モノだけでなく体験を提供することが大切と言われる現在、ユーザー体験のデザインは、どの企業においても重要なテーマになっているのではないでしょうか?
人の暮らし・衣食住に関わるOisix ra daichiとLIFULLは、社内にインハウスデザイナーを抱え、自社内にクリエイティブチームを持ち、ユーザー体験の向上に注力してきました。
そこで、「彩りのある暮らし」を目指すこの2社のデザイナーで勉強会を実施。
暮らしや社会をより豊かにすることを志すデザイナーは、何を意識しながらユーザー体験を形づくっているのか?
Oisix ra daichiの戸田さん・福山さん。LIFULLの小林さん・山田さんによるパネルディスカッションの模様をお届けします。
体験をデザインする際に、軸になる想いとは?
――ユーザー体験をデザインしたり、改善するといった際に、大切にしている考え方の軸は、何でしょうか?
福山 遊果(ふくやま・ゆうか)
Oisix ra daichi OisixEC事業本部 CX室 デザインセクション UIUXデザイナー。多摩美術大学情報デザイン学科卒業後、ソフトウェア開発会社を経て2012年にOisix ra daichiに入社。 OisixECのweb、アプリのUIUXデザインを担当。お客様視点を徹底しお買い物から食べるまでを一貫した体験設計に携わっている。社内でのユーザーテストの開催やデザインシステム構築に奮闘中。
福山 Oisixのお客さまには、子育てをしながら働く忙しいお母さんが多いので、そういう方々のお買い物をどれだけ簡単にできるかを、基本的には意識しています。
ただ、そこにお買い物の楽しさの要素もプラスして入れていきたいと思っています。ウィンドウショッピングのように、商品を眺めるだけで楽しめるようにしていきたい。
だから、野菜を売るにしても、見せ方にはすごくこだわっています。社内では、野菜の魅せ方が弱い時は、「セクシーさが足りない」と言っていたりします(笑)。
小林 武蔵(こばやし・むさし)
株式会社LIFULL クリエイティブ本部 デザインユニット シニアデザイナー。2009年に新卒でLIFULLに入社。主にLIFULL HOME’S アプリデザイン・クリエイティブ監修に従事。Googleが選ぶベストアプリを3年連続受賞。Googleが提供する動画シリーズ「Android Developer Story」に開発スタッフとして出演。
小林 僕はデザイナーとして『LIFULL HOME’S』のスマホアプリ開発のUXやUIのクリエイティブに関わっているのですが、僕らのユニットが掲げているビジョンは「みなさまへ、届け感動、星五つ」というものです。要は、ユーザーからのレビューで、ちゃんと星をいただけるようなユーザー体験を提供しようという理念です。
そのために意識していることが2つあります。ひとつは「ユーザーと一緒につくる」ということです。ユーザーからいただいたレビューの内容に真摯に向き合うということですね。弊社のアプリも、星1つの評価をいただきます。星5つまでのギャップをアプリの伸び代だと捉え、そこを改善しUXを高めていくようにしています。
もうひとつは、「こんな機能があったらいいんじゃないか、という仮説を立てる」ということです。ユーザーレビューからの改修だけに留まると、マイナスを解消することはできるけれど、そこから先に行くには難しい。ユーザーが全く考えていなかった機能をどれだけつくれるかも大切です。
『LIFULL HOME’S』の「かざして検索」が、まさにこのアプローチで生まれました。
小林 「かざして検索」とは、スマホのカメラでマンションやアパートを写すと、その建物の空室状況や売り物件の情報を探せるという機能です。街を歩きながら、「こんなところに住んでみたいな…」とふと思った時に簡単に住まいの情報がわかります。新しい住まい探し体験を提供したいという想いから始まりました。
こういったアイディアは、ユーザーのコメントからは生まれません。ユーザーのインサイトを考え、「ひょっとしたら、こういう機能や体験が望まれているのかも…」という仮説を立てて、機能をつくることも大切にしています。
無茶ぶりのような相談にも真摯に応える?
――担当したデザインが、デザイナーとして意図した通りに、ユーザーに伝わっているという自信はありますか?
