贅沢なフルボイスと動きまくるキャラの調和で話題のスマホゲーム『この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ(以下、このファン)』。2020年2月にリリース後、プレイヤー数は150万人を突破し話題を呼んでいます。そこで今回は、原作・アニメファンの期待にしっかり応えた『このファン』クリエイター陣にインタビュー。
ユーザーに刺さるイラスト作りの秘訣、新技法Live2Dのポテンシャルについて伺いました。さらに、チームメンバー全員が強烈に刺激を受けている、制作体制の裏側も明らかに。
株式会社サムザップ/『このファン』プロデューサー
辻本 健太郎(つじもと・けんたろう)(写真左)
株式会社サムザップ/『このファン』アートディレクター
安部 裕香(あべ・ゆかり)(写真中央)
株式会社サムザップ/『このファン』Live2Dアニメーター
──『このファン』、プレイしてみたのですが、衝撃的でした!キャラがたくさん喋りますし、ぬるぬる動きますよね。
高垣 ありがとうございます!フルボイスとLive2Dの組み合わせによって、かなりアニメに近い表現ができたと思っています。
安部 会話のテンポに合わせて動いているので、アニメっぽさが出ていますよね。
──キャラが喋っていない時も、動いていますよね。
安部 わぁ!よく見てくださってる!嬉しい!!実は、完成前のチェック時に大型モニターで流して、みんなで「これ、もうアニメだよね(笑)」と言い合っていたんです。
辻本 私たちも意識してアニメっぽくなるように作っていたとはいえ、いざそれぞれの制作物が組み合わさったものを目の当たりにすると「おぉ!アニメになってる!」と感動しました(笑)
安部 Live2Dのモーションをただ当てるだけではなく、数種類の体の動きと表情をスクリプトで組み合わせてバリエーションを増やしているからこそできる芸当でもあります。キャラ同士の会話でも、片方が喋っている最中に、片方が話を聞かずに「ルンルン♪」と動く演出を加えるなど、いろいろな遊びも入っています。
ブラッシュアップ期間で完全に“化けた”
──モーション制作において、「どのくらいまで動かすのか」という落としどころは、難しいと思います。開発時、どのような議論をしたのでしょうか?
辻本 初期の設計では、基本的な表情と一部の固有の表情だけを実装することになっていました。まずは最低限の要件を満たすぐらい作っておいて、残りの数か月でいろいろな動きを追加しましたね。
安部 作り終えた後に3か月くらいのブラッシュアップ期間が設けられていて「もっとアニメに近づけるにはどうすればよいか?」というような話し合いをしました。この期間が無ければ、もう少し寂しい演出になっていたかもしれません。今のように、感情豊かな『このファン』キャラらしさが出せたのは、この期間があったからですね。
辻本 普段、やらないような動きも追加できました。例えば、初期段階では「Live2Dだと“くずし顔”が表現しづらいよね」という話にもなっていたのですが……。
──“くずし顔”とは?
安部 泣き顔など、少し大げさなアニメっぽい崩れた表情のことですね。
高垣 アニメ『このすば』は、キャラの表情に大きな変化がある作品だったので、可能な限り近づけようとしました。だからこそ、従来のLive2Dではやらなかった表現も頑張って作っていますね。
安部 私たちが実際にアニメを観て「個性が出ていいな」と思った表情は特に力を入れてLive2Dで再現していきました。「この表情がなければ、アクアじゃない!」というこだわりを持って作っていましたね。
こだわったのは「ファン目線」 欲しい要素を全部いれた
──完成形から、さらに+αされた形が今の『このファン』なんですね。
辻本 そうですね。制作中、シナリオが固まるにつれて「キャラの表情はもっとこうした方が良いよね」というアイデアが出てきたので、それらを盛り込みました。
安部 チーム全員、「この作品が好き」ということも大きいかもしれません。アニメも原作も読み込んでいるので、それぞれの中にある『このすば』のキャラクター像が一致していたことが、開発終盤のブラッシュアップにつながったと思います。
辻本 他のメンバーに「このキャラクターって、もっとこうじゃない?」と言われたら「あっ!確かに!」となることが多かったです。
高垣 私も「アクアはもっとこうじゃないか?」と指摘することはありましたね。
安部 とにかくファン目線で作っていました。あとはチームみんなの好きのベクトルが一緒というか、「キャライメージ」がしっかり揃っていたのでこだわりを詰め込むことができました。
──具体的に、どんな要素を追加しましたか?
