「チーム発想」とは、プロジェクトメンバーやデザインチームとして複数人で行うアイディア出し会議(※1)のことである。今回はこの“チーム発想の方法や留意点”について解説する。

チーム発想の準備

チーム発想を行うためには、次の様な準備が必要である。

  1. チーム発想のテーマを決める。
  2. 参加者が分担し、発想テーマに沿った資料を集める。
  3. 参加者全員で資料を共有する。
  4. 事前に参加者全員が資料に目を通す。
  5. 発想ワーク(アイディア・ブレインストーミング)の開始。

チーム発想のテーマは事前に決めておき、進行役の人(ファシリテーター)が参加者に連絡する。同時に、テーマの背景情報をイントラネットのフォルダーなどで共有し、事前に目を通しておくように指示する。これはチーム発想を効果的・効率的に行うために必要なことだ。

チーム発想では、他の人が出したアイディアからヒントを得ることが多いので、効率的に発想ワークができる。しかし、チーム内には発想豊かな人もいれば、不得手な人もいる。チーム発想をうまく行うためには、チーム発想を仕切るファシリテーターが留意すべき事項がいくつかある。

ファシリテーションの留意点

発想ワークを仕切るファシリテーターが留意すべき事項は次の3つである。

社会的手抜きを回避する(傍観者を作らない)

自分の貢献度が低くても集団で補ってもらえるだろうと考えて貢献を抑制し、重要なことでも発言しない(手を抜いている)人がでる。

発想を失わないようにする

チーム発想で、他の参加者が出したアイディアを聞いたり評価したりしている最中に、自分に新たなアイディアが生まれても発言を控えなければならず、提案するつもりだったアイディアから意識がそれたり、忘れてしまったりする。

評価に対する不安

チーム発想のセッションの最後の方ではアイディア評価を行う。しかし実際は、自分がアイディアを発表したと同時に、他の参加者がおのおのの心の中で反応することを皆覚悟している。したがって、評価を得られないとの不安を感じながら発表するものである。

これらに留意せず野放しにしていると、声の大きい人のアイディアが採用されてしまい他の参加者にフラストレーションが溜まるなど、マイナス面が出てくる。ファシリテーションでは、これをいかにかじ取りするかが大事である。

発想ワークの手順

さていよいよチームによる発想ワークである。発想ワーク自体の基本的な流れは次の通りである。ゴールは、最後の「ひらめき」を得ることだ。

  1. 資料を集める。
  2. 頭の中で咀嚼する。
  3. アイディア発想。
  4. 一旦意識の外に置く。
  5. ひらめきを得る。(良いアイディアの誕生)

実際は、3と4を何度か繰り返すわけである。また、最後の段階で、後述する「アイディア評価」を行う。最後に行う場合もあれば、評価結果に基づいて追加のアイディア出しを行うため、アイディア出しの途中で行い、その後さらに追加のアイディア出しを行う場合もある。

ファシリテーションのポイント

チーム発想を効果的効率的に運営する上で、ファシリテーターがリードすべきポイントは、次の5つである。

  1. 時間厳守。
  2. 目的から外れない。
  3. 発想する時間を短く設定し、休憩と発想を繰り返す。
  4. 全員に発言させる。
  5. 事前に、資料に目を通させるようにする。

時間の有効活用という意味からも時間厳守は必須である。発想は数を重視しなければならない点からも、無駄な時間は1分たりとも無いのだ。

ゆえにファシリテーターが遅刻するというのは論外で、ファシリテーターはむしろ10〜15分は早目に参加し、次に述べる「目的シート」を貼ったり、アイディアシートをコピーしたりして、準備を怠らないようにして欲しい。

目的は冒頭で説明するわけだが、アイディア出しが始まってしまうと忘れてしまいがちでる。そうならないためには、A3サイズ程度かそれ以上の大きな紙に、目的やテーマを大きな文字で書いて、貼り出しておくようにすると良い。アイディア評価などのたびに目的やテーマを振り返り、脱線していないかどうかを確認しながら進めるのだ。