戸田 俊作(とだ・しゅんさく)
OisixEC事業本部 販売推進室 売場デザインセクション アートディレクター / グラフィックデザイナー。2004年に多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、広告制作プロダクションを経て2017年にOisix ra daichiに入社。 OisixECの売場全般のWebや紙のアートディレクションとデザインを兼務。現在は若手デザイナーの技術育成や成長支援にも従事し、社内デザインコンペ開催にも携わる。
戸田 伝わっている自信があるかと言われたら、正直半分くらいですかね(笑)。
最近、手応えを感じた事例だと、十五夜の時の『うさぎのお月見まんじゅうセット』というのがあります。
戸田 社内のバイヤーの人からいきなり、白い3つのお饅頭を見せられたんですよ。そのお饅頭に目の焼印が入っていたんですね。そしたら、「これにうさ耳をつけて、ウサギに見立てお客さまに届けたい」という雑な依頼をもらいました(笑)。あと、インスタ映えもさせたいと言われましたね。
どういう風にしたら、お客さまが十五夜のお月見を、これで楽しんでくれるのかを考えました。その結果、うさ耳を紙でつくるキットをつくって、お饅頭を置く台紙をデザインして、お饅頭とセットで販売することにしたんです。そうしたら、購入いただいたお客さまがTwitterやインスタグラムで、それ通りにやって写真をあげてくれたんですよ。
Oisixは食材を届けるだけではなく、体験を届けることを大切にしているので、こういったチャレンジにデザイナーとして応えていくのが面白いところです。
山田 和代(やまだ・かずよ)
株式会社LIFULL クリエイティブ本部 デザインユニット シニアデザイナー。デザインプロダクション数社に勤務、多くクライアントワークに従事したのち2015年LIFULLに入社。主にLIFULL HOME’S 賃貸物件領域のサイトデザインを担当し、他にもLIFULL HOME’Sの各種SPツールや、アニュアルレポートなどコーポレートツールも担当。直近の仕事では、タレントを起用したLIFULL HOME’Sでのプレゼントキャンペーンプロジェクトに参加。
山田 私も戸田さんと一緒で、うまくいっているかの自信は半分くらいですね。
私は主に『LIFULL HOME’S』のUIの改善を担当していますが、なかには困難な要件もあります。例えば、物件がひたすら並んでいる物件一覧のページがあるんですが、我々(サービス提供側)の様々な都合により、そこに新たな要素を差し込まないといけないということがあります。そういった際に、ユーザーのサービス体験を阻害しない範疇で、どうやって成立させるかに頭を悩ませることがあります。
「こんな画面だったら、物件をクリックしたくない」とユーザーに思われてしまったらダメなわけで、ユーザー体験に影響を与えそうな時には、「これで問題なく使ってもらえるのか」本当に考え抜いた上で、事前にテストをし、その後のお問い合わせ件数の数字に悪影響がないか慎重に検証しています。その際に悪影響が出ていない、むしろ好転している指標があったりすると、自信につながりますね。
メンバー同士の認識の擦り合わせに欠かせないものとは?
――ユーザー体験をデザインするにあたって、メンバーと認識の擦り合わせはどのようにやっていますか?
福山 メンバーとの認識の擦り合わせは本当に大事ですよね。プロジェクトには、デザイナーだけでなく、エンジニアや企画など様々なメンバーが関わってくるので。
認識がズレるとプロジェクトが崩壊寸前になることもあります。「なんでエンジニアは、私たちがやりたいことをわかってくれないの?」とか、「デザイナーは、この機能をつくる大変さがわかっていない!」みたいな不満が噴出して、デザイナー vs エンジニアみたいなことになりかねません(笑)。
なので、私の場合は、絵コンテでモックを作るようにしました。
福山 些細なユーザー体験のデザインであったとしてもモックをつくってみて、「こういう体験でいいですか?」「こういうストーリーでいいですか?」というのを、プロジェクトメンバーと確認をしながら進めていくことが多いです。
ユーザーストーリーをしっかり絵コンテにして、現状のユーザー体験だと何が問題で、どういう体験をデザインしたいかを伝えることで、認識の擦り合わせの精度が高まってきていると思います。
小林 認識の擦り合わせという点では、どんなに小さいプロジェクトでも、絶対に『デザインコンセプト』を考えようと話しています。
今回の施策は、どういった背景があって、どんな問題点があって、それに対してどういう価値を提供すると、施策のビフォアーアフターでユーザーはどう変わるのか? このデザインコンセプトを最初にすり合わせます。
これができてから具体的な体験のデザインに入っていくと、コンセプトが軸にあるので、パターン出しをする時も考え方がブレません。同時に、ものすごいジャンプをしているアイディアがあがって、この軸を踏まえているなら、いいアイディアだと認識できる。
それと、企画やエンジニアなど他の職種のメンバーと一緒のプロジェクトをするときは、バランスが大切ですよね。目的達成のために良い企画を考えてみても、それを実装するのがびっくりするほど難しいとか、想定より遥かに時間がかかるとなっては意味がないわけで。
だから、まずじっくり話し合います。それぞれの話を聞いたら、画面上で動くプロトタイプのモックをつくります。それを、実際に触ってみながら、「これだったらありだね」といったデザインを共有言語にして着地させたりします。
彩りのある暮らしに、どう関わっていきたいか?
――最後に、お客さまにとって、どんなサービスでありたいかを教えてください。
戸田 ヒトって、1年間で1095回食事をすることになるんですよ。朝・昼・晩の3食を365日続けると。
その一食一食を、平和に美味しく食べられる食生活を送れる人をひとりでも世の中に増やしていけるサービスで、Oisixはありたいと思っています。
でも、毎日の食事が同じようなものばかりだとマンネリ化して面白くないですよね?たまにはアクセントのある食事も必要だと思うんです。
アクセントや違和感をつくるのは、デザイナーの得意分野だと思っています。Oisix ra daichiは、「こんなことしてみませんか?」という企画を提案しやすい会社なので、デザイナーならではの企画をどんどん形にしていきたいと思っています。
福山 私は、やっぱりOisixを当たり前の存在にしたいです。
食べることは、みんなが毎日当たり前にやっていることですが、そこにOisixが自然と含まれる存在するようにしたいですね。そして、自分の子供や友達に、胸を張って薦められるサービスでありたいと思います。
小林 僕は、選ばれるサービスでありたいと思っています。LIFULL HOME’Sは衣食住の「住」を担っていて、住まいを探すサービスです。だから、Oisixさんのように毎日使うものではないんですよね。納得のできる引っ越しができたら、そこでバイバイになるサービス。
だからこそ、「そろそろ引っ越しをしようかな」と思った時に、真っ先に「じゃあ、LIFULL HOME’Sで!」と選ばれるサービスであり続けたいと思っています。
山田 私も小林と同じですね。LIFULL HOME’Sは、住み替えという人生において数回しかない瞬間に立ち会うサービスです。
「LIFULL HOME’Sで住み替えをすれば、その先の暮らしが楽しくなる」と保証できるサービスでありたいと思います。