「ぜんぶ雪のせいだ。」ー。心に残るキャッチコピーと、その年最もフレッシュな女優が、雪の中でこちらをまっすぐに見つめるポスター。青春時代の1ページを、若手バンドの音楽に乗せて魅せるコマーシャル。1991年から令和の現代まで続く「JR SKISKI」キャンペーンは、その時代時代の若者たちの青春模様を描き、“スキー”を“青春”の代名詞に昇華させました。
今回の取材対象者は、2012年からキャンペーンを手がける、株式会社ジェイアール東日本企画(以下jeki)のクリエイティブディレクター/コピーライター・山口広輝(やまぐち・ひろき)さんと、アートディレクター/デザイナー・武山範洋(たけやま・のりひろ)さん。SKISKIキャンペーンが「冬の風物詩」と呼ばれるまでの歴史や、時代が変わっても若者を惹きつける広告のヒントをお話しいただきました。
クリエイティブディレクター/コピーライター
主な仕事に JR SKISKI、大人の休日倶楽部、Osaka Metro、パーソルキャリア、doda、Studist、Teach me BIZ など。
TCC(東京コピーライターズクラブ)賞、TCC新人賞、朝日・読売・日経・毎日広告賞・交通広告グランプリ優秀賞・新聞協会賞など受賞。
宣伝会議コピーライター養成講座基礎コース講師、宣伝会議賞審査員。
武山範洋(たけやま・のりひろ)(写真右)
アートディレクター/デザイナー
主な仕事に JR SKISKI、Osaka Metro、映画『天気の子』× バイトル、パーソルキャリア/doda など。
APA 賞、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、読売広告大賞、日経広告賞、交通広告グランプリ、新聞協会賞など受賞。
コマーシャルフォト「新世代フォトディレクター」AD 部門で選出。
若者が「スキーに行きたくなる」CMをつくる
山口さん(以下敬称略):JR SKISKIは、1991年にJRグループが運営する「ガーラ湯沢」への新幹線旅行をPRするキャンペーンとして始まりました。
当時は仕事終わりにカップルでスキーに行く社会人をターゲットにしていましたが、バブル以降若者はスノーレジャーから離れ、スキーはダウントレンドになった。
そこで、スノーレジャー最盛を目指し、若い層を増やすためにキャンペーンを再開されたのが2012年。ターゲットを19歳〜24歳に再設定し、大学生が男女でスキーに行きたくなる世界観へと広告をシフトしていきました。
──現在のSKISKIのCMに共通しているのは「雪山での恋愛模様」ですが、どんな意図があるのでしょうか。
山口:SKISKIキャンペーンの目的は、若い人たちの「スキーに行きたい」というモチベーションを盛り上げることだと思っています。
ゲレンデマジックという言葉もありますが、非日常で発展する恋愛を描くことで、「雪山に行ったら何かが起きそう」という期待感をつくるのが一つのテーマになっているんです。
武山さん(以下敬称略):CMで新幹線の「速さ」や「快適さ」だけを愚直に訴求しても、若い人たちはワクワクしないですもんね。
「夏のポカリ」のような「冬の◯◯」を目指した
──SKISKIキャンペーンが始まると、“冬の風物詩”としてSNSが賑わいます。
山口:いつの間にかそう呼ばれるようになりましたね。僕と武山がこのキャンペーンに携わるようになったのは2012年。当時のプレゼンではまさに、「夏のポカリみたいな、冬の◯◯」という広告を目指そう、と話していたんです。
かつてポカリスエットのCMは、フレッシュな女優さんが夏の青春の1ページを演じていましたよね。
そんな季節の風物詩的なCMの、冬バージョンを目指そうということで、毎年異なるヒロインが雪山を舞台に、青春と恋愛を展開するCMが生まれたんです。
武山:ヒロインが重要な広告なので、「どうしたら女優さんの最高に可愛い、魅力的な表情をひきだせるか」ということは常に考えて制作しています。
本田翼さんの時も、「一番可愛い本田翼を撮る」という意気込みでポスター撮影に挑みました。
──当時、「SKISKIのポスターの可愛い子は誰?」と話題になりましたね。女優さんの魅せ方も、90年代の飲料広告のような趣があります。
山口:本田翼さんを起用した2012年は、90年代を意識したファッションやカルチャーが流行し始めていました。そこで、ポスタービジュアルも“バック・トゥ・ザ・90s”の流れに乗ってみようということになったんです。
今ではあまり見られませんが、90年代の広告は女優さんの顔が全面に出てきて、短いコピーが入ってくるという構造のものが多かった。SKISKI自体、90年代から続いてきたキャンペーンです。過去のエッセンスを継承しつつ、2012年なりにアップデートすることで、見る人に新鮮な印象が与えられるんじゃないかと考えたんです。
結果としてそれが話題になり、本田翼さんの真似をして雪山で寝そべって撮った写真をSNSにアップしてくれる人もいました。
──もともとSNSでの盛り上がりは想定していなかった?