チーム発想は、10〜25分程度の発想の時間と評価や短時間の休憩(アイスブレイクとも言う)を交互に取りインターバルを設けて運営する。インターバルの取り方は、ポモドーロ法を参考にして欲しい。

ポモドーロ法

ポモドーロ法とは、イタリアのフランシスコ・シリロ(Francesco Cirillo)氏が、1992年に自身の勉強効率を上げるために考案した時間管理術で、25分仕事をして5分休むのようなインターバルで生産性を向上するテクニックである(図1)。

アイディア出しなどの知的作業は、冗長的に漫然と長くやらない方が良いとされている。集中力は続かない。25分が限界とのことである。30分を超えると脳も疲れてくるし、生産性も落ちる。前半は10分で回すなど、休憩で気分転換も取り入れながら短い時間で発想ワークする方が効果的だ。

図1 ポモドール法
ポモドーロテクニックとは:25分の作業+5分の休憩を1ポモドーロとし、4ポモドーロ(2時間)ごとに30分間の休憩を取る。これを繰り返す。

また、全員に発言させるということであるが、これは先に述べた、傍観者を作らないという留意事項に対応するものである。アイディアを発表する際や評価の際は、参加者全員に順番に発表させるとか、とにかく発言させるようにするのだ。チーム発想に貢献度の低い人を作らないことが肝要である。

事前に資料に目を通させることも、チーム発想を効率的効果的に行う上で重要である。少なくとも、目的やテーマとその背景などは、参加者に事前に配布し、目を通した上でチーム発想に参加してもらう。

アイディア評価

アイディアを評価する手法はあまり多くはなく、ここでは「シンプルな投票」と「バタフライテスト」の2つを紹介する。これらは、すべて定性的な評価である。定量的な評価を行いたい場合は、バタフライテストを配点形式で数値化する方法が考えられる。

シンプルな投票

発想したアイディアに、シンプルな投票を加える方法である。手順は次の流れで行う。

  1. 全てのアイディアを一覧できるように掲示する。
  2. 参加者が良いと思うアイディアについて、1人5件というような条件で丸をつけていく。
  3. 丸がいちばん多くついたアイディアを選択する。

この方法は、短いインターバルでアイディア出しを行う場合の途中段階の評価として使用し、最終判断は次のバタフライテストを使うなど、複合的な方法が考えられる。

バタフライテスト

アイディアを評価する代表的な方法としては、「バタフライテスト」がある。
バタフライテストは、大量のデータから重要な洞察を引き出すのに有効である。付箋紙を投票用紙に使用し、投票用としてカラー付箋紙を貼りながら評価を進める(図2)。

図2 バタフライテスト

バタフライテストの手順は次の通りである。

  1. まず、2色の小さな付箋紙を用意し、それぞれ「実行しやすいもの(A)」と「効果が高いもの(B)」とする。
  2. AとBの付箋紙の各3〜5枚を参加者に配布する。
  3. アイディアを分類した項目の付箋紙に、まずAの付箋紙、次にBの付箋紙を貼る(2〜5分)。項目に「その他」がある場合は、これを省いて行う。
  4. 人気のあるアイディアを確認する。
  5. 次に、アイディアを記した付箋紙の方に、Aの付箋紙とBの付箋紙を貼る(2〜5分)。

投票点が得られない(評価の付箋紙が貼られない)アイディアは、支持されないものということになる。投票が多いアイディアは、支持されたものであり、投票数が多いほど良いアイディアであるとみなすことができる。

アイディア合宿

効率的、効果的にアイディアを生み出すための方策として、オフィスを離れて日帰りの合宿を行うことも良いとされており「アイディア合宿」とか「アイディア・キャンプ」などと言われている。

アイディア・キャンプは、まさしく野外でキャンプをするように、公園などへ行き、時に身体を動かしながらアイディア出しを行うものである。気分を変えたり、身体を動かしたりすることで、ひらめきの誘発も期待できる。

