コロナが与えた大きな影響のひとつとして挙げられる「就活」。
比較的コロナの煽りを受けていないと言われるゲーム業界でも、新卒の就活にはやはり多大な影響があり、まだ進路が決まっておらず苦しんでいる学生も大勢います。
そんな状況を受け、株式会社ヒストリアがいち早く手を挙げ、「2021年新卒期間延長制度」を設けることを発表しました。
今回は弊社の新米エージェント兼YouTuberのハッシーと、日ごろゲーム業界を目指す若者と接する機会の多いアカデミー事業責任者の佐藤が、制度設立の背景や、コロナ禍の就活・新卒採用について、同社の代表と新入社員のお二方にお話をお伺いいたしました。
株式会社ヒストリア 代表取締役 佐々木 瞬氏
同 アシスタントゲームデザイナー 西尾 雅也氏(2020年入社)
株式会社クリーク・アンド・リバー社 クリエイティブアカデミー責任者 佐藤 浩平
同 YouTube担当 新米エージェント ハッシー
Unreal Engine専門のソフトウェアデベロッパー。ゲーム開発(コンシューマ、アーケード、VR等)を中心に、自動車、建築、放送/映像など非ゲーム領域も含め、Unreal Engine を用いた高い技術力で幅広く事業を展開。またUnreal Engine を軸にしたコミュニティ活動も精力的展開しており、技術ブログの運営や、独自コンテスト(『UE4ぷちコン』等)の開催も実施。日本におけるUnreal Engine 普及の牽引役を担っている。
コロナに屈さぬフェアな世の中であってほしい
――本日は代表の佐々木さんに直接お話を伺えるということで、大変楽しみにしてまいりました!早速ですが、今回「2021年新卒期間延長制度」という新しい取り組みをされるそうですが、こちらはどういったものなんでしょうか?
佐々木 ほぼ名前の通りで、2021年卒の方を新卒として迎え入れる期間を1年間(2022年3月まで)延長します、というものです。今回、コロナ流行という大変な出来事があって、急いでオンラインでの説明会や面談の環境を整える対応に追われるなど、今年度の新卒採用に対して満足なアプローチができなかった企業が多かったのではと思います。
一度しかない新卒としての就活なのに、学生はもちろん企業側も満足に活動できず、多くの学生がゲーム業界への就業を諦めざるを得なくなってしまう、というのはすごくかわいそうだし、何よりもったいないと思って今回の取り組みに踏み切りました。
――なるほど。ということは、2020年に思うように就活ができなかった学生(2021年卒)が、次の代の学生(2022年卒)と同じように選考に臨めるということなんですね。
佐々木 そうですね。それに加えて、新卒用の研修制度といったような新卒特有の待遇や福利厚生の適用も保証するというものでもあります。あとは、選考をする側としても“新卒採用”を意識するという目的もあります。
――選考する企業側にとっても意味があるんですね?
佐々木 やっぱり新卒採用って特別で、他とは圧倒的に選考基準が違うんですよね。中途採用のようにこれまでの職歴やいろんな情報の中から審査をするのと違って、少ない情報の中でポテンシャルや熱意を読み取って判断していくことになるんです。そうなると、例えば既卒の学生さんの場合「なぜこのタイミングに?」というのも気になるポイントです。
でも今年の場合は大半がコロナの影響という「仕方がないこと」に因るものだと思うので、見る側(企業)としても採用メンバーが先入観なく「これは新卒採用だ」と意識できるように、という思いも込められています。
――受ける側だけでなく、採用する側のマインドも重要ということなんですね。
佐々木 そうですね。学生・社内に向けた2つの意味で、今回明確に打ち出すことに意味があるかなと思っています。
――でもこうやって明確に打ち出している企業はなかなかないと思うんですが、今回制度をつくろうと考えられた背景やきっかけはどういったものだったんですか?
