ゲーム業界に激震!2020年3月18日、香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が成立、4月1日より施行開始されました。ゲームに関わるお仕事であるゲームクリエイターの方々は、この条例をどうみているのでしょうか? 20代~40代の現役ゲームクリエイター男女4名(ディレクター、プログラマー、デザイナー、プランナー)にお集まり頂き、ゲーム規制条例についてガチトークしてもらいました。

※画像左から
・和田さん(年齢:20代、プランナー)
・栗原さん(年齢:20代、デザイナー)
・池田さん(年齢:30代、プログラマー)
・近藤さん(年齢:40代、アートディレクター)協力スタジオ:Game Produce Studio(https://crdg.jp/
運営:クリーク・アンド・リバー社

※「ネット・ゲーム依存症対策条例」
ゲームとスマートフォンの利用時間制限が盛り込まれており、コンピュータゲームに対して「18歳未満の使用時間の上限は平日60分、休日90分」を目安として設定。2020年4月1日から施行される。

やる以上は徹底的にやって欲しい

――香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」について、ゲームクリエイターの皆さんに率直な意見をお伺いしたいです。

近藤さん:そもそも「行政がやるべきことなのか?」「家庭が管理を放棄しているだけじゃ無いのか?」という印象を持ちました。なんでもかんでも世の中と行政のせいにしがちな親御さんが多いのかなぁと思ったのが1点。
2点目がゲーム脳の話は昔からずっと取り沙汰されていますが、データによる根拠の説明はされてきていませせん。この際、根拠となるデータをしっかり出して欲しいと思いました。

――この条例の結果も含めて、正確なエビデンスが欲しいということですね。

近藤さん:そうですね。データが明確に出れば、それに応じて世の中が対応していくと思います。良い機会だと思うので徹底的にやって欲しいと思っています。しっかり科学的根拠に基づいたデータを収集して発表して欲しいですね。

――これまでWHO含めて、規制対象として認定されるほどの客観性あるデータが提出されたことはありません。

近藤さん:はい。ゲーム作る側の立場としては、我々はゲームを作ることに関しては徹底的に面白いもの出すことにしか拘りを持っていないので、どう遊んでも貰うかに関しては基本的に遊ぶ方の自由です。とはいえデータさえあれば、開発する側もそのデータに基づいてゲームを健全なものにしていく為の指標になると思っています。

――例えば人を殺傷する表現の問題が判明したら、ゲーム制作時にその表現を減らす等の対応をしていくということでしょうか?

近藤さん:それか適切なレーティングを設けるのか?ということに繋がると思っています。

栗原さん:私も行政がやるべきことなのか?ってことは疑問に思いました。
あとは自分の住んでいない地域のことなので「あー、そうなんだー」ぐらいにしか考えませんでしたが、もし自分が住んでいる場所で施行されたら、その都道府県を出ていくと思います。また作る側としては「どうやってユーザに続けてやってもらえるか」を苦心して作っているので、当然ユーザはハマりやすいです。この事実をどう受け止めるか。日常生活に支障が出るほど依存してしまうのはアルコールや人間関係にもいえること、世の中が複雑化している中で「これは良い、これはダメ」と白黒つけることがそもそも難しいはず。自分で距離感を取って付き合っていくしかない。ヒトとヒト、ヒトとモノの距離感の取り方を家庭や教育機関が教えないといけないと、今回の条例を見て感じました。

――本音の意見をありがとうございます。一方、そもそも今回の一連の流れを深刻に考えるべきなのか?という論点もあると思います。趣向品に対するネガティブな動きは歴史上繰り返されおり、テレビが広まったときも「一億総白痴化」という言葉も流布されました。

近藤さん:そんなこともありましたねー。

――長い歴史でみると、今回の条例もその一部に過ぎないのかもしれません。ただ、条例である以上は法的拘束力を持つので、特定界隈では問題になっています。

栗原さん:行政としては、子供の学力が低下している!どうやらゲームと相関がありそうだ!とりあえず規制しよう!みたいなことになってる気がします。

近藤さん:子どもの問題ってとても多角的で1つ1つの原因がはっきりしていないから、1つ1つを消去法で対処していこうとする手法を取っているのかもしれない。

あと、今のゲームで切っても切れないのは、ネットワークの問題だと思っていて、仲間たちと一緒にやることが楽しくて「ネットで結びついていること自体が問題なのか?」「ゲーム自体が問題なのか?」ということも見えにくい。

このタイミングでの規制は“英断”ともいえる

池田さん:香川県の条例に関しては、ゲームに絞った話しでは無く、スマホやネットに関する規制なので、もともとはネットゲーム依存症への対処法なんですね。

近藤さん:これってどうやって守らせるんだろう?