ひらめきは、アイディアを考え抜いた末に、一旦 意識の外に置いて寝かせる時間が必要とされる。意識の外に置くとは、ブレインストーミングから離れて外を散歩したり、身体を動かしたりすることである。この意識の外に置く行為によって脳内に化学反応が起き、ひらめきを得るのである。ニュートンのリンゴはこのようなものである。

アイディア・ブレインストーミングから離れて気分転換する為にも、社内ではなく社外の会議室を借りて日帰り合宿を行うと良い。場所も、公園のそばや都心など、気分転換できるところを選ぶ。筆者の経験でも、横浜の港の見える丘公園内の施設にある貸し会議室は絶好のロケーションであった。小学校の廃校を会議やイベント用に貸し出す施設もあるので、探してみて欲しい(※2)

UXデザインのためのチーム活動

UXデザインを多様な役割を持った人の混成部隊で行う活動とするならば、求められるチーム活動は、ブレインストーミングで始まりブレインストーミングで終わる。プロジェクト単位でラピッドに(素早く)回すアジャイル開発ならなおさらである。

アジャイル開発でなくても、プロジェクト型開発を行うケースが増えており、商品やサービスの企画であれば、プランナーやデザイナーやエンジニアなどの小規模チームでブレインストーミングを行う。

大きな組織でも、例えばデザイン部門の中はブレインストーミング形式で検討を進める。これは、UXデザインの思考方法が形式化しておらず、イノベーティブな思考を求められる局面が多いため、試行錯誤にならざるを得ないからである。

執務スペース内に専用の「プロジェクトルーム」が確保できる場合は良いが、そうでない場合が多い。このような状況を想定して、必要な時にブレインストーミング用に使えるフリースペースがいくつかあると良いであろう。その場合は、道具は持ち込みになるので、「ワークショップ・キット」(あるいはブレスト・キット)のような持ち運びできるものを用意しておくと便利である。ワークショップ・キットの内容は次のようなものである。

ワークショップ・キットの内容

  • 付箋紙(メモ用、投票用)
  • アイディアシート
  • 付箋のり
  • 太いマーカー
  • サインペン(メモ用)
  • 目的を大書きした用紙(直前に用意する)
  • 模造紙
  • セロハンテープまたは粘着テープ
  • カッター
  • カッターマット
  • 記録用のデジタルカメラ(スマートフォンで代用可)

このキットをワゴンやトランクケースの中に用意しておく。

チーム発想の正否は、何と言ってもファシリテーターの経験に負うところが大きい。UX活動の経験が豊富で発想法にも詳しい人がファシリテーターとなり、気分転換の機会をうまく取り入れながら、ブレインストーミングを運営する。これによって右脳と左脳間で情報のやり取りが増え、脳が活性化して脳がクリエイティブな状態となり、ひらめきを得やすくなる。

ファシリテーターの役割

ファシリテーターの役割は、以上のポイントを押さえつつ、留意事項に配慮しながら、時間内にインターバルを終わらせることである。もしアイディア数が足りない場合は、早めに次のチーム発想の場を設定する。「早めに」とは、冷めないうちにという意味であり、数日後、遅くとも1、2週間以内を念頭において欲しい。1ヶ月も空けては状況が変わってしまうということもあり得る。その変化にも気を配りながら、早め早めにチーム発想を終わらせるようにして欲しい。

今回は、発想法と発想ワークについて解説したが(※3)、他の手法やさらに詳しい内容を知りたい方については、近日『UXデザインのための発想法』という本を出す予定なので、そちらも参考にしていただければ幸いである。

次回は、感性思考をどう獲得するか。特に、感性の養い方について、具体例を含めながら詳しく解説する。

参考情報

(※1)発想会議、アイディア会議、アイディアミーティングなどともいう。
(※2)横浜 大佛次郎記念館(http://osaragi.yafjp.org/about/)、世田谷区「IID 世田谷ものづくり学校」(https://setagaya-school.net
(※3) 本コラムは、著書『実践UXデザイン ー現場感覚を磨く知識と知恵ー』(松原幸行、近代科学社、2018年)から抜粋している。(https://amzn.to/2X6w234

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