このコラムは、CHOCOLATE Inc.の若手プランナーによるリレー形式で3回にわたり連載します。
様々なメディアの第一線で活躍している気鋭のプランナーが集うコンテンツスタジオCHOCOLATE Inc.。ユニークな個性が融合し、そこから生み出される数々のコンテンツは、国内のみならず海外でも注目を集めています。
当コラムでは、その制作の過程で積み重ねてきたCHOCOLATE独自のノウハウをおしみなく伝授!
第2回目は、プランナーのカイジエンドさんによるコラムです。第1回:6秒商店の発想術~拡散する短尺コンテンツの考え方~ 島村 ビギ
第3回:展示空間における心を動かす体験づくり 保坂夏汀
近年、さまざまなコンテンツをじっくり見ていると、コンテンツのゲーム化が進んでいると思うことが多々あります。例えば、イベントでは、リアル脱出ゲームや東京メトロと週刊少年ジャンプがコラボしたスタンプラリー。漫画では、「このマンガがすごい! 2018」オトコ編1位を受賞した「約束のネバーランド」や、2016年にマンガ大賞で入賞した「百万畳のラビリンス」などゲーム感覚で物語が展開してく作品が増え、YouTuberの動画企画では、「〇〇チャレンジ」や「〇〇選手権」など競争・クリアが明確に存在するゲーム性のある動画が高いPV数を取れるようになっています。
申し遅れました。僕はさまざまなコンテンツ制作に取り組むCHOCOLATE Inc.で、主にボードゲームを中心としたプランニングを行なっている、カイジエンドです。
そんな僕が、ゲームクリエイターという視点で昨今のコンテンツを見返したとき、人が動くコンテンツの中にこそゲーム化が進んでおり、「ゲーム性」が隠れているのではないかと感じました。そこで、今回はゲームそのものを分解して紐解きつつ、コンテンツの中に潜むゲーム性について言及してみようと思います。
人気ゲームの重要な構成要素は「2つ」
家庭用およびオンラインゲームの「プロ野球チームをつくろう!」を手がけた馬場保仁さんと「三國無双シリーズ」の山本貴光さんが共著されたちくまプリマー新書「ゲームの教科書」の中で、ゲームとは「人間が、ある一定のルール(規則)に乗っ取って目的に向かって何かを行い、その結果によって優劣を競うもの。ただし、楽しみのためだけに行うこと」という仮説定義を掲げています。
仮説ではあるものの、僕はその通りだと思っていて、ゲームを最小単位に分解すると【ゴール】と【ハードル】という2つに分類することができると思っています。【ゴール】とは、ゲームのクリアやゲームを通して得られる体験・感情を、【ハードル】とはゲームする上での制限・ルールを指しています。
ゲーム作りに重要なことは、魅力的に感じる【ゴール】と考える人が多いかもしれませんし、多くの場合は、ゲームをしながら【ハードル】を意識することは少ないと思います。しかし、例えばじゃんけんでは、
- 出せる手数が3つのみ
- ぐー、ちょき、ぱーに優劣が存在する
- 同時に複数人が手を出す
上記の3つのルールが【ハードル】となっています。いずれかのルールが無くなっても、ゲームとして成立させることは難しく、例え成立したとしても、通常のじゃんけんほどの楽しさを感じることは難しいでしょう。
簡単な例ではありましたが、ゲーム作りにおいて【ゴール】同様に【ハードル】も、重要な役割を占めていることがわかってもらえると思います。
冒頭で少しお話しした、「ゲームがゲームの領域を飛び越え、イベントや漫画、YouTubeにもゲーム性を持ち合わせたコンテンツが増えつつある理由」にも、このゲームの【ゴール】と【ハードル】がコンテンツの体験に大きな影響を与えているからだと僕は考えています。つまり、ゲーム性をコンテンツの中に内包させることで、より人の心が動くコンテンツへと昇華される、ということです。
コンテンツの“自分ごと化”で人の心を動かす
なぜゲーム性をコンテンツ内に内包することによって、人の心は動くのでしょうか。
それは、【ハードル】によってコンテンツの自分ごと化が進むからだと考えています。【ハードル】をつくるということによって、ユーザーに「予想」と「選択肢」という行動が与えられます。そして、【ゴール】を達成するためには、どうすればいいのか?という思考が、ユーザーの中に生まれ、それは自然とユーザー自身の立場に立った意見となっていきます。
