従来の課金型のソーシャルゲームとは異なる、ゲーム内広告を収益源にしたアプリゲームとして近年人気が高まるハイパーカジュアルゲーム。このゲームジャンルでは、ゲームの一部を広告として配信し、評判のいいものをリリースすることで、少人数でもトライアンドエラーを繰り返せる開発フローを実現しています。シンプルなゲーム性によって、日頃からゲームに馴染みのないカジュアル層の方も気軽に楽しめる他、言語の壁を超えて展開しやすいことも特徴的です。
そんなハイパーカジュアルゲーム事業を2021年頃から展開しているのが、DeNA Games Tokyoのみなさん。モバイルゲーム一筋で16年携わってきた経験を活かし、同社のハイパーカジュアルゲーム事業の責任者を担当する益田大平さんに、ハイパーカジュアルゲームならではの開発エピソードや、「究極のボトムアップ」と語るDeNA Games Tokyoの仕事風景についてうかがいました。
モバイルゲーム一筋で16年目。2007年新卒でカプコンに入社し、ディレクター兼プランナーとして月額サイト運営やソーシャルゲーム事業の立ち上げに従事。2016年にはコロプラに入社し、有名アプリタイトルのリードプランナー兼SNSや動画配信を管理するコミュニティ運営を担当。その後、2018年にDeNA Games Tokyoに入社。ディレクター、マネージャー、企画部部長を経て現在はハイパーカジュアルゲーム事業の責任者を務めている。プライベートはラーメンとジブリと育児で溢れている。
気軽に世界の方々に楽しんでもらえる。ハイパーカジュアルゲームの魅力
――DeNA Games Tokyoさんがハイパーカジュアルゲームに取り組むことになったきっかけを教えてください!
弊社はもともと、2015年にDeNAの戦略的子会社として誕生したセカンダリー事業のための会社でした。つまり、DeNAが作った、すでに開発されているソーシャルゲームの「運営部分」を引き継ぐことが主な業務内容だったんです。ただ、市場全体としても昔のように新規タイトルが続々ヒットするわけではなくなってきた時代に、「ゲーム運営で培ったノウハウを活用して新たな挑戦ができるのでは」と考えるようになりました。そこで、我々のゲーム運営のノウハウを生かせるものとして、また日本だけでなく海外の市場も目指せるものとして、2021年頃から少しずつ始めたのが弊社のハイパーカジュアルゲーム事業です。
――これまで担当してきたモバイルゲームと、ハイパーカジュアルゲームとでは、どんな違いがあるのでしょう?
コンテンツ目線とビジネス目線でそれぞれ違いがあるのですが、まずコンテンツ目線では、ハイパーカジュアルは日頃ゲームをしていない方が主なユーザーだということです。そのため、誰でもパッと見て何をするか分かるゲームにしなければいけません。僕らはゲームをやり込んでいる方に向けてゲームをつくってきたので、最初は「これでどうだろう?」と考えてつくったゲームの魅力が、ターゲット層の方々にはまったく伝わらないということが起きました。この部分はかなりギャップがあって、最初はとても苦労しました。
――従来の感覚でよしとされていたものと、求められているものにギャップがあったのですね。
はい。従来のゲームとハイパーカジュアルゲームでは、求められる遊びの質が大きく違っていたんです。また、ビジネス的な観点での違いは、ハイパーカジュアルゲームは収益を広告に依存しているということです。ハイパーカジュアルではゲーム内の広告が収益源になるので、アイテムやガチャ等の課金ビジネスから、「いかに広告を見てもらうか」というビジネスモデルに変わります。そのため、僕らも「どのタイミングで広告を入れるか」「広告を見てもらうことで得られるアイテムをどんなものにするか」などを考える必要が出てきました。そういう意味では、ゲームの姿はしていますけれども、全く別物でもあると感じます。
――そんなみなさんが、どのようにしてギャップに立ち向かっていったのでしょうか?
