映像技術やネットワークの発展もあり、驚くべきスピードで進化を遂げているゲーム業界。中でも2022年現在で業界を席捲しているのが「オープンワールドゲーム」です。オープンワールドは複数のマップやステージを移動する際にロードが入らず、シームレスな移動を可能にしています。自身がゲームの世界に入り込んだように自由に思い通りに仮想世界で楽しめるため、その没入度や自由度の高さが人気の要因です。
ただし、すべてのユーザーにオープンワールドが好まれているかと言えば、そうではありません。そのため、闇雲にゲームのオープンワールド化を推奨するのは得策とは言えないでしょう。ゲームの在り方が大きく変わりつつある今だからこそ、開発側としてはユーザーニーズに耳を傾けることが重要となります。4年以上のキャリアがあるゲームプログラマーだからこそ注視すべきオープンワールドとリニア式ゲームの今後の動向を紹介します。
世界人口の37%がユーザー!ゲーム市場は世界的に拡大・成長中
次々と新しいゲーム機が開発され、グラフィックや性能が格段に向上するなど、たった数年間で信じられないほどの進化を遂げるのがゲーム業界の特徴です。オンライン技術の発展もあり、世界でのシェアが広がるゲーム市場は、今後も拡大傾向にあります。
株式会社⾓川アスキー総合研究所が発表した「グローバルゲーム マーケットレポート 2021」によると、2021年の世界ゲームユーザー数は前年5.3%増の29.6億人。国連経済社会局(UNDESA)人口部が発表した「世界人口推計2022年版」では2022年の世界人口を80億人と推計しているだけに、なんと世界中の37%がゲームユーザーという驚異的な結果が出ています。
出典:株式会社⾓川アスキー総合研究所「グローバルゲーム マーケットレポート 2021」
さらに驚くべきは世界のゲーム業界の市場規模の大きさです。先に触れた「グローバルゲーム マーケットレポート 2021」によると、2021年の世界ゲーム収益は、1,803億ドル(25兆2,420億円※1ドル140円計算)と集計されています。2021年はコロナ禍の影響から巣ごもり景気の反動やタイトルの開発遅れなどがあり、微減が予想されていました。しかし、モバイルゲーム市場の世界的な拡大から、前年比1.4%増の1,803億ドルと試算されました。
現在のゲーム市場の拡大は、今後のさらなる成長が見込まれています。2023年には2,065億ドル(28兆9,100億円)にまで成長すると推測されており、世界におけるゲーム市場はまるでオープンワールドのように制限なく成長を続けているのです。それだけに注目のオープンワールドはもちろんのこと、リニア式ゲームにおいてもマーケットにおいて大いにチャンスがあると言えるでしょう。
比較検証!オープンワールドとリニア式ゲーム
拡大を続ける世界のゲーム市場において、オープンワールド化が進んでいる理由は何でしょうか。その1つとして挙げられるのが、ゲーム界の技術革新です。開放的な空間の中でシームレスに移動が行える技術は、以前まではハードのスペックが足りず困難でした。しかし、技術が革新的に進歩し、自由度の高いオープンワールドが生まれたことから、ユーザーは「かつてない体験」に夢中になっているのでしょう。
ただし、現在では「オープンワールド」はジャンルの1つという認識であり、そこまで珍しいものではなくなりつつあります。当然ながら、リニア式ゲームも変わらず人気を誇っています。今後のゲーム開発を踏まえ、オープンワールドとリニア式ゲームのメリット・デメリットを比較しました。
オープンワールドのメリット・デメリット
メリット
オープンワールドゲームのメリットには、自由に広大なステージを楽しめる点が挙げられます。草原を駆けたり、洞窟を進んだり、大海原を航海したりなど、現実ではなかなかできない体験をゲーム上でプレイできるのは、オープンワールドゲームならではの魅力でしょう。
デメリット
デメリットとしては、自由ゆえの際限のなさが挙げられます。リニア式のゲームであれば、「このボスを倒せば次のステージに行ける」という分かりやすい設定が基本です。しかし、オープンワールドはユーザー自身の選択がより重要になるので、ストーリー展開で路頭に迷ってしまうこともあるでしょう。そのため、ユーザーの探求心がより重要視されます。
リニア式ゲームのメリット・デメリット
メリット
