株式会社スクウェア・エニックスの代表作のひとつである『ファイナルファンタジー』のシリーズ作品で、世界で500万人以上がプレイしているMMO RPG『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターである吉田 直樹さんにお話を伺いました。
小学生の頃から憧れの職業だった
TVゲーム制作に憧れた最初のきっかけはファミコンの”マリオブラザーズ”です。
テレビの中のキャラクターを外部からコントローラで動かせるということ自体が不思議で、それ自体がとても衝撃的でした。当時あまり裕福ではなかったのですが、久しぶりに両親に頼みこんでファミコン本体を買ってもらって、漠然と「いつか、TVゲームを作る仕事をしたい」と思ったのがきっかけです。
小学校の卒業文集にも、将来の夢は「ゲームプログラマーになる」と書いていました。 「プロ野球選手になる」とか「アナウンサーになりたい」とか、それと同じようなレベルで僕にとってゲームプログラマーは憧れの職業でした。
「『ファイナルファンタジー』であること」へのこだわり
2010年当初、オリジナルの『ファイナルファンタジーXIV』は、正式サービス開始直後にセールス的にもゲームをプレイしての単純な「おもしろいか、おもしろくないか」という評価でも、徹底的にバツをつけられたタイトルです。
普通だったら、売れないとか評判が悪いゲームを、作り直したりはしないと思います。
ただ、『ファイナルファンタジー』という長い歴史を持ったスクウェア・エニックスの看板タイトルだからこそ、ギブアップする訳にはいかないですし、たくさんのファンの方が信じて支えてくださいました。これができたのは、逆に『FFだったから』だと思っています。
なぜ『ファイナルファンタジーXIV』が他のタイトル以上に「『ファイナルファンタジー』であること」にこだわるかというと、理由は2つあります。
ひとつは、当初のFFXIVが、世界中のファンの皆さんから「これはFFじゃない」「FFらしくない」と言われたこと。『ファイナルファンタジーXIV』を引き受けるまで、僕も単なるプレイヤーでありファンの一人でしたが、プレイしてみてやはり同じことを思いました。
もう一つ、僕が『ファイナルファンタジー』に感じていたのは、「これがFFである」とするエッセンスを意図的に排除しすぎなんじゃないか、ということでした。大失敗してからのスタートということもあって、そこはもう徹底的にファンサービスタイトルでありたいと考え、開発のみんなもそこにこだわって作っています。
例えばもっとフィールド上でPVPができるサーバーがあったり、本来のMMO RPGとしてのセオリーという部分は実はもう少しあると思っています。他のMMO RPGと違ってストーリーに掛けているコストや比重は尋常ではありません。その点については「FFだからやらなきゃいけない」「FFだからできない」という部分は発生していると思います。
今後はそれだけでなく、『ファイナルファンタジーXIV』らしさを保ちつつ、新しいチャレンジにも進めていけたらなと思っています。
できないこと、できない理由もキチンとお伝えしたい
プレイヤーの方がすごく望んでいる事に対して「やれません」とか「できません」というのは、すごく苦しいです。できれば僕もぼかしたり、誤魔化したりしたくなることもあります。
でも、大前提として、できることは「できます」「やります」「やりますが時間がかかります」とお答えする一方で、できないことや、意図的にやらないことについても、理由をキチンとお伝えすることをポリシーにしています。少なくとも、ただ拒絶をされているより、できない理由がわかった方が、両者を比べた時に後者は少しだけ納得性があると思っています。この点はできるだけブレないように気を付けていきたいです。
『プロデューサーレターLIVE』での言葉選びは、生放送なだけにすごく気を遣っています。僕の発言はあまりにも重くなってしまっていて、ちょっとした冗談ですらネットの反応ではものすごく重く取られているので、最近軽口を言うのがなかなか辛くなってきたところはあります(苦笑)。
「よしだあああ」のコールはすごくありがたいです。ゲーム開発をしている人間で、あんな風に言ってもらえる人はいないと思うので、ものすごく幸せなことだと感じています。
あれは皆さんからの叱咤激励だと思って拝見しているので、今回は怒られた「よしだぁあああぁあ」だな、とか「今回はがんばれ」が多いのかな、など意図も感じさせていただいています。ただ、よそ様のゲームで叫ぶ際だけは、やや控え目でお願いいたします……(笑)
ゲーム制作で大切にしていること
まず基本は「自分が遊んでおもしろいかどうか」です。こう書くとまた「吉田はFFXIVのすべてのコンテンツが面白いと思っている」と取られてしまいそうですが、ゲームデザインの根本軸はそうなると思います。
