こんにちは、CREATIVE VILLAGE編集部の澤田です。

12月16日(水)、17日(木)にFukushima Tech Create-ビジネスアイデア事業化プログラム-、第5回ワークショップが行われました。
ワークショップもいよいよ大詰め、最終回は皆さんのビジネスを応援してくれる味方を増やすためのコツを紹介します。

<DAY5の講師は…>
熊谷氏・プロフィールこんにちは、株式会社ツクリエ・熊谷です。
前回は皆さんのビジネスアイデアをパンフレットにまとめ、想定顧客へのヒアリングを通してニーズ検証することを宿題にしました。
今回は、ヒアリング結果を元にビジネスの各要素を見直すことでバリュープロポジションとビジネスモデルの練度をあげていくフェーズです。ステップ・バイ・ステップで蓄積していくというよりは、有機的に絡み合う各要素を1つ修正したらこっちも修正、というように改善を繰り返していきます。

ヒアリング結果を整理する

まずはパンフレットを用いて想定顧客にヒアリングした結果を整理しましょう。
ここでもっともらしいニーズや課題を拾いあげ、事業化に適した用途仮説をピックアップしていきます。情報の取捨選択の基準としては以下を参考にしてください。

  • アーリーアダプター(課題ありきで新しいものを欲している人)にヒアリングした情報を拾う
  • 事実に基づく情報(意見ではなく)を拾う
  • 自分にとって都合のいい情報だけを拾わない

情報を取捨選択したら、ニーズ仮説と合っていた/間違っていた部分の答え合わせをします。それからヒアリング相手の課題を聞き出せたかを確認しましょう。

仮説はあくまで仮説なので、間違っていたらどんどん修正していけばよいのです。用途仮説、想定顧客、ニーズ仮説、売上構造、競合、商流など、どこを修正するかはケース・バイ・ケースで異なります。
これがまさに仮説検証というフェーズです。どこが、なぜ間違っていたのかをよくよく考えていくと、新しい気付きが得られるかと思います。

プロダクトの市場と自社のポジションを最適化する

顧客群となるセグメントを識別する

市場規模について考えるうえで、まずはセグメンテーションという言葉を理解する必要があります。

  • セグメンテーションとは?
    不特定多数の人々を、属性や性質などで細分化して区別すること。
    市場を4つのセグメントに分割

ヒアリングである人が顧客になり得ると判明したら、その人と共通項をもつセグメントを識別します。なぜならそこには顧客がいると分かっているからですね。

識別したセグメントは、顧客像の一つの指標になります。
セグメントの中で特に自社が狙いたい対象を決めることをマーケティング用語でターゲティングといいます。

市場規模を最適化する

市場規模は、3つの指標ではかることができます。
市場規模を表す3つの指標の関係性

TAM(タム、Total Available Market)

獲得し得る最大の市場規模。
プロダクトの総需要を表し、どれだけ経営努力してもこれ以上は拡大できない。

SAM(サム、Serviceable Available Market)

自社でターゲティングした顧客セグメントの市場規模。

SOM(ソム、Serviceable Obtainable Market)

実際にアプローチして現実的に獲得できそうな市場規模。売上目標に近い指標。

これらの指標で市場の規模を確認していきます。
市場規模は利益額の見込みと関連しますから、小さいよりは大きい方がいいわけです。顧客の数は基本的に変わらないので、市場規模を広げるにはこちらが変わるしかありません。ビジネスを縦横に展開させることで、市場規模を広げていきます。

  • 用途のバリエーションを増やす
  • 別の顧客セグメントを狙う
  • 同じ顧客セグメント内でターゲットの幅を広げる
<質疑応答>
Q:
市場規模にTAM、SAM、SOM指標があることを初めて知りました。
ピッチ資料に載せるとしたらどれを載せるべきでしょうか?A:とにかく市場が大きいことを見せたい場合はTAM、現実路線でいきたい場合SAMがいいでしょう。場合によって2つ載せてもいいと思います。
SOMは少なくともピッチの段階で説明する必要はありません。商談など具体的な話になってきた際に「全体の市場規模のうち、実際に狙っているのは…」と説明しましょう。
ちなみに略語は分からない人もいるので、ピッチの中では基本的に使わないほうがいいです。

商流の最適化

商流については前回もお話しましたが、別の事例を踏まえつつ改めて商流の中でどのポジションを狙うかということをお話できればと思います。
商流を改めて見直して、最適なポジションと顧客が誰になるのか、顧客の関心事は何なのかを確認しましょう。

