あのアカツキが全てのゲーム好きに向けた新プロジェクト「Team UNITE」を始動させました。今回は早速、eスポーツ実業団「Team UNITE」が実現する“働きながらプロゲーマーを目指せる仕組み“について、発起人の渡辺佑太郎氏(写真中央)に話を伺いました。
また、「Team UNITE」所属プロゲーマーの井上徹氏(写真左)は元システムエンジニア、森山真秀氏(写真右)は元銀行員。他業界からゲーム業界へキャリアチェンジを実現されたお二人に「ぶっちゃけ、アカツキどう?」をぶつけてみました。
株式会社アカツキのeスポーツ実業団。2020年8月発表段階では2名の選手と1名のコーチで構成されている。選手が業務に携わりながらも安定的に練習時間を確保できる勤務体系をとっており、社会人キャリアとプロゲーマー活動の両立を実現している。
午前は仕事、午後はゲーム練習
──早速ですが「Team UNITE」について教えて下さい。企業がアスリートを支援する仕組みとして実業団がありますが、そのeスポーツプレイヤー(プロゲーマー)バージョンというイメージでしょうか。
渡辺 そうですね。 現状、eスポーツプレイヤーは仕事を辞めてゲームに集中するか、仕事と無理やり両立させている方が多いんです。「Team UNITE」は、厳しいプロへの道筋をもう少しマイルドにできるようサポートを行い、プロ活動に没頭できる環境を用意することを目的としています。
――活動内容が非常に明確で驚きました。午前中の約4時間を業務(ゲーム開発)、午後以降をゲームの練習に充てるとのことですが、これはスポーツ実業団では一般的なやり方なのでしょうか?
渡辺 少し珍しいと思います。スポーツ実業団の多くは2パターンあって「競技や練習することが業務として扱われ、選手は業務を一切行わない企業」、「所属選手にフルタイムで働いてもらいつつプロ活動の金銭的&物資的支援を行う企業」です。「Team UNITE」はこれら2つをハイブリットさせた形になりますね。
――何故このような形式になったのでしょうか?
渡辺 日本のeスポーツの特徴なのかもしれませんが、午前中は対戦相手を見つけにくく、練習試合をしようとしても難しいんです。よって、練習のコアタイムが午後になることが多いので午前中には社会人としてのキャリアを積むことで効率的に時間を使ってもらおうというのが意図ですね。
プロゲーマーの“感性“はゲーム開発でも活きる
――「Team UNITE」所属選手のお二人はマジック: ザ・ギャザリング(以下:マジック)のプロゲーマーです。お二人とも「Team UNITE」所属前は会社員とプロ活動を掛け持ちされていたとのことですが。実際、現在の方が活動のしやすさは感じますか?
世界中で4000万人を超えるプレイヤーとファンを持つ、戦略トレーディングカードゲーム。
25年以上の歴史を持ち、競技プレイやカジュアルな遊び、コレクションなどの様々な側面を持つゲーム。
井上 時間の余裕ができたのが最も大きいですね。今まではフルタイムで働いたあとに帰ってきてご飯食べてからの練習だったので、練習だけで精一杯で他のことに使う時間が残っていませんでした。
森山 以前は睡眠時間を削って練習をしていましたが、今は体調管理もしながら練習時間も伸びているのですごくありがたいと思っています。また、大会の参加費や交通費、宿泊費がチーム予算として出るのも実業団の良さだなと感じています。
井上 仕事をしながらだと、時間カツカツで回すことになるので、遠征行くとなると休暇取得も含めて大変でした。また、通常の企業だとプライベートでのプロ活動に配慮は無いので、海外から帰国したあとは仕事が大量に溜まってるんです。前職はそれの繰り返しだったのがキツかったですね。
――「Team UNITE」の主目的である、「金銭面やキャリア面の不安を取り除き、ゲームに没頭してもらうこと」は達成されているようですね。ちなみに、井上さんは発表会見にて「プロゲーマーの感覚はモバイルゲームのQA業務(Quality Assurance:品質管理)にも活かせる」とお話されていましたが、具体的にどのような形で活かせるのでしょうか?
井上 マジックというゲームは新しいカードセットが出た時、まず新たな環境を予測するために強いカードと弱いカードを分類していくんです。そういった強弱に対するアンテナをゲーム開発におけるバランス調整の業務に活かすことができます。
――なるほど、数値を見ただけで違和感に気付けるということですね。
井上 そうですね。ゲームの追加要素をデザインした時に、パラメーターを見て「これは強すぎて壊れてそう」とか、「これは弱すぎて何もしなさそう」というのが判断できますね。
「マジック」採用の理由:25年愛されてきた信頼
――「Team UNITE」第一弾のタイトルとして「マジック」を選択されたのは驚きです。他にも数多くのeスポーツタイトルが存在する中、何故この選択になったのでしょうか?
渡辺 マジックは25年親しまれてきたカードゲームであり、競技シーンの歴史も長いのでこれからも継続するだろうという見立てがありました。また、「Team UNITE」がeスポーツ実業団としてモデルケースになることが重要だと考えたので、eスポーツ業界を引っ張ってくれるプレイヤーの模範となるよう、井上選手と森山選手の人柄も考慮しての採用となりました。
――お二人はマジックの採用についてどう感じましたか?
