株式会社電通が2022年2月に発表した「2021年 日本の広告費」によると、インターネット広告費が2兆7052億円(対前年比121.4%)となり、マスメディア4媒体(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)の広告費(2兆4538億円、同108.9%)を初めて上回りました。「ネット全盛の時代」に移り変わろうとしていることは間違いなく、そうした変化を実感している方も少なくないでしょう。
インターネットが普及するまでマスメディアをけん引してきたテレビも、現在は斜陽産業と言われることもあります。しかし、未だに地上波の影響力は高く、時代の変化はあるものの、一定数の視聴者の支持を得ている事実は変わりありません。また、インターネット上でもテレビのコンテンツが見られるなど、テレビが培った制作ノウハウは決して下火になっているわけではないのです。そうしたテレビ業界をけん引してきた、テレビプロデューサー、ディレクターの仕事に今回はスポットを当てました。
まずは整理したいプロデューサーとディレクターの意味の違い
テレビ関係者の役職でよく聞かれるプロデューサーやディレクターの仕事内容についてはご存じでしょうか。何となく聞いたことがあるけど、くわしく説明できない人もあるでしょう。番組制作の根幹を担う大切な職種なだけに、それぞれの役割についてまずは整理しましょう。
プロデューサーはゼロから内容を企画する全体統括者
プロデューサー(producer)は「ゼロから内容を企画する人」や「企画・進行を導く人」を意味します。テレビ番組制作において企画・進行を行う職種。スポンサーや各種関係者との顧客折衝から始まり、全体予算とスケジュールの管理、映像制作の座組構築まで行います。全体統括の立場なので、予算とクリエイティブを天秤にかけてバランス調整をしていく能力や座組構築するための全体掌握力が必要になります。
ディレクターは取材や制作を監督する現場責任者
ディレクター(director)は、「指揮する人・監督する人」や「離れた目標に導く人」などの意味があります。テレビ番組制作において現場の総監督を行う職業であり、企画・予算管理を行うプロデューサーのもとで働く役割になります。ディレクターは現場指揮という役割なので、制作会社に丸っとディレクションから任せてしまうケースもテレビ業界では珍しくありません。
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気になるテレビ関係者の年収とは
一口にテレビ業界と言っても、務める会社によって年収格差があります。特に日本のテレビ業界のトップである民放のキー局5社と、下請けの制作会社では賃金テーブルの水準が異なる傾向にあります。参考までに2022年度民放キー局5社の平均年収は下記の通りです。
【2022年度民放キー局5社の平均年収(有価証券報告書調べ)】
日本テレビホールディングス | 1379万円 |
テレビ朝日ホールディングス | 1421万円 |
TBSホールディングス | 1449万円 |
テレビ東京ホールディング | 1415万円 |
フジ・メディア・ホールディングス | 866万円 |
テレビ人気が落ちたとは言われますが、それでも民放キー局では2022年度の水準でかなりの高収入を維持しています。特に視聴者数が多い民放キー局であれば、一般企業に比べても高い水準の給与をキープできる可能性はあると言えます。
テレビプロデューサーの年収事情
民放キー局のテレビプロデューサーの場合は、30代でも1000万円以上の年収になることもあります。40代以上では年収1500万円を超え、プロデューサーの一番上のランクであるエグゼクティブ・プロデューサーともなると、年収2000万円以上になるケースもあるそうです。
民放キー局は有名大学の出身者の採用が多いですが、番組制作会社の場合は、専門学校卒やアルバイトからの採用もあるので、チェックしてみると良いでしょう。ただし、番組制作会社の場合は、必ずしも高収入とは言えないようです。番組制作会社ではプロデューサーでも年収500万円程度にとどまることもあり、人気のある番組を手がけたかどうかで給与水準は随分と異なると言われています。
テレビ局のプロデューサーのような高い給料は一見とても魅力的に思えますが、ADやディレクター時代よりも仕事が楽になるかというと、そうでもありません。プロデューサーは番組制作の総責任者なので、視聴率や番組の人気で評価をされる時もあれば、落とす時もあるでしょう。
テレビディレクターの年収事情
テレビディレクターの年収はまずテレビ局か制作会社かによって大きく異なり、さらに同じテレビ局でも民放キー局だとテレビディレクターの年収も1000万円を超えることがあります。しかし、地方のテレビ局のテレビディレクターの年収は、キー局のテレビディレクターの年収と比べると2割から3割程度は低くなる傾向にあるようです。
さらに番組制作会社のテレビディレクターになると地方のテレビ局のテレビディレクターの年収よりも低く、550万円~700万円程度でなかには年収が400万円前後のテレビディレクターも少なくないようです。
テレビプロデューサーの仕事をさらにくわしく
