2022年の女性活躍推進法の改定や日本政府による「一億総活躍社会」の提言がなされるなど、人口減少が顕著な日本社会において、労働人口の確保は死活問題だと言えます。しかし、子育てや介護と両立してフルタイムで働くことは容易ではなく、ワークライフバランスに悩んでいる家庭もあるでしょう。そうした事態を緩和する意味でも、上手に活用すべきが「短時間勤務制度」です。
いわゆる「時短勤務」と言われる制度であり、雇用形態を変更することなく1日あたりの労働時間を通常よりも少なくできます。子育てや介護で忙しいながらも、「仕事もきちんとこなしたい」という方には、両立を実現する画期的な制度なのです。ただ、時短勤務が適用になるのはどのくらいの期間なのかなどの条件を詳しく把握できていない方もいるでしょう。制度利用を検討している方に向けて、時短勤務の基本を紹介します。
時短勤務とは
時短勤務とは、労使間で定められた1日の労働時間よりも短時間労働になる勤務形態です。正式には「短時間勤務制度」として、育児・介護休業法によって定められています。たとえば、1日8時間の所定労働時間だとしたら、6時間に短縮したり、出勤・退勤時間を変更したり、フレックスタイム制を導入したりするなどが挙げられます。2009年の育児・介護休業法の改正によって、各事業主には時短勤務制度の導入が義務づけられています。
時短勤務の法律上の扱いとは
前述のように時短勤務は、育児・介護休業法で定められています。そのため、従業員から申し出があれば、1日の所定労働時間を短縮することができます。時短勤務を望む理由が育児か介護かによって細かい規定は変わりますが、労働者が請求した場合に利用できる制度なので、ご自身の家庭環境や仕事状況を踏まえて活用を検討しましょう。子育ての場合と介護の場合の違いについても紹介します。
子育ての場合
事業を営む使用者であれば、3歳未満の子供を育てる労働者に対して、次のいずれかの措置を設けることが義務付けられています。もちろん、権利を行使するのは労働者自身ではありますが、ワークライフバランスを踏まえて選択肢を提示できるようにする必要性があるのです。
(2)フレックスタイム制度
(3)始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ
(4)所定外労働(いわゆる残業)をさせない制度
(5)託児所の設置やそれに準ずる便宜の供与
なお、1歳以上の子供を養育する労働者で、1歳6か月までの育児休業の対象でない労働者については、上記の措置のかわりに育児休業制度に準ずる措置を講じても差し支えありません。それは家庭環境を踏まえて労働者自身が選択します。また、使用者側は、3歳から小学校就学の始期に達するまでの子供を持つ労働者に対し、育児休業制度に準ずる措置、または上記(1)~(5)の措置のいずれかを講ずることが努力義務となっています。
参考:厚生労働省「短時間勤務の制度【1日の所定労働時間を短縮する制度】」
(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/pamph/dl/03_0002.pdf)
介護の場合
要介護状態の家族のいる労働者に対して、次のいずれかの措置を設けることが使用者に義務づけられています。(1)~(3)は子育ての場合と内容的には同じであり、適用の条件や期間などが異なります。
(2)フレックスタイム制度
(3)始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ
(4)労働者が利用する介護サービスの費用の助成やそれに準ずる制度
日数は、対象家族1人につき、要介護状態に至るごとに1回、通算93日までの期間で労働者が申 し出た期間です。 使用者側は勤務時間の短縮等の措置を講じた場合、介護休業等日数に算入されること及び措置を講じた期間の初日を労働者に明示することが望まれます。家族の介護を必要とする労働者に対し、介護を必要とする期間・回数等に配慮して上記(1)~(4)のいずれかの措置を講ずることが使用者の努力義務です。
参考:厚生労働省「短時間勤務の制度【1日の所定労働時間を短縮する制度】」
(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/pamph/dl/03_0002.pdf)
時短勤務の対象外となる場合
すべての企業で、短時間勤務制度かそれに代替できる制度を導入する必要がありますが、すべての労働者が時短勤務の対象になるとは限らない点にも注意が必要です。下記に該当する方は時短勤務の対象外となるので、条件をあらかじめ確認しておきましょう。
(2)1週間の所定労働日数が2日以下の場合
(3)時短勤務の適用が困難と認められる業務に従事している場合
時短勤務のルールや法律についての詳細は、関連記事「【専門家監修】時短勤務(短時間勤務)は法律でどのように定められている?」をご覧ください。
時短勤務はいつまで続けられる?
