本邦初公開、Cygamesが展開するスマホゲーム『シャドウバース』の開発環境が明らかに!カードゲームはどうやって作られているのか?ゲームデザイナーにはどうやったらなれるのか?さらに、カードゲームファンの間で物議を醸す、リリース後のパラメーター調整についても踏み込んでみました。
紙のカードでテストプレイ→デジタル実装
――本日は大変な中、ありがとうございます。Cygamesでは約85%の方が在宅勤務されているとのことですが、宮下さんご自身が日々、ご出社されているのはなぜでしょうか。
カードゲームのテストプレイというのは対面で実際に紙のカードを使って行う業務なので、どうしてもテレワークでは難しいんです。私はテストプレイのマネージャーをしているのですが、テストプレイヤーの方々が出社されている時は、私も監督業務として出社することは多いですね。もちろん、感染対策は徹底しています。
――そうなんですね!デジタルカードの開発においても、かなりアナログな手法(実際のカードを使ったテスト)で制作されているとは知りませんでした。
カードのテストプレイというのは、ゲームに実装する前段階でカードの良し悪しなどを判断します。まずはテストプレイをアナログで行った後、問題無ければ実装するという流れになります。なので、実機でプレイできるのは製作工程のかなり後ろの方になりますね。
――とても意外でした。他のアプリゲームの会社ではほとんどの業務がフルリモートになっているところが多いので、カードゲームならではの働き方というように感じます。
うちの会社もカードゲームのテストプレイをしている方は出社されていますが、それ以外のプランナーやエンジニア、デザイナーからイラストレーターまでほとんどがリモートワークになっていますね。
なぜシャドウバースは国産DCGの勝ち組になったのか
――今回のインタビューはクリエイターの方に視点を当てたものなのですが、掲載するメディアはシャドウバースを知らない方も読んでいるので、まずはシャドウバースとはどんなゲームなのかという部分をしっかり聞いていきたいと考えています。
はい!よろしくお願いします。
――当時のシャドウバースは国産カードゲームの中でも比較的珍しいといいますか、リリース直後から話題になり、以前から競技的にカードゲームをプレイしていた人達にも受け入れられた印象があります。勝因はどんなところにあると感じていますか?
うーん。やっぱりリリースのタイミング(2016年6月)が凄く良かったと思います。
シャドウバースの企画が立てられたのは2014年なんですが、当時「eスポーツ」というと、海外タイトルが主で、国内ではそれらコアなタイトルをプレイしているごく一部の人だけが知っている用語でした。
また、その頃はスマホで遊べる対戦型カードゲームはありませんでした。今となっては変な話ですが、当時のスマホゲームユーザー(国内)は、パズルゲームやRPGのジャンルのゲームで遊ぶ人がほとんどで、PvP(※)なんて流行らないといわれていました。そういう意味では、新たなジャンル(スマホメインで遊べるガチなPvPカードゲーム)として立ち上げる時期はよかったと思っています。
※PvP(プレイヤー・バーサス・プレイヤー)とは、ゲームにおける対人戦闘を主とするタイプを示し、コンピュータではなくプレイヤーキャラクターと、1対1、または、多対多で戦闘する。
シャドウバースのリリース後、あっという間にデジタルカードゲームというジャンルで他社さんから競合タイトルが次々と開発されていきました。そういう意味では、国内のパブリッシャーが出すカードゲームとしては早い方だったというのも要因の一つかなと。
また2016年頃には、スマホの性能や通信環境も良くなっていき、リッチなスマホゲームが遊べる時期になったのもあり、スマホゲームにもPvPのゲームが流行り始めていました。後からの分析にはなりますけど、シャドウバースのリリース時期と世の中のスマホゲーム流行の潮流が重なったのがヒットの一番の要因だと考えています。
日本でeスポーツ元年と呼ばれるようになった2018年の直前、RAGE 2017 Winter決勝の風景
© RAGE © Cygames, Inc.