――条例なので、法的拘束力はありますが、罰則が明記されていない限りは実質的にお咎めがありません。この辺りは精神的な部分への抑止になっているのかもしれません。県議会事務局の回答では「やり過ぎへの注意喚起にはなる」ぐらいのニュアンスのようです。

近藤さん:やるなら徹底的にやって欲しい気はしますね。男女間の問題のような水掛け論を続けるよりも、徹底的に実施して欲しいです。こういう娯楽と教育のテーマは永遠に終わらないので。

――また、このような対立構造が分かりやすいテーマは世間も盛り上がるので、度々メディアも取り上げることになります。

近藤さん:そうですね。ただ、香川県議会の立場に立つと英断だとも思います。これだけeスポーツやプログラマーの就職先としてゲーム業界も増えてきている中、経済効果については無視できないはず。また、地方はどんどんネットを活用してIT企業を誘致した方が税収的にも良いはずなのに、そのメリットを捨ててまでゲームやネットを規制するのは、これはこれで英断です。

――我々には分からない意図があるのかもしれません。私もゲーム業界で従事していますし、ネットゲームも好きですが、この条例には全面的に否定するつもりはなく。世界全体に目を移した時に、日本のひとつの都道府県で実施する程度であれば良いことだと思うんです。47都道府県全てが同じ、同じ規範や価値観で動く必要も無いのかと思っています。

近藤さん:特区の逆のような形ですよね。いくつかの規制地域が出てくると、自分の家庭の教育方針にマッチしている都道府県を選んで、移住を検討する人も出てきそうですね。

池田さん:この条例は4月から実施されるんですが、最初の3年は毎年データを出すようです。以降は2年ごとにデータを出すようです。これによって香川の治安が良くなったとか、移住してくる人が増えましたってデータが出るかもしれません。試しとしては良い気がします。

近藤さん:良いですね。だからこそ、適切なデータの取り方をして欲しいですね。

――客観性のあるデータの取り方がされていれば、重要な検証結果として日本の財産になりますよね。

近藤さん:だからこそ徹底的にやって欲しいですね。ざっくりし過ぎて、主観でどうとでも解釈できるデータだと意味が無いので。

本当に面白いモノを作る企業だけが生き残る

――世間の反対意見にはこの条例に対する批判だけではなく、この条例を突破口にして国全体が規制の流れになる可能性について向けられているものもあります。得体の知れない”不安感”が反対の源泉だったりもします。

近藤さん:なるほど。この流れは、ビール業界でいうところの発泡酒のようなものだと思っていて。売れてるモノに国が税金をかけることはある。国がそういう形で動く可能性が潜んでいるのは明白です。ただ、そこで終わらないのが企業です。企業努力でそのたびに美味しい商品が出てくる。いずれにせよ規制や制限が入っても、それに合わせて面白いものを作っていくというのはこれまでと変わりません。そこである程度の力がない会社が消えていくのは、自然淘汰だと思っています。ゲーム業界に関しても、本当に面白いものを作れる人達だけが生き残ればよいと思います。

――逆風によって、業界全体が洗練されていくというイメージでしょうか?

近藤さん:そうですね。環境や法律や倫理観は変わるので、そこに対応できない業種は淘汰されていくと思います。ゲームも煙草も趣向品、生活の中で必ずしも必要では無いものには、いろんな障害が出てくるし大変だと思います。衣食住に関わらないこと。ただ、それでもそういうモノを売りたいって人は、それだけ誇りを持っている証拠、そこに関してはプライドを持って頑張っていくしかないと思いますね。

和田さん:私は規制に関してはちゃんちゃらおかしい話だと思っています。
ユーザがどれだけやるかはユーザに任せるしか無いし、我々は関与できる権利がないです。
ゲームをやる時間を制限するのはまだ分かります。今後の話ですけど、もし「これ以上、面白くしないで!」とコンテンツの中身にまで制限が掛かり始めたときにはちょっと違うのかなと思っています。

――コンテンツの中身にまで、過剰に制限が掛かってきたときには流石に問題があるということですね。

近藤さん:この辺りはデリケートな問題だよね。どんな趣向品にしても、やり込んで貰えていること自体はバロメータになっているので。

規制する代わりに何をするかが重要

――ところでこの条例に関しては、1月の素案提出時点で皆さんの業界で話題になったのでしょうか?