佐々木 冒頭でもお話ししましたが、やっぱり根底には2020年は弊社としても新卒採用活動を満足にできなかったなというのがあります。もちろんやってはいたんですが、全然満足にはできませんでしたね。
普段であれば(中途含め)オフラインでの月1会社説明会を開いて、直接話して雰囲気を知ってもらったり、ポートフォリオを見て細かなアドバイスをしたりといったようなことをしてるんですが、オンラインだとなかなか同じクオリティにもっていくのは難しいんですよね。あとは専門学校にお邪魔して説明会開いたり作品を見たりといったこともほとんどできませんでした。
――たしかに、どうしてもオンライン施策などだと限界もありますよね。
佐々木 そんな中でニュースを見たり、専門学校から直接話を聞くと、やはり今年は就職率が低く苦戦しているなと。きっとリーマンショック以来くらいの、過去最大級の理不尽を感じていると思うんですよね。
その中で想いとしては、毎年ある程度はフェアである世の中であってほしいなというのがあって、弊社 として何十人と採用できるわけではないけど、せめて(制度として)打ち出すことくらいはできるんじゃないかと。
企業側としても何かできないかと模索しているんだよというのが伝わったらいいなと、さらに同じような考えの企業さんも出てきてくれたら嬉しいな!とも思います。
――自社での採用だけでなく、業界全体の新卒採用活性化への影響も考えての施策、とても素敵ですね。クリークも業界全体の活性化を非常に意識しているので、とても共感できます。
佐々木 元々、Unreal Engine 専門デベロッパーとしてUnreal Engine を軸としたコミュニティ活動も活発に行っていますし、私自身専門学校の講師もしているので、日ごろから学生と接する機会も多いんですよね。だからこそ、今回の問題解決に一手を打てたらと常々思っていたという部分はありますね。
コロナ禍で苦戦する新卒採用、少しでも学生に希望を見せられたら
――コロナ禍の新卒採用で特に苦労された点などはありましたか?
佐々木 本来であれば採用活動に最も力を入れなければいけない4~6月に、ほぼ何もできなかったというのは痛かったですね。
――社員の方の在宅切り替え手続きなどもありましたしね。
佐々木 そうですね、機材手配やらスケジュール調整やらで社内がバタバタしていて、今年度に関してはとにかく「(ほとんど)動けなかった」というのが一番苦労した点です。
あとは、学生との直接的なコミュニケーションや交流を経てマッチングを図っている部分があるので、そこも苦労しましたね。
――いろいろな企業さんとお話をしていると、クリエイティブ職というのは他職種と違って育成コストが高いこともあって、今年は「採用枠を絞ります」「採用を断念します」という企業さんも多かったんですが、御社はそういったことは考えられなかったんですか?
佐々木 ものすごい正直に申し上げると、やっぱりありました(笑)(2020年4月の時点だと)会社自体がどうなるかわからない、複数ある事業の中でもどれが続くかわからないという状況の中で、さらに人を抱えて良いのか?というのはやっぱりありますし、あとは正直なところ企業目線からすると、「毎年新卒採用はしているから、今年はがんばらなくても」というのもやっぱりありますよね。
でもそういった企業側の「今年じゃなくてもいい」、学生側の「今年しかない」というそれぞれの事情のギャップには苦しみましたね。
――それでも、「今年じゃなくてもいい」と割り切ってしまうのは2021年卒の学生にとってはとてつもなくアンフェアだと思って、今回の制度に踏み切られたということに大変心を打たれました。でも、そもそもなかなかそういった学生視点にはなりづらいと思うんですが、そうなれる理由は何なんでしょうか?
佐々木 なぜと聞かれるとあまり考えたこともなかったんですが、やはり自分自身が専門学校の講師をしていたり、弊社主催のコンテストを専門学校を巻き込んでおこなったり、日ごろから学生や先生方と直接触れ合っているからなんですかね。それこそ近くで内定取り消しの話を聞いたこともありますし。
――普段から相手(学生)の顔が見えているというのが大きいんですね。
佐々木 そうですね、専門学校の授業で『業界への入り方』などを教えているのに、それでうちが消極的になるのは違うかなと。
――まさに自ら示しているわけですね!
佐々木 そんな大したことしているわけではないですけどね(笑)でも、そういった理不尽に苦しんでいる学生側に寄り添っている企業もあるというか、業界に対する希望を見せられたらと思いますね。
コロナ禍の新卒入社、いきなりのリモートワーク
――ここからは2020年4月入社の西尾さんにもお話を伺いたいと思います!
西尾 よろしくお願いします!
――緊急事態宣言下のご入社ということで苦労された点も多かったかと思いますが、実際にご入社されてから一番苦労された点はどんなところでしたか?
