近年、経済成長が鈍化しがちな日本社会では、労働力不足が問題視されているだけに、産休・育休明けの女性による社会での活躍が望まれています。しかし一方で、仕事と子育てを両立するワーママの中には、昇進や昇格とは縁遠いキャリアコースに乗ってしまう、いわゆる「マミートラック」という状況に陥る方も多いでしょう。
まだワーママが働きやすい環境が整っているとは言えない昨今、マミートラックと呼ばれる状況を打破するためには、どのような対策が必要なのでしょうか。今回はワーママを取り巻く現状を踏まえ、マミートラックの概要や具体的な対策について解説します。
ワーママを取り巻く現状は決して楽観的ではない
マミートラックに陥るワーママが増える背景には、厳しい労働環境があります。現在、ワーママを取り巻く労働環境がどのような状況なのか確認しておきましょう。
女性の正規雇用割合は依然低い状況
男女雇用機会均等法や働き方改革の推進などもあり、日本における女性の社会進出・復帰に関しては以前よりも良い水準にはなっています。しかし、女性の正規雇用率のピークは20代後半であり、そこから右肩下がりになる「L字カーブ」の現象が顕著です。
「働きざかり」の30代前半の正規雇用率は全体の約4割であり、「子育てをしながら働けたとしても、正社員の女性は少数派」とも言えるでしょう。したがって、ワーママが安定して働ける割合は、あまり多くないのが現状です。
母子世帯の貧困も大きな社会課題
現在、母子世帯の割合は10%以上もあり、貧困問題の温床となっています。諸外国に比べ、日本における女性の正規雇用率は非常に低い状況です。さらに毎年少しずつ、非正規雇用の女性が増え続けています。一度、非正規雇用で働きはじめると、学びなおしの時間を捻出しづらくなるため、貧困から抜け出すことが困難になるでしょう。
この状況を打開しようと動いた政府は2013年以降、同一労働賃金の励行をすすめ、2020年には不本意非正規雇用の女性が54万人減少し、正規雇用は164万人増加。その結果、出産・育児期に女性の就業率が減少する「M字カーブ」が緩和され、L字カーブも緩和されました。しかし、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響により、女性の非正規雇用率が再び上昇してしまっている状況です。さらに、離職後に非正規雇用から正規雇用に移るハードルは非常に高いため、マミートラックを回避するための改善が求められます。
働く女性が直面しがちな「マミートラック」とは
マミートラックという言葉は、まだそれほど広く浸透していないため、どのような意味なのか分からない方も多いでしょう。ここでは、マミートラックがどのようなものなのか、事例も交えて解説します。
出世できない?!マミートラックとはどのような状況なのか
マミートラックとは、産休・育休から復帰した女性が、比較的責任の軽い仕事の担当を割り当てられたり、昇進・出世コースから外れたりする状況を指します。
本当はキャリア志向があるにも関わらず、会社側からそうした出世街道のポジションに就かせてもらえない、女性の抱えるジレンマが問題視されている状況です。会社側としてもフォローを誤れば、モチベーション低下や退職者の増加につながりかねない由々しき問題だと言えるでしょう。
したがって、産休・育休後のワーママの仕事環境の整備は急務な課題です。
マミートラックの具体事例
マミートラックの事例として挙げられるのは、産休後に時短勤務になることをきっかけに業務内容が変わることです。たとえば、産休前は重要な業務を任せられていたにもかかわらず、時短勤務になった途端、資料作成などのバックオフィス業務ばかり任されることがあります。周囲のスタッフが「産後だから大変でしょう」と気を遣った結果、あえてアシスタント的な業務ばかりアサインされるケースも多いようです。もちろん、本人の希望であれば問題ありませんが、そうでない場合も多くあります。
また、時短勤務になることで、早朝や夕方以降のMTGに参加できなくなるため、社内外のスタッフとのコミュニケーションがとりづらくなり、責務を全うできないと自ら役職を辞退する方がいることも、マミートラックに陥る1つの要因です。さらに、中には育児と仕事を両立できず、自分らしく働けないことを理由に辞職してしまうケースも散見されます。
その結果、派遣やパートなど非正規雇用を繰り返しがちになり、正規雇用への道が険しくなることでキャリア形成が困難になることが大きな問題です。
マミートラックの有効な対策は環境と就労条件の変更
マミートラックのある会社において、現状を打破することは容易ではありません。ワーママが実行できるマミートラックの有効な対策を紹介します。
マミートラック対策の基本は現状を変えること
マミートラックの現状に苦しみながらも、必死に仕事と育児の両立に向き合っているワーママも少なくありません。しかし、現状を我慢して頑張っていても必ず報われるわけではないので、マミートラック対策は「既存の状況を変えること」だと言えるでしょう。
たとえば、会社から与えられた仕事をこなすだけでなく、自分で仕事を作ることも大切です。業務フローの課題をみつけて改善策を提案したり、新規事業やサービスのアイデアを検討して提案したりすることで評価されれば、新しい仕事に従事できるかもしれません。周囲へ仕事に対する姿勢もアピールできるため、やりがいのある仕事を任せられる可能性も高くなります。
また、将来のキャリアプランを、会社側へ伝えておくことも重要です。よかれと思って業務内容を調整してくれているケースもあるため、キャリアアップへの意気込みをみせておくことで、重要な仕事を任せやすくなるでしょう。
一方、副業を行うことで収入を補填するという方法もあります。ただし、スキルを身につけるために、本業や日常生活に影響が出ないように注意しなくてはいけません。
転職や時短勤務が最善の対策
マミートラックがある会社の場合、組織の仕組みごと変える必要があります。しかし、一人のワーカーの働き掛けだけでは、実現することが難しいでしょう。
子育てと仕事の成果を両立するうえでの代案としては、環境や就労条件を変更することが挙げられます。つまり、「転職」「時短勤務」が最たる対処法です。ワーママが働く環境に理解のある会社へ転職するか、時短勤務の制限のある働き方で自身の役割を明確化するといった対策が、マミートラックにはもっとも有効だと言えます。
マミートラックを自分だけで解決できるケースは少ない
【マミートラック対策 時短勤務のまとめ】
- ワーママが安定して働ける割合はあまり多くない
- 産休・育休後におけるワーママの仕事環境整備が急務
- マミートラックの最たる対策は「既存の状況を変えること」
近年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、不本意な非正規雇用の女性が増加傾向です。マミートラックのある会社で働くワーママはキャリアアップが難しくなり、最悪の場合、貧困に陥ることもあります。そのため、産休・育休後におけるワーママの仕事環境整備は急務な課題と言えるでしょう。
マミートラックの最たる対策は、既存の状況を変えることです。自身で仕事を作る活動や、キャリアプランについて会社へ説明しておくことで、状況を打破できる可能性があります。しかし、一人のワーカーで会社組織を変えることは容易ではありません。したがって、転職や時短勤務という手段を使って、既存の状況を変える方法があることも忘れないようにしましょう。