70歳を目前にした妻がある日打ち明けた「わたし、妊娠しました!」。リスクだらけの超高齢出産にいどむ、笑って泣けるホームドラマ『70才、はじめて産みますセブンティウイザン。』(NHK・BSプレミアム)(全8話)。
1~5、8話の演出をつとめるNHKエンタープライズの渡辺一貴さんと、6・7話を担当するクリーク・アンド・リバー社所属の渡辺昭寛さん。お互いのことを「カズさん」「ナベちゃん」と呼び合うほど仲のいいお二人に、子どもがいる現場、また映像コンテンツのクリエイターとして仕事の魅力などを伺いました。
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- 「70才、はじめて産みますセブンティウイザン。」の演出に関わった弊社・渡辺が登場します。
エグゼクティブ・プロデューサー/演出。
1969年生まれ。1991年NHK入局。
主な演出作品『監査法人』(2008)『リミット~刑事の現場2』(2009)『龍馬伝』(2010)『平清盛』(2012)『お葬式で会いましょう』(2014)『まれ』(2015)『おんな城主直虎』(2017)『浮世の画家』(2019)
渡辺 昭寛(わたなべ・あきひろ)(写真左)
演出/助監督。1980年生まれ。
2003年C&R社に入社。NHK関連番組制作後、フジテレビバラエティ番組のADとして従事。その後ドラマ助監督として『バッテリー』 (2008)『平清盛』(2012)『軍師官兵衛』 (2013)『まれ』(2015)『コントレール~罪と恋』(2016) 『おんな城主直虎』(2017) 『昭和元禄落語心中』(2018)等、多岐にわたるジャンルの作品に携わる。
2人の演出が担当する『セブンティウイザン』
──本作の演出をお2人で務められています。もともとお付き合いは長いんですよね?
渡辺一貴さん(以下敬称略:カズ) 10年近く前からですね。僕がNHKの朝ドラと大河ドラマのチーフ演出をした時に、ナベちゃん(渡辺昭寛)がチーフ助監督としてずっと現場を回してくれていたんです。
その時、子役との向き合い方などが良くて、今回の企画を立ち上げた時に「演出やりませんか?」と声をかけました。
渡辺昭寛さん(以下敬称略:ナベ) 最初はカズさん1人で担当しようとしていたみたいですけど、お声かけいただきました。
カズ 全8話で、そのうち6、7話を担当していただきました。ドラマを通して、夫婦の空気や距離感がどう変わっていくかを表現できたらと思っています。65歳で定年して二人で静かに生きていくはずだったのに、妻が妊娠したことで、夫婦の関係が離れたり近づいたりして、さらに新しい世界ができていく。
夫婦役を演じる小日向文世さんと竹下景子さんにはあまり注文をせず、役の雰囲気を自然に再現していただけるようお任せしました。ラブラブなんですよ、二人が(笑)
──メインビジュアルも、二人の仲良さにほっこりするような、妊娠という出来事にちょっとソワソワするような雰囲気が伝わりますね。
カズ 明るく楽しく見られるのが一番だと思って作っています。70歳にもなって自然妊娠で出産するのはありえないファンタジーですが、それ以外は多くの人に共通して感じられることです。
出産に辿り着くまでの夫婦の関係や、直面する問題や、出産・子育ての大変さや楽しさに年齢は関係ありません。きちんと命の大切さや、家族の絆が、自然に入ってくる物語を楽しんでいただきたいですね。
子どものいる撮影現場。時には敗北感に包まれることも……
──昭寛さんが担当されたのは6・7話ですが、なぜその2話なんですか?
カズ 6~7話は、子どもが保育園から幼稚園に通う時期の話なんです。つまり子役が1歳半~3歳くらいなので、セリフはあるけれどまだお芝居ができない。でもナベちゃんなら子どもと目線を合わせて飛び込んでいくのがうまいので、任せられるなとお願いしました。
ナベ 現場は本当に大変(笑)「どうしたらこのセリフを引き出せるのかな」と一緒にやっていかなきゃいけません。小日向さんや竹下さんも子役の子を盛り上げてくれて、お芝居なのかリアルなのかわからないほど良い表情をしてくださった。
結果的に、楽しく子育てしている感じが出たかな。でも1時間くらいねばったけど結局機嫌がなおらなくて「後日撮らせてください」というようなことも何回かありましたね。そんな時は小日向さんと竹下さんも疲れたまま別シーンの撮影に移ったり……
そんなふうに現場が敗北感に包まれたことも何回かありました(笑)
カズ 現場みんなで子育てしている感じはありますよね。昼食直後は眠くなることを踏まえてスケジュールを組んだり、なんでも子ども合わせです。ただ、僕は生まれたての新生児だったので、たいへんさの種類が違いますね。
たとえば沐浴のシーンなら、できれば何度も沐浴していろんな角度から撮影したいんです。でも、赤ちゃんを何度もお風呂に入れるわけにはいかないので、一度で撮影できるように技術さんの動きを変えていきます。
もし「ここでは小日向さんの顔を撮る」と決めていても、赤ちゃんがすごくいい感じならそっちを撮ったりと、その場で臨機応変に変更することはありました。
ナベ 子どもが泣いているところは演技じゃないですし、現場の空気がほぼそのまま画面に出ちゃいますね。僕も演出として経験豊富なわけではないので、出演者の方や、撮影部、技術さんなどにも助けてもらいながら、楽しい撮影でした。
──子役の方が重要な現場ですね。ちなみに、子役のオーディションはどうやって決めるんですか?