西尾 リモートワークがベースということで、仕事とプライベートの空間が同じ(自宅)というのが大変でした。初めて社会に出て、まだ仕事というものに慣れていない中でのこの状況というのは、どう切り替えたら良いものか、など難しかったですね。
――それは大変ですよね。それまで普通に出社して仕事をしていて、そこから環境が変わるというのであればまだ応用が利きますけど、まっさらな状態ですもんね。
西尾 そうですね。先輩方ももちろん気にかけてはくださいますけど、常に誰かがそばで見守っていてくれるというわけでもないので。何か質問したいと思ってもすぐに聞けない、今相手は質問しても良いタイミングなのかがわからないというのがありました。
――たしかに、同じ社内にいれば大体何をしているかわかりますし、「今は忙しそうだから少し待とう」といった判断もすぐにできますもんね。新卒からするとそのあたりはすごく気にしますよね。
西尾 コミュニケーションをとれる時間も限られてきてしまうので、聞きたいことを事前にかなりまとめておいて聞ける時にしっかり消化しておかないと、なかなか仕事が進められないということもありました。
リモート環境での工夫
佐々木 この2020年卒の代は4月1日に入社式で、翌2日には全員デスクトップPCを家に持って帰って、という感じだったんですよね。
――ものすごく急だったんですね。リモートワーク下だと、仕事の進行自体も困難な上に、会社の雰囲気や良さもなかなか伝わりづらいかもしれませんが、会社としてリモート下での新卒育成に対して、工夫されたことなどはありますか?
佐々木 平時のリモートワークと違って当時は本当に急なことだったので、いかに出社している時と同じ環境を再現するかというところに重きを置いていました。Zoomで常時接続をして少しでもコミュニケーションをとりやすくしたりとか、手すきのタイミングで取り組める課題を新卒間で共有できるものにしたりとか。
――新卒同士で活発にコミュニケーションがとれるのは良いですね!あまり緊張せずにラフに接することができますしね。素敵な取り組みだと思います。
西尾 そうですね。リモートとなると新卒と話す機会も少ないので、初めは新卒同士でも敬語からはじまって、という感じだったんですが、課題を通してコミュニケーションが弾んで、仲が深まるとても良い機会になりました。
ヒストリア社入社のきっかけとは?
――聞くところによると、西尾さんは元々ゲーム業界志望ではなかったそうですが、どうしてヒストリア社に入社しようと思ったんですか?
西尾 大学では映像を学んでいたのですが、元々ゲームが好きだったこともあり、卒業研究で気になっていたUnreal Engine を使ってゲームをつくってみたところ楽しさに気づいて、ゲーム業界もいいなと思ったんです。でも、専門的にきちんと学んでいるわけでもない自分には無理だと思って、IT系のシステムエンジニアを目指していました。
すでに内定もいただいていたのですが、学生最後の夏に『出張ヒストリア! ゲーム開発勉強会』の懇談会でヒストリアの社員の方とお話しする機会があって。
佐々木 その時にうちのメンバーが話を聞いて「君ならゲーム業界いけるよ~!」って、たぶらかしたみたいで(笑)内定辞退して作品を作り込んだのちに、うちに応募してくれました。
――その機会がなければ、今ゲーム業界にいなかったかもしれないということですね
西尾 「自分の中でも大きなターニングポイントになっていますね。お世辞かもしれないですけど「いいね!」と言ってもらえてとても嬉しくて楽しくて、卒業研究でも可能性を実感したUnreal Engine を使って仕事ができたらどれだけ楽しいだろう!って思いました。
すでに内定をいただいていた手前、もちろん迷う部分もありましたけど、やっぱり飛び込むことにしました。
――ちなみに、そこまでUnreal Engine に惹かれるのはなぜですか?
西尾 ゲームづくりって緻密なプログラムを打たないとというイメージがあるかもしれませんが、Unreal Engine だとシステム上でポンポンと素材を置いて、ヴィジュアル的にもわかりやすくつくれるので、そこが良いなと思います。そしてそれ以上に、それを映像だったりゲーム以外のいろんな分野で活用できるというのにも可能性を感じます。
そのUnreal Engine を専門で扱っている会社で学ぶことができれば、技術を習得していろんな創作物がつくれるようになるだろうと思いました。
これからゲーム業界を目指す若者へ
――最後に、コロナ禍で就活をしている人やこれから入社を控えている方々に、メッセージをお願いします!
佐々木 例年とは異なる環境が続いていますが、“チャンスがある時にきちんと掴みにいけるか”というのは、どんな環境でも変わらないと思います。オンライン化するとタイミングは計りづらくなるかもしれませんが、企業側もこのコロナ禍の対応に慣れてきていますし、2020年に比べると何かとやりやすくなってきていると思います。
採用に関しても、幸いにもゲーム業界は全く閉ざしているわけではなく企業側も人材を探しているので、ぜひみなさんも探しにきてください。その時のチャンスというのはわりと一瞬なので、ぜひ勇気を出して掴みにいってほしいですね。
――本日は貴重なお話ありがとうございました!
編集:CREATIVE VILLAGE編集部
https://www.creativevillage.ne.jp/84370
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