なぜシャドウバースのコンセプトは尖っているのか
――PvPへの挑戦もそうですが、シャドウバースのコンセプトって、国内企業としてはかなり尖っている印象を持ちました。一般的にコンシューマーゲームもアプリゲームも、幅広いカジュアル層に受け入れられて収益を上げるという形が国内ゲーム企業の基本戦略です。そうではなく、コアゲーマーに向けた本格的な対戦ゲームを作り、そこからの波及を狙うのは、むしろ海外企業の思考に近いように感じました。
まずは、Cygamesだからシャドウバースの企画が通ったと考えています。おかげさまで、Cygamesはヒットタイトルと言われるような作品を複数、世の中に届けられているので、シャドウバースのようなチャレンジができたといえます。
2014年当時のCygamesはスマホゲームよりもブラウザゲームが主力タイトルとしてイメージされる会社だったと思いますが、社内では今後はスマホのアプリゲームもどんどんやっていこうという流れがありました。その中で立ち上げたタイトルの1つがシャドウバースだったので、いわゆる売れ線ではないニッチなジャンルにもチャレンジできた部分があると思います。
あと、シャドウバースはゼロからのIPではなく、Cygames初のタイトルとなった『神撃のバハムート』というブラウザゲームのキャラクターや世界観をベースにしたIPの派生タイトルであることも、挑戦を後押ししてくれたと思います。
ただ実は、リリース当時から現在まで「コアゲーマーに向けて届けるぞ」という感覚はそこまで強く無いんです。もちろん、様々なeスポーツ展開は考えていましたし、RAGEのような賞金制大会の計画もリリース前から進めていました。
一方で、スマホゲームという気軽に手に取ってもらえるプラットフォームなので「多くの人にカードゲームの楽しさを知ってもらおう」「裾野も広げていこう」という点にも気を配っていました。広く遊んでもらうために、TV番組やアニメなどのメディア露出も同時にやっていたので、必ずしもコアゲーマーだけに向けたという意識はなかったかなと思います。
もちろん、カードゲームって少しコアなジャンルなので、すぐには広まらないだろうとプロデューサーの木村(唯人氏)も私も思っていました。リリースしてしばらくはコアゲーマーの方を中心に、少しずつ裾野を広げていけばいいと思っていたんですが、意外に大きな反響をリリース当初から頂いてDL数も伸びました。タイミングが良かったのもあり、予想より早く裾野が広がったというのはありますね。
――なるほど、ありがとうございます。今後の展開として、今年で5周年を迎えるシャドウバースをどんなイメージのゲームとして世間に流布していきたいと考えていますか。
やはり、国産のeスポーツタイトルとして最高峰というブランドを1つ作りたいと考えています。実際、世界大会の優勝賞金1億1,000万円は国内最高レベルです。COVID-19の影響で昨年大会は延期となってしまいましたが、「Shadowverse World Grand Prix 2021」と統合した1つの世界大会として、年末の開催を検討しています。シャドウバースは5周年を迎えますので、国内最高峰eスポーツタイトルとしてより押していきたいです。
一方、裾野という点で再放送中のアニメやそれを題材としたNintendo Switchのタイトルなどから、競技プレイヤーだけではなくアニメから知って下さった低年齢層の方へもしっかりリーチしていきたいと思っています。
スマホゲームで5年間サービスを続けているのは凄く長い方ではありますが、それで終わりとは思っていません。「10年、20年遊び続けられるものを」と開発当初から社内で話し合っているので、まだまだここからだなという感覚はありますね。
ギネス記録(オンライントレーディングカードゲームを同時に同一会場でプレイした最多人数)を達成したRAGE 2020 Spring予選の風景
© RAGE © Cygames, Inc.
物議を醸すナーフ問題
――この質問に踏み込むかどうか迷っていたのですが、カードの能力調整について質問します。カードバランスが悪かった場合、リリース後にも調整を行う必要があり、それは批判されることも多いです。ただ、野心的な開発という観点では、想定外のカードが生まれるのは、新たなデザインや環境に挑戦していることの副作用とも捉えられます。むしろ、リリース後の調整が起こり得ないぐらい保守的なデザインのカードが増えはじめたら、それは開発部門が挑戦をしていないことの裏返しでもあり、それこそがコンテンツとしては危機的状況ともいえるのでしょうか。
仰る通りで、緊急の調整について、そういう風に捉えて頂けるとありがたいです。もちろん、緊急の調整を行うこと自体は、ユーザーの皆さんに対して大変申し訳なく思っています。
――もし私が開発側の立場だったら、今までと同じようなカードをリリースしておけば批判も受けないからラクだと思ってしまうのですが。それでも野心的に新しいカードをデザインするのは何故でしょうか?
