マジック:ザ・ギャザリング(※)好きであれば誰でも大歓迎!

このような衝撃的なコピーを掲げるIT企業、Sekappy(セカッピー)をご存じでしょうか?2017年の設立から徐々に規模を拡大し、2020年には青山から赤坂へオフィスを移転。尖ったコンセプトを維持したまま、勢いを増し続ける注目のIT企業です。

好きなコトを中心に集まるコンセプトは、「コミュニケーションの質&速さの向上」「ワークライフバランスの改善」など、業務面にも素晴らしい効果が出ているとのこと。
エンジニアにとっては楽園のような職場環境であり、企業にとっては真似したくなるビジネスソリューションに溢れています。

今回はSekappy創業当初から携わる役員であり、社内のエンジニアを統括する立場である、志村 一郎氏にインタビューを実施しました。志村氏自身もエンジニアでありながら、マジック:ザ・ギャザリングの元プロプレイヤー、日本最大のマジック専門店「晴れる屋」元店長という異色の経歴です。新進気鋭のエンジニア集団Sekappyとはどんな企業なのでしょうか。率直な質問をぶつけてSekappyの実態に迫ります。

志村 一郎(しむら・いちろう)
株式会社Sekappy 取締役 e-Sports事業部 事業部長
※マジック:ザ・ギャザリングとは
世界中で4000万人を超えるプレイヤーとファンを持つ、戦略トレーディングカードゲーム。
25年以上の歴史を持ち、競技プレイやカジュアルな遊び、コレクションなどの様々な側面を持つゲーム。

マジックによってチーム力向上とブランディングを達成

マジック・ザ・ギャザリングの試合風景

──コーポレートサイトを拝見すると、マジックとの共存を本気で目指されているのだと感じました。ここまでマジックとの結びつきが強い企業だと、マジックのことが分からない人は疎外感を感じてしまうと思います。マジックに詳しくない人は入社しない方が良いのでしょうか?

そんなことはありません。「マジックをプレイしたことは無いけど、興味がある!」という方にもたくさんジョインして頂いています。弊社内でもマジックのイベントを多く開催しているので、自ずとマジックに親しんでもらえる環境になっています。マジックが重要なコミュニケーションツールの一つになっているのは確かなので、マジックと全く関わらずに過ごす方が難しいかもしれません。

──エンジニア兼マジックファンの方にとっては本当に夢みたいな職場ですね!私も昔はシステムエンジニアでしたので気持ちがスゴく分かります!具体的にお聞きしたいのですが、この「社員全員がマジックプレイヤー」というコンセプトによってどのようなメリットが出ていますか?

2点あります。1つ目は、強化されたコミュニケーションによるチーム力です。私達は仕事だけでなく、マジックを通して頻繁にコミュニケーションを行っています。その流れによって、メンバー間の案件の相談についても、頻度高く実施されるという効果が生まれています。これらはチーム力の向上に繋がり、弊社の強みになっています。

2つ目は、弊社がゲーム関係の開発に強い企業である、とクライアント様に認知して頂けることです。このコンセプトによって弊社のエンジニアは「ゲームプレイヤーの心理やゲームシステムへの理解がある」という前提が形成されています。また、マジックを最低限プレイするためには、ある程度の論理的思考力が必要になります。これらの要素が、クライアント様が安心して弊社にゲーム案件を依頼できる要因になっていると考えます。

──確かにゲーム業界は特に一緒に働く人が「ゲーム好きかどうか?」が重要視されている印象です。「ゲームの仕事はゲーム好きな人に発注したい」や「ゲーム好きな人の方が理に叶った成果を出せる」という考えは強いです。

そうですね。また、マジックというゲームブランドは25年以上の歴史を持つことから、ゲーム業界だけでなくビジネス界全体からリスペクトされる傾向にあります。このリスペクトが弊社の社会的な信用にも繋がっていると考えます。

セカッピー:志村 一郎氏

中途半端に絞ると《悲劇的な過ち/Tragic Slip》になっていた

──近年、御社のような尖ったコンセプトを持つ企業は増えてきたように思えます。
しかし、多くの企業はそのコンセプトを「対外的な価値」として転嫁できず、失敗している印象があります。どうしてSekappyは上手く価値として表現することができているのでしょうか?