武山:2012年当時は、ポスターとテレビCMがキャンペーンの軸で、ツイッターでの拡散というのは二次的な効果でした。
ただ、現在は個人が発信するのが当たり前になり、一方的に広告を見せるだけではなく、「真似したくなるビジュアル」や、「つぶやいてみたくなるコピー」で拡散を狙うことは、すでに広告業界のベーシックになったように思います。
SKISKIの場合も、90年代から継承した短いコピー、女の子のアップという要素をベースに、より受け手が話題にしたくなる余白を意識するようになりました。
たとえば、2013年のキャンペーンでは、「SEKAI NO OWARI」の“DJ LOVE”さんが登場したティザーポスターを50駅限定で張り出しました。すると、世の中の人が「本田翼さんから、このピエロ何?」とSNSで拡散し、それをアーティストのファンが反応し「正体を推理する」などして、さらに話題化してくれたんです。
──長年キャンペーンを続けていて、世の中の期待値は上がっていると感じますか?
武山:そうですね、会社の若い人と話していても、「私の頃はあの女優だった」「僕の時はあの音楽だった」と話題になる。世代を問わず、「自分の頃はああだった」と言ってもらえるキャンペーンて、あまりないと思います。
だからこそ、常に前の年とは違うものを入れていかなきゃいけないなとは感じていますね。
若者に媚びすぎず、良いものは残していく
──具体的な広告制作のプロセスを教えてください。
山口:まず僕がその年の指針となるコピーを作り、そこに向かってCMのストーリーや台詞を考えていきます。
たとえば今シーズンの「この雪は、消えない。」というコピーは、「学生時代の冬は終わってしまうけど、雪山で過ごしたみんなとの時間は心に残り続ける」というコンセプトで作りました。
そこから逆算して、CMのストーリーも学生時代最後の冬に、仲間でスキー場に行くというものになっているんです。
武山:山口のコピーを軸に、CMやポスター撮影の演出を考えるのがAD(アートディレクタター)である僕の仕事です。今期のポスターは、「心の中の思い出」というコンセプトに沿って、フィルムの質感を活かした、ノスタルジックなイメージに仕上げているんです。
山口:フィルムを知らない人はザラザラだなあって思うよね。
武山:ザラザラって言わないでください(笑)
実際に、撮影には廃盤になった『写ルンです』を使用しています。
粒子の荒いインスタントカメラを使うことで「記憶の中のおぼろげな景色」や「距離感のリアリティ」やを表現しているんです。
──わかります。とてもエモかった。
山口:“エモい”は僕たちが狙ったところなんです。「若者に“エモい”って言わせたら勝ちです」とプレゼンしました(笑)
──ターゲットである若者の反応は重要ですよね。時代が変わり、作り手が年齢を重ねていく中で、常に若者を捉え続けるためのヒントを教えてください。
武山:僕の場合は、ターゲットに近い年齢の娘がいるので、コンテンツへの反応は参考にしている部分もありますね。今シーズンのタイアップ曲を提供してくれたEveも僕のまわりだけじゃなく娘も聞いていたので「いまの若者に波及力がある」と思って、起用させていただきました。
山口:武山のこうしたリサーチは重要視しています。ー方で僕は、若者に媚びすぎないことも大切だと思っています。僕たちは、90年代に大人たちが作ったSKISKIの広告を見て育った。この90年代のエッセンスを継承している今のSKISKIが、若者に新鮮に映っていますよね。
「温故知新」じゃないけど、良いものは残しつつ、取捨選択しながらバランスを取っていきたいですね。
JR SKISKI 2019-2020 キャンペーンテーマソング 『白銀』by Eve
続けたからこそ到達した「冬の風物詩」
──お二人がSKISKIキャンペーンに携わるようになった経緯を教えてください。
山口:僕は新卒で入社して、プロモーション局、営業局を経てクリエイティブ局に転局しました。当時jekiはJRの広告会社としてまだまだ歴史が浅く、JRの案件の8割は電通が作っていた。
僕自身、当時、外資系広告会社から転職してきた長谷川羊介氏と仕事をし、広告の基本を学んだんです。
武山:僕はもともとデザインの業界にいて、転職4社目でjekiに入社しました。次は広告会社のADをやろうと思って転職先を探していたとき、たまたま見ていた雑誌「宣伝会議」で、長谷川と山口が手がけた2006年の木村カエラさんのJR SKISKIキャンペーンが取り上げられていたんです。それを見て、「このチームで仕事をさせて欲しい」と面接で伝えて入社しました。ぜんぶ長谷川さんのおかげです。
「JR SKISKI」の歴史
1991年新幹線で行く『ガーラ湯沢スキー場』の集客キャンペーンとして始まる。
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- 1991−1999年
・江角マキコ、竹野内豊、田辺誠一などの人気俳優をCMキャラクターに起用
・ZOO「Choo Choo Train」、globe「DEPARTURES」、GLAY「Winter,again」など、