カードの性能について、この範囲なら大丈夫だろうという数値は過去の実績からある程度把握しています。仰る通り、その範囲内で似たようなカードを出していけば、大きく外れる事もないし、能力調整をしなくても済むことは間違いありません。
ただ、能力変更をしないようにカードをリリースすることが第一目的ではないんですよね。私たちは、常に面白いゲームを提供していくことが目的で、ユーザーさんの速いゲーム消費速度に適応して、常に新しいゲーム体験や環境をお届けしていく事が目標です。
そのために、今までなかった能力やデッキギミックへの挑戦、クラス毎の特徴を際立たせたり、クラスの特色を活かしつつも今までやっていそうでやっていないことなど、常に挑戦的にデザインをするように心掛けています。その結果、挑戦のし過ぎで能力変更を余儀なくされることも起きてしまうんですが、それを恐れて挑戦しないのは本末転倒なのかなと思っています。
――確かに…保守的になって、ユーザーに飽きられてしまうことが何よりも怖いことかもしれません。ここ数年でカードのデザインの仕方や体制など、変わってきたことはありますか。
能力変更や調整を短いスパンで出来るような、強い運営体制にしていったという背景はあります。自分がかつてアナログカードゲームのコアユーザーだった時は、何ヶ月単位でしか環境が変わっていきませんでした。次のパックが出るまでの3ヶ月というスパンの間にゆるゆると環境が解明されていく事の繰り返しという感じです。
ただSNSが普及してユーザーが情報を発信&収集しやすい現代のカードゲームは、環境のバランスが悪いと下手したら数日、数週間で情報が出回る状況です。そのため、問題があった時に素早く対応できる運営体制になっていることが現状では重要だと考えています。
例えば、シャドウバースがリリースされた当時はカードパックリリース後の2か月程度を目安に、必要であれば能力変更を行っていました。1つの環境が約2か月続いていたんですが、とても強いカードやデッキが広まってしまった時に、2か月間その環境を続けてしまうのか?といった反響がありまして。緊急であれば短いスパンで変更を行えるような強い運営体制にしていこうという方針になりました。
我々だけではなく、アプリ運営チームやエンジニアの方々にもご協力いただいて、常にユーザーの動向やバトルに関するKPIを確認しながら、問題があればすぐに対応できる体制を作ることを近年では実現できるようになりました。シャドウバースでは流動的なゲーム環境を実現した点が近年の開発体制の成果かなと思っています。
――シャドウバースのように、これほどまでスピード感のある体制はどうやって実現しているのですか?フィードバックを吸い上げ、さらに反映させていくサイクルはかなり大変なことです。
Cygamesの強い所は、自社内で開発環境が完結しており、連携のロスがない点です。例えばですが、今日の対戦データを明日すぐに確認することができます。そこで問題が発生した場合に即、ディレクターやプロデューサーに相談して、方針が決定すればプランナーに展開、更新作業に入って対応していくという流れになっています。開発チームは全て社内にあるので、それらがシャドウバースの対応力の速さにつながっているのかなと思います。
ベテランから初心者目線まで、多様性のある開発チーム
――とはいえゲームのパラメーター調整って、かなり大変な仕事だと思うんです。少し調整を間違うと世間の批判を浴びますし。そう考えるとかなりシビアな開発環境だと思うのですが雰囲気はどうなんでしょうか?
責任の重い仕事ではあるのですが、現場の雰囲気は悲壮感があるわけではなく、みんなシャドウバースが好きなので、議論や意見の発信は活発です。TCGプランナーチームという10数名の体制でして、ベテラン勢といいますか、もともとカードゲーム業界で有名だったコアなプレイヤーだけでなく、シャドウバースが好きでCygamesに来てくれた若くてフレッシュな方もいます。
――意外でした。カードゲームに詳しいベテランの方だけでテストプレイしているのかと思っていました。構成員の年齢や経験年数を散らして、組織のダイバーシティを高めているのはどういう意図があるのでしょうか?
カードゲームが上手なベテランの方々は、ゲームを作る際にeスポーツの競技的な視点から捉える傾向が強いのですが。その視点だけだと駄目で、「このカードは使われてどういう気持ちになった」とか「このカードは使ってみて新鮮だった」といった、プレイフィールのようなものも重要だと考えています。時には「このカードはこのキャラクターに合ってないんじゃないか」という、世界観を重要視するような意見が出てくることもあります。年齢やキャリアを多様にしておくことで、様々なフィードバックを得られるようにしています。
――なるほど。競技指向の方だけだと玄人しか楽しめないゲームになってしまうので、カジュアルな思考も取り入れることで、世界観やカード使用時の気持ち良さでも楽しめるようになっているんですね。シャドウバースをeスポーツの側面だけでなく、幅広く遊んでもらおうという姿勢が開発体制にも表れていると感じました。
ゲームデザイナーってどうやったらなれるの?
――ゲームの全体に関われるゲームデザイナーという仕事は花形の職業だと思うのですが、ぶっちゃけ、ゲームデザイナーってどうやったらなれるのでしょうか?
