YouTubeはさまざまな音楽やBGMであふれており、「素敵だ」「自分もこういった作品を作りたい」と思ったことがある人は多いのではないでしょうか。もちろん、インスピレーションを得るだけなら何の問題もありません。
しかし、誰でも見られるからこそ、他人の著作権を侵害する「盗用」につながるケースが増えています。特に多いのはYouTubeでのBGM・音楽の使用です。YouTubeでは動画にBGM・音楽を使用することがほとんどですが、著作権の範囲をきちんと把握することが欠かせません。本記事では、YouTubeでBGM・音楽を使用する際の「著作権の範囲」について解説します。
JASRACの著作物使用料への分配額は306億円以上
一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)によると、2022年9月に作家・音楽出版社等の権利者に著作物使用料を分配し、その額は306億6,778万2,673円になったと発表しました。これは、前年度同期比106.1%としています。JASRACは、こうした著作物使用料を年に4回(3月、6月、9月、12月)権利者に分配する仕組みがあります。
出典:一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)「2022年9月分配期 分配実績表」
このように、人気の音楽は著作権の登録がされており、使用するための許諾契約が存在します。JASRACとYouTubeは許諾契約を締結しているため、使用することが可能です。インタラクティブ配信の分野では、動画配信サービスや音楽サブスクリプション市場が好調のため、約105.9億円(前年度同期比119.5%)と発表されています。インタラクティブ配信の分配額が、1分配期で100億円を超えるのは初めてとされており、いかにYouTubeなどの動画配信サービスなどで多くの曲が使われているかが分かります。
有名な曲・人気の曲を含め、他人が作った曲に著作物使用料がかかるのは当然で、こうした取り組みが、クリエイターを守り、音楽産業や音楽文化の発展につながっているのです。
YouTubeでBGM・音楽を使用する際の注意点
YouTubeで動画を公開する際には、多くの人が音楽やBGMを挿入します。しかし、勝手に動画内に自身が好きなBGMや音楽を挿入すると、著作権侵害になる恐れがあります。では、具体的にどのような場合だと著作権侵害に該当するのでしょうか。ここでは、著作権侵害に該当すると考えられるケースをご紹介します。
YouTubeにおける著作権の取り扱い
YouTubeの公式ヘルプによると、以下の作品が著作権の対象となっています。
【YouTubeにおける著作権の対象範囲】
- 音声と映像の作品(テレビ番組、映画、オンライン動画など)
- サウンド レコーディングおよび楽曲
- 執筆された作品(講義集、記事、書籍、楽譜など)
- 視覚的作品(絵画、ポスター、広告など)
- ビデオゲーム、コンピュータ ソフトウェア
- 演劇作品(劇、ミュージカルなど)
著作権法に基づき、「作品に創作性があり、作品が有形媒体に記録されている」ものが対象とされています。名称やタイトルそのものは、著作権保護の対象になりません。
著作権侵害の可能性がある具体例
では、具体的にどのような事例が著作権侵害になるのでしょうか。ここでは、具体例を交えながらご紹介します。
カラオケで歌っている様子を動画投稿した
カラオケ映像の投稿は、歌に対しての著作権侵害と、著作隣接権侵害のどちらかに当てはまる可能性があります。著作隣接権とは、著作物の創作者ではないが、著作物の伝達に重要な役割を果たしていると考えられる実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められた権利です。
カラオケ映像がどちらのパターンに該当するのかは、使用した楽曲がJASRACに登録されているかどうかで変わります。YouTubeとJASRACは許諾契約を締結しているため、JASRACに登録されていれば、投稿者が許諾を得なくても、動画を投稿することが可能です。しかし、CD音源には著作隣接権が発生するため、レコード会社の許可を得る必要があります。そのため、カラオケの映像を投稿すると、レコード会社の著作隣接権を侵害することになります。
動画で音源を勝手に使用した
音源が自作したものでない限り、音源制作者から「著作隣接権」の許諾を得る必要があります。たとえ自分で購入したCDや音源であっても、著作権が自分にあるわけではありません。そのため、音源を勝手に使用すると、著作権を侵害していると見なされるでしょう。また、音源のクレジットを表記したとしても著作物を使用する権利が付与されたわけではないので注意が必要です。
著作権侵害の訴訟事例
YouTubeの動画内での楽曲利用によって著作権侵害としては、2014年のミシェル・ファン氏の訴訟が有名です。
彼女は、複数のアーティストの楽曲50曲を無断で使用したとして、Ultra Music社に15万ドルの支払いと自社レーベル楽曲の使用差し止めを求められました。この訴えに対し、彼女は許諾を得たうえでの使用だったと主張し、最終的には示談となりました。
示談の内容や権利侵害の審議は不明ですが、この事例は、日本の法律で言えば著作隣接権の侵害に当たります。日本で、楽曲を使用する場合もこのようにレコード会社と権利もめることは考えられます。
ミシェル・ファン氏が楽曲の使用許諾を受けた正式な書面を提示できれば、この訴訟の結果も変わっていたかもしれません。楽曲の使用の際は、契約書類の管理などにも気をつけなければなりません。
TVディレクターの経歴もお持ちの弁護士・四宮隆史先生に、エンターテインメント業界で押さえておくべき「著作権の基本」を解説して頂きました!