我々はもともとモバイルゲームの運営を得意としてきましたが、それはつまり「改善が得意」ということだと思っています。ハイパーカジュアルゲームは、従来のソーシャルゲームのように長年をかけて開発するスタイルではなく、目的ごとにフェーズを切って最低限の機能を開発し、市場テストをしては追加開発·機能改善を短期間で繰り返すスタイルになります。ハイパーカジュアルでは改善の質とスピードが求められるので、ゲームタイトルの運営において日常的に改善を続けている我々ともすごく相性が良かったですし、ビジネスとしての可能性を感じました。全米1位になると1億ダウンロードも夢ではないので、トライアンドエラーが出来ることに加えて、非常に大きなリターンも狙える事業だと思っています。
――気軽に楽しめるゲームだからこそ、幅広いユーザー層にアプローチできそうですね。
実際にゲームを出してみても、遊んでくださる人は1日の中で5~10分程度プレイする、という方が非常に多いです。モバイルゲームは人によっては「暇つぶしにプレイする」と言われることもありますが、その究極の形がハイパーカジュアルゲームで、日頃からゲームに馴染みのない方々にも楽しんでもらえる、ユーザーさんが幅広いゲームジャンルだと思います。また、シンプルなゲーム性ゆえに言語の壁も高くありません。むしろ「ゲームという共通言語」で世界の方に楽しんでもらえるようなものを提供できるのは、やりがいを感じるところです。
ライバルはTikTokのバズコンテンツ?! 独自の立ち位置と開発に込めた工夫
――開発の際、みなさんが特に工夫されていることを教えてください。
最初にパッと見たときに「何を楽しむゲームなのか理解できる」「すぐに簡単に操作できる」という部分は最も重要です。それをチームの全員が意識しなければいけないので、「あなたのそのアイディアは、パッと分かりやすくて、斬新でキャッチーですか?」ということを共通言語にして、それぞれが意識しています。そして、長年ゲームを作ってきた我々の“当たり前”を当たり前と思わないことも大切です。これは非常に難しくて、事業開始当初は、ハイパーカジュアルゲームの魅力を自分たち自身が体感するために、いろいろなタイトルを実際に遊んでいったのですが、最初にみんなで口を揃えて言ったのは、「カジュアル過ぎて面白さがいまいち分からない」ということでした。それくらい、ゲーム好きにとってやりごたえのあるゲームづくりとは違うものだったんです。デザイナーも、「いいデザインが出来たよ!」と持ってきてくれるんですが、それがゲーム好きにとっては素晴らしいものであっても、ハイパーカジュアルのプレイヤー層に合うとは限りません。大人向けの番組と子供向けの番組ではレイアウトや情報の出し方が違ったりするのと同じように、同じゲームであってもまったく違うものだ、と理解することからはじめていきました。そして実際に開発を進めていく中で、「こういうものが面白いな」「このアイディアはいいな」と感じるものが掴めてきたような感覚です。
もうひとつ、ハイパーカジュアルゲームならではなのは、ユーザー獲得のために「そのゲームの広告もつくらなければいけない」ということでした。我々はこれまでゲームをつくってはきたものの、広告をつくったことがある人間は誰一人いませんでした。ですから、「この広告はなぜ見られて、この広告はなぜ見られないのか」という基本的なことから学ぶ必要があったのです。ゲームは実際に触って楽しいものだからこそ、目で見るだけでも楽しい広告をつくる工夫も必要でした。ここもかなり苦労した部分でした。
――従来のゲームの常識だけでは対応できないタイプのものだったのですね。
そうなんです。ゲームというより、ある意味ではSNSでバズるものをつくる感覚に近いのかもしれません。たとえば、今はショート動画を楽しんでいる方が非常に増えていますが、ハイパーカジュアルゲームはゲームよりも、そうしたコンテンツと戦っているような感覚です。実際、海外で流行っているハイパーカジュアルゲームは、直近にTikTokやインスタグラムで流行ったコンテンツを模したものが人気になる傾向もあります。そのため、「何がバズるのか」「どんなモチーフがいいのか」を分析してトライアンドエラーを繰り返しますし、あらゆるSNSで人気を博しているコンテンツを見るようにしています。
また、ハイパーカジュアルゲームの場合、ユーザーのみなさんもどんどん次のタイトルに目を向けていく傾向があります。そこで市場そのものに目を向けて、毎日アメリカなどのアプリのダウンロードランキングを見ながら、「今何が流行っているのか」を読み解いて研究しています。そこから要素分解をして、「こういうものも受けそうだ」と自分たちならではの企画を考えていくんです。その際大切にしているのは、「トレンド×日常的なモチーフ」の組み合わせです。弊社で現在日本リリースまでされているタイトルですと「Donuts Factory Run」がありますが、このゲームは開発当時、「Stack Run」と呼ばれる「何かを集めながら走るタイプのゲーム」が盛り上がっていたことが開発のきっかけでした。「Stack Run」の要素に、日常的にみんなが触れやすい食べ物をかけ合わせようというアイディアで、「ドーナツって、油で揚げると気持ちいいよね」「油でブクブクと揚がる様子が楽しそうだよね」という案が形になっていきました。また、広告として表示する場合は、ちょっと大げさに「熱い油にドーナツを入れたら、焦げ焦げになって燃えてしまう」というものをつくって表示したところ、これが受けて多くの方々に遊んでいただきました。
© DeNA Games Tokyo Co.,Ltd
――ハイパーカジュアルゲームならではの開発過程、とても興味深いです。メンバーのチーム連携という意味で、みなさんが大事にしていることがあれば教えてください。
この市場はどんどん新しいものが出てくるのでスピード感がとても大事ですが、現在はリモートワークで業務を行なっているので、テレビ会議やボイスチャットのようなものでどれだけ連携できるかを重視しています。また、ハイパーカジュアルゲームは開発が少人数で行なわれるため、通常のゲーム開発以上にひとりのメンバーが影響を与える割合が多くなります。ですから、自分から「こうした方がいいんじゃないか?」と自走出来る人でないとなかなか難しい。そこで、日々1on1などで対話をしながら、円滑なコミュニケーションを取るように気を遣っています。チームには、ゼロイチのアイディアを出すのが得意な人もいれば、その結果生まれた1を10にすることが得意な人もいます。それによって連携の仕方も変わりますから、そうしたそれぞれの特性や個性も含めて分担をすることも重要です。
――益田さんが、人材育成面で特に大切にされていることはありますか?