いくつかルートはあると思います。学生さんで新卒なのか、他業種で働いていて第二新卒、中途でゲーム業界へ転職するのか、カードゲームを作りたいのか、アプリゲームを作りたいのかなどで変わってきますが、一番選択肢が広いのはやっぱり学生さんですね。
今ではリモートでのインターンシップや交流会なども開催していますので、色んなゲーム会社を体験して、志望度を高めていただければと思います。なかなか、入社1年目で自分の作りたいゲームを作るというのは難しいので、総合職で色んな業務の経験を積んでいく中で、ゲームプランナーとして自分が作りたいゲームを作るという道に近づいていくのだと思います。
私は幼少期のころ自由帳にボードゲームを作っていましたね。それが多分ゲームデザイナーのキャリアのスタートなのかな(笑)当時は将来の仕事にしようとは考えていませんでしたが。
――やっぱりゲーム好きにとってゲーム作りは憧れです。ゲームデザイナーとして働く上でどんな経験が強みになると思いますか?
私がシャドウバースのリードゲームデザイナーとしてCygamesに合流したのが34歳の頃なのですが、それまでに色々経験を積み実績を重ねた結果、お声掛けしてもらったのだと思います。実績を積んでいけばいつかは、自分がやりたいゲームを作る時期が来るのかなと。
複数の経験(カード)を組み合わせる(コンボする)時代
――数々のご経験をされていると思いますが、特に「この経験をしていて良かった」と感じることは何でしょうか?
元々、私はアナログカードゲームの開発に携わっており、30代で転職した時にアプリゲームのディレクターを経験できたので、その両方の経験が活きています。どちらか一方だけでも今の仕事は難しかったでしょう。一見、全然関係の無い経験でも何が重なるかは分からないので、色んなことに挑戦してみることが大切ですね。それがやがては、今だと考えられないようなゲームジャンルや体験を生み出す仕事に繋がると思います。
――ピンポイントにこの経験が役立ったということではなく、色んな経験の掛け算が価値になる。それがこれからのゲーム業界の特徴ということですね。
そうですね。かつてはアナログのカードゲームや家庭用ゲーム機、携帯ゲーム機が主流だったのが、ガラケーからスマホゲームに進化して今がある。5年後、10年後には今とは違うプラットフォームが主流になっているかもしれません。そのうえで、今一番勢いのあるプラットフォームに関わっておくとチャンスはあるのかなと思います。
――なるほど。やりがいがありつつも大変な仕事だと思いますが、どんな時にこの仕事をしていてよかったなと感じますか?
いっぱいあるんですが、自分たちが作ったゲーム環境を、沢山のユーザーさんに楽しんで頂いているところを実際に見ることができるというのが、シャドウバースというタイトルの特徴の1つだと思っています。配信をしてくださってる方、動画を投稿してくださってる方、RAGEやプロリーグなどの配信で本気で戦う選手の姿を毎週目にすることができる。
国内の他タイトルではこういった視聴環境は中々ありません。私自身、大会観戦が好きなのでプロリーグを毎週欠かさずに見ています。多くのユーザーさんがカジュアルに楽しんだり、選手として真剣に対戦している姿を見られるというのは、ゲーム開発者冥利に尽きるといいますか、励みになりますね。自分たちが作ったゲームをガチで遊ぶ姿がいつも見られるというのは本当にありがたいことです。
――eスポーツはプレイ人口だけでなく、観戦者数を増やすことが今後の課題だといわれています。観戦をするのが好きと仰っていましたが、宮下さんにとってゲームの大会のどんなところを見ると楽しいと感じているのでしょうか?
私個人の楽しみ方で言いますと、カードゲームが元から好きというのもあるのですが。例えばプロの試合において、いつものランクマッチだったら投了するような劣勢の状態でも、数%の細い勝ち筋を通して勝つみたいなこともある。そういうシーンを見たときには、いちプレイヤーとして感動しますね。
でも、それは観る側にもリテラシーが必要、そのプレイの凄さを理解していないと伝わらない。分からない人が観ても「なんか引いて勝った」という印象になってしまうので、開発側としても、どうやって多くの人にプロの凄さや選手の頑張りを配信で届けられるかが課題の1つです。
開発側だけではなく、シャドウバースでは実況・解説の方に頑張って頂いていたり、メディア室や関連会社の方と協力して、選手の凄さを伝えられるような画面構成や番組構成を作り上げています。地道に少しずつクオリティを上げていくことで、凄さが伝わっていけばと思っています。
「Shadowverse World Grand Prix」で最も象徴的とされる、優勝者のトロフィーショット
© RAGE © Cygames, Inc.
取材・ライティング:小川 翔太/編集:CREATIVE VILLAGE編集部