そういったコンテンツの自分ごと化が進んでいくことで、自分の思い通りになれば感動もひとしおです。
では次に、人の心を動かす【ゴール】と【ハードル】がどんな要素を持っているか、を具体的に説明していきます。
人が”自発的”に動く【ゴール】のツボ
一口にゲームといっても、テレビゲームやボードゲーム、カードゲームなど、さまざまなものが挙げられます。しかし、ゲームというジャンルのものであればどれでも、以下の5種類の要素によって人が動きたくなるような魅力的な【ゴール】が設定されています。
①競争
…1番になりたい、出しぬきたいといった勝利に直結する欲求
(「ポーカー」「ババ抜き」などの古典カードゲーム、「じゃんけん」など)
②好奇心
…勇者になって世界を救いたい、武将となって天下統一を目指したいといった興味/関心
(「ドラゴンクエスト」「三國無双」など)
③育成
…育て、成長させたいという欲求
(「たまごっち」など)
④恐怖
…恐怖の対象から無事に逃げたり脱出したりするスリル
(「SIREN」「バイオハザード」など)
⑤フィジカル
…組み立てる、揃える、壊すなど身体・直感に訴えかける気持ち良さ
(「テトリス」「ジェンガ」など)
もっと細分化するとさまざまな【ゴール】がありますが、人がやりたくなる、動きたくなるような【ゴール】には共通して「イメージしやすいかどうか」があります。言語化せずとも伝わるような流通力を持っている【ゴール】ほど、誰でもすぐに理解できる傾向があります。
人が何度も体験したくなる【ハードル】のツボ
ゲームルールの説明書を読みあさったり、さまざまなゲームをプレイしたりしてみると、【ハードル】となるゲームのルールにも、ある程度のパターンを持つことがわかってきました。
大きく以下の6つに分類することができます。
①相性
…組み合わせや数字などで優劣をつくる
(じゃんけん、ブラックジャックなど)
②手札
…手札の持てる枚数や効果に制限をつくる
(麻雀、UNOなど)
③手番
…手番の回数、順番に意図的な法則をつくる
(ポーカー、スピードなど)
④行動
…目隠しやウィンク、片手のみ、など行動に制限をつける
(スイカ割り、ジェンガなど)
⑤情報
…プレイヤーやカードなどの情報がわからない、変化をつくる
(人狼、なんじゃもんじゃなど)
⑥盤面
…移動可能範囲や得られるポイントに制限や法則をつくる
(色鬼、モノポリーなど)
良作といわれているゲームやシンプルなゲームほど、無駄な【ハードル】というものはなく、むしろゲームの体験を高めてくれるものになっています。
これらのゲームのルールが果たして具体的に、どのようにコンテンツ作りに影響を与えているのか。
この疑問については、最近のコンテンツ事例について、【ゴール】と【ハードル】というゲームの視点を交えながらご説明します。
コンテンツ事例をゲーム視点で分析する
事例① Netflix映画「ブラック・ミラー: バンダースナッチ」
1984年、ビデオゲーム開発のチャンスを得た若いプログラマー。ファンタジー小説に基づくゲーム開発に取り組む中、現実とパラレルリアリティが混同し始めるSF作品。
人気ドラマシリーズの最新作として2018年12月に公開された作品で、「インタラクティブドラマ」のコピーで話題となりました。ドラマに選択肢という概念が生まれ、「オファーを受けるか?」「どちらのカセットテープを聞くか?」などの選択肢を視聴者が選び、それによって結末が変わっていくという新しいゲーム性のある内容が、話題となりました。
また、この類似事例として、ニューヨークの大人気ミュージカル『sleep no more』もあります(※)。ビル一棟を使った体験型ミュージカルで、参加するたびにミュージカル内の出来事や見え方が変化するというもので、複数回参加が当たり前の公演とも言われています。
※ニューヨークで開催中の体験型ミュージカル。初公演は2011年。日本では未上陸の作品。
これらは視聴者の行動回数を制限するものなので、「手札」という【ハードル】を活用したものとなっています。さらにこの手法は映画やミュージカルだけでなく、YouTubeでも見られるようになってきました。複数の動画を同時公開することで、選択させるフレームを疑似的に作り出しています。