時短勤務は労働者の請求により取得できる制度ですが、ずっと続けられるわけではありません。制度の利用可能期間についてきちんと把握しておくことが大切です。注意すべきは、時短勤務をする理由が子育てと介護の場合でその条件や内容が異なるので、それぞれのケースの違いを説明します。
子育ての場合
3歳未満の子供を育てる労働者に対して時短勤務の適用が認められています。その条件としては、「子供が3歳になる誕生日の前日まで」が前提です。3歳未満に関しては企業が制度として導入するのは義務になります。一方、企業によっては3歳~小学校就学前のお子さんがいる場合でも時短勤務を認めるケースもあるでしょう。ただし、3歳~小学校就学までのお子さんについては、企業にとっても制度導入が努力義務に該当するため、どの企業でも時短勤務が適用できるとは限らない点に注意しましょう。
▼時短勤務制度の導入
3歳未満:企業の制度導入は義務
3歳~小学校就学まで:企業の制度導入は努力義務
参考:厚生労働省「短時間勤務の制度【1日の所定労働時間を短縮する制度】」
(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/pamph/dl/03_0002.pdf)
介護の場合
家族の介護の場合、取得した日から連続する3年以上の期間で時短勤務が認められています。また、2回以上利用できることも法律で定められています。育児による取得と同様に、労働時間の短縮やフレックスタイム制度の利用、出勤退勤時刻の調整などの措置を受けることが可能です。なお、時短勤務の途中に介護休業を取得するなど、休業制度と組み合わせながら利用することも認められています。
参考:厚生労働省「短時間勤務の制度【1日の所定労働時間を短縮する制度】」
(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/pamph/dl/03_0002.pdf)
いつまで認められる?時短勤務の平均期間
参考:「令和3年度雇用均等基本調査」の結果概要 – 厚生労働省
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf)
育児を例にした場合、法律上では事業主に対し、労働者の子供が3歳未満のうちは、時短勤務の請求があれば認める義務を課しています。それ以上の年齢のお子さんについては、あくまでも企業の努力義務なので明確な取得期間の基準はありません。厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度がある事業所の割合は73.2%でした。
最長利用可能期間に関しては、「3歳未満」がもっとも高く 38.1%。次いで「小学校就学の始期に達するまで」が 22.0%、「小学校卒業以降も利用可能」は19.5%でした。「小学校就学の始期に達するまで及び小学校入学以降も対象」としている事業所割合は55.5%ということもあり、努力義務ながらお子さんが小学校の間は時短勤務を認めている企業が多いことが分かります。
時短勤務からフルタイムに戻すタイミングを見極めるには
育児や介護がある程度落ち着いてきた際などに、「フルタイムに戻りたい」と考えるタイミングが出てくるでしょう。時短勤務が認められている期間内であれば、基本的には任意のタイミングで戻せますが、家庭環境などを踏まえてフルタイムに戻す際は十分に検討することをおすすめします。
子育ての場合
子育て中に時短勤務からフルタイムに戻す際は、自身の体調や子育ての状況などを冷静に見極めてから判断することをおすすめします。たとえば、6時間から8時間に労働時間が増えるだけでも、負担や仕事量は多くなります。フルタイムに戻ることで育児に関われる時間は減ってしまうため、配偶者や親族が協力体制にあるかどうかも重要なポイントです。
さらに、保育園や幼稚園にいつから入れるのか、フルタイム勤務が終わるまで延長保育ができるのかも忘れずに確認しましょう。時短勤務からフルタイムに戻ることで給与は増額になるものの、社会保険料などの出費も同様に増えます。時短勤務中は、手続きをすれば健康保険や厚生年金の支払いを減額できるため、場合によってはフルタイムに戻っても期待したほど給与が増えないケースもあるでしょう。保育園や幼稚園に預ける時間が長引けば、その分余計に保育料がかかることもあります。
実際に時短勤務を利用して、仕事に復帰したママさんの体験をインタビューしています。
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介護の場合
介護による時短勤務の場合は、自分の意志というよりも介護する家族の状態によってフルタイムに戻れるかどうかが変わります。状態が良くなったり、他に介護してくれる親族が見つかったりするなど、自分が付きっきりになる必要がなくなれば、フルタイムに戻れる可能性は高まります。介護施設などに入居させる予定であれば、確実に入居できる時期を確認したうえで検討しましょう。
時短勤務は会社ごとに細かいルールがある場合も
時短勤務は、法律で定められている制度です。ただし、制度を運用するのは企業なので、細かいルールについては企業の就業規則で定められているケースもあるので注意しましょう。たとえば、労働時間の短縮という基本的な措置以外に、出勤退勤時刻の調整などさまざまな代替措置を講じている企業も存在します。どういう形で適用できるのかを事前に会社に確認することも大切です。
短時間勤務制度の代替措置として利用されることが多いのが、日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる「フレックスタイム制度」です。フレックスタイム制度では一定期間での労働時間が十分にあれば問題ないとされています。そのため、保育園への送り迎えや急に体調を崩して病院に連れていく場合でも、用事を済ませてから出社すれば問題ありません。
子供がある程度大きくなって、手が離れるようになれば、時短勤務制度からフレックスタイム制度に切り替えるのも1つの手でしょう。フレックスタイム制度は短時間勤務制度とは異なり、すべての企業が導入しているわけではありません。利用したい場合は、自分自身で就業規則を細かくチェックしたうえで、会社に希望を伝えることが大切です。
ご自身やご家族のライフスタイルを吟味したうえで制度の利用を
【時短勤務 いつまで 条件のまとめ】
- 子育てにおける時短勤務は3歳まで、ただ企業によっては延長が認められていることも
- 時短勤務からフルタイム勤務に戻す時のジャッジは慎重に
- 制度の利用はご自身やご家族の状況を踏まえて総合的な判断を
時短勤務の制度の目的は、子育てや介護の必要性がある労働者が仕事と両立しやすくするためです。そのため、無理に時短勤務にする必要はなく、ご自身やご家族のライフスタイルを吟味したうえで制度の利用を検討することが重要になります。
雇用形態を変更せずに仕事の負担を軽減できる点では非常に有益な制度ですが、「フルタイムでバリバリ働いて昇格・昇給を目指したい」という方の場合などは、必要な期間だけ活用するなども選択の自由と言えるでしょう。時短勤務を有効活用して、ライフワークバランスを高めることを意識しましょう。