著作権に関する話題が絶えない昨今。さまざまな著作権侵害の疑いのあるニュースを目にする度に、「それって侵害に当たるの!?」と驚くことも少なからずあるのではないでしょうか。
当サイトでもこれまでに著作権の話題を記事にしてきましたが、
断片的な情報発信ではなく、イチから著作権法について学ぶ機会を設けたいと考え、
連載コラムとしてスタートすることになりました。
第1回目は、まずは著作権とはいったい何かということを、その“存在意義”から紐解いて考えてみます。
はじめに
はじめまして。行政書士の遠藤です。
この度、著作権に関する話題をコラムとして連載することになりました。
どうぞよろしくお願いします。
私は、東京スカイツリーで賑わう東京都墨田区にある錦糸町という街に行政書士(兼・ウェブ制作)事務所を構えています。
「行政書士ってどんな仕事をするの?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、簡単に言うと、裁判所や法務局、税務署に提出するものや社会保険・労働保険関係“以外”の書類の作成とその相談に応ずることが職務となっており、権利義務・事実証明に関する書類として契約書や著作権登録書類を作成することができます。
ではなぜ私は「著作権」を専門としているのか。
それは、高校卒業後に音楽専門学校に入学し、その後マニピュレーターや作編曲家として、あるいはウェブデザイナーとして、今日までずっとコンテンツの創作と利用に関する仕事に関わってきている中で、著作権というものの存在を非常に重要だと考え、そして、大きな問題があると考えているためです。
その問題とは、一部の大学や専門学校などを除き、学校や社会・会社で著作権について教えてくれるところはほとんど無く、私たちは詳細を知らないまま日々著作物を扱っているという現実です。
近年の著作権トラブルでも、この“知らない”ことに起因しているケースは少なくないと感じています。
こうした思いから、自ら情報発信もしていこうと考え、
「著作権のネタ帳」という個人ブログも運営していますので、
よろしければこちらもご覧いただけると幸いです。
「文化の発展に寄与すること」という著作権法の目的を理解しよう
著作権という“権利”について考える前に、まずみなさんにはその「存在目的」について知っていただきたいと思います。
著作権とは、古くは16世紀頃からある概念であり、英語でcopyrightと言われるとおり複製(copy)のための権利(right)で、元々は印刷技術の発達により書籍の複製が簡単に行えるようになったことで、濫発される複製を制限しようという考えなどから生まれました。
しかし、近年ではその考えや目的も変化してきています。
その参考となるのが、日本の著作権法(以下単に「法」と呼びます。)1条で規定されている「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図る」ことにより「文化の発展に寄与すること」という、この法の目的です。
「文化の発展に寄与」。
これは著作権について考えるに当たって、とても重要な点だと私は考えています。
そして、守るだけではなく「公正な利用に留意」という視点も重要となります。
例えば、模写という形で著作物を複製(コピー)するからこそ、絵画などにおける表現方法が向上し独自の作品を創作する者が現れますし、他人の著書の一節を自身の著書に引用することで持論の補強をすることができます。
あるいは、マンガという著作物を利用したからこそ名作映画が生まれたということもあると思います。
このように、著作物を利用することで新たな著作物が創作され、その創作物を利用してまた別のものが創作されるという「利用と創作の連鎖」によって、文化は発展するものではないでしょうか。
著作権というと、守るべきものであり、それを侵害したら違法行為として処罰される、などのように、権利者側の視点ばかりが強調されることも少なくありません。しかし読者のみなさんには、「著作者にはなぜ権利が付与され、それにより著作物が保護されているのか」を理解するうえでもぜひ、著作権が存在するその目的や意義について、まずはきちんと知っていただきたいと思います。
著作権とビジネス
創作活動にはそれなりにお金がかかることはクリエイターのみなさんであれば十分ご存知のことと思いますが、そのお金を生むための手段の一つとして、創作者(著作権者)に著作権という「独占的利用権」を与えることで、他人による利用に許可を与える(あるいはその権利自体を渡してしまう)代わりに対価を得ることができるようになっています。