井上 最初は「本当にマジックで良いの?」って気はしましたね(笑)マジックは歴史こそ長いですが、eスポーツという分野では比較的マニアックなゲームだと思っていましたので。
森山 最近、マジックはPCでも遊べるマジックアリーナが徐々に普及してきて、eスポーツとしてはこれからだと思っていたので、この段階で声が掛かってビックリしました。ただ、マジックはプレイヤーの平均年齢も高めで社会人プレイヤーも多いので、確かに実業団のメンバーは集めやすいな、と思いました。
――実際、eスポーツ選手は20歳前後で引退されるケースが多く、若者のセカンドキャリアも含めて心配な業界ではあります。一方、マジックのようなカードゲームは比較的、高い年齢まで現役を続けられるようですね。
渡辺 私自身も、プロゲーマーのセカンドキャリアについては課題感を持っています。「Team UNITE」の活動を通して、選手の将来への不安を少しでも取り除き、同時にキャリア支援ができるのはとても意義深いなと感じています。もっとこういう取り組みをする企業が増えて欲しいと思いますね。
――確かにeスポーツ全体の発展を考えたとき、ビジネス臭強めの話題ばかりがニュースになる時期をどれだけ早く脱せるか?はポイントかもしれません。「Team UNITE」のような取り組みが大々的なニュースにならないくらい当たり前になって、もっと選手の活躍が表に出てくるような世の中が待ち遠しいです。
渡辺 そうですね。アカツキ以外の企業もeスポーツ実業団を立ち上げられるように、まずは私たちがノウハウを溜めていきたいと考えています。ただ実際、ゲーマーを仕事と絡めて雇用するのは結構大変なんです。
――それは、雇用制度の問題でしょうか?
渡辺 はい。契約書や副業関係の新しい労働条件を作るためには、多くのコンセンサスを取る必要があります。大きな企業である程、難しいでしょう。
アカツキは大きい会社になりましたが、それでもベンチャーマインドが色濃く残っているので、今回のように新しい取り組みにも積極的に動いていくことができました。私たちが「Team UNITE」の活動を見せていくことや、取り組みとして成功例になることが第一歩なのかなと思います。
プロ2名に訊く「ぶっちゃけ、アカツキどう?」
――アカツキに入社したばかりであるお二人にお伺いします。率直なアカツキの印象を教えて下さい。
森山 大きな企業なので、入社前は年功序列で固いイメージがありましたが、実際はそんなことはなく、良い意味でのギャップがありました。ベンチャーでありながらも成熟している企業といいますか、社内の仲間意識の高さとか、全体の雰囲気の良さを感じます。企業としての体力もあり、柔軟な対応力も持ち合わせていることが、今回の実業団体の立ち上げにも繋がっているのだと思いました。
井上 雰囲気の良さはめちゃくちゃ感じていて、みんなやりたいことをやってる感じで、意見も言いやすいんですよね。皆「僕はゲーム好きだからこれをやりたいんだ!」をぶつけ合ってる感じで、働いていても働いている感じがしなくて「こんなに自由でいいのか!?」と驚いています(笑)
――その意見のぶつけ合いは、マジックにおけるデッキシェア(※)と近いですね。
井上 そうです、そうです!僕は前職がシステムエンジニアだったのですが、機械的に業務をこなすことが多かったです。アカツキだと「こんな感じのもの作りたいんだけどどうしようか」という段階から意見を出し合いながら煮詰めていくので、提案する機会も多いです。
競技カードゲームにおいて複数人の共同作業で1つのデッキ(カードの束)や戦略などの成果物を作り上げ、共有すること。
森山 私も前職が別の業界でしたので不安も大きかったのですが、風通しが良くてすぐに溶け込めました。「Team UNITE」の他の部門の選手だけでなく、ゲーム好きの方であれば、前職の経験に関わらずアカツキにどんどん入ってきて欲しいと思っています。
“見た目”に革命を起こす!「ナノ・ユニバース」コラボ
――「Team UNITE」は渡辺さんの提案からスタートしたとのことですが、企画からリリースまでどれくらいの期間を要したのでしょうか?
渡辺 昨年の10月にやるって決めて、11月にはお二人に話をして、今年の4月には入社の手続きが完了していました。発表自体は新型コロナウイルス(COVID-19)の感染の影響を考慮して8月とさせて頂きました。
――社内で前例のない企画をほぼ半年でやったんですね、すごいスピード感です。
渡辺 速かった…ですね笑。やってみないと分からないという考えと、僕の中では絶対やれるという自信があったので実現させましたね笑。
――ナノ・ユニバースとのコラボもチーム作りと同時進行で進めたのでしょうか?
