米アカデミー賞に2度ノミネートされたフィルムメーカー。同賞長編アニメ映画賞にノミネートされた2008年の『カンフー・パンダ』で監督を務め、ドリームワークスにて技術を磨き、成功を収めてきました。その最新作は『リトルプリンス 星の王子さまと私』。CGアニメーションとストップモーション・アニメーションという異なる2つの手法を用いて、世界中で愛されている原作をもとに長編アニメーションを創り出しました。日本人クリエイターも参加していた今回の制作現場のことや、ご自身のことなどお話を伺いました。
■ カリフォルニア美術大学でのアニメーションとの出会い
小学生の頃から絵を描くことが好きでした。振り返って本当にラッキーだったと思うのは、自分の絵に対する愛情を育ててくれる人が、周りにたくさんいたことです。
小学校の絵の先生が僕の絵を褒めてくれて、どんどん絵が好きになりました。その後もいろいろな芸術に触れて、励まされることも多くありましたね。
映画も大好きで常に観てはいましたが、まさか自分が作れるとは思っていなくて。カリフォルニア美術大学でのアニメーションとの出会いは衝撃的でした。アニメーションには今まで自分がやってきたもの、好きなものの全てが含まれている気がして、完全にアニメーションの世界に傾倒していきましたね。
アニメーションを作り始めた時から、探究心、好奇心でいろいろなテクニックを試していました。大学の卒業制作ではストップモーション・アニメーションと手書きのアニメーションの融合に挑戦しました。ストーリーを語り、感情を表す上で、テクニックを有効に使いたいと思ったからです。それ以降も自分の作品の多くで、違うテクニックを組み合わせて使っています。
あわせて読みたい
■ “心の通ったストーリーを作りたい”という想い
ショートフィルム、MV、CMの世界で経験を重ねるうちに、最初の転機となったのは1998年に『More』という短編アニメーションがアカデミー賞にノミネートされたことです。そのおかげでドリームワークスから『カンフー・パンダ』の監督に抜擢され、大規模な作品への初めてのチャレンジになりました。
『カンフー・パンダ』はフルCGアニメーションということでも注目を集めましたが、技術面だけでなく“心の通ったストーリーを作りたい”と思っていたので、その制作過程は大変でもありました。
でも、スタジオ側と自分たちの情熱があって、このストーリーをどうしても作るという強い気持ちがそれぞれのアーティストにあったので、作り上げることができたのだと思います。
■ 映画『リトルプリンス 星の王子さまと私』のはじまり
できるだけ早い段階からアーティストたちと一緒になって、いろいろなアイディアを出し合ってイメージを作っていきました。そして作り上げた今回のアートワークをスーツケースに詰め込んで、投資してくれる方や俳優さんや音楽家のハンス・ジマーさんや、全ての人に見せて納得してもらえるようにプレゼンテーションしていきました。
スーツケースを覗くとキャラクターのフィギュアが見えたり、一番下には、少女が飛行士に作る本を入れて、アートワークを通して、映画がどのような感じになるのかを視覚的に伝えたかったんです。
そのプレゼンテーションを聞いた皆さんの反応から変更していった部分もありますが、毎回、皆さんのリアクションからは刺激を受けて、映画の成功を確信できるようになっていきました。
そして何度も原作を読み返して、自分の人生にこの物語がどう影響を与えたか考えながら、私が作る新しいストーリーは原作を反映していなくてはいけないと思ったので、この映画のもう一つのストーリーのアイディアを原作から拾っていきました。
あわせて読みたい
■ 日本人クリエイターも参加した国際的な制作チーム
本作は原作「星の王子さま」の物語部分を描くストップモーション・アニメーションが全体の20パーセント、女の子と飛行士の交流など現実の世界を描くCGアニメーションが全体の80パーセントという特殊なケースで、2つの全く違う制作現場がありました。
それぞれの制作現場をさらに強化することに加えて、世界中での公開を見据えて、なるべく世界中からスタッフを集めたいと思っていました。
『塔の上のラプンツェル』(ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ)で髪の動きを描いた四角英孝さんにもCGキャラクター監修で参加してもらいました。
国際色豊かな制作チームを、どうまとめたのかと聞かれることもありますが、方向性や仕事の進め方、段取りが違うというのは常にあることです。素晴らしいプロフェッショナルが揃っているので、「映画にとってどの方法がベストか」を基準に決めていくことができました。
その結果、全ての子どもたちと、かつて子どもだった人たちに見て欲しいと思える作品に仕上がりました。
『カンフー・パンダ』を作った時にも感じたことですが、ドラマとコメディーの両方の要素があると、相乗効果で両方が強くなると思います。
例えば、もう飛行機が落ちる!というシーン、大人たちがもうダメだと思うようなシーンに、コミカルなテイストを入れることは大事です。そこでパラシュートが開いて着地する動きを加えると、子どもは笑います。大人は笑わなくても子供は笑う。逆に、大人が泣いていて、子どもは理解できないシーンもあります。すると、映画を観終わった後で「何であそこで泣いていたの?」「笑っていたの?」と話が弾みますよね。それがすごく大事なことだと思っています。
■ 情熱を持てるストーリーを見つける
これから映像制作に携わりたいという方には、自分にとって大切な、情熱を持てるストーリーを見つけて欲しいです。映画のパワーは作り手にとって重要でなければ見る人に伝わりません。笑ったり泣いたりという感情を誘発するには、自分の気持ちが入っていないと作れないので、それを見つけて欲しいですね。
そして、自分の気持ちと結び付けられるものは、ストーリーとして描く時にも上手くいくような気がします。
『カンフー・パンダ』が正にそうで、自分にとって初めての長編映画で、どうすれば良いのか分かりませんでした。それは、『カンフー・パンダ』の主人公のポーが「カンフーマスターになれ」と言われてもどうしたら良いのか分からなかったというのと、全く同じ立場だったんですよね(笑)そこで気持ちが結びついて、上手くストーリーを描いていくことができたように思っています。
■作品情報
『リトルプリンス 星の王子さまと私』
全国ロードショー中
監督:マーク・オズボーン
脚本:イリーナ・ブリヌル
音楽:ハンス・ジマー、リチャード・ハーヴェイ
ボイスキャスト(日本語吹替版):鈴木梨央、瀬戸朝香、津川雅彦ほか
配給:ワーナー・ブラザース