MMO RPGの場合は、自分ひとりの価値観だけで出来上がるゲームではダメですし、色々なタイプのお客様がいらっしゃるので、「多種多様にコンテンツを用意すること」が、自分が遊んで面白い、と思う点で、できる限りそこを目指しています。
あと大切にしているのは、「データはシンプルに作る」ということですね。
スタッフとコミュニケーションをとる際は、プロジェクトによっても異なりますができるだけ「上下関係で話すのはナシに」ということと、抽象的な指示を出さないようにしています。「クオリティが低いのでやりなおし」は言ったことが無いと思います。
たとえば今のハイエンドのゲームの場合、「クオリティ」といってもどの部分をさすのか定義しないと、全く話が噛み合わない。たとえばモデリングの造形自体の身体のバランスが悪いという話なのか、かかっているシェーダーの質が悪くて、ディテールがちゃんとしていないことを指しているのか。
でも、これは最新のCGやリアルタイムレンダリングのテクノロジーを勉強しておかないと的確な指示が出せない。「抽象的な指示を出さない」というポリシーを守ろうとした場合、必死に勉強するしかなくなります。だから開発チームとコミュニケーションをとる上では、すごく大事にしているポイントです。
お客様が何を求めているのか、会社がどう判断するかが最優先
元々、ゲームを作ることをあまり「仕事」だと思っていません。好きなことをやっていてお金がもらえるので、すごくラッキーだなぁ、という性分です(笑)。
中でもオンラインゲームはプレイヤーとしても相当プレイをしてきたので、それを自分で作って、自分でプレイして、かつそれが『ファイナルファンタジー』をデザインできて、イベントにはたくさんプレイヤーの方が遊びに来てくださる。今は、ライフワークというか「生活になっている」といったほうが正しいかもしれないですね。
「どうしてもこれをやらないと気がすまない」とか「このゲームが作れないんだったら会社を辞めたい」というのが全くないんです。僕は今、株式会社スクウェア・エニックスという会社に所属し、会社に投資をしてもらってものを作っています。
会社が投資するお金はお客様からいただいたお金なので、スクウェア・エニックスという会社にお客様が何を求めていて、かつ会社がそれをどう判断するかが僕にとってはまず最優先。少なくとも自分が遊んでおもしろいと思えるものにしてプレイヤーの方に届けるということが、僕がスクウェア・エニックスで働いている意味だと思います。
これはありえないことですが、もし「採算度外視で、吉田と吉田のチームに投資するからなんでもいいよ」って言われたら、改めてどうするかを考えます。自分の持っている企画ストックの中から、新しいゲームをひっぱりだしてくる場合もあれば、市場のニーズと合致しつつ、今後スクウェア・エニックスとして柱になりそうなゲームは何かなっていうのを考えて、そこからになると思います。
ゲーム業界、ゲーム制作に携わりたい方へのアドバイス
まず、僕の管轄でもある我々第5ビジネス・ディビジョンでは絶賛開発者を募集していますので、この記事を読んで「おもしろそうだな」と思ったら是非よろしくお願いいたします(笑)。
今、ゲーム業界で働いているのに、「ゲームをプレイしない方」が多くなっています。しかし、それはある意味で悪いことではなくて、ゲームという産業がひとつの文化になったんだということ。若い人にとっては就職先になった、ということでもあると思うんです。
そんな中でも、第5ビジネス・ディビジョンで是非にと思っているのは、経験よりも「どれだけゲームが好きで、どれだけプレイをしているか」ということ。プレイしていて感じるおもしろさや、どうしてそれが動いているかを理屈で説明できる人をすごく大切にしています。特に『ファイナルファンタジーXIV』のチームだと、アルバイトで入ったスタッフが半年後にダンジョンを作っていることもあります。在籍年数はおかまいなしで、チャンスのある部署です。
もちろん楽しそうな業界だからと入って来られる方も歓迎ではあるのですが、もしゲーム業界の中で「どこまで上にいけるか勝負したい」「ゲーム業界でトップを目指したい」と思うのであれば、ゲームを死ぬほどプレイして、ゲームが死ぬほど好きじゃないと辛いことがたくさんあります。
でも、本当にゲームが好きでいてくれるのなら、是非一緒におもしろいものを作りましょう。経験は問いませんので、門を叩いて頂ければ幸いです。
■『ファイナルファンタジーXIV』 公式プロモーションサイト
http://jp.finalfantasyxiv.com/
■『ファイナルファンタジーXIV』 公式プレイヤーズサイト
http://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/
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