『SINoALICE(シノアリス)』『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』など、数々の人気スマートフォンゲームアプリを開発・運用しているポケラボ。今回は、成熟したゲームアプリ市場でヒットタイトルを創出し続ける組織体制について、ポケラボの代表取締役社長である前田悠太さんにお話を伺いました。昨年、創業10周年を迎えた同社ですが、これまで開発戦略の変遷など大きなターニングポイントがあったようです。ぜひ、ご覧ください。
2009年7月、株式会社ポケラボに入社。2013年9月より、グリー株式会社 取締役を兼務。
クリエイターの「好き」という気持ちがゲームの価値を生み出す
――昨年、ポケラボは創業10周年を迎えました。入社当時を今振り返ってみて、いかがですか。
私が入社したのは2009年のことです。当時はまだ“ソーシャルゲーム”という言葉もほとんど知られていない時期でした。ただ、海外ではFacebook上のゲームアプリがすごい勢いで盛り上がり始めていて、日本では、mixi、GREE、Mobageなどのプラットフォームがオープン化に向けて動き始めていた。しかも、その先にはスマートフォンという画期的なデバイスがある。すでにキーワードは出揃っていたんです。
SNS、ゲーム、スマートフォンが融合してモバイルソーシャルゲーム市場が拓かれた時に賭け、仲間もお金も集めて勝負に出てきました。そこからは激動でしたね。
――それから8年が経ちましたが、現在の市場観についてどのように捉えていますか。
ゲームアプリ市場は今やすっかりレッドオーシャンですが、私はそれほど悲観的ではありません。競争が激しいということは、ユーザーにとっては遊ぶものが多く、市場としては活性化された状況とも考えられます。
それなら、選んでもらえる理由と、プレイを継続したくなる動機にきちんとフォーカスできれば、十分勝機はあるはず。もちろん、決して簡単なことではありません。けれども、たとえば自分の好きなクリエイターが関わっているゲームをアプリストアで見かけたら、まずはインストールしたくなりますよね。「好きなクリエイターが関わっている」という明確な理由があるからこそ、そのタイトルを能動的に選び取るわけです。
ゲームのプロデュースにおいて、その分野にどの程度ハードコアなファンがいるかが大きなヒントになります。なぜなら、熱心なファンだからこそ、他の人がまだ気付いていない“理由”を見出し、自らゲームと接点を持とうとしてくれるからです。そして、接点は関係へと発展していきます。この関係を継続するために私たちが大切にしているのが「多面的な運用」です。
その一例が『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』で、TVアニメ、音楽ライブ、ゲームが多元的に展開されていて、それぞれが往還するようにプランニングを行っています。
たとえば、昨年7月にはTVアニメ第4期の放送開始に合わせて、ゲームでは第3期と第4期の繋がりを示すオリジナルのストーリー「3.5期」をゲーム内のみに追加することができました。また、今年3月に開催されたライブイベントでは、会場付近でチェックインすると、ゲーム内で特別なアイテムがもらえるという連動企画を実施し、こちらも非常に好評をいただくことができました。
レッドオーシャンを生き抜くには下手なハックより、ひたむきに作品と向き合うこと、世界観を丁寧に広げて、遊んでいただく必然性を高めていくことの方がずっと重要だと考えています。
――世界観を理解することの重要性は多くのクリエイターが感じているところですが、それをゲームや施策に実装するのは容易なことではありません。ポケラボではこの課題にどのように取り組んでいるのでしょうか。
社内に何か画期的なメソッドがあるというわけでもないんですよ。ただ、その世界観が「大好きだ」という気持ちを作り手側がどれだけ持てるか、どこまで徹底できるか、だと思うんです。
『SINoALICE』は、『NieR』シリーズなどの独特な世界観のゲームを手掛けてきたヨコオタロウさんに原作・クリエイティブディレクターをしていただいていますが、開発メンバーは皆、ヨコオさんと一緒に開発を進めていく上で、世界観を構築していく手法を学ばさせていただいたと感じています。
それを見ていて、やっぱり本当に好きだからここまでできるんだ、と思いました。どこか他人事と思って割り切ってやっているだけでは到達できない、高いレベルのものづくりがある。だから、ポケラボはクリエイターの「大好き」という気持ちを大事にしています。
私たちの開発戦略は非常にシンプルで、3つの指針しかありません。ひとつは、届けるべき相手がはっきり思い浮かぶゲームであること。『SINoALICE』もプロモーション初期はファーストターゲットを明確にし、『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』はシリーズをずっと愛してきた生粋のファンに、まずプレイしてもらえたら、という思いで開発していました。
もうひとつは、自分たちの強みを最大限活かせるモチーフであること。ポケラボはギルドバトルとシナリオ重視のRPGを得意としているので、その強みと相性の良いモチーフでゲームを作っていきたい。これはグループ全体でエンジン戦略とも呼ばれている指針ですね。
