『TVチャンピオン特殊メイク王選手権』で見事3連覇を果たし、現在は様々なハリウッド映画の特殊メイクを手がける、アーティストのAKIHITOさんに、これまでの生い立ちやプライベートなことまで、またクリエイターへのアドバイスなど、お話しを伺いました。

やっぱり「モノづくりがしたい」

イメージ小さい時から絵を描いたり、モノをつくることが好きでした。
それに加え、ホラー系の映画も好きで、高校2年生の頃にアメリカで特殊メイクアーティストとして活躍している日本人の方の特集番組を観て、「自分もアメリカで特殊メイクをやりたい!」と強く思うようになりました。

しかし、両親に専門学校に行くことを反対され、自分で行くしかないと思い、お金を貯めるために短期大学へ進学。卒業後、特殊メイクの専門学校に進学するために上京しました。

ところが、入学してすぐにその特殊メイク科がある校舎が、なんと火事になって燃えてしまったんです。仕方なく映画の授業などを受けていましたが、つまらなくて寝ていましたね(笑)

やっぱり「モノづくりがしたい」という一心で、学校側に「材料を買ってください」という交渉から始めました。
先生もいなかったので独学で勉強していたのですが、卒業した先輩でゴジラなどを手がけている方が何人かいたので、たまに来る先輩方にわらないところを聞くことができたのはありがたかったですね。

ここでは自分のやりたいことができない

転機は突然やってきました。

3日間だけ外部から来られた先生に特殊メイクの授業をしてもらったんです。その先生が、僕が一人で作った3メートルくらいある恐竜の模型を見て、「仕事を手伝わないか」と声をかけてくださったんです。そのあとは、実務を通して技術を身につけていきました。

というわけで、この学校で先生に学ぶことができたのは、実質3日間だけ。でも、この学校にきて本当によかったと思っています。

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卒業後も先生を手伝いながらフリーで活動していました。
その後、先生の薦めで、今は放送が終了してしまった『TVチャンピオン』の『特殊メイク王選手権』に出場し、蛇髪の怪物“メデューサ”などをつくり、3連覇を果たすことができました。

「これで仕事がくるだろう!」・・・と思いきや、想像していた以上に周囲の反応が薄く、仕事が全くこない。
そこで、文化庁の研修制度を利用して渡米することを考えはじめました。

日本では映画『アナザヘブン』の特殊メイクを担当したり、円谷プロダクションのTVシリーズ『ウルトラマンコスモス』のメイン怪獣デザイナーなどを担当させていただいたのですが、仕事も少なく、「ここでは自分のやりたいことができない」と思い、文化庁の研修制度に合格し、2002年に渡米しました。

講義で見せていただいたメイクについて

AKIHITOさんが来日されたこの日、取材させていただく前に、特殊メイクを学んでいる生徒さん達に混じって講義に参加させていただくことに。イメージ

ドアを開けた次の瞬間、特殊メイクに用いられる独特なにおいに包まれた空間の中で、ひとつひとつのパーツを丁寧に装着させていくAKIHITOさんと、その光景を真剣に見つめる生徒さん。

“和太鼓”をテーマに制作された、女性のアーマーやボディの彫刻を含め、その他にも2匹の猿と計3人にかかった総制作期間は、何と7ヶ月!和太鼓アートパフォーマンス用に、この日に手掛けられ特殊メイクにかかった時間は、3時間。

パーツの細部までこだわり抜いた美しいディテールを生で拝見することができ、終始圧巻させられっぱなしの貴重なひとときでした。

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まさか自分があの名作に携わる日がくるとは

渡米してはじめて携わった映画は、『ハルク』の粘土彫刻とペイント担当でした。ロサンゼルスにある特殊メイク工房KNBで手がけました。KNBでは、その後、映画『ナルニア国物語』の中で登場する“ライオン”と半身半獣の“タムナス”の彫刻と色塗りも担当しました。

イメージ視聴者に感情移入させるため、いかにリアルなものにみせられるかに監督がこだわっていたので、もちろんCGと合成するとはいえ、ライオン一体を製作するのに、2~30人がかりで製作期間は約3ヶ月。半身半獣のタムナスにいたっては、メイクに毎日4時間もかかりました。

ADIという工房で仕事をしたときには、遂に念願の映画『エイリアンVSプレデター 』の、クイーンエイリアンのデザイン粘土彫刻とペイントを任されました。 これは本当に嬉しかったです。昔、好きで観ていたエイリアンシリーズに、まさか自分が携わる日がくるとは思いもしませんでしたね。

そのほか、『トランスフォーマー』『ミスト』『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』『ドラゴンボールZ』『ターミネイター4』『アリス,イン、ワンダーランド』などの特殊メイクも手がけ、実績をつくることができました。

でも、プロジェクト単位で動くこの業界では、プロジェクトが終了したら“解散”となります。次の仕事がくるかどうかは、実力だけでなく、タイミングと人脈が非常に重要になります。

AKIHITOさんにとってのクリエイティブとは

「自分を表現できる手段」。
コミュニケーションツールの一つだと思っています。

イメージ渡米してはじめの3年くらいは、一日8時間くらい粘土にさわり続ける日々でした。プロジェクトに携わっても英語が解らず、また話すこともできなかったので、時間を持て余し休み時間にオリジナルの作品を作っていました。そうすると、不思議と相手の方からいろいろと声をかけてくれる。

「ものづくりをすることによって、コミュニケーションができるんだ。」そして、「自分を表現する手段は、作品をつくることなんだ」と、あらためて実感しました。

作品のデザインのほとんどは、“ひらめき”です。
自分が手がける作品のコンセプトは、一見グロテスクな様にみえても、その中に“妖艶”さを感じさせるもの。 どちらかというと、男性より女性に好まれるようなものの方がいいですね。ビューティー系の特殊メイクは僕が初だと思いますよ。

味が変わった!?

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「食べる」ことが好きです。日本に帰国する時の楽しみのひとつですね。

アメリカではそこそこのお寿司は食べられても、美味しいラーメンが食べられない。ラーメンが好きなので、帰国したら必ず食べに行くラーメン屋さんがあったんですが、最近食べに行ってみると「味が変わった!?」と思ったんですよ。でもそのあと気づきました。変わったのはラーメンではなく、自分の味覚だったんです。

日本とアメリカだと、食文化の違いでどうしても味付けが違うので、日本食がしょっぱく感じてしまうんです。 逆に日本のチョコを食べると、「・・・味がしない!」と感じてしまいます(笑)

努力=苦労ではない

学んだ時間は関係ない、ようは自分のやる気次第!

まずは『努力』、次にそれを『続ける』こと。そして今の環境を作ってくれている周りに対して『感謝する』こと。
努力=苦労ではありません。『楽しく努力』してほしいです。

それから、楽しく努力することを『続けて』ほしい。

日本人はよく「頑張って!」とか「頑張る!」と言うけれど、英語には“頑張る”という英語は存在しません。 言い方が違うだけかもしれませんが、もう十分頑張ってきた人に頑張って!とは言わず、「enjoy!」「fun!」「good Luck!」といった「今を楽しめ!」というよう言葉をかけることが多いんです。

そして、自分の弱さに勝つための“強い気持ち”をもって、最後まで貫き通す。
メディアに惑わされることなく、自分自身をしっかりもって、『いいもの』『悪いもの』を、自分の目でしっかり見極めてください。