東京の賑やかな街並みの一角にあるファミリーレストランチェーンで、35歳の吉田直樹さん(仮名)は約12年間、現場で働き続けてきました。大学卒業後、安定した職を求めて飲食業に飛び込んだ吉田さんは、努力を重ね、いつしか店長として数店舗を任されるようになりました。しかし、日々の業務は非常に忙しく、長時間労働に加え、従業員の管理やお客様対応、在庫管理といった多くの業務をこなす毎日は、心身ともに疲弊させるものでした。

そんな中、2020年に新型コロナウイルスが拡大し、飲食業界も大きな影響を受けました。外出自粛や緊急事態宣言が続く中、会社の業績は急激に悪化しました。給与カットやシフト削減が実施され、先行きが不透明な状況に、吉田さんは「このままでいいのだろうか?」と自問自答する日々が続きました。

ITへの興味と新たな挑戦

吉田さんには、以前から興味を持っていた分野がありました。それはITです。学生時代に触れたコンピュータやプログラミングに魅了されていましたが、飲食業の忙しさから、深く学ぶ機会はほとんどありませんでした。しかし、30代に入った頃から少しずつ時間を見つけ、プログラミングの勉強を始めました。PythonやJavaScriptなどの基礎的なプログラミング言語を学びながら、ITの世界でキャリアを築く可能性を模索し始めました。

やがて、会社の業績がさらに悪化したことをきっかけに、吉田さんはITエンジニアとしての転職を決意しました。しかし、これまで飲食業しか経験がなかったことや、プログラミングの実務経験がないことが壁となり、何度も面接で不採用の通知を受け取りました。「やはり自分には難しいかもしれない」と一度は諦めかけました。

転職エージェントとの出会いと成功のカギ

そんな時、友人の勧めで転職エージェントに登録することにしました。エージェントの担当者と初めて面談した際、吉田さんはこれまでの経歴や現在持っているスキルについて率直に話しました。プログラミングの学習はしていたものの、実務経験がないことを不安に感じていた吉田さんに対して、エージェントは新たな視点を提供してくれました。

「確かに実務経験は重要ですが、吉田さんには飲食店での店長経験がありますよね。それはマネジメントスキルやリーダーシップがあるということです。IT業界でも、チームを率いたり、プロジェクトを管理する能力は非常に重視されています。ITスキルと組み合わせれば、きっと価値が認められるはずです。」

この言葉に勇気づけられた吉田さんは、自分の強みを再認識し、応募する企業の選択肢を広げていきました。エージェントの紹介を受けた企業の一つは、社内システムの開発や保守を行っている中小IT企業でした。面接では、吉田さんがこれまで培ってきた現場での問題解決能力やリーダーシップが高く評価され、ITエンジニアとしてのポテンシャルを見込まれ、ついに内定を獲得することができました。

新たなキャリアのスタート

吉田さんは晴れて、そのIT企業で社内エンジニアとしてのキャリアをスタートさせました。最初は戸惑うことも多かったものの、プログラミングの基礎を独学で学んできた経験が役立ち、徐々に業務にも慣れていきました。さらに、新しい技術やツールの習得にも積極的に取り組み、ITエンジニアとしてのスキルを着実に伸ばしていきました。

「飲食店での経験が、こんなにも役立つとは思いませんでした」と吉田さんは振り返ります。かつては激務に追われていましたが、今では自分のペースで仕事に取り組み、成長している実感を得ています。これまでの経験を生かしながら、エンジニアとして新たなキャリアを築いている吉田さんの未来は、今後さらに広がっていくことでしょう。

吉田直樹さんは、飲食業界での豊富な経験と新たに学んだITスキルを組み合わせ、見事に転職を成功させました。この事例は、経験やスキルの転換に困難を感じている方々にとって、励みとなることでしょう。異なる業界でも、自分が持つ強みを活かせるチャンスは必ずあります。その可能性を信じ、挑戦し続けることが、きっと新しいキャリアと成長の機会につながるのだと思います。