月間のアクティブプレイヤーが1億人を超える、世界的オンライン対戦ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)』。日本でも一大ムーブメントになりつつある、e-Sports(eスポーツ)の代名詞として、世界各地にプロリーグが存在し、その勢いはとどまることを知りません。運営会社であるライアットゲームズ(Riot Games)、日本法人のディレクター・齋藤亮介さんに、これまでのキャリアやリーグ・オブ・レジェンド国内プロリーグの現状、e-Sports業界に必要だと考える人材について語っていただきました。
合同会社ライアットゲームズ ディレクター1999年に大学を卒業後、P&Gやインテルなどのグローバル企業、およびコンサルティング会社などを経て、2015年に「プレイヤー体験を最優先」という会社のマニフェストに共鳴しRiot Gamesの日本法人に参画。PCゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』の国内導入およびe-Sportsの国内プロリーグ『League of Legends Japan League (LJL)』の運営に携わる。LJLのリーグ運営、またLJLにつながるチャレンジャーシリーズの開催、選手やチーム運営者向けの研修など多岐にわたる活動を実施する。
グローバルな視点から見たゲーム業界
大学卒業後、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、マッキンゼー・アンド・カンパニー、インテルなどで経営管理の仕事をしていました。ライアットゲームズを知ったのは、インテルに勤めていたときですね。インテルは、パソコンやサーバーでいちばんのキーとなる半導体を扱う会社なので、どんな業界がこれから盛り上がるのかをすごく分析していました。そこで働いているうちに、おもしろいことがふたつわかりました。
ひとつは、パソコンに限らずにいろんなものがネットワークにつながってくる、いわゆる“IoT”によって、セキュリティのニーズが高まってくるということ。のちにインテルを退社し、デジタルアーツというインターネットセキュリティの会社に入ったのは、そのことが分かったからというのもあります。
もうひとつが、PCゲームが世界で盛り上がりを見せ始めているということでした。日本のゲーム市場は、Wiiが発売された2006年あたりをピークに伸び悩みを見せていたときだったので、とても驚いたことを覚えています。ゲームは単なる遊びではなく、人によっては時間を忘れてしまうほど夢中になる“趣味”になりうるというのがそのときに分かって、おもしろいトレンドだなって思いました。
社会人になって遠ざかっていたゲームに再び触れたのは、その頃です。小学生になったばかりのうちの子といっしょに、Wiiなどで遊ぶようになりました。そのときはまだインテルにいたのですが、パソコンがスマートフォンやタブレットに押されている中で、ゲーミングPCだけは世界的に売り上げが伸び続けていたんです。そこで自分もちょっとやってみるか、ということでPCオンラインゲームの『リーグ・オブ・レジェンド』をはじめました。最初はキーボードとマウスでの操作に慣れず、チャンピオン(キャラクター)を動かすのも大変でした。
ライアットゲームズ入社にかけた思い
私がライアットゲームズに入ったのは、日本でのサービス開始に向けて準備が進みつつあった2015年9月でした。入社しようと思った理由は3つあります。
ひとつ目は、先程もお話しましたが、ゲームはやり方によっては人生を充実させられるものだ、ということです。真剣に取り組むことで得られる充実感、広がっていく人との繋がりなど、趣味としての遊び以上の可能性がゲームには秘められています。
ふたつ目は、当時日本のゲーム業界は気軽にプレイできるスマホアプリが主流になっていたので、PCスペックでの本格的なゲームでもしっかりとみなさんに楽しんでもらえる、ということを証明したかったからです。
そして、世界で盛り上がっているe-Sportsを日本でも定着させたかった、というのが3つ目の理由です。世界中にプレイヤーがいる『リーグ・オブ・レジェンド』を擁するライアットゲームズなら、それが可能だと思いました。
型破りなライアットゲームズのマニフェスト
マニフェストの先頭には、“Player Experience First”という言葉が掲げられています。ライアットゲームズには、この“プレイヤーのことを第一に考える”という理念が強く根付いていて、入社時の面接でもたびたび、私の回答に「それってプレイヤーはどう思うんだろう」、「プレイヤーにとってどんな意味があるんだろう」と聞かれました。儲かるかとか、できる、できないといったことではなく、まず最初にプレイヤーのことを考えるという姿勢は、とても魅力的に見えました。
入社して驚いたのが、スタッフの仕事に対する取り組み方ですね。私は、外資系の会社をたくさん経験してきていたので、事業部の報告をするときには、「俺らはこんな業績をあげたんだぜ、すごいだろ」って感じになると思っていたんです。しかし、ライアットゲームズのスタッフは、「この結果に対して達成感はある。でも、まだまだやれることがあると思う」と必ず最後に付け加えるんです。このハングリー精神と謙虚さを併せ持つ“Stay hungry, Stay humble”という考え方は、ライアットゲームズのマニフェストのひとつにもなっています。
マニフェストはあと3つあります。そのひとつが、“Focus on Talent and Team”。ビジネスのプロセスのようなものを優先するのではなく、人やチームに注力しようという考えかたですね。“Take Play Seriously”というマニフェストには、「遊びも真剣にやれ」という以外に「仕事をガチガチに堅くやりすぎるな」という隠されたメッセージがあります。