有名アーティストが書き下ろしたタイアップ曲が次々とヒットする
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- 2006−2007年
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・木村カエラをイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「なんでもありでsnow」
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- 2012ー2013年
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・本田翼をイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「青春は、純白だ。」
・GReeeeNの書き下ろし曲「雪の音」をCMソングに起用
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- 2013ー2014年
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・川口春奈をイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「ぜんぶ雪のせいだ。」
・SEKAI NO OWARIの書き下ろし曲「スノーマジックファンタジー」をCMソングに起用
・DJ LOVEのティザーポスターがSNSで話題に
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- 2014−2015年
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・広瀬すずをイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「答えは雪に聞け。」
・back numberの書き下ろし曲「ヒロイン」をCMソングに起用
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- 2015-2016年
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・山本舞香と平祐奈をイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「そこに雪はあるか。」
・MAN WITH A MISSIONの書き下ろし曲「Memories」をCMソングに起用
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- 2016-2017年
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・桜井日奈子をイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「冬が胸に来た。」
・[Alexandros]の書き下ろし曲「SNOW SOUND」をCMソングに起用
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- 2017~2018年
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・JR東日本30周年、映画『私をスキーに連れてって』の公開30周年を記念し、映画の映像をCMに使用して話題に
・キャッチコピーは「私を新幹線でスキーに連れてって」「いつもと違う冬も、いいもんだ。」
・松任谷由実の「BLIZZARD」をCMソングに起用
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- 2018年-2019年
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・松本穂香と伊藤健太郎をイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「この雪には熱がある。」
・sumikaの書き下ろし曲「ホワイトマーチ」をCMソングに起用
・WEB動画を中心にキャンペーンを展開
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- 2019-2020年←今シーズン
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・浜辺美波と岡田健史をイメージキャラクターに起用
・キャッチコピーは「この雪は消えない。」
・Eveの書き下ろし曲「白銀」をCMソングに起用
・「この◯は◯ない。」の穴埋めティザー広告が話題に
──お二人はプランナーのお仕事も兼任されているのでしょうか?