安部 最後の方に決まったことなのですが、めぐみんが爆裂魔法を撃った後の仕草が物足りなくて。アニメだとバタン!と地面に倒れるのを、ゲーム画面で足元が見えない状況でどう表現するか工夫しました。あと、高垣さんはカズマをよくチェックされてましたよね。
高垣 最初、カズマは全体的に普通の顔をしていたのですが。「いや、カズマって普段こんなすました顔してないだろ」と思いまして(笑)
辻本 普通の顔をしていると、ちゃんとした主人公っぽくなってしまうというか。それを崩したいと考えてモーションを付け足しましたね。
安部 カッコよくなり過ぎないのがポイントでした。悪だくみさせたりとかね(笑)
高垣 カズマは何回も作り直しましたね。もうちょっと、やる気のなさを出そうとかゲスい顔にしよう、とか(笑)
カッコいいだけじゃ『このすば』じゃない
──ファン目線とプロの技術によるポジティブで挑戦的な2D表現が『このファン』を生み出したんですね。
安部 ゲーム中に登場するキャライラストについてもかなり工夫しました。「ストーリーを感じさせる画にするには?」という議論をチーム内で繰り返しました。
辻本 例えば、このイラストは、1枚のイラスト中でキャラ同士の関係性が滲み出てくるよう作りました。また『このすば』っぽいワチャワチャ感やドタバタ感みたいなものも盛り込めるように工夫しています。よくある感じのカッコいいだけのイラストにはならないようには意識していますね。
高垣 たしかに、キャライラストが最初にあがってきたとき「もうちょっと『このすば』らしく何かできるはず!」と思いました。そこで、まずは、めぐみんから取り掛かりました。今のものは、何度か描き直してできあがったものです。
辻本 『このファン』では毎月多数のキャライラストが出るのですが、ほぼ全てに高垣さんやシナリオチームを中心に、多くのチェックや議論が入ります。先ほどのめぐみんのイラストの完成度を基準に、他のキャライラストも作るようになりましたね。
安部 いちばん最初に高レアリティのカードを描くにあたって、イラストレーター陣でラフ案を沢山持ち寄りアイディアを出し合いましたね!そして実装されたイラストに対してSNSなどで仕込んだネタにツッコミを入れてくれるユーザーさんもいて、とても嬉しいです!
辻本 「気付いてもらえるかな?」という細かい描写も、全部気づかれましたね(笑)
褒め合って高め合う チームの制作体制
──大人気ライトノベル『このすば』初のスマホゲーム化。プレッシャーも大きかったと思いますが、開発時の雰囲気についても教えてください。
高垣 基本的には楽しくやっていましたが、期待の大きさは感じていました。例えば、めぐみんの爆裂魔法で戦闘不能になるとか、ダクネスは攻撃が当たらないとか、原作の魅力や設定を盛り込みつつも、バランスの良いゲームとして成立させる苦労がありました。
辻本 ゲームバランスは最初の段階で入念に調整しましたので、そこから先の制作は楽しかったです。でも、高垣さんは私たちよりもプレッシャーがあったと思います(笑)
安部 クリエイター陣はみんなモチベーション高く取り組んでいました!作ったモノを見せ合って「これすごいかも!」なんてやり取りもしたり(笑)良いものに対して素直に褒め合ったり、より良くするためのアイディアを出し合う文化があるので、作りながらどんどん楽しくなっていきました。
──アットホームな環境だと批評的な意見が出づらい気もしますが、互いに指摘し合ったりもするのでしょうか。
安部 職種が違っていても、指摘はバンバンしますね。私はLive2D担当なのですが、イラストのデザインに対しても意見を伝えていましたし、逆にイラストチームからも、このキャラはこんな動きにしてほしいという意見も貰いました。普段から本音でやり取りしている関係だからこそ、褒められたときに「本当に褒められている!」と感じられます。
高垣 そんなみんなが絶賛し合ってる中「ちょっと指摘しづらいなぁ……」と思ったことはちょいちょいありましたが(笑)
安部 (笑)高垣さんは、それでも指摘してくださいますよね。
高垣 修正に工数が掛かりそうなことだったら、ちょっと後ろめたそうに指摘します(笑)
“要所を押さえて任せる”
──ご経験のある高垣さんの目線からは、他の方よりも見えるものも多いと思います。そんな時、具体的に「こうするべきだ!」と指摘されているのでしょうか。
辻本 個人的に高垣さんのアドバイスの仕方がすごく好きです。気になったことをすぐに言ってくださるのはもちろん、「こう変更しろ」と指示するのではなく、客観的な問題提起をしつつ、最終的には私たちに任せてくれるんです。作る側に裁量を持たせてもらえるのは、私たちの成長にも繋がるので、とてもありがたいです。
高垣 私としては、自分の中でクオリティ基準があって、それを満たすように押さえておくべきポイントは押さえますが、あとは任せることが多いです。
──合格基準というか、面白いゲームにするための骨格や急所があるんですね。
高垣 私が言いすぎると、幅が広がらなくなるというか、+αがないものになってしまうかもしれないので。+αになるアイデアが出てくる部分は、任せるようにしていますね。
──全体的に、コミュニケーション量と制作スピードが凄まじいと感じます。どのような制作体制なのでしょうか?
