EXIT、宮下草薙、インディアンス、そして最近ではKOKOONなど、さまざまなお笑い芸人達がネタを繰り広げてきた深夜番組『ネタパレ』。

この番組で初めて「あの人誰だろう!」と興味を持った方も多いのではないでしょうか。

『ネタパレ』のチーフプロデューサー・木月洋介さんに、お笑い番組のこれまでとこれからについてお話しいただきました。

木月洋介(きづき・ようすけ)1979年生まれ。東京都出身。東京大学 経済学部卒業。
『ネタパレ』『痛快 TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超 BUSAIKU!?』『久保みねヒャダこじらせナイト』の演出・チーフプロデューサーを務める。
これまで 『フジ算』『森田一義アワー 笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』等の番組に携わってきた。

芸人も、ディレクターも、育つお笑い番組を。

──『ネタパレ』を企画された狙いは?

「お笑い界をもりあげよう」ということに尽きます。この番組が始まった2016年頃には、若手が出られるお笑い番組が少なかったんです。

「バラエティに力を入れてきたフジテレビこそ新しい人を世に出す場を持たないと!」ということで、『超ハマる!爆笑キャラパレード』が始まりましたが、ゴールデン帯であまりうまくいかなくて『ネタパレ』として深夜に放送枠を移動することになりました。

その時にうまくいかなくても打切りにならなかったのは、やっぱりフジテレビにこういった番組が必要であると考えてくれた社内の方が多数いたからだろうと思います。
「お笑いの新しい才能が世に出て、未来のテレビ業界を支えてくれる人になるかもしれない」と。

──実際に『ネタパレ』をやってみていかがですか?

EXITや宮下草薙という“第七世代”と呼ばれる新世代の芸人さんたちが注目されています。彼らがゆるっと横のつながりを持つことができたきっかけのひとつが『ネタパレ』の収録の場だったそうです。

3本撮りの収録の日には朝から夜まで、ずっと同じ空間で時間を過ごすことが多かったので、そこで仲良くなることが多かったとか。

なかでも、放送の方でも昔「おしぼりボーイズ」という一回で終わった企画がありました。ネタパレに出始めの宮下草薙、EXIT、インディアンスがゲストにトークのおもてなしをするというコーナーです。

その際に緊張してスベッてしまった草薙くんをEXIT やインディアンスが助けようとして、一緒にスベってくれたと(笑)それがきっかけで仲良くなったと言っていました。同じ戦場で生まれた友情ですね。

そういうきっかけの場になっただけでも、番組を始めた甲斐があったなと思います。

©フジテレビ

──出演者だけでなく、ディレクターやスタッフにとっては、『ネタパレ』はどんな番組なのでしょう?

ディレクターのトレーニングの場であったりもします。各出演者に担当のディレクターがつきます。

受動的に割り振られるだけではなく、自分でお笑いライブに通って新しい方を見つけてきてもいい。そうして若い制作者が芸人さん達と向き合い、一緒に試行錯誤しながら番組をつくる。そこからまた別の新しい番組を一緒につくっていければ理想的です。

最近、宮下草薙の特番をつくったのは『ネタパレ』のディレクターのひとりです。そうやって番組が、新しいものをうみだしていくためのファームになるといいと思います。

『いいとも!』でピース・又吉を魅せた瞬間

──木月さんはずっとバラエティに携わりたかったのですか?

そのためにフジテレビに入りました。

小さな頃からコント番組が好きで『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』とかを見て、気に入ったコントは何度も繰り返し見ていました。

──入社後はさまざまな番組に関わってきましたが、印象的だったことは?

『笑っていいとも!』の現場では成功だけでなく、たくさん失敗もしました。1時間のなかに3つのコーナーがあって、新しいコーナーを立ち上げても視聴率的にうまくいかないと、次週までに変えなければいけないんです。時間がなくてものすごく大変なんですよ!スーパースターである出演者と向き合って緊張感のある中、限られた時間でスピード感を求められる現場で働いたことは、 良い訓練になりました。

『いいとも!』のなかで、ピースの又吉さんの魅力が爆発した時嬉しかったです。

僕は深夜の『フジ算』という若手芸人さんと若手制作者とがタッグを組む番組で、ピースさんとの企画を放送していたのですが、より全国区の人気者になってもらうためにも同時期に担当していた『いいとも!』にどうやったら又吉さんがハマるだろうかと考えていました。

綾部さんはなんとなく、あの場でも上手くやるだろうことは想像ついていたのですが「又吉さんを活かすのは難しいよ」と先輩からも忠告されたりしていましたので。

その時に又吉さんの面白さってなんだろうと考えたあげく、やはりあの「圧倒的な文才」に行き着くわけです。当時ことわざを芸人さんがアレンジするコーナーをやっていたので、 試しに「雨振って地固まる、を言い換えてください」とメールしたんです。

そうしたら作品が山のように返信されて来ました。その作品たちがすごくて、例えば「街が崩壊して虹が見える」。世界観がすごくないですか。映画のラストシーンのような絵がうかぶ……。

他にも「絶滅のなかで結束」。種が絶滅する最期の最期で結束したのに、死んでいくと……。飛びぬけた文才だけでなく、圧倒的なネガティブを越えた何かが詰まっていて、「これだ!」と思いました。

それが実際に生放送で披露されると、タモリさんや関根さんがこの新たな才能に驚いて涙を流して笑う、、、。ピースがあの煌びやかな場で認められた瞬間でした。そのあとすぐに、いいとものレギュラーにもなります。

──まさにファームですね。

ディレクターは演者さんの、まだ世に出てない面白さに気づくことが大事だと思います。「この人はこういうところが面白いけど、ネタ番組ではその魅力を出し切れていないと感じるなら違う企画で出してみよう」と考えることが大事です。

大まかなことで言えば、「この人の面白さは生放送より編集の方がいいな」とか、「トークよりはロケの方がいいな」とかもあるはずで、そういう人の面白さを引き出せるディレクターがたくさん育って欲しいです。

未来の「面白い」をつくるために

──これからテレビ業界に入りたい人が「やっておいた方がいいこと」は?