リニア式ゲームは、開発者側が設定したルート通りにストーリーが進行します。そのため、ゲームの目的がはっきりしている点がオープンワールドとの大きな違いと言えるでしょう。美しいグラフィックや目を見張る戦闘シーン、盛り上がる音楽など、「ここぞ」という見せ場シーンの演出など、開発者側が意図したギミックを仕込むことで、ゲームプレイにもメリハリが出る点も特徴です。
デメリット
オープンワールドよりユーザーの自由度はどうしても下がります。開発側が意図した通りの道をユーザーが進むため、「こんなプレイができたらいいな」というユーザーの願望を実現できていないケースもあるでしょう。ユーザーによっては「やらされている感」があり、自由度が低いと感じてしまう恐れもあります。
ジャンル自体に優劣があるわけではない
制作技術の進化もあり、オープンワールドの没入度の高いゲームが人気を博しています。しかし、ゲームのジャンルにはそれぞれの良さや趣があります。そのため、「どちらがより優れているか」ということではなく、それぞれの良さを踏まえた楽しみ方を追求し、その魅力を発信することがゲーム開発者には求められるでしょう。
ゲームのコンセプトがより重要な時代に突入する
今後もオープンワールドの新作は続々と発売されることが予想されます。しかし、ユーザーが自由に思い通りに動かせることだけがゲームの面白さではありません。重要なのは、開発者側のコンセプトがしっかりしており、ユーザーが求める機能を実装されていることです。そうすれば、ゲームのジャンルを問わず名作が誕生するでしょう。
たとえば、オープンワールド化の課題として挙げられるのがゲーム開発側の「膨大なリソース」と「計画的な運用」です。オープンワールドはその自由度の高さゆえに、膨大なリソースを要します。そのため、ゲームのコンセプトを十分に活かせるだけのリソースがないまま開発を進め、予算不足によって中途半端なゲームになってしまうという危険性をはらんでいるのです。
シリーズものでもコンセプトは大切
シリーズものは固定ファンがついています。しかし、新作のコンセプトが曖昧だと、ユーザーは離れていってしまうかもしれません。特にこれまでオープンワールドではなかったゲームを、オープンワールド化することで、ストーリーが薄くなったり、本来の方向性が曖昧になったりする恐れがあります。無駄にマップだけが広くても、肝心のストーリーやシステムが作り込まれていなければ、ユーザーがゲームに没入するのは難しいと言えるでしょう。
リニア式ゲームは特にストーリーが重要
リニア式ゲームは、ユーザーの動きが制約される点が良くも悪くも特徴と言えます。ストーリーに集中してもらいやすい反面、そのストーリー性によって真価が問われるでしょう。そのため、リニア式ゲームは特に「どんなゲームなのか」「何が楽しめるゲームなのか」というコンセプトが明確であることが大切です。
オープンワールドにも向き不向きはある
【ゲーム オープンワールドのまとめ】
- ゲーム市場はオープンワールドのように今後も成長が見込まれる
- ゲームスタイルにはそれぞれメリット・デメリットがあり、優劣があるものではない
- 選択肢が増したからこそ開発者側のコンセプトが重要となる
2017年に「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」が発売されて世界中から称賛を浴びて以降、日本においてもゲームのオープンワールド化が加速しています。ポケモンなどの人気シリーズもオープンワールド化を果たすなど、確実にゲームにおけるスタンダードになりつつあるのが現状です。
しかし、ゲーム業界の時流としてオープンワールドの賛美が絶えませんが、そのすべてが成功しているわけでは決してありません。リニア式ゲームをオープンワールド化することで魅力が半減した作品も少なからず存在します。ゲーム開発側としては、ユーザーが求めるゲーム感をいかに追求していくかが重要になるでしょう。オープンワールドとリニア式ゲームは優劣があるものではなく、あくまで作り方の「ジャンル」の1つです。どちらも、ゲームとしてのコンセプトがしっかりしていれば、ユーザーはついてくるでしょう。
ゲーム市場は今後も成長し、ユーザーが増えることが予想されています。そのため、中途半端なゲームはすぐに飽きられ、淘汰されていきます。これからは今まで以上に、開発側が「どんなゲームを作りたいのか」「ユーザーにどんなゲームを遊んでもらいたいのか」「どんな体験ややりがいを提供し、ユーザーを楽しませたいのか」をはっきりさせることが求められるでしょう。