デジタルコミュニケーションを形にするクリエイティブブティックの株式会社イメージソースが5回目となるR&Dプロジェクト『IMG SRC PROTOTYPES VOL.5』を2019年9月24日から4日間にわたり東京で開催。
今回はARや独自開発のハードウェアを活用した最先端のデジタルコミュニケーションの試みを新作として3点、そのほか昨年度発表した作品やオリジナルワークを4点展示し、テクノロジーを使った表現やアイデア、デバイスの可能性を拡張するイメージソースの取り組みを発表しました。
全7点の展示作品の中から新作3点について開発者に話を聞きました。
空間における体験を拡張する3つのプロトタイプ
マルチユーザーARで体験を共有できる『PIXEL FIELD』
Appleが提供する「ARkit3」を活用し、複数のユーザーがゲームやスポーツなどを楽しめることを目指して開発したプロトタイプ。
展示スペースに置かれていたのはiPhoneを持ったロボットアーム。
これらをARkit3を利用して同期させることで、例えばiPhoneを持った人とロボットアームでARを通じてボールを打ち合うスポーツのようなものなどができるようになります。
また、「ピープルオクルージョン」というARkit3に搭載された機能により、オブジェクトを実在の人の後ろに回り込むような表現が可能になった点も、従来よりもさらにAR体験がリアルに実感できるようになっています。
「こうしたARエンジンは様々な会社が提供しており、それぞれ特長が異なります。今回このARkit3を選んだのは、複数人でAR体験を共有可能にする空間同期機能に注目していて、どのような可能性が広がるのか試したかったからです。」 と語る、同社のR&D部門の開発リーダーである吉井さん。
「今回はロボットアーム2台とARを連携しましたが、ドローンとARを組み合わせて、広い空間を活用したコンテンツなどにも発展させていきたいと思っています。 ARは一般的に現実空間にオブジェクトを表示させるものですが、ただ出るだけではなくて、それが現実世界の実物と相互に干渉するとどうなるのか。例えばオブジェクトの動作に対して同期させている機械が追いかけていくとか。バーチャルとリアルが複雑に絡み合って、両方とも実在しているような、普段感じ得ない違和感。こういうことをコンテンツとして表現したらどうなるかなどを実験する側面も強いです。」と今後のコンテンツづくりへの期待や課題を語りました。
「光を遮ることでみせるメディア」をテーマにした『KAXEL』
外観を見通せる窓際に展示された『KAXEL』。
LCD(液晶ライトバブル)を用いて遮光と透過を制御することにより、透明から黒に変化させ“隠す”ことを可能にした空間演出装置です。 セルのように小さな一枚のLCDを一ユニットあたり縦横で8×8のグリッド状に配し、センサーで検出した人の動きを黒と透明の差で表示するといったインタラクション性を持たせたり、表示したい絵や文字を表示させることもできるようになっています。
開発を担当した高野さんは、「日常の中でふと気づく、あらゆる間隙を縫って届く光の美しさをこの装置に落とし込みたいと考えました。またそれに加え、このLCDのように透明なものが黒くなるという物質的な側面を持った変化が日常では見かけないことにも着目しました。映像的な表現手法を使うことでサイネージとしても使用できる新たな空間演出装置の開発を試みています。」と説明しました。
確かに一般的なサイネージでは色彩感は表現できても、透明感や、遮光性といった表現は再現が難しそうです。
「環境の光に依存させることで、全面と背面からでは見え方が異なります。例えば窓際に置くと、夜なら室内からだと真っ黒く見えますが、外から見ると室内の明かりにより像が見えます。デジタルとアナログの狭間のようなバランスも考え、日常に溶け込むように、でもつい気になって見てしまうという存在感を出すことを意識しています。」
即座にAR体験、その日に持ち帰れる『INSTANT ARBOOTH』
カメラで撮影し、プリントにスマホをかざすと自分の姿が浮かび上がる『INSTANT ARBOOTH』。開発を手がけた石川さんは、「スマホさえあれば誰でも、即座に体験できて撮影した写真は持ち帰れる。いつでもスマホをかざすだけというAR体験が手軽にできるように、現在ニーズが非常に高い『WebAR』というブラウザ上でARを利用できる方式を採用しました。」
プリントアウトされた写真にはQRコードがついており、それをスマホのカメラで読み取り、表示されたURLにアクセスするだけという簡単な仕組みは、アプリをダウンロードするという煩わしさがありません。
「コンテンツの導入も、デプスカメラとプリンター、システムさえ導入すればOKで、大掛かりな機材は必要ありません。場所も、ちょっとしたスペースさえあれば大丈夫です。」
展示ではスキャンした対象物が浮かび上がりましたが、さらにテキストなどのコンテンツもニーズに合わせて実装することも可能とのことで、新たな販促ツールとしても人気が出そうです。
この他にも昨年発表したオリジナルワークや、前回のPROTOTYPESで発表した作品も、未体験の方向けに合わせて展示されており、インスタレーションや、スポーツをテーマにした作品など、幅広いジャンルをテーマにプロトタイプを作り続けている同社の取り組みぶりが窺えました。
このR&Dの取り組みは10年ほど前からスタートし、3年前にプロジェクト名を現在の「PROTOTYPES」と変えて継続。
これにより生み出された数々のプロトタイプをクライアントの課題解決に貢献していくために、途切れることなく取り組み続けています。
同社のものづくりの根本にある“R&D思考”が、社風として着実に根付き、受け継がれている-そんなイメージソースのものづくりの精神が、作品から窺えた展示会でした。
https://www.creativevillage.ne.jp/46239
(CREATIVE VILLAGE編集部)