テレビだけではなく、いろんなコンテンツは見ておいた方がいいと思います。ものを創る上で、それまでにどれだけたくさんのものを見たかという引出しの量は、相当影響すると僕は考えます。

自分が感じたことのない面白さを完全に理解して、さらに表現するのは絶対に難しいです。お笑い番組を作りたい場合、お笑いだけ見ていても、難しいかもしれません。おそらく焼き直しやコピーにしかならないですから。

先人たちも、いろんな映画やドラマや様々なエンタメに影響されて、その時代時代の新しい笑いを生み出しています。さまざまなジャンルの面白さを知っていることが、新しいお笑い番組を創ることにつながると思います。

また、新しいものは王道ではなく、サブカルチャーから生まれることも多いです。だから「いま世の中でこれがおもしろい!」 というものにこだわりすぎず、まだあまり面白いと思われてないものにも興味を持つことをおすすめします。

僕の場合は、舞台が好きで、もともと演劇をやっていたんです。学生の頃は、いろんな劇団を幅広く観ていました。またそれまでにない経験をするのも大事です。

「それをやる人生とやらない人生だったら、やる人生がいいんじゃないか」というふうに選ぶとか。

たとえテレビ局に入ってやりたかったお笑い番組に配属されなくても、そこでしか学べないことがある。一生同じ部署にいるわけではないので、できるうち にいろんなことをやった方がいいと思います。

──なにかをインプットする時のコツは?

「感想を自分の言葉にしてみること」でしょうか。見終わった後に感想をお伝えする機会も多いので 「何が面白かったって言おうかな」と考えながらコンテンツを見ると集中して見られます。

感想をSNSに書くでもいいし、自分の心に閉まっててもいい。たんに「面白かった」だけでなく、「どこかに一点、突出したすごいところがないかな」「表面的にはこう見えているけど、本当にそうか?」と思いながら見ています。

なにが面白いかなんて正解は一つではなくて、「自分はどこが一番面白いかったのか」を考えるのが大事だと思います。

──「面白い」にもいろいろな基準があると思いますが、それはどう判断しているんですか?

感覚もあるけれど、とことん突き詰めていくと見えてくる。

「本質的なことってどこなんだろうな?」「ある芸人コンビは“ネガティブ”と言われているけど、本当にネガティブなのかな?」「本当の面白さってそこなのかな?もしかしたら単にワガママっぽくてカワイイのが魅力なんじゃないかな?」などと仮定して考えていくと、その人が違う見え方になってくる。

こういった考え方は何をするにも大事で、とくに演者さんの面白さを見つけるためには欠かせません。

演者さんと話している時に「ん?いま面白いこと言ったぞ?」という違和感が大事です。それを絶対逃さないようにしています。

──先ほどの又吉さんの“ことわざ”の話もそうですね。「面白いこと言ったぞ!?」と。

そうですね。「これは面白そうだぞ」というヒントを見つけたら、それを引き出してどういうふうに表現するかを考えるのが、ディレクターの仕事。

だから『ネタパレ』でも、芸人さんとちゃんと向き合って、その人の何が面白いかを引き出す作業をディレクターにはしてほしいんです。

そのために大事なのは、「つまらない」と簡単に言わないこと。芸人さんの芸を「つまらない」と感じても、それは本当につまらなかったわけではないと思うんです。面白さが伝わらなかっただけで、その人がどこかで面白いと思われる瞬間がくる。

だって芸人さんご本人は面白いと思ってやってるんですから。面白さが伝わらなかっただけで、その人がどこかで面白いと思われる瞬間がくる。

御本人たちのスタイルは大きく変わっていないのに人気が出るまでに比較的時間がかかった方もいます。それは、面白さが伝わるのに時間が必要だったり、伝わるための手助けをした方がいたりしたのでしょう。

たとえば、明石家さんまさんだったり、各番組のディレクターだったりが、その方の面白さをうまく世間に伝えることで、売れるまでのスピードが早回しされることも多いです。

『ネタパレ』でも最近「ニュースターパレード」という30秒ネタコーナーを始めたのですが、長いコントで魅せるのは苦手だけれど30秒なら得意、という方もいる。

そこで登場した韓流お笑いアイドルのKOKOONの反響がすごくて驚きました。このコーナーを始めてよかったなと思いました。

──いろんなコンテンツがあるなかで、今、テレビをつくる面白さは?

現段階でいうと、いろんな一流の人に会えること。タレントも創り手もプロ。技術が学べるし、その出会いからなにかがうまれます。ただ今後はどうなるかわからない。というのも、今ここで得た技術や、面白い経験は、すぐ番組にならないことが多い。

「この面白さをなにか形にできないかなぁ」と思った3年後くらいに、やっと企画になったりすることはよくあります。すべて、今できるなかで面白いものをつくり、技術を重ねていくことの先に、未来の面白さがあるのだと思います。

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インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:ラン(SYN.PRODUCT)/企画・編集:田中祥子(CREATIVE VILLAGE編集部)