複数のデザイナーをインハウスで抱えるプロダクションでは、当然ながら対応の中心は内製になります。しかし、デザイン依頼が増え、案件が重なると社内リソースが枯渇することもあるでしょう。そうした際に割り振りを担当するアートディレクターやデザインリーダーは、「パートナーへの外注の選択肢」を視野に入れることもあるはずです。

状況に応じて内製・外注を使い分けることがデザインのチームを牽引するうえでは重要ですが、その判断基準はどのように身につけるべきでしょうか。デザイナーのチームを持つアートディレクターやデザインリーダーに向けて、インハウスとアウトソーシングの使い分けについて解説します。また、外注に慣れていない組織の場合に積極活用したい「アルムナイネットワークの有用性」についても説明します。

インハウスでの内製・パートナーへの外注の利点

デザインの外注基準_内製と外注

デザイン案件をこなす中で、チームのリソースが逼迫するケースも珍しくないでしょう。すべての案件をインハウスでの内製対応できれば理想的ですが、人員や案件数によっては難しくなる局面は必ずくるものです。そうした場合、アートディレクターやデザインリーダーはインハウスでの内製あるいは、パートナーへの外注の選択に迫られるかもしれません。まずはインハウスでの対応、アウトソーシングでの対応のそれぞれの利点や懸念点について整理しましょう。

インハウスメンバーで内製するメリット

インハウスメンバーを活用して内製することは、社内にデザインチームとしてデザイナーが複数常駐している会社にとっては第一の選択肢になるでしょう。パートナーにアウトソーシングするよりもインハウスでの対応のほうがやりやすいと考えられていますが、その主な理由は下記になります。
【インハウスのメリット】

  • コミュニケーションがすぐ取れる環境にある
  • トンマナについての共通認識を取りやすい
  • 同じ社内なので進捗を把握しやすい

デザインを内製する場合、アートディレクターやデザインリーダーは案件の進捗状況を逐一メンバーから共有を受けるようにしましょう。デザイナーも方向性に困った場合は相談をしやすく、共通認識を持って業務に取りかかれるのがインハウスで内製する強みです。また、これまでの業務を通してメンバーの実力や考え方をある程度把握できている点も納品計画の立てやすさにつながります。完成形もよりイメージしやすくなるでしょう。

パートナーへ外注するメリット

インハウスに比べてアウトソーシングすることは、品質が読めないなどのリスクがつきまといます。その一方で、メンバーのリソースを取られずに済むなどの利点があり、その間に別の仕事に時間を割くことができるのが魅力です。パートナーへ外注するメリットは主に下記の内容になります。
【アウトソーシングのメリット】

  • コスト(外注費)が計算しやすい
  • リソースを他の仕事に投下できる
  • インハウスにない観点のデザインが期待できる

パートナー自身がどれだけ時間をかけたとしても支払う金額は一定のため、コスト(外注費)を計算しやすいのは最大の利点です。また、外注で空いたリソースを他のコア業務に投下できる点もメリットと言えます。また、内製の場合はチームでの共通認識がある点が強みとなる反面、考え方が凝り固まっているケースも少なからずあります。外部のデザイナーの自分たちとは異なる観点のデザインを提供してもらえる価値もパートナーへ外注するメリットの1つです。

状況に応じて内製と外注を使い分ける

内製・外注それぞれにメリットがあることを理解したうえで、アートディレクターやデザインリーダーは柔軟に社内外のリソースを使い分けることが求められます。「費用が限られている」「人的リソースが不足している」「他の重要案件に集中しなければいけない」という状況であればパートナーへ外注すべきでしょう。

一方で期間や費用にある程度余裕があったり、顧客がデザインに強いこだわりをもっていたりする場合は、コミュニケーションを取りやすくプロジェクトを進めやすい内製がおすすめです。また、自社ノウハウの蓄積やインハウスメンバーの成長を促したいという意図がある場合も内製中心が望まれます。内製と外注の見極めができるように、アートディレクターやデザインリーダーは自身で判断基準を持つことを心がけましょう。

アルムナイネットワークの活用で外注をスムーズに

デザインの外注基準_アルムナイネットワーク

パートナーに外注する際は、その対応するデザイナーとの信頼関係を構築できているか、力量を正しく把握できているかが重要になります。外注発注はその見極めが非常に難しいので、おすすめは「アルムナイネットワークの活用」です。かつて同じ職場で働いていたメンバーがフリーランスになって活躍しているなどの場合は、活用しない手はないと言えるでしょう。

