2015年に野村総合研究所が発表したリリースは、日本社会に大きな衝撃を与えました。その内容は「日本の労働人口の49%がAI(人工知能)やロボットなどで代替可能である」というものです。当時はAI関連の技術がまだまだ世の中に出回っていなかっただけに、そうした近未来の行く末をにわかに信じられないという方も多かったでしょう。特にWebデザイナーなどのクリエイティブ系職種の方の場合、「自分の職がAIに務まるわけがない」と思っていたかもしれません。
その後、AIは著しく発展を遂げ、実際に人間からAIに代替されている仕事も増えてきました。しかし、結論から言うとこのままAIが発展してもWebデザイナーなどのクリエイティブ系の職種の仕事がなくなることはありません。なぜならAIは仕事の「競争相手」ではなく、「共創相手」だからです。4年以上のキャリアがあるWebデザイナーに向けてAIと協業する未来を紹介します。
日本の主要AI市場は2025年には1,200億円に拡大予想
「AIが人間の職を奪う」という衝撃のリリース後、AIのテクノロジーはさらに著しい発展を遂げています。ディープラーニング(深層学習)やビッグデータの活用により、AIが社会の多様な領域に浸透し始めました。すでに日常生活のさまざまなシーンで、AIと深い関係を有するテクノロジー(画像認識や音声認識、テキスト解析など)を知らず知らずのうちに、直接的・間接的に利用しているケースが多いでしょう。
AIとの関わり方の変化の兆しは、AI関連のテクノロジーやサービスの世界的な市場規模の拡大にも如実に表れています。総務省が発行している『令和4年版情報通信白書』によると、 2021年における世界のAI関連ソフトウェアの市場規模(売上高)は3,827億円でした。2022年には前年比55.7%増の5,957億円にまで成長すると見込まれています。
出典:総務省「令和4年情報通信白書」
また、日本のAI主要8市場(「機械学習プラットフォーム」「時系列データ分析」「検索・探索」「翻訳」「テキスト・マイニング/ナレッジ活用」「音声合成」「音声認識」「画像認識」)の規模(合計売上金額)も、世界の動向と同様に拡大傾向にあります。2022年は800億円に迫る勢いで成長しており、さらに2025年には1,200億円を超えると予想されているのです。
このようにAIの活用はもはや世界の時流と言えます。そのため、「人工知能によって代替される可能性が低い」と考えられてきたWebデザイナーなどのクリエイティブ系の職種の方も危機感を覚えているかもしれません。しかし、重要なのはAIとの向き合い方です。今後はWebデザインにAIを積極活用するのが当たり前の時代になることが予想されます。
2022年現在、「デザインAI」の活用が当たり前になりつつある
「AIが人間の職を奪う」というニュースが話題になった2015年から時を経た2022年では、さまざまな職種においてAIの活用が進みつつあります。この流れは、デザイン領域においても例外ではありません。デザインAIが活用されるようになってきており、効率的に業務を進めるうえでの協業が各所で検討されているのです。
デザイン領域でも浸透が進むAIによる作業の自動化
ディープラーニングの精度が向上するにつれてAIの応用範囲が拡大しています。デザインなどのクリエイティブな領域でもAIによる作業の自動化が可能になりました。昨今、効率的に業務を進めるために、各所で「デザインAI」の活用が推進されるようになっており、もはや「スタンダード」とも言える状況です。
デザインAIでは、主に「画像認識」「予測・推論」「自然言語処理」という3つの機能が駆使されています。たとえば、2021年9月には、AIがパッケージ(ペットボトルのラベルなど)のデザインを1時間で1,000案以上創出したうえで、消費者調査のデータに基づいて、「おいしそう」「かわいい」「高級」といったイメージワードでランキング表示するサービスの提供が開始されています。
過去のデータの蓄積などはデザインの効率化をサポート
その他にも「テンプレートを選択して簡単な情報を入力するだけで、AIが自動的にWebサイトを生成するサービス」や「会社名や業界、書体などを入力・選択すると、AIがロゴマークを自動生成するサービス」「線画をアップロードすると、AIが風景や顔、服などを認識し、自動的に着色するサービス」など、多種多様なAIを活用したサービスが存在します。
AIが過去の大量のデザインから学習し、「それっぽいデザイン」を生み出すことが可能になっただけに、ディープラーニングやビッグデータの活用においてはAIの技術に上手く乗っかることもWebデザイナーには必要になってくるでしょう。Webデザイナーは、これまで以上に独創的なデザインを提供することが求められます。
WebデザイナーはAIとの「競合」ではなく「協業」を意識しよう
AIの発展・浸透によって人間の職との向き合い方は変わるかもしれません。しかし、職が奪われるという0か100かという話ではなく、AIを上手くクリエイティブに活用するという発想がWebデザイナーには求められます。AIを「競合相手」だと捉えるのではなく、「協業相手」とすることでデザインの可能性を広げ、新たな価値を生むことができるのです。
デザインAIの得手不得手の特性を理解しよう
現状のデザインAIは多くのことができるようになったとはいえ、明確に得意・不得意があります。Webデザイナーにしかできないクリエイティブはまだまだ多いと言えるでしょう。デザインAIが得意とする作業は、「大量のデータを正確かつスピーディに取り扱うこと」です。前述した「パッケージデザインを1時間に1,000個提案する」といった作業は、人間には不可能でしょう。
ただし、デザインAIは、「無(ゼロの状態)から、有(何か)を創り出すこと」や「倫理的に判断を行うこと」「(顧客などの)感情を理解すること」は不得意です。デザインAIは過去に倣ってパターン化することは得意でも、独創的なアイデアを持つことはまだそこまで上手くはないと認識しましょう。
また、過去に「SNS上のBOTプログラムが、差別的な発言を繰り返す」という事例がありました。デザインにおいても、AIが倫理的に望ましくない造形を生み出す恐れがあります。現状では、AIに「善」と「悪」の峻別を任せるには至りません。
Webデザイナーはクリエイティブな領域に集中すべき
AIには得意分野・不得意分野があるだけに、それを的確に把握したうえで「AIを上手くクリエイティブに活用する」という発想が求められます。AIにできることはAIに任せてしまい、Webデザイナーはさらにクリエイティブな領域に集中するというシフトが必要になるでしょう。大切なのは、AIと争うのではなく、「手を取り合う」という意識を持つことです。AIを上手く活用することで、デザインの可能性を広げ、新たな価値を創造しましょう。
これからのWebデザイナーは、AIとの協業がより重要になる
【デザインAI についてのまとめ】
- Webデザイナーの領域にも、AIの参入が進んでいる
- 「デザインAI」の活用は、もはやスタンダードとも言える
- AIと争うのではなく、「手を取り合う」という意識が大切
近年、国内外においてAI関連の市場規模が拡大しています。従来は、「Webデザインなどのクリエイティブな職種は、将来的にAIに職を奪われる危険性が比較的少ない」と考えられてきました。しかし、AIは長足の進歩を遂げており、昨今、「AIが生み出したデザイン」が注目されています。「デザイン×AI」という組み合わせが、「トレンド」から「スタンダード」に変化しつつあることを認識しておくべきです。
AIはWebデザイナーから仕事を「競合相手」ではなく「協業相手」。つまり、パートナーとしてどう向き合っていくかが今後のクリエイティブにおける本流となるでしょう。そのため、AIの存在に脅威を感じるのではなく、もっとAIのことをよく研究して使いこなすくらいの気概を持つことをおすすめします。