「マジック好き」というところまで極端に絞り込んでいるからなのかもしれません。ここまで絞り込まれた趣味で繋がると、すごい速さで距離感が縮まるんです。また、共通の趣味を持つ友人ということになるので、先輩後輩や年齢による上下関係もすぐに無くなります。これによって、遠慮や忖度が減り、本質的なコミュニケーションをしやすくなっているのだと考えます。

──なるほど、確かに趣味の話をする時は先輩後輩や年齢差による遠慮はしませんね。
趣味について自由に話している雰囲気が仕事の意見交換でも引き継がれていると考えると、Sekappyのエンジニア皆さんが活発に議論されているイメージが沸いてきました。

仰る通りです。あとは、一般的な企業と比べて、会社内で存在感を示せるファクターが多いことも一因としてあるかもしれません。当然、IT会社なので成果物のリリース力は評価になりますが、それに加えて「マジックの大会で結果を出している」「マジックの知識が凄い」等もメンバー間ではリスペクトの対象になります。すぐに仕事で結果を出すことが難しい若手エンジニアでも、初期の段階から意見をしやすいのは、メンバー間に様々な軸でのリスペクトがあるからだと思います。これも単一の趣味に特化していることによる良い効果の一つだと思います。

セカッピー社内

──「ゲーム好き」や「スポーツ好き」等、一段階でも抽象度を増したカテゴリにしてしまうと失敗していた可能性があるんですね。勇気をもって極端に絞り込んだからこそ得られた結果と考えると、天と地の差があります。

そうですね。中途半端な絞り込みでは、むしろ派閥を生んでしまっていたかもしれません。マジックという単一のゲームに絞り込んだこと、さらにそのマジックが他業界からも一目を置かれるゲームであったこと。これらが要因だと考えます。

移転直後のオフィスを解約、コロナ禍での《素早い行動/Swift Maneuver》

──志村様自身、3年程前までマジック専門店「晴れる屋」で店長をされていたご経歴もあることから、マジックに対する理解度が高いのを感じます。

そうですね。大学までは競技プレイヤーとしてプロツアーなどに出場していました。大学卒業後は9年間システムエンジニアとして従事していましたが、当時晴れる屋の副社長だった高桑 祥広(現Sekappy社長)からの声掛けで晴れる屋の店長になりました。その後はSekappy設立のタイミングでまた声を掛けてもらいました。

セカッピー:志村 一郎氏

──御社の代表である高桑様も同じく、マジックの競技プレイヤーとして著名な方です。
ここまでのSekappyの事業展開には高桑様のお考えが色濃く出ているのでしょうか?

そうですね。例えば、コロナ禍での対応としてマジックのオンライン大会を主催する為のクラウドファンディングを実施し、目標支援額を達成しました。他にもいろいろな施策にマジックプレイヤーとしての方針は現れていると思います。

──御社のコロナ禍対応として、全社員の完全リモート移行をされていて対応の速さに驚きました。また、御社のオフィス移転のタイミングと重なっていたのにも関わらず、その契約したオフィスの一部を解約するという徹底さは他企業と比較しても圧倒的です。このスピード感と柔軟性もSekappyの特徴を表しているのでしょうか?