例えばiPhoneの商流を考えてみると、以下の図のようになります。ではここにアクセサリーケースを販売する第三者が合流するとしたら、どこに入るでしょうか。

iphoneの商流を図にすると
商流内のどこに入るかで、何をしていくべきかが全く変わってきます。
また子ども向けおもちゃのように実際に使う最終ユーザーとお金の出し手が違う場合、開発ターゲットとマーケティングのターゲットが変わります。

ポジショニング

次に、自社の強みと競合との関係性を踏まえて市場における立ち位置を考えます。
顧客から見て自社プロダクトが独自のポジションで価値提供していることが伝わるように戦略を立てることポジショニングといいます。
これを考えることがすなわち、競合との差別化を考えることに繋がります。
ポジショニングの例
ポジショニングにはいろいろな軸がありますが、例えば図のように機能性の高低・価格の高低で分けてみます。図示することで「機能性も価格もそこそこのところには競合がいないので、自社はここを狙う」といった戦略が明らかになりますね。
このような戦略はビジネスの失敗率を下げるだけでなく、他人を説得する際にも非常に有効です。

ただし、機能性が低くて価格が高いところはどんなに競合がいなくても狙わないように。機能性低くて高いものって、多分誰も買わないですよね。

セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの関係性

各項目の関係性
まず市場を細かく分けて(セグメンテーション)、その中でどこを狙うか決めます(ターゲティング)。
そして同じセグメントを狙っている競合の中で、自社の立ち位置をどこにするかを決めていきます(ポジショニング)。

ここまでマーケティング的な視点で、市場における顧客や競合との関係性を最適化するポイントをお伝えしてきました。ここからはビジネスに必要な環境づくりについて解説していきます。

パートナー

事業開始当初は特に自社でできることが限られ、パートナーとの連携が非常に重要です。
足りないリソースを補完したり、同じようなセグメントに一緒に販売することで相乗効果を生む商材を拡充したりすることで事業の成長をスピードアップしていきます。

戦略的提携、共同事業開発、代理店、サプライヤー、Webチャネルなど、パートナーのタイプはいろいろあります。ここでは代表的な2つについて解説していきます。

仕入れ先とのパートナー関係(サプライチェーン)

必要物資の供給が滞るリスクを分散するために多様な仕入れ先を確保しておきます。
今はサプライチェーンが国際化しています。
今年の春頃はコロナの影響で中国の工場がほとんど止まってしまいました。中国に工場をもつ企業の生産にも大きな影響があり、それを受けて東南アジアに工場を移管する流れが起こりました。
国内企業に限る場合でも、1社依存は非常にリスクが大きいので分散させておくことが大事です。

代理店とのパートナー関係

全顧客に対して直販できるわけではないので、複数の代理店と繋がり一緒に売っていきましょう。そうすることで販売ルートを複数持ったり、エリアを分散させたりすることができます。

パートナーとの関係において大事なのは、自社のバリュープロポジションを棄損しないかというところです。パートナーと補完し合う関係ができるか、きれいに線引きできるかということをぜひ意識してください。

売上とコストの最適化

次に売上とコストです。前回お伝えしたことの繰り返しになりますが、ビジネスモデルは売上構造とコスト構造からできると言っても差し支えありません。

売上構造は販売モデルとプライシングによって、販売モデルは売り方と課金モデルによって決まります。コストについては、バリュープロポジションを提供するために一番重要なコストは何かを考えましょう。ビジネスモデルに応じて、重要なコストは変わります。

皆さまのビジネスアイデアに、どういう売り方とコストがあるかを改めて見直していただければと思います。

チーム

創業者の方は皆さん優秀ですが、当然ながら全てのことを1人でできるわけがありません。知識、経験、かけられる時間、あらゆる面で限界はあり、どうしてもすぐに行き詰まってしまいます。精神的にもあまりよろしくないですね。ですからチームはとても重要です。

チームを組織するうえで覚えておいてほしいのは、第三者からの信用を勝ちとるには「なぜその事業を、そのチームでできるのか」に納得感・安心感がないといけないということです。ある人は技術担当、別の人はビジネス担当というように、ここでも役割分担を意識しながらバランスの良いチームを組織していきましょう。