安部 職種間の連携をスムーズにするために、席なども臨機応変に変えていました。デザイナーはプランナーやエンジニアの近くに、Live2Dの場合はスクリプターとイラストチームに近い席にしたり、といった感じです。作ったものを常に共有し、相談しやすい環境にすることで、意思疎通がスムーズにできていたんです。特にLive2Dはスクリプトで動きと表情を組み合わせて様々な感情を表現していたので、スクリプターさん=第2のアニメーターですね。
辻本 私のところにもすぐに相談に来てくれます。スクリプターさん側からキャラの表情について提案をしてもらうことも多いですね。Live2Dってパーツの組み合わせでいろんな表現ができるんですが、スクリプターさんは私たちが思いつかなかった組み合わせも教えてくれます。
安部 「こんな表情も作れるよ!」とか。私たちもとても勉強になっていますね。
──楽しくてクリエイティブな現場ですね。2Dイラスト好きでゲーム作りに徹底的に関わりたい方は特にマッチしそうですね。
安部 サムザップのように、優秀なイラストレーターを内部に抱えているゲーム会社って珍しいと思うんです。2Dに強いゲーム会社を目指しているので、2Dイラストの魅力を最大限引き出すための議論は日常的に行っていますね。イラストやゲーム作りに対する議論を楽しめる方にとっては最高の環境です。
辻本 2Dに関する全てのことに携ることができるのも特徴です。Live2Dを作ったり、SDを描いたり、キャライラストを描いたり、新しい技術や体験をしたい人にとっては嬉しい環境かなと。安部さんをはじめ、イラストレーターからアニメーターに転身するなど、さまざまなことに挑戦できますね。単にイラストを描いて終わりではなく、自分が“ゲームを作っている実感”を持つことができる会社です。イラストを描いている時も「自分はゲームのイラストを作ってるんだ」という意識はみんなめちゃくちゃ強く持っていますね。あと、みんなで1つのゲームを作っているという意識も常にあります。だからセクションを跨いでの議論が自然と発生するんだと思います。
作るときはプロとして。触るときはファンとして
──専門的な人が集まると、それぞれの領域にプライドがあるので「自分の領域に口出しするな!」みたいなことになりがちですが、そうはならないのですね。
安部 私たちも他職種の専門領域のことで分からない部分もあるので、ユーザー目線で「面白いゲームとして結果的にどうなれば良いか?」というイメージを共有しながら意見を出し合うようにしています。イメージを実現するための手段として、イラストレーターの観点、エンジニアの観点、それぞれプロとしての観点でアイディアを出し合っているので上手くいっていると思います。
高垣 ゴールのイメージが一緒なので、指摘しても分断が起きないのかな、と。
安部 みんな、議論するときや触るときはユーザーとして話すので立場が同じなんだと思います。「初めて触るユーザーさんにとって、ここは分かりにくいよね」とか、「原作だったらここはこうだよね」とか、職種関係なくみんなで言い合う文化が根づいていますね。
──メンバー全員が原作について熱く議論し、イラスト1枚に全力を注ぐ。これらの圧倒的な熱量が『このファン』という作品に凝縮されていると感じました。
安部 ありがとうございます!私はサムザップに7年間いるのですが、過去の開発ノウハウが今に活かされているのを感じます。社内共有会などで技術共有をしているので、その蓄積で新しいモノを作るというサイクルがあり、今回の『このファン』はそれらの取り組みが開花した姿でもあります!
現在、株式会社サムザップでは、サーバーサイドエンジニア、クライアントエンジニア、プランナー、マーケティングなど各職種を募集中。
©2019 暁なつめ・三嶋くろね/KADOKAWA/映画このすば製作委員会 ©Sumzap, Inc.
取材・ライティング:小川翔太/撮影:SYN.PRODUCT/編集:向井美帆(CREATIVE VILLAGE編集部)