動画撮影技法は、日進月歩で進化を遂げています。さまざまなテクニックが存在しますが、最近、「ユーザーの視聴体験を、より豊かにできる手法」として注目されているのが「360度動画」です。
360度動画の魅力は、全方位の視野で、まるで現場に視聴者自身がいるかのように視聴できることでしょう。YouTubeにアップロードされる数も増えており、今後のさらなる発展が期待されます。
本記事では、主に歴4年以上の映像ディレクターに向けて、動画広告市場のトレンドや、360度動画とVR動画との違いを解説するので、ぜひ参考にしてください。
2025年に1兆円規模と予測される動画広告市場で求められる斬新さ
株式会社サイバーエージェントの動画広告研究機関「オンラインビデオ総研」と株式会社デジタルインファクトが共同で実施した「国内動画広告の市場動向調査」の結果が、2022年1月に発表されました。それによると、2021年の動画広告市場の規模は「4,195億円」であり、前年比で142%も成長しています。
2021年に動画広告市場の規模が拡大した背景・要因としては、新型コロナウイルス感染症の流行が継続しつつも、2020年後半以降に国内経済が回復基調となったことに加えて、コロナ禍を機に進んだ「消費行動の変化」や「行政や各種産業におけるデジタル化(DX、デジタルトランスフォーメーション)の流れ」が挙げられるでしょう。
さらに、2022年には「5,497億円」、2025年には「1兆465億円」という規模に達する見込みであり、これからの数年で動画広告関連ビジネスは巨大産業に成長すると予想されています。
なお、インターネット広告市場において、「テキスト」や「静止画」から、表現力が豊かで情報量が多い「動画」へと、広告フォーマットの移行が進んでいることを理解しておきましょう。広告主とユーザーとのコミュニケーションの起点となるものなので、広告フォーマットの選定は重要です。ちなみに、2021年の動画広告市場では、特に大手動画配信サービスにおける「インストリーム動画広告」の需要が拡大しました。
パソコン、スマホなど、複数の端末でシームレスに動画を視聴する行動は、当たり前のものとして定着しています。拡大を続ける市場を生き抜くうえで、「革新的な技術」や「斬新な手法」(たとえば、「360度動画」)が求められるのは当然です。映像ディレクションを行う際は、旧態依然とした手法に安住するのではなく、常に進化が求められていることを認識してください。
360度動画の特徴とは?VR動画との違いについても解説
360度動画とは、再生中に視聴者が全方位に視点を自由に切り替えられる動画です。自分の意思で視点を移動させ、主体的・能動的に視聴できるので、動画内部にいるかのような感覚を疑似的に体験できます。
「レンズが前後に搭載されたカメラ(360度カメラ)で上下・前後・左右360度を一度に撮影し、それぞれのレンズで撮影された動画をつなぎ合わせる」というのが一般的な作り方ですが、通常のカメラを用いて複数の視点から撮影し、それらをつなぎ合わせて制作することも可能です。
ところで、「360度動画とVR動画って、何が違うのだろうか」という疑問をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。両者とも「あらゆる角度に視点をグルグルと回転させて動画を楽しめる」という点は同じですが、360度動画の場合、「視点を回転させる位置」が「撮影者の位置」に固定されています。たとえば、右に10メートル移動した位置から眺めたり、後ろに5メートル移動した位置から眺めたりすることはできません。
360度動画は、あくまでも「撮影者(カメラ)の位置」から360度方向を撮影した動画であり、制作者側が「この位置から前後左右を眺めるのが良い」と考える場所に、視聴者を誘導できることを覚えておきましょう。
VR動画では、CGの仮想現実空間に入り込み、内部で自由に移動できます。ユーザーは好き勝手に前後左右に歩き、そこからグルグルと視点を回転させることになり、制作者による制御は不可能です。
すなわち、「目の向きを自由に動かせる」という点は同じであるものの、「起点となる場所」を動かせるか否かという点が異なることを認識しておきましょう。なお、VR動画の場合、ヘッドセットを装着する必要がありますが、360度動画の場合、通常のパソコンやスマートフォンで視聴できるという違いもあります。
360度動画は、VR動画よりも「ビジネスでの活用」に適している
VR動画は、エンターテインメント業界における活用(アミューズメント施設・遊園地における「アトラクション」や「ゲーム」など)がメインです。ユーザーがヘッドセットを装着しなければならず、「CGで制作された仮想現実空間の体験」であり、「現実世界を撮影した映像内での疑似体験」ではないため、ビジネスでの幅広い活用は難しいかもしれません。
一方、360度動画では、現実世界を撮影した映像内で、疑似的に景色や物体を眺めることが可能です。なお、視点をグルグルと回転できますが、好き勝手に場所を歩き回ることはできません(撮影された範囲のみ)。「視聴者を、制作者側が意図する場所に誘導できる」という仕組みになっているため、「動画ビジネスへの活用」という点で大きなポテンシャルを秘めています。
たとえば、「山」などの場合、距離が近すぎても遠すぎてもベストな風景になりません。観光地のPRを行うのであれば、「このくらいの距離から、景色を眺めるのが良い」と制作者側が考える地点に視聴者を誘導し、そこから視点を360度回転させながら風景を楽しんでもらうと良いでしょう。
360度動画は、「広告」や「バーチャルツアー(工場見学など)」「デモ体験(自動車の運転など)」「不動産物件のオンライン内見」といったビジネス領域での使い勝手が良く、YouTubeやFacebookにアップロードすることも可能です。
なお、SNS(TwitterやInstagramなど)上にオリジナリティあふれる360度動画のURLを投稿すれば、インフルエンサーによって拡散され、一気に再生数が伸びるかもしれません。
最近、高性能かつリーズナブルな価格の360度カメラが数多く登場しています。機材が普及すれば、「360度動画による広告」は珍しくない手法になるでしょう。
360度動画は今後よりポピュラーな動画手法になる
- 急成長する動画広告市場で勝ち抜くためには、斬新さが求められる
- 自由に視点を回転できる360度動画なら、その場所にいるかのような疑似体験が可能
- 主にエンタメ業界で利用されるVR動画と異なり、360度動画はビジネスに活用しやすい
2021年に「4,195億円」であった動画広告市場の規模は、2022年には「5,497億円」、2025年には「1兆465億円」に達することが予想されています。拡大を続ける市場を生き抜くためには、これまで以上に「クリエイティビティ」や「手法の斬新さ」が求められることを認識しておきましょう。
なお、360度動画では、視聴者が自由に見る方向(角度)を変えることが可能であり、さまざまなシーンを映像内で疑似体験できます。その場に居合わせたような体験ができることが、一般の動画との違いです。近年は、撮影用機材(360度カメラなど)も充実してきているので、インターネット広告に360度動画を活用することも検討してはいかがでしょうか。
VR動画は、現状では、エンターテインメント領域での活用がメインです。ユーザーが専用のヘッドセットを購入・装着する必要もあり、インターネット動画広告への展開は進んでいません。360度動画なら、視聴者が特別な機器を用意する必要がなく、YouTubeなどにも投稿可能です。気軽に動画を視聴するだけで、映像内に身を置くような疑似体験ができるので、動画広告ビジネスで活用しやすいと言えるでしょう。