代表的な組織体制としては次のようになります。
組織体制の例

また採用において役割分担と同じくらい重要なのが、雇用のタイミングです。
会社の成長に伴って、なるべく優秀な人を、必要なタイミングで採用していけることが理想です。これは実際やってみると思い通りにいかないことも多いですが、頭の片隅に置いておいて頂ければと思います。

ピッチの前に改めて考えておきたい、事業の「不確実性」との向き合い方

ここからちょっと話題を変えて、事業化していく上での不確実性ということについてお伝えしておかなければならないと思っています。
技術に対する期待度や採用度をグラフ化したハイプ・サイクルという図をご存知でしょうか。

ガートナー ジャパン株式会社が発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」
ガートナー ジャパン株式会社が発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」
出典:https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20200910

今は注目されている技術でもだんだんと期待度が落ちてきて、これでいけるのか/いけないのかとなる場面は、必然的に付いてきます。今日事業を始めたら明日から売れるというものではないため、2年後、3年後、5年後を考えなければいけません。

ですが、未来は読めません。去年の今頃、コロナの流行によってこれだけ世界の構造が変わることを予想できた人なんてほぼいなかったでしょうから。

事業化の失敗率を下げるツールは増えてきていますし、支援体制も整ってきています。コロナ禍でもお金は動いています。
それでも会社勤めより圧倒的に苦難の道ですし、将来の保障は全くありません。

やり遂げられるかどうかは、ほぼ根性論です。市場が落ちたとしてもやるしかない。やってみないと分からない予測不能なことが、日常茶飯事でよく起こります。

一方でやり遂げたときには会社勤めでは絶対に得られないものが得られるわくわく感はあります。

ちょっとネガティブな側面も踏まえて、それでも事業化するかというところを一度考えていただきたいと思います。

ピッチやプレゼンのテクニック

では、ワークの締めくくりとしてピッチやプレゼンののコツをお伝えしていきたいと思います。
まず覚えておいてほしいことは、ピッチ=商談ではありません。ピッチは相手に「もっと話を聞いてみたい」と興味をもって頂き、アクションを引き出して商談に結びつけるためにするものです。

ですからピッチも、相手がいることありきの「対話」です。一方的に伝えるだけではなくて、相手に理解・共感してもらうためにするのだということをちょっと念頭においてみてください。

プレゼンテクニック:話し方、振る舞い編

  • 聴衆の目を見る
    スクリーンやメモは極力見ないことが原則です。
  • 大きい声で、ゆっくり、はきはきと話す
    会場内で自分から一番遠いところに座っている人に向かって話すと、会場全体にちょうど良いトーンで広がります。
  • 台本に感情を乗せ、アドリブできるぐらい練習する
    自分のプレゼンを1度書き出してみると、内容が「自分の言葉」で理解できるようになります。そうなると多少のアクシデントには動じず対応できるでしょう。
  • 時間厳守
    例えば「そこに置いてあるペットボトルを見たら、声量やスピードをリセットする」という決まりを設けて自分でタイムキープする方法もあります。

プレゼンテクニック:資料編

  • 文字は大きく、30pt以上に設定
  • 1枚のスライドにトピックは1つ
    多くても二つまでには絞りましょう。
  • 「ご清聴ありがとうございました」のスライドで終わらない
    ピッチの最後のスライドは聴衆の印象に残るので、聴衆に起こしてもらいたいアクションや皆さんが一番伝えたいことを書きます。

プレゼンテクニック:構成編

  • ニーズ仮説と想定顧客、用途仮説、顧客が受け取る価値と価格、競合比較を基本とする
  • +α盛り込むとしたら、市場規模、ビジネスモデル、チーム、他伝えたいことなどを適宜
    制限時間に合わせてボリュームを調整しましょう。

プレゼンは、自分のために与えられた時間と空間です。
その時間と空間を自分がどうやってプロデュースしようか、何で聞いている人たちに楽しんでもらおうか、わくわく・ドキドキさせるために何を届けようかという考えで臨むといいプレゼンになるのかなと思います。

ワークショップはこれにて終了です。皆さんのアイデアが多くの人に伝わり、ビジネスが次に繋がるよう応援しております!

Fukushima Tech Create-ビジネスアイデア事業化プログラム-とは?
東日本大震災によって失われた地域の産業復興を目指す「福島イノベーションコースト構想」内のプログラム。独自技術を用いた起業や新規ビジネス創出にチャレンジする企業・個人をワークショップやメンター制度を提供している。

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