テレビ人気が低下したとしても、まだまだ社会的地位もあり、人気が高いテレビプロデューサーの仕事。テレビ番組の制作統括を担当する総責任者として、主に下記の仕事を行っています。
- 新企画の立案
- 予算管理
- 出演者キャスティング
- 新企画の立案
- 番組のPR
テレビ番組の制作現場はディレクターが統括しますが、プロデューサーは制作ではなく、ディレクターから一歩引いた立場で予算管理などを行います。
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テレビプロデューサーの仕事内容
業務の流れは、まず世の中のトレンドを把握してテレビ番組の企画を立案します。テレビ朝日ドラマプロデューサーの内山聖子さんは『私、失敗ばかりなので へこたれない仕事術』(2019)で番組の企画について以下のように述べています。
・「特に、世の中の空気を一番肌で感じるのは、ファミレスのお客さんや電車に乗っている人などの、街の中でたまたま耳にする雑談だ」
放送作家から企画を持ち込まれることもありますが、最終的にはプロデューサーが企画を判断します。企画の段階では放送作家や演出家などの専門家と打ち合わせを行い、企画をブラッシュアップします。こうして完成した番組の企画はテレビ局・制作会社の役員らの承認が必須です。そして、会社内の承認が取れたのちに番組の制作資金を集めるために、スポンサー企業へ企画のプレゼンテーションを行います。
また、番組出演者への出演交渉もプロデューサーが関わります。この際に出演者との関係値や人脈が重要になります。ほとんどのテレビプロデューサーはADとディレクターを経験していることからも、現場の業務への理解だけではなく業界関係者との関係値は必要だと言えるでしょう。クリエイターや出演者のアサインなどに関しては人脈やコネクションなども制作環境に大きな影響を及ぼします。
テレビプロデューサーになるには?
プロデューサーを目指すのであればテレビ局や制作会社に入社する必要があります。入社後すぐにプロデューサーになれるわけではなく、ほとんどのテレビプロデューサーはAD(アシスタントディレクター)とディレクターを経験した上で仕事をしています。
テレビ東京プロデューサーの濱谷晃一さんによると、テレビ業界に向いている人材は「何か強烈に好きなものがある人」そして、「自分が面白いと思うクリエイティブを追い続けられるタフな人」、加えてこれからのテレビ業界に本当に求められている人は「旧態依然としたテレビの枠にとらわれず、新しいシーンに導いてくれる人」のようです。
テレビディレクターの仕事をさらにくわしく
テレビディレクターは番組制作現場の責任者で、主な仕事内容はプロデューサーが決定した番組のロケや編集・制作スタッフの選定と割り振り、制作現場の指揮です。当日の仕切りや撮影や取材に関するさまざまな手配を行うなど、まさに制作現場になくてはならない職種だと言えます。
テレビディレクターの仕事内容
テレビ番組を制作するためには、数十~数百人規模のさまざまな分野の技術スタッフが必要となります。それらスタッフに、自分の演出について細かな指示や指導を出して番組を作り上げていきます。
演出の指導については「CREATIVE VILLAGE」の取材でテレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』演出の舟橋政宏さんが以下のように述べていることから、テレビディレクターは出演者の良さを引き出すためにも現場のスタッフと何度も打ち合わせを行うことがあるようです。
テレビディレクターになるには?
まずはAD(アシスタントディレクター)からスタートすることがほとんどです。そこで数年間、下積みとして番組制作の基礎を学んだのち、ディレクターに昇格することが一般的なルートになります。テレビ局によっても異なりますが、キー局、地方局とも5年前後ADを経験し、ディレクターになる人が多いと言われています。
テレビ局の制作部門では、四年生大学卒業以上の学歴が求められることがほとんどです。岡宗秀吾さんのようにフリーランスでディレクターをしている方もいますが、フリーディレクターの多くは制作会社でキャリアを積んで独立しています。
これからのテレビ業界を支えるのはプロデューサーやディレクター
【テレビ プロデューサー ディレクターのまとめ】
- プロデューサーは番組制作における全体統括者で責任者
- ディレクターは取材や制作、撮影などの現場を監督する責任者
- プロデューサーもディレクターもテレビ制作において欠かせない職業
テレビプロデューサーは企画・予算管理を含めた番組全体の統括を行う職種である一方、テレビディレクターは現場のスタッフとコミュニケーションを取りながら番組の企画を実現させる現場監督です。ディレクターとの大きな違いは予算管理や番組全体の責任の部分です。裁量が大きい分、番組が評価される場合は、称賛を浴びるのは統括するプロデューサーになることが多いでしょう。その反面、責任の度合いもプロデューサーのほうが大きいと言えるでしょう。
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