そして、最後の3つめが、そのモチーフが本当に大好きなメンバーをプロジェクトに参加させられること。
この3つの内、ひとつでも満たせなければ、プロジェクトの立ち上げはできません。愛情や思想をゲームに実装していくためには絶対に必要な条件だからです。
――クリエイターの「好き」という気持ちがゲームの価値を生み出すと。
そうです。ニーズにただ応えていればいいのではなく、ファンの期待を超えた部分こそが作り手の価値だと思います。大変ですよ、ファンの期待値が低かったことはこれまで一度もありませんから(笑)。いつも「さぁ、ポケラボは次に何を見せてくれるんだ?」と試されている。
でも、期待以上のものを作ってみせるという気概で仕事をしているから、皆すごいスピードで腕を上げていくんです。ゲームを届けるべきファンの方々を前にして、「この色に自分のこだわりを詰め込んだんだ」、「このシナリオはこうじゃなくてはダメなんだ」と言えるクリエイターであってほしいと、いつも思っています。
ポケラボらしいものづくり、その変遷
――創業から現在まで、市場も会社自体も大きく変化しました。一方で、変わらないもの、変えてはいけないと思っていることはありますか。
「ソーシャルアプリで世界と人を変える」というミッションは創業からずっと掲げてきました。ポケラボにとって、あらゆる意思決定を通底する思想です。私たちはスマートフォン向けゲームの可能性に賭けて、この事業をスタートさせました。その可能性とは、スマートフォンというこの小さなデバイスがありさえすれば、世界中の人に自分たちの作ったゲームを届けられるという点です。
日本も含め、世界中に、色々な事情を抱えた日常があり、けれども、世界のどこかにいる誰かのそんな日常や心に自分たちのゲームで火を点せたなら、それはその瞬間は、その人の世界が少しだけ変わった瞬間だと思うんです。そういう力がゲームにはある。こういう考え方を、私たちはとても大切にしています。
――では逆に、ポケラボの開発が大きく変わったところはありますか。
開発方針は何度も変わってきていますが、ゲーム作りへの姿勢が大きく変わったのは2013年前後ですね。それまで『運命のクランバトル』をはじめとしたブラウザが主体のゲームを作ってきましたが、ネイティブシフトと並行して、より凝ったゲームを作ろうと模索していた頃です。
2014年には初のフルネイティブタイトル『クロスサマナー』をリリースしました。いわゆる王道ファンタジーのアクションRPGで、決して悪くないゲームだったと思います。しかし、運営2周年を待たずにサービスをクローズする結果となってしまいました。
今思えば、市場に広く受け入れられたいという羨望先行で、結果として「誰に届けたいか」がぼやけた内容になってしまった。表面的な面白さでは、やはりサービスは続いていかないんですよね。
この経験から、ポケラボらしいものづくりについて、あらためて考えるようになりました。細部の細部までブレずに、迷わずに作りきれる方法はなんだ。自分たちのゲームを待っている人たちへ心を込めて届けるためにはどうしたらいいか。そして定めたのが、先ほどお話しした3つの開発戦略なんです。シンプルな指針ですが、ここまで辿り着くまでに本当に紆余曲折ありました。
職人気質のポケラボクリエイター
――ポケラボのクリエイターはどのような人が多いですか。
それぞれ個性的なので一概には言えないのですが、ゲームが好きだという点は共通していますね。社内に「格闘ゲーム部」「ボードゲーム部」といった部活があって、仕事の後のゲームはまた格別みたいです(笑)。ゲームの他にも、アニメやコミック、音楽、映画、小説、色々なエンターテインメントに触れて、それがまた創作意欲を刺激するのだと思います。
皆、人柄は穏やかですが、クリエイターとしてはかなり負けず嫌いで、若手もどんどん主張してきますね。クリエイティブチームでは、そこで良い作品が出ると、みんな言うんですよ。「いいじゃん!悔しい!」って。こういうことを素直に思えるし言える文化がポケラボらしさの一つかなと。
クリエイターは何歳になっても、自己顕示を糧に成長していくものではないでしょうか。あるメンバーは新人の成長に影響され、毎晩必ず1枚絵を描かないと寝ない、と決めたそうです。年齢に関係なくそういう人は圧倒的な勢いで成長していくんですよね。
プライドを懸けたものづくりで自分の存在を叫ぶ、そういうクリエイターとしての想いも大事にしたい。天才だとかエリートというわけではなく、互いに切磋琢磨する、職人気質の人が多いかもしれません。
――この10年間でゲーム業界も働き方が大きく変わりました。クリエイターのキャリアアップについてはどのように捉えていらっしゃいますか。
クリエイターのキャリアを示すものとして一番分かりやすいものの一つに、どんなヒットタイトルに携わってきたか、という経歴があると思います。特に企画系の職種はその経歴の重要性が高い。ただ、良いゲームだったとしても必ずヒットするとも限りませんから、チャンスをより多く掴み続ける努力、言い換えると、チャンスに選ばれるクリエイターか、という観点とても重要になっている。さらに開発の大規模化に伴い、互いを良く知ったパーティ(チーム)の重要性も、ヒットタイトルというキャリアに不可欠な要素になってきています。
そういった中で、分業が進んで個々人にはより高度な専門性が求められるようになってきています。