そうですね。全員がマジックプレイヤーなので、論理的な思考を得意とする方が多いという点がポイントかもしれません。理に叶っている施策であれば、皆すぐに理解と納得をしてくれますね。比較的に合意形成を取りやすい環境であることが、素早い決断に繋がっていると考えます。

ゲーム好きだからこその《肥沃な想像力/Fertile Imagination》

──具体的にSekappyが担当している開発案件について教えてください。また、この案件はSekappyにしかできない!などあれば特に知りたいです。

晴れる屋さんのWEBサイト(https://www.hareruyamtg.com/ja/)は弊社が開発を担当しています。弊社でないと、あそこまでマジックに特化したサイトには出来ないと思います。例えば、データベースの設計に関しても、あらゆる機能の拡張を想定した作りになっています。実際、現在もサイトには追加の機能を実装しているのですが、いずれも問題なく対応できています。マジックへの理解度が高いことに加え、サイト利用者としての視点を持っている我々だからこそ出せる成果です。

また、シャドナビ(シャドウバース用の大会運営ツール)の開発も弊社が行っています。
このアプリに関しては、実際に大会出場経験のあるメンバーを中心に開発プロジェクトを発足しました。ツールを使用するプレイヤーの立場として意見を出し合うことで、本当に使いやすいアプリを開発することができました。このように、想定される使い方やトラブルの洗い出しが難しいアプリの開発ができることも弊社の強みです。

──確かに、要件定義も含めて丸投げできるのは発注側にとっては嬉しいことですね。

そうですね。これは晴れる屋勤務時代の実体験なのですが、晴れる屋のECサイト開発を外部のITベンダーに発注する際に苦労したことを覚えています。依頼する際にITベンダーのエンジニアに『デッキ』などの一つ一つの用語を説明しないといけないんです。これはとても大変な事でした。「デッキとはカードが集まった山札のことで…中身を自由に変えることができて…」という要領で全てを説明しなければなりません。
もちろん弊社にご依頼頂く場合、ゲーム関連のキーワードは全て把握している前提で話を進めて頂くことが出来ます。

──ここまで専門特化されていると、ゲーム関連の案件については、要件通りに開発するだけでなく提案やコンサルティングも出来るように思えます。

仰る通りですね。現在は、開発案件だけでなく「こういう課題があるんだけど何とかならないかな」というようなご相談を頂くことも増えてきています。さらには、開発したシステムの運用方法や活用方法を含めたコンサルティングに関しては日々お手伝いをさせて頂いております。

※RAGE Shadowverse 2020 Springにおいて「オンライントレーディングカードゲームを同時に同一会場でプレイした最多人数」のギネス世界記録を達成。Sekappy開発のシャドナビもギネス達成に貢献しました

多才なエンジニアの《集い/Congregate》

──特化していることによるメリットが良く分かりました。一方では、御社は極めてニッチな領域を攻めているようにも見えます。
このニッチさ維持したまま事業規模を大きくしていくのは大変に思えますが、今後の展開としてはどのようなイメージなのでしょうか?

既にゲーム以外の案件についても、弊社の強みを活かして成果を上げることが出来ています。弊社の根底にある強みとしては、「マジック」×「エンジニア」という論理的思考力が強い集団であること、さらには忖度のない議論とスピード感のある意思決定ができることです。これらの強みはゲーム以外の案件においても価値を出すことが可能です。

また、設立当初はゲーム業界のエンジニアの応募が中心になるのかと想定していたのですが、実際はそんなことはありませんでした。
嬉しいことに、インフラ系やアプリ系、WEB系、様々な業界出身のエンジニアにジョインして頂くことになりました。彼らのノウハウを全社的に共有して幅広い案件に対応することに繋がっています。

──マジックという共通の趣味を介して、様々なスキルのエンジニアがSekappyに集結したんですね。お話を伺っていると、マジックプレイヤーとエンジニアは相性が良いように思えます。御社の設立当初から、マジックプレイヤーにエンジニアは多いという算段はあったのでしょうか?

