アニメやゲームなど、日本のコンテンツは世界から注目されています。禅や茶道、日本画などの伝統文化も根強い人気です。日本のカルチャーに魅力を感じ、日本での生活を選ぶ方が世界中からやってきているこの頃、人材の多様性や業務の拡張を求めて外国人の採用を希望する日本企業も増えています。
しかし日本企業に採用され働く上では、日本ならではのルールや慣習、日本語力など、壁にもぶつかることもあるでしょう。
クリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)では海外から日本企業への就職・転職を考える方向けのウェビナーを開催しています。今回はウェビナーの講師を務める日本語教師・豊田真也さんに、外国人がつまずきやすい日本語や習慣、日本語を教える際の工夫を伺いました。
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敬語、面接特有の言葉遣い、慣習、外国出身者には多くのハードルが…
――外国出身の方は、日本語のどんなところが難しいと感じるのでしょうか。
敬語の理解は難しいようです。
この記事を読んでいる人の中にも、「尊敬語と謙譲語の使い分けがうまくできない」という人がいるかもしれませんね。中には「リスペクトしていない人には敬語を使わなくてよいのでは」と考えている人もいるようです。
日本語では、敬うかどうかだけでなく、自分のグループ内の人か外のグループの人か、内と外での区別として敬語を使います。日本独特の概念ですから外国出身の方にとっては理解に時間のかかるところだと思いますが、「敬語を使うか使わないか」と「リスペクトしているか」は関係ないと覚えてもらえたらと思います。
――面接や履歴書の指導もされているそうですが、外国出身の方がつまずきやすいのはどんなところですか。
面接でも履歴書でも、国によってスタイルは異なるので、まず日本流の面接スタイル、履歴書の書式を知るところから始める必要があります。
日本のように自己PRから始まって、自分の長所・短所、志望動機を述べるといったことをどこの国の面接でも行うわけではありません。履歴書も、入学や卒業の年を詳しく書くことは他の国では多くないようです。外国出身の方はそれを知らなくて当然ですから、私が指導するときには基本的な履歴書の書き方のルールから教えています。
また面接で使う日本語表現は、ビジネス日本語にも通じますが、通常日本語のテキストでは教えられないものです。面接にふさわしい表現や言葉も学習する必要があります。採用面接にパスした方から「テキストに載っていない言葉を教えてくれて助かった」という感想をいただくこともあります。
――なるほど、「知っているだけで差がつくポイント」も合わせて指導してもらえるのですね。
はい、就職・転職活動において、そういうポイントは意外と多いです。
たとえば長所と短所を述べるときにもテクニックが必要ですね。私が模擬面接で短所や苦手なことを尋ねると「○○は苦手です」「××はやりたくありません」などと堂々と言い切ってしまう人がけっこういます。
答えた方の考えでは「短所を聞かれたから率直に答えた」ということかもしれませんが、日本の企業では、短所や弱点をどうやって乗り越えるのかを知りたいと考えて、この質問をしています。だから「短所を改善するためにこんな努力をしている」とか、「短所ではあるけれど別の見方をすれば長所になる場合もある」など、ポジティブなこととセットで話すのがおすすめです。
キャリアサポートのスキルミックスを強みに、サービス業の意識を大切にして
――採用に関することでも具体的な指導が可能なのは、大学卒業後に求職者を支援する仕事を経験したおかげでもありますね。
そうですね。日本語学校で教える日本語教師になるためには、420時間の専門研修が必要ですが、その中で求職者向けの指導やキャリア構築サポートのことまではカバーされません。
日本語教師にも、アニメに詳しい人、日本の伝統文化に強い人など、いろいろな特徴を持つ人がいる中、私の場合は、キャリアサポートスキルのミックスが強みのひとつとなっているかもしれません。
日本語を学ぶ動機はさまざまですが、日本や日本企業で働くことを目指す人にとって、日本語を習得することと日本語で働くことは分けられないことです。教える側が、日本語のことも日本での仕事や企業のこともわかっていることは、信頼につながっていると思います。
――教える上では他にどのような工夫をされているのですか。
一度に教える人数にもよりますが、少人数のグループレッスンやプライベートレッスンでは、それぞれの苦手なところを補強するようなレッスンプランを立てています。
上達するには、アウトプットを増やすことが重要ですから、レッスンの場で何度もアウトプットをして、修正していく反復練習ができるように授業を進めます。
ゲームの好きな人にはゲームのキャラクターを使ってテキストを用意したり、生徒さんが少しでも興味を持てるような内容にすることも心がけています。
――やりがいを感じるのはどんなときですか。
自分の立てたレッスンプランが認められたときには、教えたかいがあった、と思えて嬉しいですね。表情を見ていてわかることもありますし、「わかりやすい」「面白い」などと本人が直接言ってくれることもあります。
私は日本語教師の先輩から「日本語教師はサービス業」と教えられました。教育というと「上から教える」イメージがありますが、その意識ではうまくいかないことも多くなります。サービス業と捉えて、相手に気持ちよく日本語を学んでもらうことを第一に考え、常に、人と人とのコミュニケーション、一対一の関係づくりを大切にしています。
上達には、アウトプットをたくさんすること、母語から訳すのをやめること
――日本語を上達させるために大切なことは何でしょう。
まずは、語彙や文法など、基本的なことをしっかりインプットすること。そして、先ほども少しお話ししましたが、その後はアウトプットをたくさんして練習を続けることが大切です。
さらに、日本語を使って仕事をすることを目標とする人であれば、「自分の国の言葉で考えてそれを日本語に訳す」ことをやめて、直接日本語の言葉を口に出せるように練習してください。
日本語を初めて勉強したときは、自分の国の言葉で日本語の文法や表現を説明してもらいながら学んだ人が多いでしょう。でもそれをずっと続けていると、日本の職場で周りの日本人と同じようなスピードで仕事ができるようにはならないのです。
だから、日本語学校でも、企業の研修でも、他の言語は使わず、日本語だけを使って日本語を教えます。日本で日本人と同じように働くことを目標にしている人は、日本語だけで教えてもらえる環境で学ぶとよいと思います。
――逆に日本で生まれ育った方たちは、世界中からさまざまな人が日本にやってきている今、身近なところで日本語を教える機会もあるかもしれません。そのときにどんなことに気をつけたらよいでしょう。
日本語学習への興味がなくなってしまうようなことは絶対に避けたほうがよいでしょう。
たとえば、無理矢理ある学習方法を押しつけるというようなことです。よかれと思ってのことであっても、学習者本人が納得できなければ逆効果です。日本語学習への興味がなくなってしまうと、日本自体が嫌いになってしまう可能性もあります。それは、外国人が他の外国人に教える場合も同じ。自分がうまくいったやり方でも無理に押しつけないことが大切ですよ。
――なるほど。気をつけます。では最後に、日本語を学んでいる人や、日本で働きたいと考えている人たちに、メッセージをお願いします。
日本語の教室や会話の講座では、一人で勉強しているときにはできない、アウトプット、会話の練習がたくさんできます。
恥ずかしがらずに、自分の言いたいことを自分の知っている日本語で話す練習をしていきましょう。履歴書や面接についても、日本のルールや慣習から丁寧に教えます。一緒に頑張りましょう。
――ありがとうございました。
インタビュー・テキスト:あんどう ちよ/企画・編集:澤田 萌里(CREATIVE VILLAGE編集部)
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