池田さん:素案が出た段階で、香川県民とゲームに従事している人だけが意見を言えるパブリックコメントの投稿フォームが設置されました。企業側としての意見を集約するためにチーム内で話をする機会がありましたね。

――結果、使用時間の制限対象がスマートフォンからコンピュータゲームに置き換えられたりと少し変更がありました。

池田さん;この条例に限らず、突っ込みどころが多すぎるので反対するのは簡単ではあります。規制に対して、反対側がゲームの可能性の話をぶつけても、議論は平行線になってしまうので決着はつかないと感じました。この条例に対しては「特に何か意見を述べるレベルでは無い」というのが正直な感想です。試しにやったらよいでしょうって感想です。
こちらは面白いゲームを作るスタンスは変わらないので。ただ、データは取って欲しいですね。

――このデータ収集に関してはマーケティング的な意味合いでも、本来ゲームを作る側がやりたいことでもありますもんね。

近藤さん:そうですね(笑)すごく良いと思います。

――メディア側も煽り過ぎなのかもしれません。また、この話題が本質的な議論では無く、政治家やゲーム業界利害関係者のポジショントークの材料として効果的に利用されてしまっているのも違和感ではあります。

近藤さん:それだけ注目されてるんだと思います。国民の関心高いことへの裏返しだと思います。

池田さん:そもそもとして、睡眠障害などのゲーム依存が発端だったと思うのですが
本来それは引きこもりや依存に対する問題として処理するべきなのですが。
それを予防としてまとめて対処しようとしているのは問題ですよね。

――全体的に大雑把であるのは確かですね。少なくとも県外の方々を納得させようという意図は見受けられません。

池田さん:条例の全体をみてもフワッとしているので、これ有識者が関わってないでしょ?
という雰囲気を出してしまっている。それが政治家のワンマンプレイなんじゃないのかって印象を与えてしまうのかもしれない。

――サイエンスやテクノロジーの知見が記されていないのも、多くの指摘をされる要因になっていますね。

池田さん:そうなんですよね。もう少し、突っ込みどころを減らしてシャープな内容にしたら、世間も納得感はあったのかなと思います。

近藤さん:いずれにしても我々としては、どんどん反対の力に対しては戦っていけばよいと思います。漫画もかつては悪玉扱いされ、手塚治虫さんを始めとした先人の方々が戦って下さったからこそ今があるので。

池田さん:ゲームやITの業界って、そもそもの変化が速い業界なので、考え方はとても柔軟。「こうじゃないといけない!」ってのは無いんです。よって、どのようなことを言われたとしても、だったら別のアプローチでやりますよっていう結論になりますね。

制限により開花する創造力

――なるほど、固定された意見に対して、固定された意見をぶつけるという業界ではなく。
決められたことに対して柔軟に動くのが実態ということですね。

池田さん:もともとゲーム業界は「こういうヒトにはこういうゲームが合うかな?」というように、それぞれのユーザに対して柔軟にアプローチしていく業界です。よって、「一律で60分だ!」だという決め方をすること自体に違和感を感じるのはこの業界の人間ならではなのかもしれません。1時間しかゲームできない人が出てきたのであれば、すっきり1時間で遊べるゲームを作ればよい、という結論になりますね。

近藤さん:さらには、全国的に夜9時以降は未成年がゲームできなくなるのであれば、9時までは未成年向けにネットコンテンツを傾倒させればよいし、夜9時以降には大人向けのコンテンツを用意すればよい。結局、こちらは型にハマらずゲームを作ることになる。

池田さん:これまでこういうことはよくあったんですよね。
表現の規制などはいくらでもあった。そういうのをずっとやってきたので、また1つ増えるだけです。

近藤さん:実際、ゲームにせよ映画にせよ、全年齢対象にしがちです。全年齢を対象にした方が売りやすいから、ってのが理由なんですが、その分、内容がつまらなくなってきてる気はしてるし。層によって細分化しやすいという点ではゲームは得意だと思うので、これからガンガンそっちにシフトしていくのはアリな気がしますね。

――議題とは裏腹に、かなりポジティブな結論になりました。

池田さん:この規制の話って、やがては他の業界にも波及すると思うんですよね。
例えば、映画を観過ぎな子どもたちの問題とか。ネットフリックスなどの動画のストリーミング再生も、映画の観過ぎで引きこもりになることも問題視されてくると思う。他の業界の人たちも当事者になった上で意見を聞いてみたいです。

栗原さん:この条例は私たちよりもスマホやインターネットを使っている会社の方が影響ありそうです。

近藤さん:うん、そうだね。

栗原さん:この規制によって、埋没していたコンテンツが出てくる気がする!

