車の自動運転や将棋、囲碁の世界で今、何かと話題の人工知能。
AI・人工知能の研究が加速度的に進むなか、ディープラーニングを用いた映像作品の製作など、人工知能技術を活用したコンテンツ制作で注目を集める株式会社Qosmo代表・徳井直生氏が、7月1日(金)に開催された「第2回先端コンテンツ技術展」の講演に登壇。
“AIは人の知能の模倣ではなく、人にはできない解釈を提案することで、クリエイティブに新たな価値を見いだせる”と語る徳井氏がこれまでに手掛けた、音楽・映像プロジェクトの解説を交え、AI×クリエイティブの未来を語りました。

■ AIの“面白い見間違い”が、クリエイティビティの原点

2010年に設立された株式会社Qosmo。その代表を務める徳井氏は、東大で人工知能の研究に携わり、2004年に博士号を取得。研究所での勤務を経て会社を立ち上げました。「アーティストとプログラマーの集団」というQosmoでは、データとアルゴリズムに基づいた表現に取り組んでいます。これまで手掛けたプロジェクトは、地球から950光年離れた寿命を迎える星の電波データを音に変換し、映像と組み合わせたインスタレーション作品や、視覚復号型暗号技術を応用して模様が浮かび上がる洋服を制作、2016年秋冬パリコレクションで発表するなど、アルゴリズムと表現についてさまざまな取り組みを行っています。

AIを活用するにあたって徳井氏が重視しているのが、“人とAIの差異”。AIは、人の創造を超える“連想”で、気づきを与えてくれると言います。
たとえば、ある海外アーティストのミュージックビデオ作品では、戦争など社会的なインパクトのある写真を使った映像を作るにあたり、AIに行った画像認識テストの例を挙げ、こう説明しました。「シリア内戦で傷つき流血した子供の写真を見て、AIはエラから血を流している魚を連想しました。次に、虐待を受けて這いつくばって並んでいる人の写真を見て、AIはベンチを連想。座れそうだと見えたわけです」。
こうした面白い“見間違い”にクリエイティビティの原点を見出した徳井氏は、AIがカラオケ映像用の歌詞を作るというプロジェクトを手掛けます。AIに昔のレーザーディスクカラオケの映像を分析させて、映っているものから歌詞を自動生成するというもの。AIには画像だけでなく、JPOPの歌詞も学習させます。こうして映像に合わせて作られた歌詞が、私たちの想像を遥かに超えた面白さで、リズムにまったく合わない文字数の歌詞を、頑張って人が歌うというイベントも行い、会場は爆笑の渦と化したそうです。

■ AIを支配するのではなく、人とAIの歩み寄りで新たな価値を生み出す

もう一つ、AIによる音楽へのアプローチとして徳井氏が開催した、アルゴリズムがDJプレイを披露するというDJイベント「2045」での取り組みも紹介されました。重要なポイントは、選曲。曲と曲をどうスムーズにつないでいくかという流れを大切にするためのシステムを作ったと言います。また現在取り組んでいるのはレコードプレイヤーを使用して、AIとバックトゥバック(DJ同志の掛け合いスタイル)でプレイできるような仕組みを作ること。「ロボットに驚かされたいという思いがある」と徳井氏は言います。

徳井氏は人かAIか、ではなく人&AIで考える姿勢が大事だと主張しました。表現とAIということを考えた時に、人が出すアイデアに対して別の切り口をAIが提示してくれることで、表現の幅が広がっていくと考えていると言います。
AIとクリエイティブに向き合うためには、AIを人の手でコントロールしようとせずに手放してみることや、人のロジックとの異質さにヒントを見出し、活用していくことで、これまでにない斬新なクリエイティブを創造することができるという点をポイントとして挙げられました。
AI・人工知能とクリエイターが共存共栄する未来が、どう発展していくのか。人工知能の今後の動向に目が離せません!

(2016年7月19日 CREATIVE VILLAGE編集部)