開発プロジェクトは今や2~3年がかりですし、運営は5年先、10年先まで見据えているケースもあります。プロダクトサイクルが非常に長期化している。ですから、数をこなしてキャリアを積み上げていくのではなく、長期的な視点で自分の専門性を高め、周囲と関係性を作ってこの人たちとなら良いものが作れるというチーム自体を作っていく、そういった視点でのキャリア戦略が、結果として成果という経歴にも繋がりやすいものになってきている。なので個人レベルでは会社からもチームからも「これから将来にわたって、あなたはどのような付加価値をもたらすことができますか」ということがより問われているのではないでしょうか。
――なるほど。そのうえで会社側がケアしていることはありますか。
もちろん、会社側も環境変化に沿って柔軟に対応できるようにならなければいけません。今のゲーム開発はマラソンのようなものですから、長く働き続けやすい環境が必要です。ポケラボでは出産、育児などのライフイベント、社員それぞれのライフスタイルへの理解を深め、多様な支援と福利厚生制度を整備しています。
また、長期でキャリアを考えられる環境として、打席が確保し続けられることと、ずっと成長し続けられる場であることも重要です。人材育成にはかなり注力していて、フィードバック、一流クリエイターとの協業、自己投資を3つの大きな柱としています。
ポケラボはフィードバック文化を大事にしており、こまめに個人面談を行うようにしています。クリエイターは高い専門性が求められると言いましたが、自分ひとりではなかなか得意分野を見つけるのが難しいこともあります。
そこで、半期毎に360度評価を行い、それまで一緒に働いたことのある上司、部下、同僚から無記名でフィードバックのコメントをもらうという制度を採用しています。フィードバックはまだ自分の知らない長所を見つけるチャンスでもあり、改善すべき点を今一度客観視するタイミングでもあります。
――トップクラスのクリエイターと一緒に仕事ができるというのも、若いクリエイターには特に良い刺激になっているのではないでしょうか。
前田:まさにそういった刺激を大切にしています。『SINoALICE』ではヨコオタロウさん、『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』では金子彰史さんという一流のクリエイターとの良い意味での緊張感と、「気づき」の多さが、個人の成長と相関があると思っています。一流の仕事ぶりを通して得られる気付きは本当に貴重な経験になるはずです。
――では、「自己投資」とは具体的にどのような取り組みなのでしょうか。
ポケラボでは社員一人あたり年間で10万円程度の教育予算を設けています。社員が自身の成長のために使える資金として会社が用意しているお金です。フィードバックからの気付き、一流クリエイターとの協業の中で得られた気付きから、自分のポテンシャルが見えてきます。
そこで、更にスキルを高めるため、あるいは、自分に足りない経験を積むためにどんどん自己投資をしてもらいたいんですね。だから、教育予算は当人が考える、当人に必要な学習に使ってもらいます。社員それぞれの意欲を尊重することが、個性と専門性の向上に繋がると考えているからです。
全職種共通して求めているのは“思考力”
――現在、御社ではどのような人材を求めていますか。
職種関係なく、共通して求めているのは、“エンタメコンテンツが大好き”であること。あとは、思考力がある方ですね。弊社の開発・運用戦略を進めていくなかで、「何故この仕様にしたのか」「この色・テーマにした理由は?」など、職種問わず求められる瞬間があります。
というのも、弊社では多くの関係者を巻き込んだ開発や運用を推進しているためです。ときには各関連会社の皆様に、「こうだからこの仕様です」「こうだからこの色・テーマなんです」と説明して巻き込んでいくことが必要な場面が多いのです。
開発の大規模化、運用の多面化が進んでいるからこそ、決して自分たちだけで完結するのではなく色々な人たちを巻き込んで仕事をしていくために、思考力がより必要とされています。
――では最後に、ポケラボの今後の展望をお聞かせください。
ゲーム作りという観点では、引き続き、ファンの方々に“サプライズ”を提供してまいりますし、そういうチーム体制を構築していきます。そして、今後はその規模を国内のみならず、世界中にも拡げていきたいと思います。社是の「ソーシャルアプリで世界と人を変える」を心に据えて、今後も尽力してまいります。
撮影:SYN.product TAKANORI HAYASHI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部
企業プロフィール
株式会社ポケラボは、『SINoALICE(シノアリス)』『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』など、数々の人気スマートフォンゲームアプリを企画・開発・運用している会社です。
コーポレートロゴは、「世界中にポケラボを発信する、驚きを届ける」という想いを表現したデザインとなっています。
社名:株式会社ポケラボ
所在地:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
創業:2007年11月8日
代表者:代表取締役社長 前田 悠太
事業内容:モバイルソーシャルアプリの企画・開発・運営
URL:http://pokelabo.co.jp/