2004年にフル3Dライブアニメという、新しい映像技術で世界中の度肝を抜いた『APPLESEEDアップルシード』。
独創的なカメラワークと映像演出で国内外に衝撃を与えた同作は、原作である士郎 正宗のサイバーパンク的世界感を余すことなく見事にエンタテイメント作品へと昇華させ、日本はもとより世界的な大ヒットを記録しました。
あれから11年の時を経て2015年に、最新作となる『アップルシード アルファ』が公開されます。
そこで今回は、前作から監督を務める荒牧 伸志さんに、デザインの裏側からアニメーションクリエイターに求められることなど、お話をうかがいました。
アニメーションに魅了された学生時代
子どもの頃からアニメーションや映画が好きで、教科書にはパラパラ漫画を描いていました。当時はどちらかというと、人を描くよりも自動車や飛行機を描く方が多かったですね。航空ショーや軍艦がくる機会があると、父親がよく見に連れて行ってくれました。
モノクロで上映された『鉄人28号』の巨大ロボットや、『宇宙戦艦ヤマト』といった戦艦などメカニックなものが好きで、高校3年生の頃に『スターウォーズ』が公開されて、受験勉強中だったにもかかわらず学校をサボって何度も観に行きましたね(笑)。
その後、岡山の大学に進学して経済学部に入学したものの、殆ど大学には行かずに仲間と一緒にアニメーションを作っていました。まずは、「どこに行けばセルが売っているだろう」というところから始まって、ビデオも当時は8ミリフィルムでしたが、父親がムービーを撮ったり、写真の現像を自分でやっていたので、家にあった機材を使って制作したものを、大学祭やアマチュアの上映会で公開していました。
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これまでに携わったプロジェクトについて
玩具メーカーの仕事があると聞いて上京を決め、今で言うフリーターのような立場で、現在のタカラトミーから作画依頼を受けて、デザイン画を一枚いくらといった感じで描いていましたね。それが元となって、『ミクロマン』という小型のフィギュアが変身してサイボーグになる玩具が誕生し、それが数年後には『トランスフォーマー』となってアメリカでも販売されるようになりました。
当時は『超時空要塞マクロス』がヒットしていた頃で、元タツノコプロのプロデューサーの方と出会う機会があって、その時に「マクロスのようなメカニックなものをデザインできないか」との依頼を受けたんです。そこで、オートバイが変形してロボットになる設計でデザインしたものが、後に『機甲創世記モスピーダ』というアニメーションとしてオンエアされることになりました。
それまではずっとデザインの仕事をしていましたが、90年代に入って『ジュラシック・パーク』が公開されたりと、CGの分野にも興味を持つようになりました。同時期にCGのプロダクションに入社し、『バーチャファイター3』のプロモーションビデオを作る機会があって、その際に初めてCGで人物を描く事になったのですが、キャラクターをリアルにみせるにはどうしたらいいか試行錯誤して取り組んでみたら、意外と面白かったんです。
それまではメカニックなものばかり作っていたので、CGで人物というキャラクターを豊かに表現できるなんて思っていなかったんですよ。「これからは全てCGで表現できるんじゃないか」とCGアニメーションの可能性を感じたきっかけになりましたね。
印象に残っている仕事でいうと、98年にあまり表に出さず極秘プロジェクトの中で作られた作品なんですが、『GUNDAM: MISSION TO THE RISE』というショートムービーで、大友 克洋さんがガンダムをフルCGで手掛けるプロジェクトに携わったのですが、大友さんと仕事ができて、非常に刺激になりました。
アップルシードについて
2004年作『APPLESEEDアップルシード』では、フルCGでリアルな長編アニメーションを作るとなると、コストがかかる上に表現力が追いつかなかったりするのではという不安がありました。
そこで、背景はリアルめなCGでつくり、人物はアニメルックなCGにすることで、セルアニメのような表現になり、違和感なく見てもらえるのではないかと考えました。製作期間も脚本開始から完成まで1年半と短くて、当時は10年分くらい働いた気がしたくらいとても密度の濃い体験になりました。(笑)
