2016年は“VR元年”と呼ばれ、VR技術を用いた映像製作や、VR視聴用デバイスが発表され、様々なアミューズメント施設で身近にVRが体験できるようにもなってきました。
6月より開催している国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル&アジア 2016』では、映像業界に多大な影響をもたらすであろうVRにフォーカスしたイベントを開催。ゲストには、業界で活躍中の4名が登壇。「Play Station® VR(以下、PSVR)」の開発に携わる、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの吉田修平さん。「攻殻機動隊 新劇場版『VIRTUAL REALITY DIVER』」を手掛けたクリエイティブディレクター浅井宣通さん。「進撃の巨人展 360° 体感シアター“哮”」のプロデューサー冨永勇亮さん。メディアコンテンツ研究家の黒川文雄さんより、VRマーケットの現在や今後について、またVRコンテンツのクリエイティビティについて、お話しされました。

黒川さん2016年秋にはVRの真打ちとも言われる「PSVR」が発売を控えているなど、マーケットは盛り上がりを見せています。
そんなVR市場をとりまく現状について、映画や音楽、PCオンラインゲームなどのビジネスに長年関わってこられた黒川さんによると、VRは世界中で大きな注目を集めており、ある海外調査機関では将来的に8兆円規模の市場になると予測しているといいます。特に海外では億単位規模の金額がVRに先行投資されているとのこと。国内では、コロプラ、グリー、gumiといったスマートフォン市場で大きな成功を収めてきた企業がVRへ進出して市場を形成しており、VR市場が今後さらに拡大するためには、魅力的なコンテンツを数多く提供できるかどうかにかかっていると語りました。

ではその“コンテンツ”づくりの現状はどうなのでしょうか。
最近手がけられた「攻殻機動隊 新劇場版『VIRTUAL REALITY DIVER』」が話題の浅井さんは、その製作の裏話もご披露いただきつつ、VRのコンテンツについての考察を語りました。

YouTubeでは世界でトータル100万アクセスにも達したというこの作品の製作にかかわったスタッフは約50名ほど。第一線で活躍している気鋭のクリエイターばかりを集め、約1年かけて完成させたといいます。主人公・素子の3Dは、肌の質感、まつ毛までディテールにこだわったという完成度。その上、360°分のモデリング、レンダリングを作り上げるという、想像を絶するような作業量であることを語りました。浅井さんはVR作品を手掛けることで、エンターテインメントはもっと面白くなると実感しているといいます。場所の制約を受けず、どこでも楽しめる。一方で現実と虚像の境界があいまいになり、倫理観の問題が出てくるという懸念も示しました。

dot冨永さん2014年から2016年初めにかけて、東京・上野を皮切りに国内、海外にも巡回した「進撃の巨人展360°体感シアター“哮” 」のCG制作を手掛けられた富永さん。このプロジェクトがスタートしたのは公開の約1年前。モックアップを作るところからはじまり、公開前の5ヵ月間をCG制作に費やしました。こだわったのはVRへの没入感。巨人に食べられそうになるシーンではその気持ち悪さ、世界観を魅せるために奥行きのある背景の描写など、繊細なディテールをリアルタイムレンダリングで実現したといいます。
また、360°見渡せるVRならではの特徴として、メイン以外のストーリーも用意しておく必要性を語りました。何度も見るリピーターだとメイン以外のところにも目が行くようになる。そのため別の視点からのストーリーを持たせることも大切であるといいます。

浅井さん浅井さんは、映像に“主観と客観”性をバランスよく持たせることを意識しているといい、映像のなかですべて主人公の目線だと主人公の姿が見えないため、主人公目線と主人公を見渡せる目線、つまり“主観と客観”二つの要素を持たせるように意識していると語りました。「攻殻機動隊では、素子の目線で見ているときに後ろを見ると素子がいたりとか、二人の会話の間に自分がいたりなど、試行錯誤していく中で発見したこと。VRの映像にはまだまだ面白い可能性が広がっていますよ」。

吉田さん吉田さんも面白いコンテンツをいかにきちんと提供していくかが重要だと言います 。
PSVRの開発にはエンジニアだけでなくゲームクリエイターも参加し、クリエイターの意見を積極的に取り入れたそう。PSVRではゲームに限らず、音楽、スポーツなど、自分がその場にいる感覚が楽しめるメディアの特長を活かしたエンターテインメントを作り出していきたいという吉田さん。VRは視聴を体験に変えるものだと語りました。VRはいくらプレゼンなどをしても体験してもらわないと伝わらないといい、今年は大型アミューズメント施設からネットカフェまで、数百円から楽しめる場もたくさん登場するので、できるだけ体験してほしいとお話しされました。

VRの制作環境自体がもはやVRになってきている、そうしたなかでVRという新たなメディアがどのように発展していくのか、そして社会や私たちの生活にどんな影響をもたらすのか、今後のVRの動きに目が離せません!

(2016年6月22日 CREATIVE VILLAGE編集部)