「メンバーに寄り添った育成」といいますか、減点式ではない、「加点式の人材育成」は意識しています。僕自身は昭和生まれで、学生時代の部活動などではスパルタで当たり前という環境で育ってきましたが、当時の当たり前だったよくある“全員に同じ物差しで同じラインに到達することを求める形”だと、自分が設けた合格ラインに近い人達と、そうでない人達とで、合う/合わないが決定的に分かれてしまいます。僕自身、マネージャーになったばかりの頃は、そういったものを要求してしまっていました。ですが、それだとやはり上手くはいかないんです。それよりも、メンバーごとに話し合って「今回はここまで行ってみよう」と、ちょっと背伸びをして届くような場所に目標を設定し、それぞれに「一歩上のところを目指そう」と頑張ってもらうことを大切にしています。
――だからこそ、チームのみなさんとよくコミュニケーションを取る必要があるのですね。
そうですね。その人の人柄のようなものも出来るだけ踏まえなければ、適切な提示は出来ないと思っています。そのためにも「この人なら自分のことを話していいな」と思える存在にならなければいけないと思っています。色んな失敗をして今に至っていますし、今でも毎日が試行錯誤です。
「究極のボトムアップ」で生まれるDeNA Games Tokyoのゲームタイトル
――DeNA Games Tokyoさんの社風としての特徴はありますか?
DeNA Games Tokyoは「究極のボトムアップ体質」だと思っていて、トップダウンで「こうしなさい」というものがほとんどありません。「自分たちで考えていこうよ」という社風です。今の社長がそれを大事にする人なので、「自分が主役だ」「自分がつくっていくんだ」という文化が浸透しています。うちの行動指針には「REBUILD」という、「常に今の状態を疑って、新しいことをやっていこう」という行動指針がありますが、会社としても「REBUILDプロジェクト」という施策を行なっていて、社員全員にアイディアを募集し、よさそうなアイディアには実際に予算がついたりもします。他にも、もともとは四半期に一度しか全員の前で喋る機会がなかった社長に、リモート環境であることを活かして毎週話す機会を提案したり、有志による勉強会を開催したり、VTuberの運営を行なったりしていて、そういった施策がすべて、社員からの提案だったりするんです。そういう意味でも、ボトムアップを大切にしている風土なのかな、と思っています。
――DeNA Games Tokyoで働いている方々に、何か共通する傾向や特色のようなものがあるようでしたら、教えていただけると嬉しいです。
弊社は新卒採用をしていなくて、すべて中途採用のみとなっているのですが、その中でも特徴的なのが、「ゲーム業界未経験の方々」がその半分程度を占めているということです。つまり、「一度は別の業界で働いたけれども、やはりゲームが好きで、ゲームがつくりたくてここに来ました」という方が非常に多いんです。DeNA Games Tokyoでは、「なぜそれがいいのか?」というロジカルシンキングを大切にしていて、その能力さえあれば、ゲーム業界が未経験の方だったとしても、経験者の方よりもパフォーマンスを発揮してくれるということを実体験として経験してきたこともあり、経験者/未経験者関係なく、「論理的思考力」と「課題解決能力」のポテンシャルの高い方を採用しています。
――みなさんがハイパーカジュアルゲームをつくる際、「ここまでのクオリティは必要だ」と考えている基準のようなものはありますか?
クオリティの面ではとてもシンプルで「世界でヒットしているタイトルと同等の面白さがあるか」を大切にしています。そもそも「クオリティ」という言葉ひとつを取っても、そのゲームをメインで遊んでいただくターゲット層はどこかによって理想は異なるはずです。一番大切にすべきはやはり、実際に遊んでくれるユーザーのみなさんだと思っているので。
ハイパーカジュアルゲーム事業は、まだまだ立ち上げの段階で、大きなヒットタイトルをつくれているわけではありません。僕個人の目標としては、まずはこの事業をしっかりと確立させたいと思っています。DeNA Games Tokyo全体としては、会社のビジョンとして「あらゆるゲームの可能性を引き出して、最高のユーザー体験を提供する」というビジョンを掲げています。ハイパーカジュアルゲーム事業もそうですし、これからさらに新しく生まれるはずの事業も含めて、「ゲームによってどれだけ社会に貢献できるか」を目指しています。
インタビュー・テキスト:杉山仁/撮影:SYN.PRODUCT