新作となる『アップルシード アルファ』では、前作で味わってもらったインパクトを「異なる形でもう一度届けたい」と思い、新しい切り口を見つける為にも、前の要素を一旦すべて捨てて、アップルシードらしい斬新さを追求しながら取り組みました。
物語の構成も、前作では登場人物が多くて複雑だった分、本作はシンプルにして、主人公に気持ちを近づけられることに注力し、カットごとの表現力をあげることで、最初から最後まで主人公となる二人の世界観を大切に描きたいと思いました。
自分の中に在る強い信念を大切にする
一つ一つの仕事に取り組むあたって大事にすることは、まず、その仕事における自分なりの新たなチャレンジ項目を設定すること。たとえ小さなプロジェクトでも、ひとつひとつの仕事に自分なりの”テーマ”を掲げることですね。
例えば今回の『アップルシード アルファ』で言うと、「どれだけフォトリアルな映像を実現できるか?」が一番のテーマでした。
目標設定をしないで仕事に取り組むと、どんどんルーティーンな作業に陥ってしまうと思うんです。そのためにも、自分の中でどう気分をリフレッシュして挑戦していくか、ということが大事だと思っています。その積み重ねの先に、次のステップが見えてくるんじゃなかと。
また、できるだけ自分で判断をする。もちろん人の意見を聞いた上ですが、自分なりに責任を持って結論を出しながら進めていく。何事も自分で責任を持つ。そういう姿勢で仕事をしないと、成功も失敗も自分の一部にできないと思っています。
前作の『APPLESEEDアップルシード』は、アニメっぽいルックで成功を博した作品なのに、本作ではリアルなフルCGで本当に大丈夫なのかと周囲から言われました。大丈夫じゃないかもしれない。けれど、自分がやってきた仕事の流れの中で強く感じたこと、今回の映画でいうなら「自分はどうしてもフルCGで描きたいんだ」ということ。そういった強い信念を大切にすることです。
周りの意見に惑わされず、自分の気持ちに従った結果の先に何かがあると信じて貫き通してほしいですね。
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作品情報
『アップルシード アルファ』
1月17日 新宿バルト9ほか全国公開
■Blu-ray劇場限定版1月17日(土)発売
■Blu-ray完全生産限定版2月18日(水)発売
発売元:アニプレックス
荒廃した街で彷徨う二人の戦士
人類の最後の世界大戦後のニューヨーク。倒壊したビル、通りには人気もなく荒廃しきったこの街で傭兵として働くデュナンとその相棒ブリアレオス。
戦火を生き抜いた最強の女性戦士とその相棒にしてサイボーグとなったかつての恋人、二人は理想都市オリュンポスでの未来を夢見ながら未だ廃墟と化した世界に身を置いていた。雇い主は傭兵を取り仕切る犯罪組織のボス・双角。
大戦直後この男に救われた二人は、その借りを返すために渋々闇の仕事に手を貸していた。その借りも遂に終わりを迎える時が来た。いつものように双角御用達武器屋のマシューズがブリアレオスのメンテナンスを済ませ最後のミッションに臨む二人。
しかしここで事件は起きた。
新たなるミッション、それは人類救済の壮大なる戦いの始まりだった。
CAST
小松由佳/諏訪部順一/悠木碧/高橋広樹/名塚佳織/東地宏樹/玄田哲章/堀勝之祐
STAFF
原作:士郎 正宗
『攻殻機動隊』
監督:荒牧 伸志
「アップルシード」シリーズ、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』
メインテーマ:“Depth”中田ヤスタカ(CAPSULE)
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』
キャラクターデザイン:山田 正樹
「アップルシード」シリーズ
脚本:マリアンヌ・クラヴジック
『God of War』(ゲーム)英国アカデミー賞受賞
制作:SOLA DIGITAL ARTS
『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』
サウンドトラック:unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN
配給:株式会社アニプレックス