マジックプレイヤーにエンジニアが多いという実感はありました。
例えば、大会のTOP8プロフィールの職業欄でも、システムエンジニアと書く方は非常に多かったです。また同時に、システムエンジニアとマジックの両立に苦労されているというお話も耳にすることが増えました。この2つをうまく共存させる方法は無いかと考えていました。結果的にマジック界に素晴らしいエンジニアがいることが実績として現れてきましたので、今後も多くの方々にジョインして頂けると嬉しいです。

セカッピー:志村 一郎氏

設立時には想定していなかった《予想外の結果/Unexpected Results》

──答えづらいかもしれませんが気になる質問をさせてください。御社で働くうえでマジックが重要であることが分かりました。では、エンジニア職は継続したいけどマジックとは距離を置きたい、という方は自ずとSekappyを卒業していくことになるのでしょうか?

事実に基づいてお話しすると「現状、それは起きていない」という回答になります。
恐らくですが、マジック自体が距離感を調整しやすいゲームであることが理由の一つだと思います。マジックには実際にプレイするだけでなく、綺麗なイラストのカードを集める、プロプレイヤーの試合を観戦する等、様々な楽しみ方ができます。私自身も現在はマジックを実際にプレイする機会は減りましたが、新カードの情報について仲間と雑談するだけでも十分楽しんでいます。
また私の周りでも、マジックのこと全てが嫌いになって一切の関りを持たなくなるような人はこれまで見た事がありません。当然、人によってマジックとの距離間は変わるかもしれませんが、それを理由にSekappyを離れるような方は現状いませんね。

──確かに、マジックは新カードのプレビュー情報を見ているだけでも楽しいです!
お話を聞けば聞くほど、御社内では様々なマジックの楽しみ方が許容されているのだと感じました。

仰る通りでして、設立当初は競技指向のマジックプレイヤーが多く集まるのかと思っていました。しかし、結果的にはカジュアルにマジックを楽しまれている方にも、多くジョインして頂いています。いくつかのゲームをやっている中の一つとしてマジックをされている方、昔マジックをプレイしていて弊社に入ったことをキッカケに再開された方など、本当に様々です。

壊れた関係の《修繕/Tinker》にもマジックが寄与

──議論の活性化やコミュニケーションのスピードアップ、これらに課題感を持っている企業が多い中、その解決策の一つが「共通の趣味を持つこと」だったと考えると盲点でした。

弊社は設立して4年目になりますが、日を追うごとにその恩恵を感じています。
また、真剣に仕事をしていると仲間同士で意見がぶつかり合い、ギスギスした関係になることもあります。一度、壊れた関係性は修復されるまで時間が掛かり、その間の情報の伝達が滞ってしまいます。その関係性を比較的早くリフレッシュしてくれる要素としてもマジックが活躍します。

また、弊社はマジックと仕事の両立をポリシーとしているので、その結果、社員のプライベートの時間を守ることが会社の最優先事項となっています。また、私自身がシングルファーザーでして、子どもの都合で早退しなければならないこともありますが、社内から白い目で見られるようなことはありません。私自身もSekappyの雰囲気には助けられています。マジックに限らず、お互いのプライベートな時間について皆が尊重し合える企業になりました。これも趣味で繋がっている仲間という意識が強いからであると思います。

──共通の趣味で繋がることでこんなにも多くの恩恵があるとは思いませんでした。本日は貴重なお話をありがとうございました!最後にこれからのSekappyが目指すものを教えて下さい。

これまでは準委任や請負でシステムを開発することが多かったのですが、今後はもっとマジック業界を盛り上げられることにリソースを割きたいと思っています。その活動を通して、弊社のことをさらに多くの方に知ってもらい、もっと多くの方の力をお借りして頑張っていきたいと考えています。

──やがてはマジックよりも先にSekappyという企業のことを認知し、それをキッカケにマジックのことを好きになってくれる方も出てきそうですね。

そうですね!「Sekappyに入りたいから、マジック始めようかな」と思ってもらえるようになると、すごく嬉しいです!ゲーム案件に限らず業界を飛び越えて活躍し「世界中をHappyに」していけるような企業になっていきたいです。

セカッピー:志村 一郎氏

インタビュー・テキスト・撮影:小川翔太/編集:CREATIVE VILLAGE編集部