渡辺 同時進行でしたね。ナノ・ユニバースさんは、近年アパレル業者のeスポーツ参入が増えていることから興味を持っていましたし、アパレルからもeスポーツ業界を盛り上げたい強い気持ちもありました。想いの一致から、話もスムーズに進みました。会見ではプロデュースして頂いた「Team UNITE」新ユニフォームを発表しました。
「Team UNITE」ユニフォームは、ナノ・ユニバースの「ダメリーノ」をベースにデザイン。「ダメリーノ」の特徴は細身で動きやすくスタイリッシュな見た目。ジャケットとパンツの「セットアップ」でギャップと清潔感を出し、従来のeスポーツのユニフォームのイメージを一新していく。
――「Team UNITE」発表会見のときのジャケット、すごくカッコよかったです!
井上 あのジャケットは大会でも着れるように作ってあって、すごく動きやすいんですよ!
森山 あれを着て走っても大丈夫です。試合時間に遅れそうになっても走ったら間に合います(笑)
渡辺 ユニフォームのデザインも柔軟に変えていこうと考えているので、見た目からもeスポーツのことを気に入ってもらえるといいなと考えています。
――ナノ・ユニバースのヨーロピアンなテイストは、これまでのeスポーツのイメージを覆しにきていますね。「Team UNITE」がeスポーツ業界の新たなファッションイメージを牽引していこうという意志を感じます。
渡辺 そういって頂けると嬉しいですね。ナノ・ユニバースも革新的な発想でデザインされているファッションブランドで、「Team UNITE」もeスポーツ業界を変えていくことをコンセプトとしてスタートしています。私たちとナノ・ユニバースさんの「これからの新しいスタンダードを作る!」という意志がシンクロしたのだと思います。
――海外ではeスポーツチームとハイブランドがコラボする事例は増えているので、今回のコラボはもっと注目されて欲しい部分ですね。
渡辺 eスポーツ特有のあのエレクトリックな服装ではなく、もう少し街に馴染むようなシンプルでスタイリッシュなデザインを目指しています。今後もeスポーツ×ファンションは打ち出していきます。
ゲーム開発で他ジャンルのプロ達が1つに!
――今後の「Team UNITE」とアカツキが楽しみになってきました!最後になりますが、具体的にはどのような活動をされていくのか教えて下さい。
渡辺 これまでのeスポーツチームはファンの距離が遠かったと感じているので、ファンの方々と密接にやっていき、チームそのものを応援してもらえるような存在になりたいと思っています。
――選手個人にファンがつく一方、チーム自体にはファンが定着しづらいのは、どのスポーツチームも抱えている課題ですね。
渡辺 そうなんですよね。私たちはファンの方々と一緒に作り上げていくチームの方が面白いと考えています。スポーツやライブも観客席のチケットよりも、一緒に運営に関われるスタッフ券の方が人気だったりするんです。今後、クラウドファンディングやオンラインサロンなど、ファンの方にもイベント運営に参加してもらい、一緒に盛り上げていけるような企画を考えています。
――選手のお二人はどのような活動を考えてますか?
井上 ライブ配信は周囲からもやって欲しいと要望があるので挑戦していこうと思います。
森山 配信を2人でやることもあると思いますし、個人のチャンネルだけでなく「Team UNITE」のYoutubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCKKXOLwOB5JBMNiqdl4BKXA)も盛り上げていきます。
――第二弾タイトルの「Apex Legends(※)」参入も控えています。タイトル横断型のチーム運営はどのeスポーツチームも苦戦されおり、ゲームタイトル毎に選手やファンが分断されてしまうので一体感を出すのが中々大変そうです。
2019年2月に配信された、世界中で人気のFPS(ファーストパーソン・シューティング)バトルロイヤルゲーム。2020年には、ゲーム・デベロッパーズ・チョイス・アワード、SXSWゲーム賞にノミネート、第16回英国アカデミー賞ゲーム部門を受賞した。
渡辺 基本的にはゲームタイトル毎に特化して運営することになりますが、例えばこの2人が国際試合に出ている特別なタイミングなどでは、チーム一丸となって応援していきたいと思っています。そういった機会を通して「Apex Legends」のファンにも、マジックのことを知ってもらう機会にもなりますし。また「Team UNITE」の選手たちは、午前中は一緒に仕事をしているので、ゲームタイトル間の垣根は越えていけるのかなと感じています。
森山 一緒に仕事をした後の練習も同じスペースで実施することも考えられますし、チームの結束を強める機会にもなると思っています。
――共同作業できるタイミングあるのは強いですね。それは他のeスポーツチームには無い特徴かもしれません。本日は貴重なお話をありがとうございました!アカツキのような企業をモデルケースにして「Team UNITE」のような実業団体がもっと増えて欲しいです。将来的に実業団同士の企業対抗戦も観てみたいです!
渡辺 ありがとうございました。これから参入するゲームタイトルが増えると、若い世代がもっと入ってくると思います。「Team UNITE」とアカツキではプロゲーマーに限らず、入社して頂いた方に合ったキャリアパスを考えていく企業です。プロデューサーを目指してもらったり、マーケティングの経験を積んだり、その方に合ったキャリアを一緒に作り上げていきたいと思います。
取材・ライティング:小川翔太/編集:CREATIVE VILLAGE編集部