「一億総クリエイター時代」とも言われている現代。
コンテンツやクリエイターの質が問われる中で若手クリエイターに必要なスキルの一つは「自己紹介の仕方」だと『「いつでも転職できる」を武器にする』著者の松本利明氏は指摘します。
この記事では人事・戦略コンサルタント松本利明氏とクリエイターのキャリア支援を行うクリーク・アンド・リバー社から”クリエイターのための”キャリアアップスキルについてご紹介します。第一回のテーマは「クリエイターの自己紹介」。
皆さんが初めて仕事をする相手や転職面談時になんとなくこなしている「自己紹介」のポイントをまとめてご紹介します。
はじめに
こんにちは、私が松本利明です。人事・戦略のコンサルタントをしています。PwC,マーサー、アクセンチュアなどの大手外資系コンサルティング会社で600社以上の働き方と人事の改革を行ってきました。
メディア・エンターテーメント系のクリエイターの方々と関わる機会も多いのですが、共通して「もったいないな!」と感じることがあります。それは自分を売り込むときの「自己紹介の仕方」です。
どのクリエイターも同じような自己紹介をしてきます。例をあげてみましょう。
『ライターの〇〇〇〇です。キャリアに関する記事を書いています。実績は・・・』
というように、自己紹介で伝えるのは、職種名、仕事の分野、実績のみ。実績のデザインや制作物といった作品のサンプルも添えてあるケースもありますが、これだけでは仕事の幅は広がりません。
仕事の声がかかるのは、たまたま、同じ仕事の分野で依頼できるクリエイターを探している場合ではないでしょうか。自分の名前と実績だけで高額のオファーが複数飛び込むのは極一部の著名なクリエイターだけです。残念ながらほとんどのフリーランスクリエイターは仕事のリピートと知人による紹介で食つないでいるのが現状で、仕事の単価も中々上がらず苦しんでいる姿を見かけます。
このようなクリエイターの方々から5万人のリストラと6500名以上のリーダーの選抜と育成をしてきた視点から、キャリアの相談をよく受けます。ご安心ください。
一人前以上のクオリティーを出せるクリエイターであれば自分らしく活躍し、稼げるようになることは可能です。ただ、クリエイターとして頂点を目指す以外のキャリアの考え方や方法を教わってこなかっただけです。早速解説しましょう。
クリエイターの「こだわり」は意外と伝わらない
クリエイターは自分の仕事のクオリティーにこだわります。神は細部に宿ることを知っているし、作品=自分の分身だからです。しかし、ここに罠があります。
クリエイティブを目にする生活者は、クリエイターがこだわるクオリティーに気付けないのです。例をみてみましょう。次の3つの経理の入門書のうち、どれが一番印象に残りますか?
B:「超経理入門」
C:「経理の基本」
ぱっと目に飛び込んできて、これだ!とはならないですよね。
どれも似たような印象であるため、好みや意見はわかれるでしょう。
次にDを加えてみましょう。
B:「超経理入門」
C:「経理の基本」
D:「ドラえもんが教える、のび太君でもわかる経理」
Dの「ドラえもんが教える、のび太君でもわかる経理」は他の入門書と比較してオリジナリティがあるため、強く印象に残るのではないでしょうか。このように多くのクリエイターはA~Cのような些細な違いしか打ち出せず、クリエイティブに触れる生活者はその魅力に気付けないのです。
残酷ですが、作品のコンペティションでない限り、選ぶのは日常生活でクリエイティブに触れている「生活者」であり、クリエイターではありません。
そのため、クリエイティブの専門的な知識はもっていないことが多いでしょう。だからといって制作背景をわかりやすく説明しようとしても、クリエイターではない相手に「素人相手に説得しようとしている」という印象を持たれかねません。
では、どうすれば、あなたの作品の価値を理解してもらえるのでしょうか。
自己紹介に「1つの要素」をプラスすれば解決するのです。
効果的な自己紹介の仕方
自己紹介を「過去」「現在」「未来」で語ればいいのです。
現在:今どんな仕事をしているか(現在の役割)
未来:過去、現在を踏まえて、相手にどんな価値を提供できるか(提供価値)
過去と現在は普段の自己紹介でも伝えるでしょう。
「未来」の伝え方
一つ目のポイントは「未来」の伝え方です。目の前の相手に自分がどう役に立てるかを1行程度で伝えることです。なぜなら、人は自分に関係することに一番興味があるからです。自分にメリットを与えてくれる人はその他の同業クリエイターと比較して覚えてもらいやすいのです。
時系列ごとに自分を説明する
2つ目のポイントは「過去」「現在」「未来」(あなたにどんな価値を提供できるか)をセットにして伝えることです。なぜなら、相手は「過去」の実績だけなら「自慢話をしてくる嫌な人」と受け取られる場合も考えられるからです。「現在」だけなら現在の役割しかわからず、その他大勢のクリエイターと差別化されることは難しいでしょう。「未来」だけなら、「いいこと言うけど、怪しい人?」と信じて貰えません。
今どんな仕事をしていて、その裏づけや根拠となる実績を示すことで安心してもらえ、その上で、どんな価値を提供できるかの約束を伝えて、はじめて相手は納得できるのです。
私もこの記事の冒頭では「過去」「現在」「未来」(あなたにどんな価値を提供できるか)の順番で書いています。過去と現在を語ることで安心して「未来」を信じて貰えるようになるのです。当然、未来は相手によって変えます。
相手のニーズを考えて伝える
私の場合、過去と現在は同じでも、若い人向けなら「AI時代になっても自分らしく活躍できるキャリアや働き方を若い人に伝え、支援していきたい。」、アラフォー以上なら「人生100年時代に40代から逆転し、ラクに確実に活躍できるキャリアの見せ方をお伝えできます。」と相手の興味がありそうな仮説で未来を語ります。
この時の仮説が相手に完全に共感されなくてもかまいません。わからない状況でも「相手の立場になって真剣に考えて伝えたこと」は100%の当たりでなくても相手の思考の琴線に触れます。琴線に触れたら相手も本音で考え、逆にこういうことはできないかと答えてくれます。そのやり取りを3回行えば、確実の相手の心を捉えることができると私の親戚の元三井物産の池田正雄副社長もおっしゃっていました。
まとめ
自分の仕事や実績で「選んでもらおう」とすると有名人に負けるか、その他大勢の一人です。
相手の課題を考え「自分のスキルはどのように役に立ちそうか」を一言加えてみてください。
その他大勢から抜け出し、効率的に新規の仕事を獲得できるだけでなく、「私の仕事はこんな観点からも役に立てるのだ!」と自分の仕事の価値に気付けるのでお勧めです。