外注パートナーはさまざまである

パートナーは外部の人間であり、その人柄や実力は仕事を一緒に組むまでは分かりにくいものです。正直なところ、外注パートナーごとに実力にかなりの差があります。依頼側の意図を汲んで質の高いデザインを納品してくれるパートナーもいれば、指示を無視するので修正に手間がかかるパートナーもいます。成果物の精度が想定しにくい点がパートナーへ発注する場合のリスクです。定期的に外注するのであれば、実力が分かっていて信頼関係を構築できているパートナーを複数人抱えておくことを意識しましょう。

アルムナイネットワークの活用がおすすめ

外部の人材の実力を把握するのは簡単ではないことに加え、信頼関係を構築するのにもある程度の時間を要します。それだけにおすすめなのがアルムナイネットワークの活用です。アルムナイ(退職者)ネットワークとは、企業の離職者や元社員で形成されるコミュニティのこと。元社員で現在フリーランスとして活躍している人材であれば、実力の把握や信頼関係の構築も一からする必要がないので対応がかなり楽になります。社内で共有するトンマナへの理解もあるので、プロジェクトの即戦力として活躍してくれる可能性が高いでしょう。

アートディレクターやデザインリーダーに必須な社内外マネジメント

デザインの外注基準_マネジメント

アートディレクターやデザインリーダーは、社内はもちろん、パートナーら外部の人材も上手く活用する術が求められます。そのため、デザイン知識や実力を持ち合わせていることは当然であり、それに加えて判断力や采配手腕、コミュニケーション能力などさまざまなスキルが求められます。デザイナーとは違って「優れたデザイン」を生み出すだけが仕事ではなく、社内外のデザイナーのマネジメントが重要タスクとなります。

アートディレクターとデザイナーの違いとは

デザイン部門のリーダーとしてチームの案件のディレクションを担当するアートディレクターですが、一般のデザイナーとの違いを明確に把握しているでしょうか。両者の違いはよくレストランで例えられます。
アートディレクターはいわば料理長です。顧客の要望を把握し、レシピ(コンセプト)を作成し、最高の料理(デザイン)を生み出すためチームをまとめて指示を出します。そして、レストランをさらに発展させるために、後進の育成にも力を注がなくてはいけません。
一方のデザイナーは実際に調理(作業)を行う料理人です。顧客が満足する料理(デザイン)を生み出すため、日々努力を続けます。このようにアートディレクターは全体の統括を行う責任者、一般のデザイナーはその指示に従ってコンセプトにあったデザインを生み出す立場と棲み分けすると、より役割を明確化しやすいでしょう。

責任者としての自信と覚悟を持つ

アートディレクターには特別な資格などはないので、誰もが簡単に名乗れる職種ですが、誰もが上手くこなせる職種ではありません。デザイナーとして実力のある人はたくさんいます。しかし、アートディレクターはただ「優れたデザイン」を生み出せば良いというポジションではありません。責任者として状況を把握し、それに応じた采配と対応できる能力が求められます。
「自分の力で優れたデザインを生み出す」ではなく、「責任者として適切な采配と対応を行い、顧客満足度の高いデザインをチーム全体で生み出す」という自信や覚悟を持つことが、アートディレクターにもっとも大切なことであることを改めて留意しておきましょう。

デザイン観を尊重した依頼・マネジメントを意識しよう

【デザイン 内製or外注のまとめ】

  • 内製・外注の特性を理解したうえで状況に合わせて使い分ける
  • 外注は力量が分かるアルムナイネットワークを積極的に活用すべき
  • アートディレクターは業務範囲が広いため采配と対応力が求められる

インハウスでの内製では追いつかず、パートナーに外注依頼を出すデザイン会社も増えてきています。チームを統括するアートディレクターやデザインリーダーは、これまで以上に社内外マネジメントの能力が求められるようになるでしょう。その際に気をつけるべきは、「自身のデザイン観を押しつけないこと」です。デザインは個性が出るので、それぞれの人のデザインの長所や感性をできるだけ尊重してあげることが重要になります。頭ごなしにメンバーのデザイン観を否定することは、良質なマネジメントではありません。

社内外問わず対応メンバーのデザイナーとしての個性を見つけ、その一番の理解者になることが求められます。デザイナーはフィードバックを通して実力をつけていくことができるので、理解者がすぐ近くにいると成長につながるはずです。そして、それはインハウスでもアウトソーシングでも共通する点でしょう。だからこそ、内製・外注のどちらの選択をしたとしても、きちんと対応メンバーに向き合うことがアートディレクターやデザインリーダーの務めと言えるのです。