山口:実は、jekiにはプランナーっていう専任職がないんです。ですから、SKISKIではキャンペーンにおける企画からキャストのセレクトまで全て自分たちでやっているんですよ。
武山:みなさんSKISKIに期待しているのは、やはりネクストブレイクのタレントさんなんですよね。毎年そこが一番難しい。
昔は8月にはCM撮影が決まっていたので、スケジュールを逆算すると、オンエアの半年前にはタレントを決めなきゃいけないんです。半年もあればブレイクしちゃう人もいるし、いなくなってしまう人もいるでしょう(笑)?
今はCM撮影が冬になったので、ワンクール先に誰が来るのかという、あたりをつけやすくなりましたね。
──次に来そうなタレントを探すとなると、データ・ドリブンを活用するという手段もありそうですが。たとえば昨年、株式会社クリーク・アンド・リバー社とjekiがjeki Data-Driven Labを共同設立しています。
山口:まだそういった活用はしていないんですが、やってみたら面白そうですね。データ・ドリブンは広告業界でも間違いなく必要なものになっています。これからいかに知見を積み上げていけるかが肝になってくるでしょうね。
SKISKIもいいデータになると思うんですよ。若い人に向けて集中的にやっているキャンペーンはなかなかないので。
※JDDLでは、2019年度キャンペーンについて、インターネット広告の効果測定にてデータ活用支援およびSNS上での口コミ反響に関するレポーティングを実施しました。キャンペーン期間中のネット広告の媒体配信調整やクリエイティブ調整などのPDCAに活用。また次年度の企画立案に参考情報を提供しています。上記の通り、タレントサーチには今後の活動が期待されます。
株式会社jeki Data-Driven Lab (略称:JDDL)について
設立年月日:2019年9月10日
本店所在地:東京都渋谷区恵比寿南一丁目5番2号 恵比寿JEBL6階
代表者:代表取締役社長 萩原浩平
(株式会社ジェイアール東日本企画 上級執行役員 デジタル・ソリューション局長)
事業内容:データドリブンマーケティング事業、R&D事業、データ活用業務支援事業
──お二人がSKISKIキャンペーンを手がけるのは今シーズンで8年目になります。長く手がけてきたからこそ得られたものとはなんでしょうか?
山口:制作担当者としては、長年やってきたからこそ、クライアントと率直なお話ができる。その分、表現を新しくできる可能性が広がっているのかなと思います。
武山:信頼していただけているということが大きいですね。有難いです。
山口:あとはやはり、JRのブランド価値に貢献できたということでしょうか。
当初掲げていた「冬の風物詩」という目標に到達し、若い人に浸透したことで、リクルーティング的な効果も出ていると聞いています。
クリエイターに必要なことは「自分の客観視」と「人への興味」
──コピーライターやADを目指す若者にアドバイスをいただけますか?
武山:僕は三度の転職を経験していますが、転職という選択をしたことで、一つの会社で蓄積するキャリアとはまた違う、キャリアの積み方や学びが得られたと思います。
これから転職してクリエイターを目指す方は、転職活動を通して、第三者の目線から自分の価値や見据えている方向性が客観的に価値があるのか確認して、新しいキャリアに活かして欲しいです。アートディレクターは先入観はそもそも強い人が多いので、客観視できることが大事ですね。
山口:制作は、クライアントとユーザーの間に入って商品やサービスの魅力を伝える仕事です。表現やメディアがユーザーにどう伝わるかという最終的なアウトプットはもちろん、営業さんが上司にどう提案するかまで想像することが重要です。
だから、人の気持ちを想像し、人間に興味を持って仕事に取り組んで欲しいですね。
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インタビュー・テキスト:原田さつき/撮影:SYN.PRODUCT/企画・編集:田中祥子(CREATIVE VILLAGE編集部)