事例② 新元号予想
平成が終了するとニュースの直後から新元号が発表されるまでの間、日本中で「新元号予想」が行われました。多くの方が我こそはと「新元号という時代の変わり目を象徴する単語を当てたい」という【ゴール】のもとに参加しました。
この事例は少しだけ特殊なのですが、この新元号の予想する上でのルール、つまり【ハードル】は「国民によって自発的に追加されたたものがほとんど」ということです。具体的な新元号決定方法が提示されていなかったことで、多くの人が過去の事例から頭文字に使われる母音や画数などを導き出すなど、ルール自体も予想されていきました。この現象はトランプの大富豪や麻雀などで地方ルールが生まれて、盛り上がりを見せるという現象によく似ています。
その結果、国民全体を巻き込むイベントとなり、元号発表の際は多くの方がテレビ中継に釘付けになりました。ここまで大きなムーブメントとして国民全体が参加したのは、ゲーム性のあるイベントだったからではないではないかと考えています。
事例③「限界レシピ」
「限界レシピ」とは、ギリギリまで手間を削って食べられるいわゆる「ズボラ飯」というもので、2018年の頭にハッシュタグが作られ、多くの「限界レシピ」が集まりました。
もともと「限界コスメ」など、最低限の条件さえ満たせばなんとかなるものを「限界〇〇」と名付けるのがその時期のトレンドとなっており、その流れで生まれたものです。「ズボラ飯」と違うのは、シチュエーションが明確にされたという点で、「まな板や包丁は使わない」「食べたら捨てるだけ」などの【ハードル】が加えられています。
料理というのは、手持ちの食材や時間制限の中でいかに工夫して調理を行うかというゲーム性の高い行動の1つだと考えています。ドラマ化で人気となった「きのう、何食べた?」の中でも「どんなにうまくいかないとことがあっても、料理が上手にできるとリセットされる」というセリフがあるのですが、これは料理のゲーム性による満足感が大きいのではないかと思います。
もともとゲーム性の高いコンテンツであった料理が、さらに厳しいルールと、「疲れたときでも食べたい」という共感性の高い【ゴール】が生まれたことで、誰しもが参加したくなるトレンドに生まれ変わったのではないでしょうか。
3つの事例を紹介してみましたが、1つの特徴としてゲーム性のあるコンテンツが生まれるとき、必ずしも誰かが意図的なゲーム性を作り込むわけではなく、ユーザーが参加しながら自然とゲーム性が生まれていくことがわかります。まさに、ソーシャルという側面から生まれた現代特有のコンテンツと言えるのではないでしょうか。
令和時代のコンテンツの可能性
ゲームクリエイターとして、たくさんのボドゲを遊んだ結果分かった【ゴール】【ハードル】、そして最近生み出される多くのコンテンツがゲーム性を内包していることをご紹介していきましたが、最後に、僕なりの令和時代のコンテンツの可能性をご紹介して締めさせていただければと思います。
令和では、コンテンツの二極化が始まる気がしています。あらゆるコンテンツ内にゲーム性をもつことで、新元号予想のように国単位で参加者が集まるほどスケールの大きなイベントを作ることも可能になってきます。
そして、それと対抗するようにして、僕の領域であるボードゲームでは、1人で遊べるルールをもつものが増えていくと思っています。なぜならば、ボードゲームをプレイするという以前に「人を集める」というハードルが高く、さらにはソーシャルで大きなムーブメントが生まれるほど、それに疲れた人が気軽に始められることの需要が高まるからです。
また、ゲームもコンテンツの一部ではありますが、ゲームの要素がより拡大拡張し、さまざまな領域まで越境し始めていくと思っており、今回ご紹介した表がより多くのコンテンツに当てはめられる可能性があると思っています。
ぜひ、どこかでコンテンツを見たらゲーム性があるのかないのか、そしてもし僕と同じ、もしくは近い業界にいる方は新しい企画にゲーム性はあるのかないのか、を気にしていただければもしかしたらより良いブラッシュアップが出来るかもしれないですし、今回の話がコンテンツ業界の未来に少しでも貢献できれば幸いです。
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