――制限が掛かることで埋没していたコンテンツが出てくるかもしれないという話は面白いですね。実際、ヴィ―ガン専門店など食材に制限が掛かっている飲食店では、食べた事ないような料理が提供されたり、とても面白い体験ができます。

栗原さん:ただ、ゲームに限らず、夢中になれることに制限をかけること自体は良くないことだと思います。ゲームとかの体験を通してeスポーツのプロになったり、私達みたいにゲームクリエイターになる人もいるので。あとスマホやネットに一切触れずに生活することが難しくなってきた昨今、子どもの時期から制限をかけるのは良くない気がする。

近藤さん:ただ極端な話、ネットやそういうものから一切遮断した昔ながらの生活をしたいという人もいるので、そのような規制地域として機能することもあると思う。
インスタ等のSNSの投稿に関しても強迫観念にとらわれてやっている人もいる。それはそれで不幸な話なので。

池田さん:あと僕の周囲の話ですが、子供のころに親からゲームを抑制されていた人ってゲーム業界に入っているパターンが多いんですよ。

和田さん:制限された反動だ(笑)

池田さん:そう。昔、遊べなかったゲームを大人になって遊ぶようになるとか、反動によってゲーム業界で働くことを決意された例もあります。だからこの条例の結果、面白いデータが取れるかもしれませんね。

ゲームじゃない経験が『本当に面白いゲーム』を作る

近藤さん:むしろ、ゲーム業界来るのならゲーム以外のことをいっぱいやっておいてもらいたいですね。もうそういう経験からしか面白いものは生まれないので。ずっとゲームばかりやっていた方が面白いゲームを作れるとは思っていないので。

――ゲームの知識だけだとゲーム業界にとって新しいアイデアを提供できないんですね。これまで、漫画やアニメの大御所のクリエイターの方々も似たようなことは仰っていますね。

近藤さん:先人の話を聞けば聞くほど「やっぱそうだな」って思いますね。ファミコン時代にゲームミュージック作っていた方々も、バックボーンでは多彩な音楽を聴いている。
それら経験を8ビットに落とし込んでいるから良質な音楽になっている。8ビットの音楽しか知らないと、8ビット以下のものしか作れないんですよ。いろんなこと経験して欲しいと思いますよ。

和田さん:人間って今までの経験で触れてきたものが影響して完成している。音楽でもゲームでも映画でも、旅行とか人間関係とか、引きこもりの経験ですらも全部その人の価値観として大成していると思う。いろんなところで拾ってきたものが、1つの人間として完成してると思う。

池田さん:この条例が施行された都道府県では、この条例に関して家庭内で話し合って欲しいと思いますね。

近藤さん:そうだねー、家族会議はして欲しいよね。

池田さん:規制によって、自分の行動の選択肢が増えない人もいると思うんです。ダメだと言われたから言うことを聞くだけとか、議論する機会が無いと香川県の子どもたちにとってはただ「ゲーム=悪いモノ」という認識になってしまう。

栗原さん:制限をした上で、代わりに未成年が「何をするべきか」を全面的に押し出して欲しいですね。

近藤さん:あと、制限が強ければ強いほど、ヒトの執着って面白い方向に延びていきます。私は昔、海外に住んでいて日本の漫画がとても高くて貴重だったんです。だから当時は少年ジャンプが手に入ると、普段読んでない漫画も含めて端から端まで1ページ残さず読みまくった。今となっては漫画が大好きで、とても漫画に執着のある人間になりました。

――制限されるほどやりたくなってしまう心理現象は、カリギュラ効果として広告などにも利用されているほどですね。実際、2011年に「青少年夜間ゲーム シャットダウン制」を施行した韓国は今ではeスポーツ大国です。制限による反動は、ユーザも企業も強固にするのかもしれません。

近藤さん:そうですね。いずれにせよ皆さんが考える機会になれば良いですね。

池田さん:良いところも悪いところもある問題なので、良い議題になると思います。

――本日はありがとうございました!最終的にはゲームクリエイターの資質や制限による新コンテンツの可能性まで話が膨らんでポジティブな議論になりました。これまで「ゲーム規制」は繰り返されてきた話題ではありますが、クリエイターの皆さんが”今”どのようにお考えなのか伺う事できて良かったです。