個別の手続きが不要なケース
JASRACによると、個別の手続きが不要なのは以下のケースです。
- 自分で作成した音源のみを利用してライブ配信を行う場合(レコード会社が権利を持つCD音源などは使用しておらず、アーカイブ視聴できない場合)
- アーカイブ視聴できる場合は、個人ユーザーがアップロードする動画で自分が作成した音源のみを利用する場合
- アーカイブ視聴が可能であり、個人ユーザー以外がアップロードする動画であっても、自身で作成した音源かつ内国作品のみを利用する場合
商用可能なBGMや動画素材を活用するのが無難
商用可能なBGMや動画素材を活用するのが無難です。動画制作において、誰もが知っている有名曲を使用したいと考えることもありますが、これらの楽曲を使用するには音源制作者からの許可が必要です。この許可を得るには、コストと手間がかかるため、動画制作の際には商用利用が可能なBGMや動画素材を選ぶことをおすすめします。
現在では、商用利用が許可された著作権フリーのBGMや効果音、動画素材を提供するサイトが数多く存在します。中には無料で利用できるものもあり、これらの素材を適切に選ぶことで著作権トラブルを防ぐことができます。ただし、各サイトには細かい利用規約が定められているため、利用する前に必ず確認することが重要です。
特に企業の担当者が素材を使用する場合は、コンプライアンス上の配慮が必要です。企業案件では、自社が発信するすべてのコンテンツについて、著作権侵害にならないよう十分な注意を払わなければなりません。他社が使用しているBGMを無断で使用することは許されませんので、細かいチェックが求められます。
無断で音楽を使用してしまうと、著作権侵害によるトラブルや裁判、さらには逮捕といった深刻な事態に発展する恐れがあります。YouTubeなどのプラットフォームには多くの動画がありますが、著作権侵害は重大な違法行為であることを理解し、そのリスクを避けるための適切な対策を講じることが大切です。最近ではAIによる音楽生成ツールも登場しており、オリジナルBGMを簡単に作成できるようになっています。
これらのツールは商用利用可能な音楽を生成できるものもあり、新たな選択肢として注目されています。また、国際的にコンテンツを展開する場合は、各国の著作権法についても確認する必要があります。
「プラットフォーム内の自由」を守った制作運用を
【YouTube 音楽に関する著作権のまとめ】
- 自作以外の曲に著作物使用料がかかる
- YouTube内の使用条件を学び正しい運用を実践しよう
- 著作権侵害に当たらない手段でYouTube動画制作を行おう
人気の曲や有名な曲は多くの人の心をつかんできました。そのため、動画に使いたいという気持ちがわき出るかもしれません。しかし、他人の作った曲は「著作権」で守られています。そのため、自作以外の音源を用いた動画を、動画配信サービスに投稿する場合は、音楽制作者(レコード会社など)から、著格隣接権の許諾を得る必要があります。
どうしてもその曲が使いたい場合は、許可を得るのも良いですが、膨大なコストと時間がかかるため、商用可能な著作権フリーのBGMや効果音、動画素材を購入できるサイトなどを利用するのがおすすめです。動画投稿が一般的になった昨今、こうしたサイトは増えています。ぜひ、自分の動画に合った音楽を見つけて、YouTube動画制作を行ってみてはいかがでしょうか。