このようにビジネスとして利益を生む仕組みがあるからこそ、そこで得た利益を次の創作に活かすことができるわけです。
出版権というビジネス利用
権利のビジネス利用としては、出版権(法79~88条)もあります。
作家などの著作者だけが複製する権利(複製権)を持っていますので、出版社がその作家の著書を出版するには複製の許諾を得る、つまり利用許諾の契約を締結する必要があるのですが、仮に作家がこの契約をした出版社以外の出版社との間で同様の契約を締結した場合、作家に対する責任追及はできますが、他の出版社に対してはできません。
そのため、出版時に出版権の設定を行うことで、出版社側には他社は出版ができないという排他的権利を持つ(法80条)メリットがあり、作家側には出版社に原稿の引き渡し後6ヶ月以内に出版する義務等を負わせる(法81条)というメリットがあります。
デジタル、ネット時代の著作権
著作権法が制定された当時(現在の著作権法は昭和45年に旧著作権法(明治32年制定)を全面改正する形で制定されています)から考えると、メディアのデジタル化とインターネット化により著作物と著作権を取り巻く状況は大きく変わっています。
デジタル化により完全な複製を作ることが容易かつ低コストとなり、さらにインターネットによって瞬時に大量に複製・拡散することが可能となっています。
新手の手法に法が追い付かない現状、そして課題
時代背景や国際ルールに合わせて、利用者の権利拡大だけではなく、権利者の権利強化のための改正も行われてきました。
例えば、平成21年の改正により、海賊版などのように違法コピーされたコンテンツだと知った上でダウンロードする行為が、たとえそれが私的使用目的であっても違法とされました(法30条1項3号)。なお、この時点では罰則はありませんでしたが、平成24年の改正により刑事罰(法119条3項)が規定されています。
ただ、ダウンロードは取り締まることができますが、その違法コピーコンテンツを紹介し誘導する、いわゆる「リーチサイト」については規定がありません。
それは、リーチサイト自体は違法コンテンツの複製や公衆送信を行っていないため著作権は侵害していない点や、線引きが難しい点など様々な理由があるためで、議論はされていますが未だ法改正には至っていません。
デジタル時代になったことで複製も容易に行えるようになり、いわゆる「自炊」(紙媒体の書籍の電子データ化)という利用方法も生まれました。
自炊自体は、電子データを利用する者が私的使用の範囲で行うのであれば合法です(法30条1項)。
しかし、この自炊を業者が代行する場合は要件を満たさなくなるため、業者の行為は違法となる点は要注意です(平成26年10月22日知財高裁判決)。
課題が多い著作権の“これから”
今後、デジタル、ネット関連のさらなる発展により、著作物の様々な利用や創作が想定されていますが、そこにも問題は山積しています。
例えば、IoT、ディープラーニングなどの技術により大量の情報から新たな価値を生み出すことも始まっていますが、ではその際にデータとして利用する著作物はどのように扱うのか。
また、AI(人工知能)によって作品を創作した場合、その著作者・著作権者は誰であり、創作物をどのように扱うのか(そもそも著作物なのか?)という問題もあります。
それらに加え、アメリカの離脱表明により先行きが見えなくなったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)もあります。
保護期間の延長(50年→70年)や一部の非親告罪化などが規定された改正法も国会審議を終え平成28年12月16日に公布されていますが、施行日は「TPPが日本国において効力を生ずる日」とされていますので、この原稿執筆時点ではまだ施行されておりません。
権利の当事者として関心を持とう
今回は、イントロダクションとして、著作権の目的やビジネスとの関係、そして今後の問題などを取り上げてみました。
クリエイターにとって、著作権とは決して無視できない権利であり、そしてある程度以上は理解しておく必要があるものだと考えています。
権利に関わる当事者としてしっかりと関心をもち、適切に接していきたいですね。
【クリエイターのための著作権講座・記事一覧】
第1回「今日から向き合う、自分のための著作権」
第2回「権利侵害への対処と留意点」
第3回「引用・転載の条件と注意点」
第4回「Webメディア制作に関連する著作権」
第5回「オープンソースソフトウェアライセンスの基本と注意点」
第6回「クリエイティブ・コモンズとパブリック・ライセンス」
第7回「音楽の著作権―知識編」
第8回「音楽の著作権―実践編」