化しているVRアプリが今後どう発展していくかがカギを握っていると思っておいて良いでしょう。

CREATIVE VILLAGE編集部