ナベ 僕はオーディションから参加して、作品に合った子を選びました。
カズ 新生児の方はオーディションはしないですよ。1人の役を数人でやっているんです。
ドラマの中では女の子なんですが、おむつを変えるシーンの撮影で「あ、今日は男の子だ!」とわかって慌てて隠したこともありました(笑)
映像の演出に欠かせない、“人とつくる”こと
──テレビドラマの仕事で大事にしていることはなんですか?
カズ 新人の頃に先輩に言われたのが「6割段取り、3割体力、クリエイティブなところは1割」ということ。
“クリエイティブ”という言葉は、すごくカッコ良くてピンと閃くような印象があるかもしれないけど、そうじゃない。ちゃんとした地道な積み重ねと、ちゃんとした芝居と、事前の根回しと、人間関係をつくることがチームの土台となり、新しいものができる。
段取りをしっかり突き詰めていくことでクリエイティブになっていくんです。とくにテレビドラマの現場は100人以上の規模で動くので、段取りは重要です。泥臭いのでカッコいいものではないけど、みんなでひとつのものをつくる達成感はやみつきになりますね。
ナベ わかります。
ディレクター、AD、助監督、監督といった仕事は、いろんな人を束ねていかなければいけません。
カメラマンさん、デザイナーさん、技術さん……いろんな人がいるので、たくさん会話をして、人間臭くコミュニケーションをとり、みなさんの力を引き出すのが必要ですね。
カズ そのためにはまず、自分が楽しくなることですね。「この人と一緒にやっていて楽しいだろうな」「この人の言うことを聞こう」と思える説得力がある人間にならないといけない。
人を演出する前に自分を演出するところから、演出の仕事は始まっている気がします。
──お二人は10年以上の付き合いですが、互いの変化を感じることはありますか?
カズ 逆に変わってない部分が多いから信頼できるんですよ。ナベちゃんはとても仕事に熱くて、現場が好き。
くじけても明るさを振り絞る姿は頼りになります。途中で業界を去ってしまう人もたくさんいる中、立場の違いにこだわらずにしっかり一緒に付き合ってくれるところが好きですね。
ナベ 僕もです。なにを考えているのかわからない演出家も多いのですが、カズさんはわかる。
もちろん後から「そんなに深いことを考えていたのか!」と気づいて勉強になることもありますし、僕が間違っている時はちゃんと「こうだよ」と注意することもある。
でもそれは作品を良くするためだということが伝わるので、僕も「じゃあこういうことを提案した方がいいのかな?」と考えられます。やっぱり方向性が同じメンバーが集まる現場が一番やっていて楽しいですよ。
──テレビ以外のことについても伺いたいのですが、最近ではいろんな映像配信の方法が増えています。映像でドラマをつくることの面白さはなんですか?
カズ みんなとやるのが楽しい、それだけですね。
やっている最中は「なんでこんな仕事してるんだろう……行くのやだなぁ」「これからエキストラ200人か」なんて思いながら働くんですけど、やり終わるとまたやりたくなっちゃう中毒症状がある。
作品が変わるたびに新しいことがスタートして、新しい緊張感があって、新しい喜びがあるのは、山登りみたいです。
ナベ 僕も「楽しい」に尽きますね。テレビドラマの現場では、多い時にはエキストラだけで200人規模だったりしますが、彼らと一緒につくって、できあがったものをその人数分の友達や親戚が見てくれて広がっていくのは面白いです。
大きなことをやろうとしたらモノを言うのは経験値ですから、この大規模の現場をこなせるかどうかでどんなクリエイターなのか変わってくるでしょうね。僕としては、ドラマも好きだけれど、垣根をこえてYouTubeでもなんでもやってきたいです。
でも、できれば大きなことがやれたら楽しいですね。
カズ 映像コンテンツはどんどん垣根がなくなっていくでしょうね。僕が若い頃はまだ8mmを回していて、ビデオカメラは一般の若者は持っていないし、編集するのも電車で3駅先のスタジオまで行って時間使用料金を払ってやっていました。
でも今はスマホがあれば映像作品がつくれる。映像をアウトプットすることが日常的になったので、YouTuberという職業もうまれているんじゃないかな。
テレビドラマ、映画、配信などはアウトプットの仕方が違うだけで、やりたいと思った人がやれる世の中になっていくと思いますよ。
インタビュー・テキスト:河野桃子/撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:田中祥子(CREATIVE VILLAGE編集部)