「サービスグラント」というしくみをつくりだしたサンフランシスコのタップルートファウンデーションと、そこがサービスグラントの提供を通じて支援したNPOを訪問してから日本に帰国したのが2004年5月のこと。

しばらくは、当時連載を担当していた「ソトコト」に、タップルートの活動とサービスグラントの魅力を紹介する記事を書いていくことにしました。頭で考えていることを文字にしていくことで、サービスグラントのどこがどういいのか、何がポイントなのかなどについて、自分の中でも整理されていくという、貴重なプロセスを経験することができました。

前にも紹介したかもしれませんが、当時、自分は日本総研という会社に勤めており、研究員という肩書き、コンサルタントという職業についていたので、ある程度コンサルティングという世界をかじっていたわけですが、同時に、特に自分のクライアントは官公庁が多かったということも関係しているのかもしれませんが、コンサルティングをすることのもどかしさを感じてもいる時期でした。

なにしろ、コンサルタントは、いつまでたってもコンサルタントの立場であって、最終的な実行をするのはクライアントである、ということなのです。至極当たり前のことかもしれませんが、いくらいいアイデアを出しても、また、報告書の完成度を高めても、それを利用するかしないか、あるいは、妙なかたちで利用してしまうかどうか、といったことは、すべてクライアントに委ねられているのです。

それと同時に、2001年にアースデイマネーを立ち上げ、NPO法人化してその運営にも取り組んでいた状況も、2004年当時、なんとなく重たいものになってきていました。みんな、立ち上げのときは楽しいからたくさんの人が集まって、ワイワイと盛り上がるのです。でも、継続しなければ、また、日ごろの地味な作業や細かい改善を積み重ねていかなければ、アースデイマネーのようなしくみは持たないのだということも感じていました。

しかし、地味な作業や細かい改善は、立ち上げのときほどワイワイ盛り上がれるものでもないし、それだけ、人が集まるものでもないのです。でも、これをやらなければ、あれもやらなければ、という課題は日々募っていきます。アイデアは100もあるけれども、実行できるのは5か10ぐらい。これがNPOなんだな、ということを肌身に感じていました。

一方でコンサルタント、一方でNPOの運営当事者。この両極の立場を同時に経験して、それぞれのもどかしさを感じている中で、サービスグラントは新鮮なソリューションを提供してくれるものでした。

コンサルタントとしても参加できる、でも、最終的な成果物まで提供できるということで、単に知恵や情報だけを提供するという以上に一貫したサポートができる、ということ。一方、NPOにとってみれば、アイデアは形にするまでに長い道のりがあることを、身をもって感じているわけで、であればむしろ、具体的な成果物を、一緒に手を動かして提供してくれるサポートほど嬉しいものはない。

よくよく考えてみれば、NPOにとって、特に日本の大半のNPOがそうであるように、規模が小さい団体にとっては、コンサルティングだけのサポートでは、あまり効果がない可能性が高いのです。むしろ、最終的な成果物の生産まで責任を持ってやってあげる、ということが、NPOにとっては喉から手が出るほど欲しいサポートなのではないか、ということを、いよいよ確信するようになりました。

NPOにとって、広報や情報発信は本当に重要なことだと認識しているけれども、目先でやらなければいけない実務もあるし、そもそもそのスキルやノウハウが足りていない、という中で、WEBやパンフレットを最後まで制作してもらえるのは本当に助かる。コンサルティングなどの知恵や情報だけでは、お蔵入りしてしまう可能性が大きいけれども、それに対して、クリエイティブというのは、最終的な成果物まで提供できるだけ、具体的でパワフルなサポートになる。

どうやら、サービスグラントというアプローチ、可能性がありそうだ、という確信に近いものが自分の中で高まってきました。

そんな折、連載をしていた「ソトコト」の編集者の方から連絡がありました。
「ソトコト」が、その年の秋ごろから、丸の内に「ソトコトLOHAS KITCHEN & BAR」というお店を開いていたのですが、そのお店をつかって、NPOに関するイベントをやってみないか、というお誘いをいただいたのです。

渋谷ならアースデイマネーのイベントになるところでしたが、ここは丸の内。アースデイマネーではない気がする。はて、どうしよう、と思っていた中で、「そういえば!」と、思いつきました。

 

「サービスグラントの連載をしているわけですから、サービスグラント、実験的にでも、始めてみましょうか?」

実に、この打ち合わせがきっかけで、サービスグラントは、誌上の一コンテンツから、現実の社会に飛び出すことになったのです。

本当に、偶発的に、そうなったということなのです。でも、丸の内から渋谷に戻る山手線の中で、さっそくプレゼンの資料を作り始めたのを覚えています。何か突き動かされるものがあったのでしょう。

そういえば、タップルートのアーロンから言われたことがあります。

 

「最初は小さく産んで育てたらいい」

そこで、まずは3件のプロジェクトから、試行錯誤でスタートしてみることにしました。

■サービスグラント