残りのひとつが“Challenge Convention”。これには「常識を疑え」という意味があります。たくさんゲームを出すのではなく、ひとつの作品を充実させ、より長く、深く楽しめるようにしよう、というライアットゲームズの姿勢を表している様なマニフェストでもあります。積極的に新規のユーザーを取り込もうとするのではなく、既存のファンを大切にし、そこから口コミでファンを増やしてきました。これら5つのマニフェストは、すべて社員用のノートの冒頭に書かれていて、つねに意識しながら勤めるようにしています。
『リーグ・オブ・レジェンド』で遊ぶことも仕事
そもそもライアットゲームズは、2009年に北米でリリースした『リーグ・オブ・レジェンド』一本で運営を続けてきた会社です。リリース直後から、真剣に打ち込んでくださるプレイヤーがたくさんいて、彼らの姿勢に応える形で大会を開くようになりました。最初の世界大会は2011年と記憶していますが、いま映像を見ると会場はオフィスの会議室のようなところで、雰囲気もアットホームなものでした。そこから爆発的にプレイ人口は増えていき、2016年には月間のアクティブプレイヤー数が全世界で1億人を突破しました。いまでは約20ヵ国にオフィスを展開し、大規模なe-Sports事業も継続して行っています。
私は、今は主に日本でのe-Sports事業とユーザーイベントを受け持つふたつのチームの責任者を兼任しています。日本法人では、ほかにサーバーなどの保守を含むシステム系のチームや日本語訳をするローカライズチーム、マーケティングを担当するチームなどいくつかあります。また、『リーグ・オブ・レジェンド』公式サイトには、ユーザーどうしの交流や意見交換などが行えるボードを用意していて、社員なら誰でもそちらに返答していいことになっています。答えるべき人間が返答する感じですね。もちろん、私が返事を書くこともあります。
ちなみに、ライアットゲームズに入社するには『リーグ・オブ・レジェンド』をプレイしていることが条件のひとつとなっています。もちろん、求人に出している業務に必要なスキルや、英語がビジネスレベルで使えることも求められます。ひとつひとつは要件としてめずらしいことではないのですが、この3つが揃う人材、という意味ではおのずとユニークなメンバーが集まってきますね。私は、社会人になりたてのころは英語がまったく話せませんでしたが、外資系の会社の実務経験の中で身に付けてきました。英語を学ぶため、仕事の後に夜間授業にいった経験もあります。
徐々に盛り上がりを見せる日本のプロシーン
具体的な数字は言えませんが、『リーグ・オブ・レジェンド』の国内プレイヤーは、堅調に推移しています。日本では、我々が主催するLJL(League of Legends Japan Leagueの略称)というプロリーグがあり、観戦者数の伸びも順調です。
昨年までは、観客が入らないスタジオで試合を進め、生放送していました。その様子を関係者の方が見学されると「彼らはこんなに真剣に戦っているんですね」と、みなさん一様に感動してくださるんですよ。プロゲーマーたちの気迫を間近で見ると「まさにこれがe-Sportsだ!」と肌で感じられるんですよね。今年は、その熱気をファンに身近で感じてもらえる機会を増やそうと全試合Red Bull Gaming Sphere Tokyo(2018年2月2日にオープンした、中野にあるゲーミングスペース)で観客を入れた状態で開催することにしました。ファンは戦っている姿が近くで見られるので、選手の声や熱気が直接伝わると思います。
e-Sports業界で求められる人物像とは
私は、ゲームやe-Sportsの業界で働くうえでいちばん大事なのは、情熱だと思います。新しいことをやろうとか、常識にとらわれずに挑もう、って言うと聞こえはいいですけど、仕事を進めていくといろいろな障害にぶちあたりますよね。ライアットゲームズでも、“Player Experience First”をどこまで追求するのかっていうのは、いろいろな困難に直面するわけで。問題やトラブルを乗り越えていくには、やはりパッションがないと続かないと思います。
ライアットゲームズは外資系の企業ですし、ある程度は合理的なものの考え方やデータに基づいたロジカルな思考が求められます。一方で、データは基本的に後追いの情報なので、それだけ見るのもよくない。ゲーム業界は、エンターテインメントの世界なので、トレンドができてからでは遅いんです。直感的に、プレイヤーが求めているもの、取るべき施策を考えなくてはならない。
私自身、ライアットゲームズに入るまでは、まずデータから分析して……、という考え方が染みついていたわけですが、それだけだとどうしても新しいものが作れないとも感じていました。新しいものが作れないと飽きられてしまうので、直感的な部分やひらめきも大事にしなきゃいけない。でもデータを見たり、ロジカルな部分も忘れてはいけない。そういったバランスのいい思考の持ち主が、我々の業界に求められる人材なのかな、と思います。
インタビュー・テキスト:堤 敦史/撮影:SYN.product YUICHI TAJIMA/編集:CREATIVE VILLAGE編集部
会社概要:ライアットゲームズ
「最高のゲームは、プレイヤー第一主義のチームから生まれる」という信念を持つ、2人のゲーマー、マーク・メリルとブランドン・ベックにより、『世界一プレイヤーを大事にするゲーム会社』をモットーとして2006年に創業。2009年には、デビュー作『リーグ・オブ・レジェンド』をリリースし、プレイヤーとメディアの双方から高い評価を受ける。本社は、米国カリフォルニア州サンタモニカにあり、世界で25ヶ所にオフィスを展開。(2018年2月現在)日本オフィスは2014年4月に設立、リーグ・オブ・レジェンドの日本版サービスを2016年3月より開始。
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